「あっちにもそっちにもこっちにもぼっち」早口で三回言えるかな?
噛まずにいえるかな?それとも心が折れるのが先かな?
※サブタイトル
いち早く察知したのはプリズンだった。
「きっと【ナンバービースト】ってところだろう。あいつと戦ってる暇は無い」
プリズンが落ち着いた表情のままオレの手を握るが、それを振りほどく。
「なんでわざわざ逃げなきゃなんねぇんだよ」
「アタシはアンタのことを強くしなければいけない。そして、命に代えても守ることも重要な任務だ」
再びオレの手を握る。前より強くて痛いと思うほどだ。
「かっこつけてるつもりだろうけど、【ナンバービースト】じゃないよ」
ため息まじりで鈴香はカフェの方に指をさす。
カフェからでてきたのは、黒いスーツを着ている若手のサラリーマンといったところで、そいつを中心に周りの人が避けている。よく見てみると右手には包丁のナイフが握り締められていた。
「お前か! さっき能力をつかってきたのは!」
サラリーマンが包丁の切っ先をプリズンに向ける。
言動や行動からあのサラリーマンは前にも説明した事があると思うが【ナンバーヒューマン】の反対派であろう。
デパートなど人が集まるところでは基本的に能力を使用してはいけないとされている。だが、もしも危険な被害が起きたとき、迷わず能力を使用して良いように罰則はない。学校の廊下は左通行を守っていれば怪我はしないようになっているが、現代は廊下を左通行しようと心がける生徒はいるのだろうか。そんなものである。
確かに能力で被害を出した場合はそれ相応の罰を受けるが、被害が無い場合は何も無い。
「アタシに用事があるのか? すまないがあとにしてくれ」
プリズンの冷たい表情がサラリーマンにとっては、すました顔に見えたのか怒りで包丁を握っている手が震える。
「そのすました態度がきにくわねぇんだよ! 能力があるからって調子にのんなよ」
「なんだその子供のような理屈は。話しているのも馬鹿――」
オレがプリズンの口を手で抑えたが、既に遅くサラリーマンは走り出していた。
「いいだろうかかってこい」
オレを押しのけ、更に挑発を繰り返す。
「糞野郎、あの二人止めてきてよ」
「おい、鈴香。オレのことを今なんていった?」
「あ~~れ~~~?聞こえなかった~~?糞野郎さん」
「鈴香ちゃんもお兄ちゃんも一旦やめて。二人は険悪な仲ということでいいんでしょ?私にとっては嬉しい事だからどうしてこんな仲になったかは言及しないけど、今はプリズンちゃんを助けよう。ね?」
急な出来事の連発にもかかわらず、冷静な判断を取れてしまう。やはりすばらしい妹だ。
「助けなど必要ない」
後ろを振り向いてみると、サラリーマンの頬が腫れて仰向けに倒れていた。
非常にめんどくさいことが起こりそうである。主に公務員からの。
サラリーマンの地獄から聞こえてくるような呻き声を上げ、立ち上がった。内ポケットから風邪薬のような錠剤を取り出し、口に放り込んで飲み込んだ。
「これはお前らと同等の力を得る事が出来る薬だ。一粒飲めばナンバー1に属する能力、二粒飲んだらナンバー2に属する能力が得られる。つまり俺はこの薬を飲めばお前らと同じ人間になれ――ブハッ」
「説明ご苦労」
プリズンの容赦ない蹴りが腹に入る。サラリーマンは飲み込んだ錠剤を吐き出し、倒れこんだ。
たまにプリズンの行動は褒めなければいけないと思った。