奇想天外
私立白峰高校。
体に【ナンバー】が刻まれているNHしか入学できない高校だ。
他からの支配を受けずに自分の思うがままに突き進め、というモットーを基本としているので自由な校風が持ち味である。
白峰高校は四つの学年と五つのクラスに分けられており、クラスは能力と入学試験の総合点数で割り振られる。高い順からA、B、C、D、Eとわけられる。
しかし噂では特別クラスというのがあるらしく、そこには力が強すぎる者しかいけなかったりだとか、神に選ばれた人とか、落ちこぼれのクラスとか、幽霊が集まるクラスだとか、根も葉もない変な噂が広まっている。
通称Sクラス
というか、そんな事はどうでもいい。今は目の前に貼ってあるクラス表を見るほうが大切だ。
Aクラスの表の前ではピョンピョンと跳ねながらAクラスになった妹が嬉しそうにはしゃいでる。
まぁオレは最初から期待をしていないので最低のEクラスから見ていく。
しかしEクラスに自分の名前が無かった。
「オレがEクラスにいないだと…?」
思わず声に出して確認をしてしまった。
「どうしたの?お兄ちゃん」
オレの声が聞こえていたのか、椎名が近づいてくる。
「Eクラスじゃなかった」
妹は我ここにあらずと言わんばかりに、頭の回転が速い椎名さえも困惑していた。
中学のときのオレは勉強はどう頑張っても最下位、運動は平均より少し上、といういたって普通より悪いはずなのに結構有名な進学校白峰高校の、最低のクラスにならなかったのだ。
この高校だってオレが別に入りたいとは思っていなかったのだが、妹である椎名はオレと同じ高校に行きたいという理由で、親からの反対を押し切って、県のトップ高校に受験せず、親から言い渡されてる最低ランクの高校の白峰高校に受験したのだ。
受験当日に受験票を無くすわ、遅刻するわでやはり白峰高校に受かるのは空に浮かぶ雲を掴む事より難しいと思っていたのに。
受かったのだ。しかも最低クラスではない。
「良かったねお兄ちゃん」
ハンカチを目頭に当てながら椎名は言った。
「ありがとよ」
妹は「私もお兄ちゃんの名前探してくる」と言ってAクラスの表があるところに走っていった。
さすがに無いだろと思いながら、Dクラスの表を見に行った。
何故だ…。
どこにも無い。
オレの名前である小鳥狼紅がどこにも無い。
「なんでだろう。隅から隅まで見たはずなのに」
椎名は指を唇の辺りにあてながら言った。
「オレのことはいいから早く教室に行ってこいよ」
時刻はすでに八時半少し前をさしており、今日は八時半には教室に入り、着席するようになってる。
「いやだよ」
頬を膨らませながらこちらを睨んでくる。
こうなると頑なに意志は曲げてくれない。
しょうがない。
「あ、よく見ればEクラスに名前あったわ」
Eクラスの表を少し隠しながらオレは言った。
「嘘つくな」
嘘をつかれたことに苛ついてるのかさっきより眼光が鋭くなった。
「随分と即答だな」
「私達双子だよ?そのぐらい分かるよ」
しかし時間的に黄色信号だ。初日に椎名を遅刻させるのは本当にやばい。
その場で膝をつきながら頭を抱えて悩んでいると、男物のスーツを着ている一人の男性がオレの前に立った。
「小鳥狼紅でいいっすか」
男はオレの顔をのぞきながら言った。
「妹さんはAクラスに行っていいっすよ。俺、こいつの担任なんで」
そう言って、オレの担任という男はオレの襟元を掴み、悠々と持ち上げて立たせる。
「ほら、早く行かないと遅刻になるっすよ」
呆然としていた椎名が我に帰り、一つお辞儀をしてから走って校舎の中に入っていった。
「そんじゃあ俺達もクラスに行くとしましょう」
持っていた出席簿で頭を小突かれる。
そう言われて着いたところが白峰高校の後ろにあるオンボロな木造製の旧校舎だった。
「何かの間違いだよな」
オレは目の前にある惨状を理解したくなかった。
窓ガラスは割れて、校舎の隙間からはツタやらこけが生えている。少し力を入れて殴れば穴なんてすぐ開きそうだった。
「ここがあんたの校舎っすよ」
引きつった笑顔でどうにかポジティブな考えはできないだろうかと、考えては見るが無理そうだ。
テンションが下がりまくってる状態で校舎の中に入ると、またもやテンションが下がった。もうテンションが下がりすぎておかしくなってしまわないだろうか、と思うほどだった。
まず目に飛び込んできたのは脇から生えている雑草やツタの数々、そこはまるで何千年も前に作られた神秘の建物のようだった。
しかし、そんなのは第一印象のみだ。日の光は新校舎でほとんどがカットされ、木で作られた廊下はものすごくふにゃふにゃしており腐敗していた。匂いも少しだが異臭がする。
「ここっす、クラスメイトが待ってるっすよ」
さっきからずっと笑顔を絶やしていない男がドアを蹴り飛ばした。その勢いでドアを留めていた錆まくったネジが取れて、ドアが壊れる。
「さすがに俺も触りたくないっす」
そう言いながら男はオレを教室へと招いた。
入ってみると、教室内はある程度綺麗な机と黒板があり、匂いを消すためか消臭剤の匂いがした。
それと、教室には二人の女子と一人の男子がいた。
ある女子は「ひいぃ」と言いながら机に突っ伏したり。こいつをひぃ子ちゃんと呼ぼう。
ある女子はオレに見向きもせずパソコンを弄り。こいつはピーシーちゃんと呼ぼう。
ある男子はたぶん見た目とポーズで腐二病をこじらせたのかと分かる人がいたり。腐二君と呼ぼう。
我ながら良いセンスをしてると思う。
「新しくこのクラスに入る狼紅だ」
本当に教師だったようだ。
先生が紹介をすると、教室の反応は、ひぃ子ちゃんは小さく拍手をして、ピーシーちゃんはパソコンを未だ弄ってたり、腐二君は持参してきたであろう武器を整備していた。
「というか先生、なんで転校生みたいな自己紹介なんだよ」
「そりゃあ、あんたの前にいる生徒たちは全員先輩っすよ。それにこっちの方が楽じゃないっすか」
「どうゆうことだ」
「あれ、聞いてないっすか?通称Sクラスっすよ。学年、クラスなんて関係なしで選ばれた生徒のみがくるんすよ」
噂で聞いたあのSクラスだと…。
「もう大丈夫っすね。終わったんで帰るっす」
先生は出席簿を持って教室から出て行く。
どうする事もできずに、オレは空いていた席に座る。
沈黙が続いた長い長い沈黙。聞こえるのは時計の秒針とピーシーちゃんのキーボードを叩く音のみだった。
「捕まえた」
不意にピーシーちゃんがそう言った。
その瞬間、ひぃ子ちゃんと腐二君は立ち上がり、机にかけてあった鞄を背負い始める。
ピーシーちゃんもパソコンを鞄にしまい始める。
「白峰町、十番街」
ピーシーちゃんがここの近くの住所を言った。
「了解した!みなのもの我について来い」
「お、おぉ~」
腐二君が片手を上げながら教室から出て行く。それに、控えめに手を上げながらひぃ子ちゃんがついていく。
オレがその場に突っ立っていると、オレの隣にいたピーシーちゃんが「ついてきて」とだけ言って教室から出て行った。