ユリの花言葉は「威厳」「純潔」「無垢」だそうです
「オレの妹が好きだというのは、本当なのか?」
もう一度繰り返し聞いてみるが
「もちろん!お義兄さんの妹である椎名ちゃんが好きになっちゃったんだよ」
「お義兄さんって呼ぶな」
やはり返事は耳を疑う事である。
すると、一つの疑問が頭に浮かんだ。
「椎名が好きなのに、なんでオレに抱きついた」
すると、鈴香はまるでオレに唇を見ることを促すように、顎に人差し指をあて、ゆっくりと言った。
「お義兄さんに私を襲ってもらうためだよ」
空気が固まったのが分かった。この時間だけが他の世界と隔絶されたような気分になる。
そんなオレの気分も気にせず、鈴香は話し出す。
「だってあんな可愛い椎名ちゃんが、一つ屋根の下にいれば興奮するのは当たり前だから、お義兄さんが性欲に負けて私を襲う事があったら、私は全身全霊を込めてお義兄さんを殺して、お義兄さんから椎名ちゃんを守るために、連れさってかけおちをしようと思ってたよ。その後一緒に海外へ逃げようと思ってた」
どこからどこまでが本気なのかは分からないが、椎名のことが好きだということは分かった。
「女同士はおかしいだろ」
オレは社会において至極当然のことを言ったのだが、鈴香に今からでも殺す気で襲われそうな剣幕で睨まれた。
「なんでそんな質問してくるの?私と椎名ちゃんは海外に行けば結婚できるんだよ?おかしくないよね?」
確かに剣幕はすごいが、椎名と比べたら蟻に睨まれてるようなものだ。
「オレの妹には普通の恋をしてもらいたい」
全国津々浦々の妹がいる兄貴なら分かってくれるはずの意見であり、親御さんもそう思っているはずだろう。
「そっちのほうが幸せなのかな……」
鈴香は肩を下ろして、顔を下に向けた。
オレは椅子から立ち上がり、うなだれている鈴香の横に立ち、頭をポンポンと叩いた。
「お前だって普通の恋はできるよ」
すると、オレの手を握り、涙目になりながら上目遣いで見てくる。
「本当?」
「あぁ、本当だ」
オレが鈴香に向けて微笑んだ瞬間、視界が逆さまになった。
「へ?」
オレは地面に叩き落とされて、徐々に背中の痛みが伝わってくる。
「なんて言うと思ったか!この小鳥野郎!」
さっきまでの涙目とはうってかわって、とても好戦的な目をしていた。
騙しやがった。
「てめぇ、オレは喧嘩が強いぞ?謝るのは今のうちだ」
オレも何かのスイッチが入り、鈴香が女という事も忘れて、怒りの炎が真っ赤に燃えた。
「能力も使えない奴には負けないよ」
その言葉がオレの炎に油を注いだ。
「もう、ゆるさねぇぞ」
「かかってこい。私の能力で天に昇らせてやる」
オレと鈴香は互いに睨みあった後、地面を蹴り飛ばし、互いの間合いに入った。
拳を振り上げ
「なにしてるのかな?お兄ちゃんに、鈴香ちゃん」
振り上げた拳を、椎名が勢いを殺しながら受け流し、オレのバランスを崩した後、男の弱点であるあそこを蹴り上げた。
言葉では言い表せないような、痛みが体中に走り回った。
地面を縦横無尽に転がりながら、痛みを噛み殺す。
「心配かけてごめんね椎名ちゃん。小鳥君が急に襲ってきて……でもこんな格好でいる私が悪いの、だから小鳥君を傷つけないで」
オレが言い出す前に鈴香が、あの涙目の表情をしながら、すぐさま言い放った。
「大丈夫だよ鈴香ちゃん。悪いのは全部お兄ちゃんだから」
オレが痛みに耐えることに全力を注いでるときに、鈴香がありもしない話しを吹き込みやがった。
反論したいが、今は痛みに耐えながら叫ばないようにするだけで精一杯である。
「鈴香ちゃんは私の部屋にいってて」
椎名が鈴香に優しく微笑みながら、部屋に行くように促す。
「う、うん。ありがと」
そう言って、鈴香は微笑みリビングを後にした。
いや、後にする前に、オレに向かって声を出さずに笑いやがった。
「さて、説明をしてもらおうかな、お兄ちゃん」