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奇跡。

 最後の作戦を遂行するために、オレはミチと椎名と一緒に白峰町の中で一番高いビルの上に立っている。ここのビルは二十五歳という若さで小さな会社を大企業にさせたことで有名な社長さんのビルであり、厳重な警備であるが、椎名の能力を使えば簡単にこんなところまで来る事が出来る。

 周りは既に日が傾き始め、町の中を夕日色に染め上げていく。

 朝よりは雨雲があり、夜にでも雨が降りそうだったが、雲の隙間から射す夕日によって、町は趣のある風情な景色だった。

 耳につけてあるイヤホンからは直径三十メートル以内に連先輩達がいなくて、圏外のため連先輩達の声は聞こえてこない。

 トランシーバーからはギリギリ電波が繋がる直径百メートル以内にいる由美先輩の声がする。

『もう一度言いますが、五時きっかりによろしくお願いしますよ』

 ギリギリのせいか、多少ノイズが入ってるもののしっかりと聞き取れた。

 由美先輩の方から通信を切ったので、トランシーバーからは何も聞こえなくなった。

 トランシーバーを地面に置き、その代わりに由美先輩から渡された野球ボールを手に持つ。

 外見は野球ボールと変わりはないが、持ってみると明らかに重いのが分かる。しかもこのボールは先生が製作したということで、危険度が未知数なのである。

 チャンスは一度きり。

 そう自分に言い聞かせて、ボールを握り締めて、力を緩める。

 生きてきて初めてかもしれない。

 周りの人と一つの目的に対して協力する事は。

 だからこそ緊張する。恐怖がこみ上げてくる。

 自分のせいで失敗するかもしれない。

 ボールを握る手が震え、足も震える。

「お兄ちゃん、気軽にやっていいんだよ」

 声のする方を振り向くと、温かみのあるふんわりとした笑顔の椎名がいた。

「がんばってね」

 隣からは、作戦のことなんて一つも分かっていないのに、オレが震えているところをみて勇気付けようとするミチがいた。

 たった二言なのに肩がとても軽くなって、震えが止まったような気がした。

『目的地に近づいています』

 地面に置いたトランシーバーからノイズがほとんどない由美先輩の声が聞こえる。

 目的地とは、白峰町の中で告白スポットと言われる長さが二十メートルほどの白峰大橋の中心部である。

 ここからだと白峰大橋が小さく見える。

 連先輩はそこで、千春先輩に告白するという情報を由美先輩から聞いた。

 本日三つ目の由美先輩から貰った双眼鏡をつかって、連先輩達を見てみると、少しぎこちなさがあるものの、顔を真っ赤にしながら手を繋いでる先輩達がいた。

 なんで、オレは携帯を持ってこなかったんだ。この場面を写真に収めて、脅しの材料とかにしたかったな。

 そんなことを考えていると、連先輩達が白峰大橋の中心部にきて、夕日が写る川を見ていた。

 二人はもうすでに頭が真っ白になってるのではないかと思うほど、顔を真っ赤にして湯気が出てるように見えた。

 相当、椎名が実行した作戦が効いてるようだ。

『残り一分です』

 由美先輩の声がトランシーバーから聞こえると、椎名がミチと手を繋いで、オレから離れてくれた。

 ミチは少し不機嫌ながらも、離れてくれた。

 ミチが空気が読める子で良かったと、心底思った。

 こんなところで大声で泣かれたらすぐにビルの人が来て追い出されてしまうからな。

 ミチと椎名に「ありがとよ」と言って、一つ深呼吸をした。

 やはり春といっても四月の上旬。冷たい空気が肺の中に入り、ヒリヒリする。

 胃の状態は出せるものは出したので、快調である。

『5!』

 由美先輩のカウントダウンが始まる。

 ボールを強く握り締める。

『4!』

 空気を一気に吸い込み、息を止める。

『3!』

 上体を前に傾けて、ボールを両手で握る。

『2!』

 体を捻り、ボールを胸の前に持っていき、足をたたみながら体につける。

『1!』

 捻っていた体を一気に伸ばし、胸を張り、足を踏み出す。

『0!』

 由美先輩のその言葉と一緒に、オレの手からボールが物凄い勢いで離れていく。

 ビルの屋上から白峰大橋と平行に投げられたボールの皮が剥がれ、破裂した。

 するとボールの中からは、空気による破裂音ではなく、透明な液体が飛び散ると、その瞬間大空に金属の破片のようなものが突然にいくつも出現した。

 液体が金属の破片に触れた瞬間、電気のようにバチバチと光り、空一面にあった金属の破片が電気によって繋がれた。

 赤、青、黄色、緑、白、紫、オレンジ、金属によって色が違う。

 その電気が一気に雨雲へと繋がり、一つの大きな光りが出来上がる。しかしその光りは一瞬のみで、その後、静かに降りてきたのは、季節や時間、場所なんて超えた突飛な物だった。



○●○●○



 夕日が傾き始め、雨雲が空を覆い尽くしてきた。

 ある男は好きな人の手を握りながら、告白のスポットに向かって歩いていた。

 彼の頭は真っ白であり、歩くのでも精一杯だったが、今日こそは告白するという思いは忘れていなかった。

 そして彼と手を繋いでる女の方も、冷静を保とうとしているが頭が真っ白である。

 彼と彼女はとうとう白峰大橋の中心部へと着いた。すると、二人は無言のまま向き合うのではなく、夕日が写る川をこれでもかというほど凝視していた。

 彼女は彼のことが好きなのだが、プライドが高いのか、ただ単に恥ずかしがり屋のせいなのか、自分から告白しようとは思っていなかった。

 それに対して彼はいつもは横柄な態度をとっているが、本当は恥ずかしがり屋なので、勇気がなく、告白が出来ていない。

 そんな時、彼の耳に、風を切る音が入ってきたので、音がする方を見てみると、様々な色が夕日の色をバックに輝いていた。

 彼女も空の異変に気づいて、見上げると、虹色の雷が空に昇っていった。

 彼女は一瞬あっけにとられたがすぐに理解した。『あいつら』がしたことだと。彼女は空を見上げながら、今日起きた変な事件の数々の犯人を頭に浮かべて、頭が真っ白の状態から、黒ずんだ赤い気持ちがこみ上げてきた。

 『あいつら』に復讐をしてやろうと心に決めた瞬間、空一面に奇跡が起きた。








 












 虹色のカーテン……オーロラが空一面に現れたのだ。




















 彼はオーロラを見て、彼女に続いて『あいつら』が脳裏に浮かぶと、頭は真っ白の状態から、オレンジの暖かい、感謝の気持ちがこみ上げてきた。

 彼は彼女の方を向いてみると、彼女は独り言をブツブツと言っており、彼はそんな彼女にまた恋をする。

 彼は意を決したかのように、握っていた彼女の手を引っ張り、彼女と視線を合わせ相対する。普通ならば告白するところを、彼は自分の唇と彼女の唇を重ねた。

 ここにまた、奇跡が起きた。

 彼女はまた頭が真っ白になってしまう。

 彼をそうさせたのは、紛れもない『あいつら』の行動による、背中の一押しであった。

 『あいつら』が彼に伝えたのは「見守っているから」というものである。

 後ろからの夕日と空からの虹色のカーテンの下、二人の一つの恋が実った。

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