4 花より団子
6倍数の御題(http://www3.to/6title)様より6つの春の御題1を拝借しております。第四回は「花より団子」です。
「すぴばる」と「小説家になろう」に投稿しております。
6倍数の御題(http://www3.to/6title)様より6つの春の御題1を拝借しております。第四回は「花より団子」です。
「宇都木先輩が好きです。お付き合いしてください」
二年のマドンナ萌ちゃんに智明くんが告白されたニュースは、その日のうちに学内を駆け巡り、金曜日には麗香さんの知るところとなった。情報源はやはり佳乃子女史である。
「智明がどう答えたのかは知らないけどね、萌ちゃんに告白されて断る男なんざ、そういないでしょう」
例によって日付は変わり、もう土曜日となった頃のことである。ほろ酔い加減の佳乃子さんは、少し自慢げにそうおっしゃった。
「あの子はなかなかお買い得物件よ。あのいかにも牡丹の花を散らした着物が似合いそうな風貌で、きちんと言うべきことは言うもんね。あのイケメンくんにもきちんと告白してたじゃない」
そうだった。麗香は結局、イケメンの桐原クンに4年間言い出せなかった。本当に好きだと思っていたにもかかわらずである。ところが、萌ちゃんは入学してすぐ桐原クンに告白している。よほど自分に自信があるのか、それとも一目ぼれだったのか。桐原クンも一時はその気になったらしいが結局断ってしまって、萌ちゃんファンクラブの面々はほっと胸をなでおろしたらしい。
あの時もあの子にはかなわないと思ったけど、今度もか……。胸が締め付けられて苦しい。胸の中に自分じゃないものが息づいている感じだ。これは桐原クンのことを思い出して苦しいのか、それとも智明が萌ちゃんのものになるのが嫌なのか、どっち?
「アンタ、智明に本気だったの?」
恐る恐るといった風に佳乃子さんが聞いてくる。
「……わかんない」
「また会うの?」
「うん、まだお断りは来てないよ。日曜日に会う」
「おお、まだお断り来てないってことは、もしかしたら智明、萌ちゃんを断ったかも?」
それはないでしょう、心の中で突っ込みを入れる。誰がどう考えても、アタシよりあの子を選ぶでしょう。アタシの心の中ですでにそれは確定事項だった。
「アンタが何考えているかはわかるけどね」
佳乃子さんが見透かしたように言う。
「アンタはそれでいいの?」
アタシはそれで本当にいいんだろうか、このまま智明と別れてしまって。どうせ別れるんなら日曜日もあわない方がいい? それとも智明の気持ちだけでも聞く? アタシの気持ちを聞かれたらどう答える?
「日曜日、行くんでしょ? 行くよね?」
麗香さんが答えない、いや答えられないでいると、かぶせるように佳乃子さんの言葉は続いた。
「ま、花より団子って言葉もあるくらいだし、誰が見ても萌ちゃんって場面でもアンタを選ぶようなバカがいるかもしれないよ。日曜日、頑張ってきてねー」
それだけ言い残して切るとは、相変わらず佳乃子さんいい性格ですこと。アタシ、団子かあ。
なんだか笑いのこみあげてきた麗香さんは、さっきまでの重苦しいものを吹き飛ばすかのように、一人くすくす笑った。
土曜日はまだ始まったばかり。日曜日のデートまでは時間がある。じっくり考えて、じっくり用意しよう。前向きな気分のまま眠りにつくべく、麗香さんは寝る用意をし始めた。