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第2話 起動!グレートイタイン!(中編)

シーン8 西小木(にしおぎ)市民公園


 早く起きた朝は、公園で陽の光を浴びることが彼の日課の一つだった。

 市内在住のフリーター、土居(どい) 啓資(けいじ)は、今日も西小木市民公園のベンチに座り、あたたかな太陽の光に身を任せていた。優しい風がそよそよと吹き、どこからともなく小鳥の声が聞こえてきた。これこそ彼にとって何物にも変えがたい至福の時だった。


 遠くから小学校のチャイムの音が聞こえてきた。それからしばらくすると、校庭に飛び出した子供たちの楽しそうな声も聞き取ることができた。土居は目を閉じ、さらに聞き取れる音はないかと耳を澄ました。


 そのとき、がちん!がちん!と妙な金属音が公園内に響き渡った。土居は思わず目を開けた。


 その奇妙な音は、彼の場所から見ると丁度十メートルほど離れた植え込みの後ろから聞こえるようだった。土居は不審に思いながらベンチから立ち上がり、その植え込みの後ろを覗き込んだ。


 ――そこには、一匹のカマキリが一生懸命に植え込みを刈りこんでいた。

 当然、普通のカマキリではない。その体長は二メートルほどで、鎌であるはずの両手には鋭利な両刃剣が装着されていた。カマキリはその二本の剣を器用に扱い、がちん!がちん!と音をたてながら植え込みの形を整えていた。


 土居がふと辺りを見渡すと、公園内の植え込みのほとんどが綺麗な球体に刈りこまれていた。いや、よく見ると植え込みだけではなかった。公衆トイレの建物や、ジャングルジムなどの遊具も見事に球体に切られていた。


 カマキリは、鼻歌交じりに植え込みを刈り続けていた。土居はふと恐ろしくなり、そっとその場から逃げたした。小走りに駐車場に駆け込み、自分の車を探した土居だったが、そこに彼の車は無かった。いや、実際はあったのだが、あまりの変貌振りに彼はそれが自分の車だとは思えなかった。そこには、ホイール付きのタイヤが四つと、直径七、八十センチほどの鉄のボールが三つ置いてあった。彼の車は三等分され、見事に球状にされてしまっていた。


 「♪すべては~すべてはローティア様と~、美しい世界のために~」


 公園にはカマキリの調子外れの鼻歌と、その剣が触れ合って出す金属音が響いていた。




シーン9 西小木市内 魚見坂(うおみざか)


 健次郎は、ぽかんと口を開けて坂の頂上を見つめた。傾斜角 十七パーセント、全長 およそ三百メートル。坂道の多い西小木でも、この魚見坂は屈指の斜度と高低差を誇っていた。ふもとから見るとそれはまるで壁のようだった。視点を少し落とすと、その壁の三合目あたりに白いポロシャツを着た猫背の男性――鈴木の姿があった。鈴木はその勾配をものともせずに、すたすたと一定のペースで坂を登っていた。


 ――まさかここを登るとは……勘弁してくれよ。


 健次郎は思わず泣きたくなった。地元の人間でもこの坂を徒歩で登る者は少ない。坂の上に居を構える住民のほとんどはここを自動車で行き来する。そんな道を、鈴木はものともせずに歩いていた。彼の跡をつける以上、この難関を乗り越えることは健次郎にも避けられないことだった。

 健次郎がためらっている間に、鈴木の背中は坂の五合目にさしかかろうとしていた。――このままでは見失う――焦った健次郎は、意を決して坂のふもとに足を踏み出した。




シーン10 西小木市内 富ヶ岡(とみがおか)ニュータウン


 魚見坂の頂上――富ヶ岡一丁目という地名のついたそこは、数年前に開発されたばかりの新興住宅地だ。開発当初は『富ヶ岡ニュータウン』といういかにも(・・・・)な名前が付いていたが、もうこの一帯をその名前で呼ぶ者も少なくなっていた。そこには、真っ白な外壁に、赤、青、緑と家ごとに異なる色の三角屋根がついた洋風の一戸建てが道沿いにずらっと並んでいた。そんな整然とした雰囲気の住宅街の入り口で、健次郎は全身汗だくになって息を切らしていた。

 

 ――思ってた以上にきつかった……!

 魚見坂を乗り越えた直後の彼の額からは汗が流れ、鼻先から零れ落ちた。熱くなった太腿(ふともも)をさすりながら、健次郎は辺りを見渡した。辺りに鈴木の姿は見えなかった。鈴木がこの坂の頂上についてから、もう大分時が過ぎていた。健次郎は祈る気持ちで一戸建ての並ぶ道を駆け抜けた。交差点に辿り着くたびに周囲を見渡し、白いポロシャツの男を捜した。だが、もうどこにもその姿は見えなかった。


 流れ落ちる汗を手の甲で拭い、健次郎は溜息を吐いた。両手を腰にあてて項垂(うなだ)れた。

 ――しまった。見失ったか……。今日のところはもう帰ろう……。

 彼は強い慙愧(ざんき)の念に駆られ、重い足取りで魚見坂の方へ向かった。





シーン11 富ヶ岡ニュータウン 喫茶店『みなと』前


 健次郎は魚見坂を見下ろした。そこからは西小木市が一望できた。右手前には西小木駅、そしてその奥には宮崎屋百貨店。その裏手に見える小見谷通りのアーケードの屋根に陽の光が当たってきらきら光っていた。遠くには西小木港も見えた。――そういや、この坂から漁船が入ってくる様子を見渡せたことから「魚見坂」って名前がついたんだっけな――以前誰かから聞いたこの坂の由来を、ふと思い出した。


 健次郎は坂に背を向け、清閑な住宅街をもう一度だけ見渡した。まだどこかに鈴木の姿があるのかもしれない――そう願ったが、そこには鈴木どころか猫一匹いなかった。健次郎は天を仰ぎ、ふー、と溜息を吐いた。――出直そう……。そう思ったその時、ふと正面に緑色の三角屋根の建物があることに気付いた。


 それは他の住宅同様、真っ白な壁に三角屋根が乗っていた。鈴木を探していたときはまるで気付かなかったが、それは他の一戸建てに比べると一回り大きく、この住宅街で最も大きな存在感を放っていた。その建物の外壁には茶色の看板が取り付けられていた。そこには金色の文字が彫られていた。


 ――『喫茶店 みなと』


 そう書かれていた。健次郎はよく詩乃の依頼を受けて、市内外の飲食店を数多く食べ歩いている。そういった仕事の関係上、誰よりもこの街の飲食店に詳しいつもりだった。だが、こんなところに喫茶店があったことを初めて知った。


 健次郎は思わずこの喫茶店に見とれてしまった。その白い壁、大きな緑色の三角屋根、二階には大きな窓が取り付けられており、その向こうにはいくつかテーブルと椅子が置かれているのが見えた。道路とその敷地を分けるのは白いアーチで、アーチの向こうには小さいながらも綺麗に整えられた西洋式の庭園があった。そして、それを越えたところに両開きの茶色の扉があった。


 健次郎は吸い寄せられるようにその扉の前まで歩み寄り、その扉を開けようと手を伸ばした。

 しかし、扉の持ち手には『Closed』と書かれた札がぶらさがっていた。

 「あ……閉まってるのか」 思わず声が出た。


 ――つくづくツイてないな……。

 健次郎は一度伸ばした手をゆっくりと下ろした。その時だった。



 がちゃり!


 と音がして、扉の持ち手が動いた。扉が内側から開いた。

 健次郎は意表をつかれて思わず飛びのき、開いた扉の陰にしゃがんだ。何故こんな行動を取ってしまったのかは自分でも分からなかった。


 中から出てきた男の姿を見て、健次郎は目を見張った。中肉中背、ぼさぼさの髪、猫背、白いポロシャツ。間違いない、鈴木だ。鈴木は扉の陰に隠れた健次郎には気づいていないようだった。


 「じゃあ、また来るわ、そら(・・)ちゃん。今日はこれから仕事なんでな」


 鈴木は扉の中に向かって声を掛けた。そこから「はーい、ありがとうございましたー」と若い女性の声が響いた。そして鈴木はすたすたと歩き出した。扉が自然と閉まるころには、白いアーチをくぐって坂の下へ姿を消そうとしていた。


 その様子を、健次郎は呆然と見つめていた。そして、はっと気付いた。

 ――追わなければ!

 そう思い、腰をあげたときだった。



 がちゃり!


 またも扉の取っ手が動き、扉が開いた。丁度立ち上がろうとしていた健次郎の頭に、扉が鈍い音を立ててぶつかった。「いてっ!」と思わず声が出た。


 扉を開けたのは喫茶店の女性店員だった。

 彼女は扉の外の札を裏返して『Open』にしようと手を掛けた。しかし、扉を開けたときの妙な手ごたえを不審に思い、その陰を覗き込んだ。そこには、頭を押さえた若い男性がうずくまっていた。彼女の開けた扉がその男の頭に当たったことは、容易に想像できた。

 彼女はぽかんと開いた口に手を当てて驚いた。

 

 「え……、お客さん!?」

 「あいててて、あ、お気遣いなく……」

 「す、すいません! まさかいるとは思わなくて! 怪我はしてないですか!?」

 女性店員は慌てて駆け寄り、健次郎の頭の上を覗き込んだ。怪我はしていないようだった。


 「いや、だ、大丈夫です。それより……」

 健次郎は頭を押さえながら魚見坂の方を見やった。鈴木の姿はとうに坂の下へ消えていた。

 健次郎は、おろおろする女性店員に鈴木のことについて質問した。


 「さ、さっきの警察の人は、よく来るんですか?」

 「えっ……?」


 一瞬、彼女の目が泳いだ。しかし、すぐに はっ!と目を開いて言った。

 「あ、そうなんです。鈴木さんのことですよねっ?」

 そして、ばつ(・・)が悪そうに『Closed』の札を裏返した。

 「開店前なのに、やってきちゃうんだからいつも困っちゃうんですよ」

 そう言って彼女はにこりと笑った。



シーン12 喫茶店『みなと』 店内


 「いらっしゃいませ!」


 その若い女性店員は、くるっと振り返り、彼女から三歩遅れて入店した健次郎に笑顔で言った。


 「えーと、お一人さま、ですよね?」

 「え、うん……」


 健次郎はいつの間にか店内に足を踏み入れていた。

 鈴木が去り際に言った――「これから仕事」という言葉を信じるなら、これ以上鈴木を尾行しても彼は警察署に向かうくらいだろう。それよりも勤務直前の鈴木が、あのきつい(・・・)坂を登ってまで訪れたこの喫茶店『みなと』――こちらの方が気になった。

 店内の床は板張りで、爽やかな木の香りが漂っていた。店のあちこちには観葉植物が置かれており、暖かい雰囲気に満ちていた。


 「二階の席とかどうですか? すぐに埋まっちゃう人気の席なんですよ」

 と彼女が提案した。店の奥は吹き抜けになっており、そこには二階へと続く木製の階段が見えた。案内されるがまま階段を登り、健次郎は二階の窓際に座った。そこからは、あの魚見坂の頂上から見た景色をさらに上から見下ろすことができた。その絶景に、健次郎は思わず見とれて呟いた。


 「すごいな……」

 「ええ、いい眺めですよね」


 彼女はニコニコと笑みを浮かべたまま「ご注文は?」と尋ね、彼は「アイスコーヒーで」と答えた。

 そして彼女はぱたぱたと足音をたてながら一階へ降りていった。「二階にお客さまでーす」と明るい声が聞こえた。


 健次郎は暫くの間、窓の外に見える町並みを眺めていた。

 ――こんな素敵な店があったなんて知らなかったな。店員さんもかわいいし。こないだ路地で変な亀に絡まれてからというもの散々だったけど、久々に良いことに遭った気がする。

 口元から思わず笑みがこぼれた。


 窓の外に見とれている間に、横に人の気配を感じた。ことん、と音を立てて、手元にコーヒーの入ったグラスが置かれた。


 「お待たせいたしました。アイスコーヒーです」

 てっきり先ほどの女性店員だと思っていた健次郎は軽く驚いた。

 それは若い男性の声だった。彼女以外にも従業員がいたのだろうか。


 健次郎はゆっくりとその声の主を見た。その青年はすらり(・・・)と長い足に黒いスラックスを履き、白いシャツの上から黒いエプロンを身に付けていた。さらに視線を上げると、そこには見知った顔があった。先に口を開いたのは、その青年の方だった。


 「お前は……!」


 「……板井(いたい)?」


 目の前には、あの青年――イタインレッドこと板井大地(だいち)が立っていた。


 ――二人は突然の再会に驚いた。

 大地は瞬き一つせずに健次郎を見つめ、健次郎もまた大地を見ていた。

 暫くの間、彼らは無言のままで視線を交わしていた。


 健次郎は、改めて大地の姿をまじまじと見た。黒い革靴、黒いスラックス、白いシャツ、黒いエプロン――どう見ても飲食店の店員にありがちなスタイルだった。ふと、エプロンの胸の部分に可愛いクマの刺繍がほどこしてあることに気付いた。健次郎はようやく口を開いた。


 「板井……、お前、こんなところで、可愛いエプロンなんか着て、何やってるんだ?」


 大地はその言葉に思わず赤面し、クマの刺繍を手で隠しながら答えた。

 「エ、エプロンのことはどうでもいいだろう! 貴様こそ、何しにきた!?」

 「いや、この店をたまたま見つけたから入っただけなんだけど……

 お前、もう新しいバイト見つけたのか?」

 「バ、バイト……?」


 大地は予期せぬ来客に内心狼狽していた。しかし、健次郎から問いかけられた「バイト」という言葉から、彼がここへやってきたことはただの偶然だろうと理解した。気をとりなおし、平然と答えた。


 「そ、そうだ。バイトだ……!」

 大地はすまして答えたつもりだったが、その目は泳ぎ、耳が赤くなっていた。それを見た健次郎は、何か妙な違和感を覚えた。大地が何かを隠していると感じた。


 「……バイトじゃないな?」

 「な、何ぃ? バイトじゃなかったら、こんなところでこんなことやってるわけがないだろ!?」


 大地は明らかにうろたえていた。健次郎はその様子を見逃さずに、すかさず追い討ちを掛けた。

 「バイトじゃなかったら、何だろうな……? 手伝ってるだけ? この辺に住んでるとか?」

 「ち、違う。バイトだって言ってるだろうが……。この辺に住んでもいないし、ここが俺の家とかいうわけでもない……」

 そのとき大地は、思わず真相を口にしてしまっていたことに気が付き、しまった!という思いと共に口を歪めた。


 「あ、なるほど」

 健次郎はわざとらしく天井を見上げて両手をぱん、と鳴らした。

 「ここ、お前の家か!

 お前、家ではクマのエプロンなんかつけてるんだな?」


 真相を言い当てた健次郎は、にやりと笑って大地の顔を見上げた。だが大地と目が合った次の瞬間、その笑みは強張(こわば)った。大地の目の奥に憤怒の炎が燃えていた。その唇がわなわなと震えていた。今度は健次郎が己の発言を後悔した。


 ――しまった! コイツは冗談の通じないキャラだった……!!


 健次郎はその雰囲気に気圧され、思わず椅子からずり落ちそうになった。大地は、その激情を必死で堪えながら口を開いた。


 「最初に言ったはずだぞ、只野……。俺のことを嗅ぎ回るな、と!」

 大地は、右手をぎゅっと握った。その拳は怒りでうち震えていた。

 ――殴られる!

 そう直感した健次郎は思わず顔を背け、両手を前に突き出した。

 大地が右手を振り上げようとした、その時だった――


 「――お兄ちゃん?」


 階段の方から女性の声が聞こえた。その声を耳にして大地は我に返った。

 彼は右の拳を解き、肩の力を抜いて声の方へ振り向いた。その様子を見て、健次郎も突き出した両手をゆっくり下ろして声の主を確認した。そこには、さきほどの女性店員が階段の踊り場に立って、こちらを不安げに見つめていた。


 「あ、ごめん、なかなか戻ってこないから……。お話し中だった?」

 彼女は申し訳無さそうに肩をすくめた。

 「いや、ちょっとお客さんと天気の話を……」

 大地はばつが悪そうに誤魔化した。


 健次郎は耳を疑った。"お兄ちゃん"――彼女はそう言った。ということは……

 「板井、もしかして……」

 健次郎は瞬きをすることも忘れ、目を見開いて彼女を指差しながら大地に問いかけた。


 「……妹?」


 大地は横目で健次郎を睨みながら答えた。

 「……ああ」


 その返事に、健次郎は驚愕した。

 ――そんな、まさか!

 こんなに無骨で乱暴な男に、――いくら相手が怪人だったとはいえ、苦痛の限りを与えて甚振(いたぶ)るような残酷極まりない男に、こんなに可愛い妹がいるはずがない!!


 とても信じられない――健次郎は受け入れがたい事実を確認するために、もう一度聞いた。


 「……マジで?」


 そんな健次郎の心情を察したのか、大地はやや苛立った口調で答えた。


 「……マジだ!」



 そのやりとりを見て、彼女はくすくすと笑った。


 「あ、お兄ちゃんのお友達だったんですね。あたし、妹のそら(・・)です」

 その女性――板井そら(・・)は明るい笑顔で自己紹介し、ぺこりとお辞儀をした。

 「あ、どうも、只野健次郎っていいます――」

 緩んだ笑みを浮かべて、健次郎もお辞儀をした。

 すると突然真後ろから大地の右手が伸びてきた。シャツの襟首を掴まれ、一気に引き上げられた。健次郎は首元を締め付けられて「うっ!」と呻いた。息が出来ず苦悶の表情を浮かべる健次郎の耳元に、大地は口を近づけて囁いた。


 「コーヒーを飲んだら帰れ……。ここには二度と来るな……!」


 そらがそれを制止した。

 「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん! お友達に何やってんのよ!」

 「そら、誤解してるようだが、こいつは俺の友達じゃ――」



 大地が口を開いたその時、突然店内に大きな電子音が響き渡った。


 ――ピピピピピピピピピピピピピ!!!!


 その音を聞いて、大地の表情が強張った。それは大地の胸ポケットから鳴っているようだった。

 大地は、ポケットから携帯電話を取り出して操作した。電子音が止み、店内は静寂に包まれた。


 大地は黙って携帯電話の液晶画面を見ていた。

 そらもその様子を固唾を呑んで見守っていた。

 健次郎は、喉を押さえて咳き込みながら、突然緊迫感を持った二人の様子をじっと見つめていた。


 「市民公園だ! 行くぞ!」


 そう言い残すと、大地はエプロンを脱ぎ捨て、一目散に階段を駆け下りた。「うん!」と返事をし、そらもそれに続いた。ばたばたと二人の足音が店内に響き、そして入り口の扉を開けた音がした。健次郎は唖然としつつ、窓から外を覗き込んだ。すると、白いアーチをくぐって魚見坂へ走る兄妹の姿が目に入った。健次郎も慌ててその後を追った。





後編は2日 午後10時ごろ投稿予定です。


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