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黒猫のひとりごと【外伝】

作者: Rapu
掲載日:2026/04/19

 ある所に、大きな山があった。


 その山の中腹に、ゆらゆらと陽炎(かげろう)に包まれた大きな屋敷が建っている。その屋敷の片隅で、逃げ場を失った陽炎……光と影が濃くなっていく。


 モゾモゾ……


 黒い影が動いた。


 モゾモゾ……


(……) 


 モゾモゾ……


(ファ~……)


「ん? 何か生まれたか」


 屋敷の住人は驚くこともなく呟いた。


 ピン! モゾモゾ……トテトテ……


(だぁれ?)


「フム、意思があるのか。私は、お前の(あるじ)だな」


(あるじ……)


「姿が安定するまでは、屋敷の中にいるといい」


(うん……)


 生まれたばかりの黒い影は、モゾモゾと動いて……主の足元で丸くなる。


(あるじについてく……)テクテク。


 直ぐに黒い影は歩けるようになり、嬉しそうに主を追いかける。


 その姿は、綺麗な漆黒の子猫になっていた。


「うん? 私に付いて来なくていいのだぞ。この屋敷には沢山の部屋がある。気に入った部屋を自分の部屋にするがいい」


(あるじのそばがいい)


「ふむ。では、お前が入る(かご)でも置こうか」


(あるじ~ありがとう)


 子猫は、(あるじ)が大好きだった。


 ◆    ◆    ◆


 主が出掛けると、いつもは主の部屋で留守番をする子猫だが、今日は部屋の外が気になるようだ。


 子猫は、あちこちの部屋の中を覗きながら屋敷の中を歩いている。


 部屋の隅っこにブヨブヨした何かを見つけたようだ。


 子猫が近寄ると、ブヨブヨに水を掛けられてしまった。


(何するんだ~! 部屋の中がビショビショになるじゃないか~!)


 子猫は怒って、ブヨビヨを咥えて屋敷の外に捨てた。子猫は、主の屋敷を汚されるのがイヤなようだ。


 それから子猫は、あるじが出かけたら屋敷の部屋を見回るようになった。


 時々、ブヨブヨじゃないモノがいたりする。


『グガァァ――』


(おまえ、屋敷から出ていけ!)


『グルルル……』


(逃げ出したあいつを見たらムズムズしてきた……待て~!)


子猫はいろいろなモノをつかまえて、屋敷の外に連れて行くが、途中で消えてしまうのもいる。


(あっ、あるじの匂いがする。帰って来た~! あるじの部屋にもどらないと)


 パタパタ……


(あるじ~、おかえり~!)


「ふむ。そろそろ屋敷の外に出てもいいぞ」


(は~い。主、この部屋から見える、あの大きな水たまりが気になるの~)


「そうか」


 ◆     ◆     ◆


 子猫は初めて屋敷の外に出て、気になっていた主の部屋から見える池に来た。


 バシャ!


(水がはねた~! やっぱり~、ここには何かいる~! また、ムズムズしてきたよ~。良く見て水がはねた時に……えい!)


 ピョン! と、子猫は水たまりに飛び込んだ。


 パシャ、パシャ!


(やった~! あるじに見せよう~!)


 子猫は大事そうに捕まえた物をくわえて、主の部屋へ戻っていく。


(あるじ~、捕まえたよ~!)


「ん、ダークフィッシュを捕まえたのか」


(これあげる!)


「そうか……」


 主は、子猫が取って来たダークフィッシュをどうすれば良いか悩んでいるようだった。


 ◆     ◆     ◆


(あるじが帰ってきた~! あれ? 別の匂いもする)


 ある日、子猫は出掛けていた主とそれ以外の匂いを感じ取った。


(あるじ~、おかえり~!)


「ああ、戻ったぞ」

「まあ! 可愛い~~黒猫ちゃん、こんばんは」


(あるじより小さくて、良い匂いがする)


 子猫は主より小さい者の足もとに近寄った。


(だあれ~?)


「私は、〇〇〇。よろしくね。黒猫ちゃん、撫でてもいいかな?」


(撫でたいの~? いいよ~)


 子猫の声は主には聞こえるが、小さい者には聞こえない。


 ゴロゴロ……ゴロゴロ……


「黒猫ちゃんは、ゴロゴロ言うけど『にゃ~』って鳴かないのね」


(えっ? ボクは『ニャ~』って、鳴いた方がいいの~?)


 子猫には小さい者の言葉が解っているのだが、自分の声が小さい者に聞こえていないとは気付いていない。


 それから、〇〇〇は屋敷に来るようになり、子猫は主と〇〇〇が仲良くしているのを見ると嬉しくなった。


 主が嬉しそうに見えるし、自分も可愛がってもらえるからだ。


 子猫は、主と○○○が一緒だと遊びに出掛けるようになった。


「黒猫ちゃん、気を付けていってらっしゃい」


『ニャ~(は~い)』


「きゃ~! 可愛い鳴き声ね」


 子猫は〇〇〇から言われてから、『ニャ~』と鳴くようになった。鳴いた後に○〇○が可愛いと喜んでくれるからだ。


『ニャ~?(かわいい~?)』


 子猫は、自分の声が聞こえていないとは、まだ気付かない。


 そんな穏やかな日々が続いた……。



◆   ◆   ◆   ◆


 子猫が屋敷を出て探検する範囲が広くなっていった。


『ミャ~、ニャ~(あるじ~、見回りに行ってくる~)』


「ああ、強い魔物もいるから、気を付けるのだぞ」


『ニャ~(は~い)』


 子猫は、屋敷の(あるじ)の魔力から生まれた眷属で、生まれながらにある程度強いのだが……話し方のせいか、見た目が子猫のせいか、主はつい弱い魔物のように接してしまう。


(今日は、あの森まで行こうかな~)


 子猫は、岩山に住むトカゲと遊ぶのに飽きて、山の(ふもと)に広がる森まで探検するようになった。そして、日が傾くと屋敷へと帰る。


(ハァ、ハァ、よし! 暗くなる前に屋敷に着いた~。あっ、〇〇〇の匂いがする~)


 子猫は急いで主の部屋に戻ったが、主と〇○○の雰囲気がおかしいことに気が付いた。


『ニャ~ン?(どうしたの?)』


 主は何も言わず、〇〇〇は帰って行った。



 それから、〇〇〇が屋敷に来ることは無かった。


(あるじは〇〇〇とケンカしたのかな? 〇〇〇に会いたいな~)


 子猫は、可愛がってくれる〇〇〇のことが大好きだったので、会えなくなって寂しくなった。


(あるじは〇〇〇と会いたくないのかな~?)


 子猫は素直だが、主は……。


 ◆    ◆    ◆


 それから数年後、主が出掛けたまま戻って来なくなった。


 子猫は主が心配で……どうしたらいいのか分からない。


(あるじ~、どうして帰って来ないの?)


 数日戻らないことはあったが、1週間以上も帰って来ないのは初めてだ。


(あるじ~、どこかでケガをしているのかな~?)


 子猫は主を探しに行くことにしたが、屋敷のある山の麓からは出たことがないので、どっちに行けば良いのか分からない。


(あるじ~、どこにいるの~?)


 山の裾に広がる森から出ると、微かにあるじの匂い――魔力を感じた。


(あっちから匂いがする~!)


 匂いがする方に行ってみると……破壊された街があった。


(家が……いっぱい壊れているね。あっ! あっち~、あるじの匂いがする~)


 子猫が主の匂いを追いかけていくと、どこの街も破壊されている。


(……あるじが怒って壊したのかな?)


 子猫は主に何が起きたのかと心配する。屋敷では怒ったことなどない優しい主だったからだ。


 子猫は、主の匂いを追いかけて洞窟にたどり着いた。


(この中から、あるじの匂いがする~)


 中には魔物や人間がいたが、子猫は見向きもせずに主の匂いを追いかける。


 そして、小さな部屋にたどり着いた。


(この部屋からあるじの匂いがするけど~)


 子猫が部屋の中に入ると、床が輝き出し部屋中が光に包まれた。


(うわっ! 何? まぶしいよ~)


 子猫が、余りの眩しさに目を閉じた。


 光が収まり目を開くと、そこは……部屋の中ではなく、暗い洞窟だった。


(あっ! あるじの匂いがする! あっちだ~)


 子猫は主の匂いを追いかけて、洞窟の奥へと続く細い道を走る。


 子猫が行きついた先には部屋があって、その中央にキラキラと光り輝くクリスタルの柱があった。そのクリスタルの柱に誰かがいる……。


(あるじ! 見つけた~!)


 光沢のある長い黒髪に、真っ赤な瞳。褐色の肌の魔人――子猫の主が封印されていた。


「ん……来たのか……」


 子猫は嬉しくなって主の足元に行くが、光の柱に阻まれて近付くことができない。


 仕方なく、光の柱に頭を()り寄せてあるじに話しかけた。


(あるじ~、会いたかったよ~)


「ああ、すまないな。ここから動けぬのだ……お前は、好きな所に行くといい」


 黒猫の主は〇〇〇を探していたのだが、"迷い人"だった彼女は――ある国の政権争いに巻き込まれて命を奪われた。


 それを知った主は、怒りに任せて貴族たちが住む街を壊していき、魔王と呼ばれるようになる――そして、ここに封印されてしまったのだ。


 そんなことは知らない子猫、主を見つけたことがただ嬉しかった。


(イヤだ~! あるじといる~)


「お前が遊びに行って、私にその話をきかせてくれればいい」


(あるじのそばがいい~)


 子猫は、来る日も来る日も主の側で過ごした。


 1,000年の時が過ぎ、『彼女』が来るまで……



 ◆    ◆    ◆


 ある日、黒猫は洞窟に誰かが来たのに気が付いた。


(うん? あるじ、誰か来たよ~)


「ああ、そのようだな……」


 黒猫は走って客人を探しに行った。

 

『ニャー!(見つけた~!)』


 そこにいた女性は、黒猫に気が付くと怪しげに見つめるが、その可愛さにワナワナとしている。


(何だか、良い匂いがする~)


 黒猫は、ゆっくり彼女に近付いて、その足元に座って頭を擦り付けた。


「きゃ~! 可愛すぎる! あぁ、蕁麻疹(じんましん)でちゃうよ……ぐふっ、可愛い~、動けない……」


『ニャ~(あるじがあっちにいるの~)』


 黒猫は洞窟を歩いて行き、彼女について来るように言う。


『ニャ~!(こっちに来て~!)』


「えっ? 私を呼んでいるの? そっち出口だったら嬉しいけど……」


 黒猫は少し進んで、彼女が付いてきているか振り返って見る。


『ニャ~?(来ないの~?)』


「あぁ~、付いて来いってことね?」


 彼女は、ビクビクしながら黒猫に付いて洞窟の奥に進み、黒猫の主が封印されている部屋に来ると明らかに気落ちしていた。

 

 彼女が主と話をし、その封印を解いてくれたので、主と黒猫は久しぶりに屋敷に戻ってきた。


 主の部屋で、黒猫は椅子に座る主に抱きかかえられている。


 黒猫は嬉しいのか、猫の様にゴロゴロと鳴きながら、何度も主に頭を擦り寄せた。


(彼女があるじを自由にしてくれた~! 主、お礼を言ってくるね~)


「そうか、気を付けてな」


 主の魔力を与えられ、1,000年を生きた黒猫に怪我をさせるモノなどそうそういないが――主には子猫にしか見えないようだ。


 黒猫は洞窟に向かい、彼女の匂いを探した。


『ニャ~(見つけた~)』


「えっ! 黒猫ちゃん?」

「ミーチェ! 離れて!」


 突然現れた黒猫に、慌てる人間がいた。黒猫が強い魔物だと分かったのだろう。


「ジーク! 大丈夫よ。この子は魔人さんの眷属で、襲ってこないから。前に話した、洞窟にいた黒猫ちゃんよ」


 黒猫は、そうだよと言わんばかりに尻尾を揺らして近寄る。


「か、か、可愛い~」


『ニャ~!(あるじを自由にしてくれてありがとう~!)』


 黒猫は、ゴロゴロ鳴いて彼女に頭を擦り付ける。


 黒猫は、ちゃっかりお昼もご馳走になり、主の下に帰って行った。


(美味しかった~。また遊びに行ってもいいかな~?)


 その後、黒猫は、彼女に『ノアール』と名前を付けてもらい彼女達と楽しい旅を始めることになる。




 【終わり】




【あとがき】

読んで頂いてありがとうございます。


この『黒猫のひとり言』で、『ポーション屋の事情』の主人公アリスの母親と父親らしき人が出てきました。


アリスがチートだったのは、両親の血を受け継いだようです。


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