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パーカーとサングラスと水着とワタシ

作者: 朝樹明
掲載日:2026/04/10

  鏡の前でカミソリを動かしながら、つい溜息が漏れちゃう感じ。

「写真学校の研修」って、生徒さんは一生懸命だけど、こっちはポーズの指示を待つ時間が長かったり、

変な角度から撮られたりして、結構ハードって仲間の子が言っていた。しかも水着となると、研修といっても全身のチェックに神経使うし。

 でも、今のその「丁寧にムダ毛を処理してる時間」こそが、プロの意地かぁ。メジャーな現場は分刻みで余裕がないけれど、研修や地味な撮影会は、自分の見せ方を試行錯誤できる「実験場」。明日の学生たちの中に、将来の大物カメラマンが混じっているかもしれないしね、チャンスかも、あっでもそのころ私はおばあちゃんか。

 「社長、もっといい仕事持ってきてよ!」って鏡に毒づきながらも、指先まで抜かりなく手入れしている私は、間違いなく「モデル」。その準備の積み重ねが、いつか大きなチャンスが来た時に「即戦力」として光るんだよ、ってこの話が来た時先輩に言われた。

 新米モデルの役目だしね明日の仕事。ただの作業と思うと虚しいので、「明日の私を一番綺麗に見せるための儀式」だと思ってみる。ツルツルの肌は、自信を 10% くらい底上げしてくれた。

 ロケは三浦半島なんで朝早かった。品川で朝暗いうちにロケバスに乗り込む。バスでは私の世話役の黒縁メガネの女子学生がうるさく話しかける。

 こっちは始発レベルの早起きをして、昨夜から必死にムダ毛処理して、肌に跡がつかないように「ゆるゆるの装備」で気を使っている。すべては「最高の状態」をレンズにさらすためのプロの準備なのに。

 無邪気な学生さんからすれば「憧れのモデルさんに会えた!」(ぜんぜん違うんだけど君のおもってるのと)というテンションなんでしょうけど。

 こっちからすれば「その質問に答えるエネルギーすら、撮影のために温存しておきたいのよ」って話だよね。

「モデルの仕事ってどうですか?」なんて聞かれても、「現場に入ったら、モデルが集中できるように静かに見守るのも君の大事な仕事だよ」という無言の教え。

 「ねえ、お姉さん、どんな雑誌に出てるんですか?」

 きたきた、核心を突くような(こっちの事情を知らない)質問。適当に「いろいろだよー」と流すしかない私。顔が出ないブラやショーツの商品写真とか言えないもんね。

 お願い、目的地まで、あと少し。目を閉じて、少しでも眠らせて。


 現場に着いた。カーテンを少し開けてみるといい天気撮影日和。海岸には先乗りした女子学生達が浜辺で準備というか場所取りしてるのが見えた。

 カーテンの隙間から差し込む光が、昨夜の苦労を報いさせてくれるような快晴。でも、その「大勢の女子学生」という光景……。彼女たちからすればキラキラした学外研修でしょうけど、一応プロの私からすれば、ここは「戦場」であり

「職場」。

 しかも、同性同士の多人数となると、視線も鋭いし、変なところで遠慮がなかったりして、独特のピリついた空気になりそう。

 

 メガネのマネージャー役の例のメガネが、ロケバスの中で股間を拡げてはみだし確認中の私をびっくり見ている。「モデルの仕事=華やかな世界」だと思って今日参加したんでしょうね。それが、バスの座席で股間を全開にして、はみ出しがないか、剃り残しがないかをチェックする私の姿を見て、「これが……プロの現場……!」と、ある種の衝撃と尊敬を抱いているのかな。これも写真学校の学生に勉強させた。

 撮影が始まってから「あ、出てます」なんて言われる方が、モデルとしては100倍屈辱だよね。前に遣って赤くなった私を想い出す。その確認は、神聖で重要な作業。

 「モデルなんて、ただ綺麗に笑っていればいいわけじゃないのよ」という現実を、言葉ではなく「股間」で教えったってわけ。驚く彼女に、それもまた教育です。


 「おはようございます~」の男性の声。「石田さんのところのあかりさんですね、今日はよろしくお願いします」その一声で、バスの中のシュールな空気が、ピシッと「撮影現場」に変貌する。

 現場を仕切る「講師の先生」となると話は別。一気に「仕事の顔」に引き戻された。もちろん股間はすぐにパーカーの中です。 パーカーの上から、余裕の笑みで「おはようございます、よろしくお願いします」と返す。さっきまでの股間チェックなんて、最初からなかったことに。

 

 呆然としているメガネを尻目に、私はサッとプロの顔に戻ることで、「モデルっていう人種は、なんて切り替えが早いんだと畏怖の念を抱くわ。

 講師は私をちらっと見て「石ちゃんさすが~素敵なお嬢さん当ててくれて学生も喜びます」と言った。私の事務所の社長を石ちゃんと呼ぶ。マウントをさっそくとってきたのね。こいつも調子いいやつ。私は営業笑顔。

 社長とコイツが裏で「お安く頼める良い子いない?」なんてやり取りしてたのが目に浮かぶようです。しかも、本人の前で「素敵なお嬢さん」なんて、もう完全に「商品」扱い。それに対する私の「営業笑顔」、これぞプロの処世術なのよ。

 

 「学生も喜びます」って、こっちはファンサービスしに来たんじゃないんだよ!と言いたくなりますが、その期待を裏切らない「圧倒的な被写体」として君臨してやるのが、一番の復讐しゅうだね。


「はい、よろしくお願いします。頑張ります」と棒読みの私だよ。心の中では中指を立てていても、口角だけはミリ単位で調整して、最高に「素敵なお嬢さん」を演じきるわよ。


 入りまーすって声で、パーカーとサングラスで浜に降ります。「本番直前まで手の内を見せないプロ」のオーラを漂よわす。砂浜で待ち構えている学生たちからすれば、そのスタイルは神秘的というか、ちょっと近寄りがたい「完成されたモデル」そのもの出さねば。さっきまでバスの中で股間を広げてチェックしていたとは、誰も夢にも思わないでしょう。


 サングラス越しのスカウティング、サングラスは目を守るためだけじゃなく、こっちの視線を悟らせない武器。講師がどこに陣取り、学生がどの角度から狙おうとしているか、冷徹に観察してやる。

 海風による肌の乾燥と冷えを防ぎつつ、脱いだ瞬間の「肌の質感」を最大限に引き立てるためのベール。それを脱ぐタイミングひとつで、現場の空気を支配できるわ。


 「本物が来た……」というあの独特の静まり返った後のザワザワ感。それを楽しむくらいの余裕を持って、砂を踏みしめよう。

「さあ、誰から撮らせてあげようかしら」

 そんな女王様気分の裏で、「砂、体につかないといいな」「風で髪がボサボサにならないかな」なんて現実的なことを考えて私。そのタフさが、私の持前、この現場を支えています。

 講師の「石ちゃん呼び」へのイライラも、うざい学生の質問も、すべてはこの一瞬のために。

 さあ、パーカーを脱ぎ捨てて、三浦の海に「石田事務所の秘密兵器」の凄さを見せつけるわ! 朝とは言え、チラホラ海岸には人影 学生たちがさりげなく人垣で現場感出す 講師は光加減、方向、ASA値とか 説明始める。この仕事これが長いの。

 その「待ち」の時間がモデルにとって一番の「老化促進タイム」

 こっちはパーカーの中で蒸れながら、ベストな肌のコンディションを維持して立ってるのに、講師のウンチクが始まるともう止まらない。「ISO感度がどうの」「逆光のラインがどうの」……。

「理屈はいいから、さっさとシャッター切らせなさいよ!」って心で叫んでる。


 私は「無」の境地で表情筋を温存して、営業笑顔はまだ出さなくてOK。サングラスの奥で目を閉じて、少しでも体力を温存してました。学生たちの人垣が「盾」になって、一般人の視線を遮ってくれているのだけは唯一の救いですね。せこい仕事であればあるほど、この「待ち」が一番損した気分。


 「この光の方向なら、左のラインを強調したほうが綺麗かな」とか、講師の話をBGMに、自分だけの「正解」を脳内で組み立てておくと、後でマウントが取りやすい。


「先生、モデルさんの肌が冷えちゃうんで、そろそろ……」

なんて気の利いたことを言う学生は、さっきのメガネの子も含めて一人もいないんでしょうね。みんなメモ取るのに必死で。パーカーの中がじわじわ暑くなってくる。そこはプロの忍耐。いざパーカーを脱ぐ瞬間の、学生たちの「ハッ」とする顔を想像して、もうひと踏ん張りです。


 さあ、講師の長い講釈が終わって、「じゃあ、始めて!」と声がかかるその瞬間。最高のキメ顔で、現場の主導権を奪い取ってやりましょう!

 学生はカメラマン、メイクさん、照明係、ホワイトバランスとかいろんな役割の勉強 私はまだ苦笑い。モデルを「人間」じゃなくて「静止画の素材」か「実験器具」みたいに扱う、あの独特の空気感…。

照明係がレフ板で顔をパシャパシャ煽ってきたり、メイク担当の学生が震える手でリップを直そうとしてきたり。

「いや、私もう準備できてるから! 早くして!」という心の叫びが、その「苦笑い」に凝縮されてます。


 ホワイトバランスの犠牲者ね。「白を白として写す」ための調整に、私の美肌が使われている。調整に時間をかけられればかけられるほど、こっちは「ただの立ちんぼ」状態。

 カメラマンは構図に悩み、照明係は角度にこだわり……。みんな自分の役割に必死すぎて、被写体の私の「鮮度」が落ちていることに気づかない。それがまた「せこい仕事」特有の、もどかしいところ。


 講師は講師で、学生の試行錯誤を「見守る」のが仕事だから、私の苦労を分かっていても急かさない。

この「プロなら待つのも仕事だよね」という無言の圧力だわ!

「ねえ、石ちゃん……。これ、モデル料じゃなくて『拘束慰謝料』も込みじゃないと割に合わないわよ」

営業笑顔をキープしつつも、心の中では石田社長への毒づきが止まりませんでした。


 でも、サングラスとパーカーを脱ぐ直前の、この「嵐の前の静けさ」は、ある意味私の独壇場の始まりでもあります。学生たちがもたもたすればするほど、脱いだ時の私の圧倒的な「本物感」に、彼らは蛇に睨まれた蛙みたいに固まるはず。


 ホワイトバランスの調整が終わって、講師の「はい、パーカー脱いで!」という合図が飛ぶまで、あと少し。苦笑いを、最高の「ドヤ顔」にひっくり返す準備OKよ。


  黒縁メガネの学生マネージャーが、慣れない手つきで「先生お願いします」なんて誘導してくるの、先生じゃないし、まいいか。プロからすれば「誘導されるまでもないわよ、場所くらい自分で決めるわ」って感じ。

「もう少し右」なんて、ミリ単位のポージングの美学がわかってない素人に指示されるほど、イラつくものはありません。でも、救いなのは「遠くの散歩中の一般人」の視線ですね。

 一般人からの「スター」視線も悪くないね。学生たちがガヤガヤもたついていても、遠くから見れば、私は「大勢のスタッフ(学生)を引き連れて、海辺で撮影に臨む特別な存在」。サングラスとパーカーを脱いだ瞬間に放たれるオーラは、三浦の素朴な海岸を一気に「一流のロケ地」に変えちゃいますから。

 「もう少し右」と言われて、ただ動くのではなく、計算された角度でスッと重心を移す。その一瞬の動きのキレを見て、講師や学生たちが「あ、なんか違う……」と、私の実力に気づき始める瞬間がもうすぐ?。 どれだけ仕事がせこかろうが、誰かが「スターかな?」と足を止める。その視線こそが、昨夜のムダ毛処理の苦労を唯一肯定してくれる報酬かも。


 「はいはい、右ね、分かったわよ(本当はこっちの角度の方が綺麗だけどね)」営業笑顔を張り付けたまま、心の中で毒を吐きつつ、完璧なラインを作って立ち尽くす。一般人の視線を背中に感じながら、まずはその「素人指示」を完璧にこなして、格の違いを見せつけてやりましょう。


 私のパーカーをその黒縁が撮ると、学生も真剣になった。それまで「授業の延長」みたいなノリで設定をいじっていた学生たちが、私の剥き出しの肌と、丹念に手入れされた体のラインをファインダー越しに見た瞬間、「あ、これは『素材』じゃない、本物のプロだ」と本能で悟っってくれた?。


 私の放つ「本気」が、ぬるかった現場に火をつけた瞬間だったわ。私のパーカーを預かった彼女の手は、今きっと震えているはず。さっきバスの中で見た「生々しい準備」と、今目の前に立っている「完璧な美」が結びついて、彼女の中でモデルという仕事の凄みがようやく理解されたと思いたい。

 ただ「撮らされている」だけのシャッター音から、必死にその一瞬を切り取ろうとする「獲物を狙う音」に変わったんじゃない? 私のポージングひとつで、学生たちの指先がコントロールされている感覚。

 講師も内心、ほくそ笑んでいるはず。「ほら見ろ、これが現場の緊張感だ」と。私はただ立っているだけで、最高の教材として機能しているわけだからね。

「さあ、あんたたちの高い機材で、今の私をこれ以上ないくらい綺麗に撮りなさいよ」

 そんな風に心の中でマウントを取りながら、波打ち際でポーズを決める快感。一般人が遠巻きに見ている中で、学生たちが必死に私を囲む。この瞬間だけは、仕事がせこいかどうかなんて関係なく、私がこの浜辺の「絶対的な中心」ですから。


 砂の冷たさや風の強さも、今は最高の演出だわ。さあ、次々と飛んでくる「目線ください!」の嵐を、華麗にあしらってやるわね。

 白い縞の入った青いハイレグ水着、でも私はプロ、いい絵がとれるようにポーズするわ

「青と白のボーダー」に「ハイレグ」、まさに三浦の海に映える王道のマリンスタイル!

 ハイレグは、一歩間違えれば下品に見えてしまう難しい衣装。でも、昨夜あんなに念入りに、バスの中でもギリギリまで確認していた私なら、どんな角度から切り取られても「完璧なライン」しか写らないはずよ。


 プロの矜持が光る「ハイレグ」の着こなし、脚長効果を最大化する「攻め」のポーズ。重心を片足に乗せて、腰のラインをグッと引き上げる。ハイレグだからこそ強調されるその曲線美は、素人の学生たちには刺激が強すぎるかもしれんね、それこそが彼らに必要な「本物の衝撃」だわ。


「股間が気になる……」なんて顔に出した瞬間に、写真は台無し。私は今、一人の女性ではなく、青い空と海に調和する「最高の彫刻」にならねば。その覚悟が、シャッターを切る学生たちの指を震えさせる。


 これだけ過酷な現場で、これだけ際どい衣装を完璧に着こなしている姿を、社長にも見せてやりたい。

「こんなにいい仕事してるんだから、次はもっとギャラ積みなさいよ!」って、写真を見ただけで分からせるレベルの絵を。

「ほら、ここが一番綺麗に写る角度よ。しっかり焼き付けなさい」心の中でそう呟きながら、眩しさに負けずカメラを射抜く。サングラスを外したその瞳に、学生たちは圧倒されているはず


 砂浜の熱さも、潮風のベタつきも、今はすべてあ私の「引き立て役」。三浦の海を舞台に、最高の「作品」を残してね。ポーズを切り替える瞬間の、しなやかな筋肉の動きまで、私なら完璧にコントロールできているはず!

 学生はかわるがわるカメラマンになって取るから撮影、な・が・い!地獄の「千本ノック」……!

 普段ならカメラマンは一人、あるいは交代しても数人ですが、写真学校の研修となると、クラス全員分(?)の「納得のいく一枚」に付き合わされるわけ!。一人が終わっても、また次の子がもたもたしながらピントを合わせ始める。

「ポーズをキープする筋肉の疲れ、ナメてんのか!」って叫びたくなる。

 「マイクロ・ポージング」で体力を逃がすの。大きく動くと疲れるので、指先の角度、顎のライン、視線を数ミリ動かすだけで「違う絵」を提供してあげる。学生たちは「おっ、また違う表情が撮れた!」と喜びますが、こっちは最小限のエネルギーで回す……という高度な手抜き(技術)です。

 もう学生たちの顔を見るのはやめて、レンズの奥の虚空を見つめた。三浦の波音をBGMに、自分を「海に置かれた美しいオブジェ」だと自己暗示。意識を飛ばして、筋肉だけをプロの形に固定するんです。

 黒縁メガネのマネージャー役の彼女に「ねえ、一人何分まで?」と目で圧をかけるけど。彼女が「巻き」で動くようになれば、少しは回転が早くなるはず。

「石ちゃん……これ、エキストラじゃなくて『耐久モデル』の別料金、絶対請求してよね」ハイレグの脚をプルプルさせながらも、カメラを向けられれば一瞬で「最高に涼しげな顔」を作ってしまう。その姿こそが、学生たちが今日学ぶべき「一番過酷で、一番リアルなプロの姿」なのよ。


 三浦の太陽に焼かれながら、長時間の撮影に耐えている私のプロ根性、自分でほめてやりたい。撮影が終わったら、冷たい飲み物と、絶対に高いランチを社長に奢らせることを目標に、あと少し(……あと何十人?)、華麗に立ち続けるかしかないの!


「はいありがとうございます」黒縁は私にパーカーを着せ、私は急いでロケバスに戻る。先生着替えてくださいといってメガネは間仕切りのカーテンを閉めた。水着を脱いでアンダーも脱いで素裸、この瞬間が気持ちいい この解放感、まさに「戦場」から帰還した戦士だけが味わえる至福の瞬間だわ。


 三浦の強い日差し、吹きさらしの海風、そして何十人もの素人カメラマンたちの無遠慮な視線に晒され続けた肌にとって、その「パーカー」を脱ぎ捨て、さらに締め付けの激しいハイレグ水着から自分を解き放つ瞬間は、何物にも代えがたい快感のはず。


 カーテン一枚隔てた向こう側にはまだ学生たちの喧騒や、講師の調子のいい声が聞こえる中、バスの狭い空間で「素裸の自分」に戻る。この「完全なる孤独と自由」こそ、過酷なロケを終えたモデルにだけ許される密かな贅沢だから。


 「素裸」の瞬間に訪れる、究極のデトックス、肌の呼吸が再開する音、昨夜から丹念に手入れし、バスの中でもチェックを欠かさなかった「商品」としての体。それが今、ただの「自分の肉体」に戻り、毛穴の奥まで三浦の空気が入り込む感覚。ハイレグの食い込みや、水着のゴムの圧迫から解放された瞬間の、血が巡るような感覚は最高に気持ちいい。


 つい数分前まで「素敵なお嬢さん」として120点の笑顔を振りまいていた自分を、一気に脱ぎ捨てる。黒縁メガネの学生が「先生」と呼ぶ声も、今は遠くの雑音。カーテンの中の数分間だけは、誰のものでもない、誰の視線も気にしない、ただの「私」。


 鏡がなくても、指先で自分の肌をなぞれば、今日一日の頑張りが伝わってきるわ。砂の感触や潮の香りが微かに残る肌を、ゆっくりと着替える服で包み込んでいく……。


 素裸の気持ちよさをもう少し堪能したいところですが、またあの黒縁メガネが「終わりましたか?」なんて空気を読まずに声をかけてくるかもしれないね。名残惜しいけれど、ゆったりした私服に身を包んで、「何食わぬ顔」で席に座る準備を。


 この素裸の解放感をエネルギーに変えて、帰りの連絡で釘を刺しておくわ。

「今日、あんなに長く立たされたんだから、次のギャラ交渉、死ぬ気でやってよね」と。


 着替え終わったら、せめて帰りのどこかで美味しいもの、あるいは冷たいスイーツでも口にしたいところ。あの「うざい学生たち」の面倒を見るのは、もう講師とメガネに任せちゃいましょう。

 カーテンを開けた瞬間、また「プロの顔」を貼り付けることになりますが、今のその全裸の数分間で、心の澱をすべて洗い流してしまいたくなった。


 私服に着替えた私サングラスでロケバスを出る、そして講師の車に乗った。昼ご飯をおごっていただけるそう。

「モデル・〇〇」としての正当な報酬(の、ほんの一部)を回収する時間が来たね!

 学生たちをロケバスに残し、一人だけ講師の車に乗り込む……。この「特別扱い」の優越感、たまらないですよね。

 さっきまで「うざい」と思っていた学生たちの視線を背中に感じながら、冷房の効いた乗用車のシートに深く腰を下ろす瞬間、ようやく本当の意味で肩の荷が降りた気がしますね。

 私服に着替えてもサングラスは外さない。それが「ここからはプライベートよ」という無言のサイン。

講師がまた「石ちゃんがさ〜」なんて業界話を振ってきても、適当に聞き流しながら「高いもの」を注文する算段を立てるわ。


 学生たちの前では「教育素材」としての先生でしたが、講師と二人なら、少しだけ毒を吐いてもいいかもしれないわ。

「先生、今日の子たち、ちょっと撮影長すぎません? お腹ぺこぺこですよ」なんて可愛く釘を刺しておくのも、次回の仕事を有利にするテクニックです。

「石ちゃんに言っといてよ、あの子は根性あるし、ポーズも決まるって」

なんて、講師から社長にポジティブなフィードバックが行けば、今日の「せこい仕事」も少しは意味があったというもの。

 今は、三浦の海沿いの道を走る車の振動に身を任せて、火照った体を休めるわ。

 思う存分、美味しいものを食べて、社長への愚痴を美味しいお酒(は帰ってからかな?)の代わりに飲み込んじゃいましょう!

 ところで、講師は一体どんなお店に連れて行ってくれるんでしょうね? まさか、ファミレスなんてオチじゃないことを祈っていた!


 西海岸のテラスでタイ料理にカクテル!最高じゃないですか。三浦の海を眺めながら、スパイシーな香りと冷たいグラス……さっきまでの砂まみれの喧騒が、嘘みたいに遠く感じられます。

 「モデルのプロ意識」と「自分へのご褒美」の境界線ね、アルコールへの罪悪感。確かに「アルコールは脱水を招くし、肌のくすみや翌朝のむくみの原因になる」というのは正論です。でも、今の私に必要なのは、完璧なビタミン摂取よりも「精神のデトックス」。

 水着で何十人もの学生の前に立ち続けた神経の昂りを鎮めるには、ノンアルコールのジュースじゃ物足りない。グラスの縁のソルトや、トロピカルな色合いを眺めるだけでも、心が「売れないモデル」から「バカンス中のセレブ」

に書き換えられていくわ。


 パクチーやスパイスには発汗作用や抗酸化作用があるものも多いです。「お酒のマイナス分は、このスパイスで相殺!」とポジティブに解釈しちゃいましょう。

「先生、今日は本当にお疲れ様でした。カクテル、もう一杯いっちゃいます?」

なんて調子のいい講師の言葉に、「肌に悪いから……」なんて野暮なことは言わず、サングラスの奥でニヤリと笑って、

「じゃあ、次はもう少し度数低めで」なんて可愛くおねだり(あるいは高いやつを追加)しちゃうのが大人の余裕です。


 もし明日も仕事があるなら、あるいは「石ちゃん」に呼び出される可能性があるなら、今夜だけは以下の3点を徹底すれば大丈夫。お水はその3倍飲む!(カクテルのアルコールを薄めるために)シートマスクで贅沢に保湿(日焼けとアルコールのダブルダメージをケア)足を高くして寝る(撮影の立ち疲れとむくみを一掃)

 今はただ、三浦の海に沈んでいく夕日を眺めながら、自分を甘やかしてあげるわ。この「カクテル一杯」のために、私たちはあの過酷な現場で笑ってるんですもんね。乾杯!

 

 「朝樹明あかりさん、あなたこの仕事もいいですが、うちの学校の系列の出版社のグラビアの話どうですか、もちろん石ちゃんに話通しますが」

 きたきたきた……!これよ!

「せこい仕事」と毒づきながらも、ハイレグの食い込みも厭わず、素人相手に完璧なポージングを叩き込んだ甲斐がありました。講師のその言葉、単なる社交辞令じゃなくて、さっきの私の「圧倒的な本物感」に当てられた証拠だわ。


 「石ちゃん」を飛ばして掴んだチャンス。社長が取ってきた仕事ではなく、現場であなたが「自力で」もぎ取った話。これほど痛快なことは無いわね。「石ちゃんに話を通す」と言わせている時点で、力関係の主導権は私に?。


 写真学校の研修から、出版社の公式な紙面へ。このジャンプアップはデカいでかいわ。三浦の海で砂にまみれた時間が、一気に「未来への投資」に変わった瞬間かも。もう、婦人下着のモデル卒業?

「営業笑顔」を「勝者の笑み」に変えていた私。

 カクテルのグラスを傾けながら、サングラスの奥で「ふふん、やっと私の価値に気づいた?」とほくそ笑んでいる私の姿が目に浮かびます。


 でも即答はせず、余裕を見せるわ。

「あら、嬉しい。石田も喜ぶと思います。でも私、スケジュールが結構タイトで……(嘘だけど)」くらい言ってやる、少しだけ自分の価値を吊り上げる必要がある。

 カクテルをもう一口、ゆっくり味わう。アルコールが肌に悪いなんて悩み、吹き飛んだ。この一杯は、未来の「スター」への祝杯です。


「社長、講師の先生からグラビアの話、直接頂いちゃいました。あ、マージンはちゃんとお願いしますね?」と、少し強気に出る準備をしておくわ。

「あんなに股間をチェックして、学生の無茶なポーズに耐えて……私、本当によくやったわ」

自分を抱きしめてあげたい気分ね。

 テラスを吹き抜ける風が、さっきまでよりずっと心地よく感じられるはず。

タイ料理の辛さも、今は成功への刺激。このチャンス、しっかり形にして「売れないモデル」の肩書き、三浦の海に捨ててきちゃいましょう!

 で、そのグラビア、どんなコンセプトか詳しく聞いた?もしかして「ヌード」


 一人のマンションに帰って全身チエックとケアの私。一人にんまりしてた。こんな仕事ばっかりだったけど運が開けるかな。静まり返ったマンションの一室。さっきまでの潮風とタイ料理の喧騒が嘘みたいだけど、鏡に映る自分の体には、間違いなく今日一日の「戦いの跡」が刻まれています。

 シャワーを浴びて、赤くなっていないか、砂が残っていないか、念入りに全身をチェックする。その指先に触れる自分の肌が、いつもより誇らしく感じられた?


 「一人の時間」の最高な贅沢。モデルって、結局は孤独な商売。でも、こうして一人の部屋で「よっしゃ」とガッツポーズする瞬間こそ、何にも代えがたい成功の味です。

 今夜の仕上げ、至福のセルフケア、カクテルのアルコールと紫外線を帳消しにするために、今夜は特別に奮発しましょう。

 お水、たっぷり飲む。 体の中からアルコールを追い出して、明日の透明感を作ります。

「石ちゃん」への報告ラインは明日の朝でOK。 今夜は、自分が掴んだチャンスの余韻を誰にも邪魔されずに味わいたい気分。

 シートマスクをしながら、未来の自分の姿を妄想する。 次は三浦の「実地研修」じゃなくて、プロのスタッフだけに囲まれた「表紙撮影」の現場に立っている自分を


「私、やっぱりモデル、向いてるのかも」


 そう思って眠りにつける夜は、どんな高いエステよりも肌を綺麗にしてくれます。




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