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Dad is Online 〜落ちこぼれ娘が絶体絶命の瞬間、父の書いた「最強の一行」が機装(ギア)を覚醒させる〜  作者: ぱすた屋さん
第二章『共鳴するロジック』

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第12話:六十二位の自覚とDクラスの胎動



 新宿から戻り、一週間ぶりに潜った聖エルモ学園の正門。

 結衣を待っていたのは、以前のような一方的な蔑みや無関心ではなかった。

 それは、遠巻きに観察し、ひそひそと囁き合い、こちらの出方を伺うような――剥き出しの「警戒」だった。


 中央広場のランキングボード。

 その中段、六十二位という場所に、自分の名前がはっきりと刻まれている。

 九十八位だった時は、まだ「何かの間違い」として処理されていた。

 だが、Aクラスのベテランである源三を真っ向から叩き伏せた事実は、もはやバグという言葉だけでは片付けられない。

 

 廊下を歩けば、上級生たちが足を止め、結衣の横顔を盗み見る。

 「あれが九条結衣か」「源三さんを引退寸前まで追い込んだっていう」「背後のエンジニアが本気を出したらしいぞ」

 向けられる言葉の刃は、以前よりも鋭く、重い。

 

 結衣は無意識に、制服のポケットの中で自分の右手を握りしめた。

 父がくれた平滑化のコードが、今の結衣の神経を優しく包み込んでいる。

 源三戦で失いかけた指先の感覚は、今ではすっかり元通りだ。

 けれど、あの時の「自分がいなくなるような恐怖」だけは、皮膚の裏側に消えない染みのように残っていた。


「……六十二位。もう、ただのラッキーじゃないんだ」


 自分自身に言い聞かせるように呟く。

 この順位は、特等席へのチケットではない。

 より強靭な牙を持つ捕食者たちが、自分を本格的な「獲物」として認識するための目印に過ぎないのだ。


 北倉庫に到着すると、重いシャッターを押し上げる前から、今までとは違う活気が漏れ聞こえてきた。

 金属がぶつかり合う重厚な音、電子機器の駆動音、そして荒い呼吸。

 中に入った結衣が目にしたのは、異様な光景だった。


「だらしないわよ大門! その程度の負荷でシールドが揺らいでどうすんの!」


 陽菜の怒号が響く。

 倉庫の中央では、巨躯を誇る大門が、自身の重装甲ギアの腕部ユニットだけを装着し、巨大な鉄柱を支えて耐熱訓練を行っていた。

 額から滝のような汗を流しながら、大門は一言も発さず、ただ岩のようにその場に踏みとどまっている。


 その少し離れた場所では、リン・フェイが、分解された狙撃銃のパーツを神業のような速度で組み立て直していた。

 彼女の周囲には、ひよりが用意したと思われる仮想標的のホログラムが高速で点滅し、フェイは目隠しをしたまま、その音だけで銃口を正確に微調整している。


「あ、結衣っち! おっはー!」


 アリエスの整備デッキから、琥珀が身を乗り出して手を振った。

 ピンク色のメッシュを揺らしながら、彼女はいつもの軽い調子で飛び降りてくる。


「見てよこれ! ウチらもマジで気合入れまくりだし。結衣っちが六十二位とかいう神ランク叩き出しちゃったからさ、北倉庫の空気、マジで爆上げ中なんだよね」


「琥珀くん……みんな、どうしたの?」


「どうしたもこうしたもないわよ」

 陽菜がハンマーを肩に担いで歩み寄ってきた。

 その顔は煤で汚れているが、瞳にはこれまでにない力が宿っている。


「あんたがAクラスの首を一つ持ってきた。その意味がわかる? Dクラスの奴らに、火がついちゃったのよ。……自分たちも、あのアホみたいに威張ってる連中の鼻を明かせるんじゃないかってね」


 陽菜が指し示した先では、大門がようやく鉄柱を下ろし、荒い息をつきながら結衣の方を向いた。

 彼は無口なまま、拳を自分の胸に当てた。

 それは、次の戦いでは自分たちが壁になると誓う、寡黙な男なりの敬礼だった。


 フェイもまた、目隠しを外し、冷徹なまでの静謐さを湛えた瞳で結衣を見つめる。

 彼女も以前から結衣の戦いを見ていた一人だが、その眼差しには確かな信頼の色が混じり始めていた。


「あなたの背中は、次は私が守るよ」


 ひよりはモニターの影から、自信ありげに自作のギアを掲げてみせた。

 パパの平滑化コード、陽菜の物理補強、ひよりの精密観測。

 そして大門とフェイの援護。

 これなら、どんな強敵が来ても戦える。そう確信しかけた、その時だった。


 北倉庫の入り口付近で、翡翠が立ち止まり、じっと外を見つめていた。

 彼女の細い肩が、微かに震えている。


「……琥珀、あの音が、近づいてきた」


「え? 翡翠、またノイズ?」


「……違う。……お腹を空かせた、怪物の笑い声……」


 翡翠の言葉が終わるか終わらないかのうちに、北倉庫の正面にある古い鋼鉄の扉が、外側から乱暴に蹴破られた。

 激しい金属音と共に、一月の冷気が雪を連れて一気に流れ込んでくる。


 逆光の中に立っていたのは、赤い髪を逆立て、獰猛な笑みを浮かべた少年――三雲嵐だった。

 彼は以前から結衣に執着し、その「最短経路」を喰らう機会を伺っていた。

 ランキング五位という圧倒的な高みから、彼は自分を満足させてくれる獲物の成長を、ずっと監視していたのだ。


「おいおい……随分と威勢が良くなったじゃねぇか。六十二位、か」


 三雲は土足で倉庫の中に踏み込むと、周囲の訓練風景を一瞥し、鼻で笑った。

 「最短経路」をなぞるだけのドールだと思っていた少女が、ベテランの源三をバグでねじ伏せた。その報告を聞いた時から、彼の飢えは限界に達していた。


「やっと俺の前に立つ準備ができたってわけか? 九条結衣」


 三雲の瞳が、ぎらぎらと結衣を射抜く。

 向けられた殺気だけで、ひよりが悲鳴を上げ、大門が即座に結衣の前に立ち塞がった。

 だが三雲は、大門など視界に入っていないかのように、結衣だけを見つめて言葉を続ける。


「待たせすぎなんだよ。……お前の親父が書いた小綺麗な論理、俺がこの手でグチャグチャに噛み千切ってやる。……今すぐ、表に出ろ。三学期の本当の地獄を、教えてやるよ」


 それは、以前よりも深く、鋭く研ぎ澄まされた宣戦布告だった。

 六十二位という数字が、学園の深淵に棲む怪物を、北倉庫という逃げ場のない檻の中に引きずり込んでしまった。

 結衣は震える足に力を込め、三雲の野性的な瞳を真っ向から見返した。

 逃げることはできない。

 怪物の招待状は、すでに彼女の目の前に叩きつけられていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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