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Dad is Online 〜落ちこぼれ娘が絶体絶命の瞬間、父の書いた「最強の一行」が機装(ギア)を覚醒させる〜  作者: ぱすた屋さん
第二章『共鳴するロジック』

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第7話:禁忌のパッチと逆転の一撃


 ――ガギィィィィィィィィン!!


 演習場全体を震わせる凄まじい金属音が響き渡った。源三の放ったギア・ファングの右腕、必殺のパイルバンカーが、アリエスの心臓部――コックピットのわずか数センチ横を貫いた。超音速で射出された杭の衝撃波だけで、アリエスの外部装甲が紙細工のようにめくれ上がり、火花が夜の打ち上げ花火のように夜闇を、いや、結衣の視界を真っ白に焼き尽くした。


「……捕らえた。終わりだ、一年生」


 源三の確信。杭がアリエスのフレームを完全に捉え、機動力を奪ったと。だが、その確信は次の瞬間に打ち砕かれる。

 杭が食い込んだままのアリエスが、あり得ない方向に「しなった」のだ。


「あ、が……あぁぁぁぁぁっ!!」


 結衣の悲鳴は、もはや言葉の形を成していなかった。ゼロ・リンクの同期率は限界を突破し、計測不能な領域へと突入している。彼女の脳内では、パパが書いた美しい論理回路がドロドロに溶け、剥き出しの神経が発する「熱」と混ざり合っていた。


 アリエスの駆動系は、学園のシステムが課した安全リミッターを次々と焼き切り、火を噴きながら咆哮を上げる。杭が突き刺さったまま、アリエスは自らのフレームを強引に捻じり、ギア・ファングの懐へと一歩踏み込んだ。


『結衣、それ以上はダメだ! 神経が焼き付く! リンクを遮断しろ、今すぐにだ!』


 新宿からの通信。蓮太の声はもはや、祈りを超えた絶叫だった。モニターに映る結衣の脳波形は、もはや人間のそれではない。機械のノイズと完全に同調し、黄金色の光り輝く死の波形を描き出している。


「父さん、無駄だよ。姉さんはもう、僕たちの声なんて聞こえてない」

 颯太の指先がキーボードの上で止まっていた。彼は見ていた。アリエスの駆動ログが、パパの書いたコードを一文字ずつ「否定」し、結衣自身の意志という名のバグで上書きされていく様を。


$$\Delta Neural_{sync} = \int \frac{\partial (Logic \oplus Emotion)}{\partial t} \cdot \lim_{\epsilon \to 0} \frac{1}{\epsilon}$$


 数式が特異点を叩き出す。

 結衣の瞳は、過負荷によって血走り、視界の全てが黄金色の光子に満たされていた。

 彼女には見えていた。パパの最短経路という名の「答え」ではなく、源三の機動の裏側にある「淀み」。完璧な精密機械が、杭を射出した直後に生じる、わずかコンマ零二秒の重心のブレ。


「……そこ。……見つけた」


 結衣の意識がアリエスの右拳へと集束する。

 指先の感覚はない。腕の重みさえ感じない。ただ、アリエスのマニピュレーターが自分自身の指先であるかのように、空気を掴み、空間を切り裂く。


 アリエスの右腕が、ギア・ファングの唯一の死角――シールドの影に隠れた首元の駆動系へと吸い込まれるように突き出された。それは「最短経路」ではない。相手の「終わり」を直接引き寄せる、禁忌の一撃。


「な……馬鹿な! その姿勢から、そんな角度で……っ!?」


 源三の叫び。彼の三年間の経験という名のデータベースに、今の軌道は存在しなかった。回避も、防御も間に合わない。

 鉄の塊が、音速を越えて激突した。


 ――ズ、ドォォォォォォンッ!!


 演習場の中央で、巨大な爆発現象が起きたかのような衝撃波が吹き荒れた。

 ギア・ファングの頭部が、まるで玩具のように粉砕され、背後の砂壁にめり込む。鋼色の巨躯が、断末魔のような放電を全身から撒き散らしながら、白い砂塵の中にその膝を突き、崩れ落ちた。


 静寂。

 舞い上がる砂塵の中で、アリエスはボロボロになりながらも、その右腕を突き出したまま立ち尽くしていた。

 電子ブザーが鳴り響き、スタジアムの巨大モニターに無機質な文字が踊る。


『WINNER: YUI KUJO (D-RANK)』


「……う、そ……。結衣っち、マジで……マジで勝っちゃったの!?」

 北倉庫で琥珀が叫ぶ。彼女は涙を流しながら、膝を叩いて立ち上がった。

「……琥珀、違うよ。……今の結衣さん、勝ったんじゃない。……自分の『何か』を、全部燃やしちゃったんだよ……」

 翡翠の瞳には、勝利の光ではなく、アリエスのコックピット内で静かに「消えかかっている」結衣の感覚の波形が映っていた。


「……あ。……手が……」


 コックピットの中。勝利の宣告を聞きながら、結衣は操縦桿から手を離そうとした。

 だが、離れなかった。いや、離れたかどうかもわからなかった。

 自分の指がどこにあり、操縦桿を握っているのか、それとも突き出しているのか。脳が指先を見失っていた。ただ、冷たい石を埋め込んだような、得体の知れない重苦しさが両腕を支配していた。


『結衣、応答しろ! 結衣!』


 新宿の父の声。だが、それは遠くの霧の向こうから聞こえる、誰か知らない人の声のように虚空に消えていく。

 結衣の瞳から黄金色の光が消え、深い闇と激しい疲労が押し寄せる。


 九十八位。三年生Aクラスを撃破した。

 だが、その一撃と引き換えに、彼女の神経系は沈黙という名の深い淵へと沈み始めていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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