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Dad is Online 〜落ちこぼれ娘が絶体絶命の瞬間、父の書いた「最強の一行」が機装(ギア)を覚醒させる〜  作者: ぱすた屋さん
第二章『共鳴するロジック』

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第1話:氷の女王と三学期のプレリュード

2章開始です!



 冬休みが明け、聖エルモ学園を覆う空気は、一学期や二学期とは明らかに異なる「刺すような冷たさ」を帯びていた。

 それは単に一月という気温のせいではない。三学期――それは、三年生にとっては卒業と進路査定という名の処刑台に上がる三ヶ月であり、下級生にとっては、その狂乱と焦燥に巻き込まれる過酷な試練の季節だ。


 中央広場に設置された巨大なホログラム・ランキングボードの周辺には、例年以上に多くの生徒が群がっていた。誰もが自分の順位、そして背後に迫る「落とし穴」がないかを確認し、ピリついた神経を隠そうともしない。空中に浮かぶ無数の数字が、朝の光を反射して冷たく明滅している。それはまるで、生徒たちの生命維持装置の脈動を数値化したかのようだった。


 九条結衣は、北倉庫へ向かう途中でふと足を止め、その掲示板を見上げた。

 [D-98] 九条 結衣

 二学期の終盤、あの「一条凱」を撃破したことで得たポイントは、彼女をこの位置――百位圏内の末席へと滑り込ませていた。Dクラス、通称「ゴミ捨て場」の一年生が、この時期に二桁順位に名を連ねる。それは本来、学園の歴史を塗り替える快挙であるはずだった。だが、周囲から向けられる視線に「賞賛」の色は微塵もなかった。


「……あれが九条結衣か。一条をハメたっていうバグの女の子は」

「背後のエンジニアが優秀なだけだろ。本人の腕なんて、どうせ素人同然さ」

「三学期はそうはいかない。三年生のAクラスが、本気で潰しにくるって噂だぜ。学園の純度を汚す存在は許さないってさ」


 心無い囁きが、凍てついた空気を通って耳に届く。結衣がマフラーに顔を埋め、俯きそうになったその時、背後からパンッと派手な音が響いた。


「結衣っちおはよー! てか顔色悪っ! マジで掲示板見てビビってんの? ウケるんだけど!」


 振り返ると、そこには派手にカスタマイズした制服に身を包み、ピンク色のメッシュを入れた髪を揺らす琥珀がいた。彼女はガムを噛みながら、結衣の肩にガシッと腕を回してくる。


「琥珀くん、おはよう……。あ、翡翠ちゃんも」

「……おはよう、結衣さん」


 琥珀の隣には、対照的に物静かな翡翠が、オーバーサイズのパーカーのフードを深く被って立っていた。琥珀は掲示板の自分の順位――二百九十八位をチラリとも見ることなく、広場全体の重苦しい空気を鼻で笑った。


「マジ、この空気感ゲロ重くない? みんな必死すぎて、見てるこっちが冷めるっていうかさー。ね、翡翠もそう思うっしょ?」

「……うん。ログが、棘だらけ。……結衣さん、気をつけて。今日は、すごく『尖った』波形が近づいてる」


 翡翠が呟いた直後だった。

 琥珀の軽口さえも一瞬で凍りつかせるような、圧倒的なプレッシャーが広場に降り注いだ。

 喧騒は不自然なほど急激に霧散し、生徒たちが左右に分かれて道を作る。その中心を、一人の少女が歩いてきた。


「――情報の質が落ちたものね。実力も伴わない数字を眺めて、何が楽しいのかしら」


 低く、どこか鈴の音のように透き通った声。だが、その中には一切の感情が含まれていない。

 長い銀髪を冬の風になびかせ、凛とした佇まいで立つ少女――三年生、神崎玲奈。

 ランキング十位。学園の頂点に君臨する『氷の女王』。

 彼女の瞳は、結衣という存在を「生徒」としてではなく、単なる「エラーログ」として捉えているかのようだった。その視線に晒されるだけで、肺の空気が凍りつくような錯覚に陥る。


「……神崎、先輩」

「挨拶は不要よ、九条結衣。あなたが一条に勝てたのは、彼が論理ロジックを過信し、自らの慢心という変数を見落としたからに過ぎない。……だが、私の前ではその程度の幸運は通用しないわ」


 神崎が一歩踏み出す。その瞬間、結衣の感覚が警鐘を鳴らした。

 一条の時に感じた暴力的な傲慢ではない。神崎から放たれているのは、徹底的に研ぎ澄まされた最適化の極致。琥珀でさえも「……ちょ、マジで何これ、寒すぎ」と、結衣の肩に回した腕に力を込めて身を強張らせている。


「……私の順位表に、ゴミが混じるのは美しくないわ。三学期、あなたが私の領域に足を踏み入れるというのなら、覚悟しておきなさい。あなたの背後にいる何者かのコードごと、私のアルテミスで粉砕してあげる」


 神崎は一瞥もくれず、結衣の横を通り過ぎていった。

 その足音一つ、呼吸一つにすら、計算されたリズムがある。結衣は立ち尽くしたまま、自分の右手が小刻みに震えていることに気づいた。圧倒的な正解を突きつけられた時に感じる、無力感に似た戦慄。


「……すごい。一歩も動いてないのに、負けそうになった……」


 その時、結衣のポケットの中でスマートフォンが激しく振動した。新宿の父、蓮太からの緊急着信だ。画面には「System: Father Connect」の文字が躍っている。


『結衣、聞こえるか。今、神崎玲奈と接触したな。……アリエスの外部センサーが、お前の心拍数の異常上昇を検知した。落ち着け、深呼吸しろ』

「お父さん……。うん。すごく、怖かった。一条先輩の時とは、全然違うの」

『無理もない。彼女の機体アルテミスは、学園のゼノンOSを最も純粋に運用する、いわばシステムの化け物だ。……だが、怖がることはない。僕たちは、その完成された円を、外側から打ち破るためにここにいるんだ』


 父の落ち着いた声が、結衣の心臓の鼓動を少しずつ鎮めていく。

 廊下の影から、ひよりと陽菜も心配そうに駆け寄ってきた。


「結衣さん……! 大丈夫ですか? 今の人の脳波、真っ青でした……」

「へん、お高くとまっちゃって! あの銀髪女、琥珀たちの複座式が完成したら絶対黙らせてやるからね!」


 陽菜が結衣の背中をバチンと叩き、琥珀も「ま、結衣っちなら余裕っしょ! とりあえず朝からテンション下げてんのはナシ!」と、無理やり明るく振る舞う。翡翠だけは、神崎が去っていった方向を、じっと見つめ続けていた。


 三学期。もはや、ラッキーパンチは通用しない。

 掲示板が更新され、三学期最初の公式戦カードが表示された。


 ――[Battle Match: 98th Yui Kujo vs 60th 'Machine' Genzou]


 三学期の幕が、ついに上がった。

 結衣は冬の空を仰ぎ、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んだ。北倉庫の油の匂いと、父の書く熱いコードが、彼女の背中を静かに押していた。

 これから始まるのは、単なるランキング戦ではない。学園が積み上げてきた完成された秩序と、北倉庫で生まれた歪な情熱の、生き残りを懸けた衝突なのだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


Dad is online

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