表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dad is Online 〜落ちこぼれ娘が絶体絶命の瞬間、父の書いた「最強の一行」が機装(ギア)を覚醒させる〜  作者: ぱすた屋さん
第一章『パパが接続しました』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/60

第32話:観測者の休息と、重なる予感



 冬休みの中日。北倉庫のトタン屋根を叩く乾いた風は、氷のように冷たかった。

「あぅ……、指先が凍って、ログのスクロールが上手くいかないです……」

 ひよりが、かじかんだ手を吐息で温めながら、端末の画面を見つめている。

 陽菜はアリエスの駆動系を丹念にチェックしていたが、ついにレンチを置いた。


「よし、今日はここまで! 寒すぎて精密な調整は無理。……結衣、今夜、あんたの家に押しかけてもいい?」

「えっ、私の家に?」

「そう。ひよりの専用ギアのキャリブレーション、もっとリラックスした場所でやりたいの。……それにお泊まり会、女子っぽくていいじゃない?」


 陽菜の強引な提案に、ひよりは目を輝かせ、結衣は少しだけ困ったように笑った。

「いいけど……お父さんがびっくりするかも」




---




 九条家の玄関が開いた瞬間、新宿から帰宅していた蓮太は、固まった。

「お、お父さん、ただいま。……友達が泊まりに来たよ」

「お邪魔します! 九条さんの技術の源泉を拝見しに来ました!」

「ひ、ひえぇ……お、お邪魔します……」


 陽菜の元気な挨拶と、ひよりの震える声。

 蓮太は眼鏡を指で押し上げ、激しく動揺した。

「……い、いらっしゃい。……結衣に友達が来るなんて、その、デバッグの予定にはなかったな……」

「お父さん、変な言い方しないで!」





 夕食は、蓮太が慌てて用意した特製寄せ鍋になった。

 大門が教えてくれた「最も効率的で栄養価の高い」レシピに基づいたものだ。

 そこに、自室から「お腹空いた」と出てきた颯太も加わり、九条家の食卓はかつてない賑やかさに包まれた。


「……父さん、また変なデバイス作ってるね」

 颯太が、陽菜がテーブルに置いたひよりの専用ギア――『ロー・ゲイズ・スタビライザー』を一瞥して言った。

「変なとは何だ、颯太。これはひよりさんの『情報過多』を物理的にフィルタリングする、画期的なデバイスだぞ。……まあ、陽菜さんのハードウェア設計があってこそだがな」

「へえ……。視覚情報を一度仮想スタックに積んでから、アリエスの足元を基準に再投影するわけか。……悪くないんじゃない?」


 中二の弟からの意外な高評価に、陽菜が「でしょ!」と胸を張る。

 ひよりは、鍋の湯気の向こうで微笑み合う九条家の家族を見つめ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。



---



 深夜。結衣の部屋に三つの布団を並べ、女子会が始まった。

 パジャマ姿のひよりは、枕元に置かれた新しいギアを手に取った。


「……結衣さん、ちょっとだけ、試してみてもいいですか?」

「うん。電気、消したほうが分かりやすいかな?」


 月明かりだけの暗い部屋で、ひよりがギアを装着し、そっと瞼を開いた。

 ――瞬間に、彼女の脳内に「整理された世界」が展開される。


 これまで目を開けた瞬間に襲ってきた、情報の濁流がない。

 ギアのバイザー越しに見える世界は、結衣のベッドの端、フローリングの木目、そして結衣の手。

 すべての情報が「アリエスが地に足をつけた時の視点」を基準に、優先順位をつけて青白いグリッドで表示されている。


「……すごいです。これなら、怖くない。……世界が、ちゃんと『層』になって見えます」

「よかった……。これでお父さんと陽菜さんが徹夜した甲斐があったね」


 ひよりはギアを外し、暗闇の中で結衣の手を握った。

「私、今まで自分の目が嫌いでした。……でも、このギアがあれば、結衣さんが三学期に戦う『三年生』の先輩たちの動きも、きっと全部捉えられます。……だから、安心して戦ってください」


 陽菜も、布団の中から声を上げた。

「双子の『ジェミニ』の進捗も、あのパッチのおかげで順調よ。……三学期は、結衣一人に背負わせない。Dクラス全員で、あの傲慢な先輩たちを驚かせてやりましょう」


 三学期、待ち受けているのは卒業を控えた「最強」の世代。

 圧倒的な経験の差に、一度は膝を屈することになるかもしれない。

 けれど、この夜の温もりが、彼女たちのロジックをより強く、鋭く研ぎ澄ましていた。


「……うん。みんながいれば、私、どこまでも走れる気がする」


 結衣が静かに呟く。

 窓の外では、静かに雪が降り始めていた。

 三学期の開幕まで、あと少し。

 九条家の屋根の下で、反撃の牙は静かに、けれど確実にその鋭さを増していた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

一応パジャマ回です!


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ