幕間:確率の裏側で笑う女
学園の喧騒から離れた旧校舎の屋上。リン・フェイは、冷たい風に長い黒髪をなびかせながら、手元の最新型ホロ・デバイスを操作していた。
画面に踊るのは、学園内の非公式賭博サイトの配当表。そして、彼女の隠し口座に刻まれた、学生が一生かかっても稼げないほどの莫大なクレジットの数字だ。
「ふふ。一条の負けに賭けてたバカは、私一人だけ。おいしすぎるね」
彼女は、結衣がイージス・コアを撃破した瞬間に得た配当金を眺め、薄く笑った。
Dクラスの生徒たちは彼女を「少し変わった、情報通の友達」だと思っている。だが、その実態は、学園のあらゆる通信を傍受し、勝敗をコントロールする闇の確率論者だ。
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フェイが結衣に賭け続ける理由は、友情や期待といった甘い感情ではない。
彼女の特異な能力は、データの流れを色で視認できるという、共感覚に近いものだった。
通常のAクラス生徒の機動は、冷たい無機質な青。
三雲のような本能派は、荒々しい赤。
だが、九条結衣の機体から漏れ出す信号だけは、いつも歪な金のノイズが混じっていた。
(あのノイズ……。学園のサーバーからじゃない。もっと遠く、深い場所から、誰かが理を書き換えている)
フェイは、初期の時点ですでに気づいていた。結衣の後ろには、学園のシステムそのものを凌駕する天才エンジニアが潜んでいることを。その変数を計算に入れれば、結衣の勝率は90%を超える。彼女にとって、結衣に賭けることは博打ではなく、確実な資産運用に過ぎなかった。
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不意に、彼女のデバイスに暗号化された着信が入る。
表示された発信元は『----』。学園のネットワークでは追跡不可能な、外部からの通信だ。
「はい、こちらフェイ。……ええ、第1段階は完了よ。一条凱の失脚によって、ゼノン社内部の次世代機開発予算に穴が開いたわ。最後は三学期の団体戦。そこで九条結衣をさらに高騰させる。ええ、わかってる。私の報酬は、予定通りあのデータでいいわ」
短い会話の後、彼女は通信を切った。
彼女がこの学園に潜り込んでいる目的。それは、単なる金稼ぎではない。
彼女の本当の目的は、ゼノン社が独占するある極秘プロトコルを奪取すること。そのために、学園のランキングという秩序を、結衣というバグを使って内部から崩壊させようとしているのだ。
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「フェイちゃーん! どこに行ってたの? これからトメさんのところで打ち上げだよ!」
階下から結衣の明るい声が響く。フェイは瞬時に冷徹な表情を消し、いつものミステリアスな、よく笑う少女の仮面を被った。
「今行くよ、結衣! お祝いに、私から最高級の点心を差し入れしちゃうからね!」
駆け下りていく彼女のポケットには、ゼノン社のセキュリティを数秒で無効化するブラック・チップが忍ばされている。
結衣がお父さんへの純粋な想いで戦い、
陽菜がメカニックの矜持で機体を磨き、
ひよりが憧れで世界を観測するなら、
リン・フェイは、この学園という名のシステムそのものを破壊し、喰らうために、今日も確率の裏側で糸を引く。
「三学期は、もっとレートが上がるよ、結衣。死なないでね、私の最高の商品さん」
夕日に染まる彼女の瞳は、誰よりも深く、誰よりも暗い野心に燃えていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
謎のキャラ、フェイの裏側ちょっと見せました。
結衣の周りはクセのあるキャラばかりですね!
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Dad is online
次回も無事にログインできますように。




