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Dad is Online 〜落ちこぼれ娘が絶体絶命の瞬間、父の書いた「最強の一行」が機装(ギア)を覚醒させる〜  作者: ぱすた屋さん


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幕間:深層の観測者

ひよりのお話です。


 ひよりにとって、この世界は「眩しすぎる」場所だった。

 朝、瞼を持ち上げた瞬間に、情報の暴力が彼女を襲う。窓から差し込む光の粒子、カーテンを揺らす風の周期、壁のシミが描くフラクタルな図形、そして脳内に絶え間なく流れ込む過去のログデータ。


「あぅ……、また……始まっちゃいました……」


 目を開けている時の彼女は、あまりにも無力だ。二十枚以上の思考ウィンドウが網膜に重なり、現実の風景を塗り潰してしまう。朝食のパンを焼こうとすれば、パンの焦げる匂いから分子の熱運動を無意識に計算してしまい、肝心の皿の位置を見失って床に転ぶ。

 周囲からは「万年ドジっ子」と笑われる彼女の日常。だが、その真実を知る者は学園でもごく僅か――ゼノン社のスカウトマンだけだった。




---




 彼女が特待生として選ばれた理由は、目を開けている時の「多重処理」ではない。

 「目を瞑った時」にだけ現れる、異質な脳波にある。


 中学時代の適性検査。数万行の無秩序な文字列(生ログ)を解析するテストで、ひよりは静かに瞼を閉じた。

 視覚という最大のノイズを遮断した瞬間、彼女の脳内で、バラバラだった二十枚のウィンドウが一つに統合される。暗闇の中に、デジタルな輝きを放つ「データの海」が広がり、彼女はその海を自由に泳ぐ魚となる。


「……あ、みっけ。ここが、バグですね」


 文字を読むのではない。データの「手触り」を感じ、不自然に波立つ一箇所を指先で掬い上げる。その速度、正確性。それは演算というより、もはや『予言』に近い精度だった。




---




 けれど、そんな特異な才能を持つひよりは、ずっと孤独だった。

 誰も彼女が見ている「データの海」を理解してくれない。目を開ければ世界はノイズに溢れ、目を閉じれば冷たい数字の世界が広がる。自分の居場所がどこにもないと感じていた彼女を救い出したのは、一学期の演習場、夕闇の中で一人泥にまみれていた結衣だった。


(……不思議。この人のログ、すごく『温かい』……)


 結衣がアリエスを動かすたびに吐き出されるログは、他のエリートたちのような無機質な「正解」ではなかった。

 そこには、お父さんに届けたいという祈り、アリエスへの愛着、そして必死に壁を乗り越えようとする、泥臭い「生身の感情」が混ざっていた。

 ひよりにとって、そのログは冷たい数字の海に灯った、たった一つの、真っ直ぐな篝火かがりびだった。


「ひよりちゃん、どうしたの? ぼーっとして」


 結衣に声をかけられた時、ひよりは初めて「目を開けたまま」で世界の中心を見つけた。

 何万もの変数に振り回されるひよりにとって、ただ一つの目的のために全てを懸ける結衣は、混沌とした世界を繋ぎ止めてくれる唯一の「光」――アンカーになったのだ。




---




「うぅ……結衣さん、やっぱり無理ですぅ……!」


 二学期末、Aクラス校舎の最上階。足元が透明なガラスになった回廊で、ひよりは絶叫に近い声を上げながら結衣の裾にしがみついていた。

 本来、ひよりは「目を閉じれば」恐怖など感じないはずだった。だが、高い場所では本能的な死の恐怖が働き、どうしても目を開けてしまう。


「ひよりちゃん、目を閉じて。私の手を、しっかり握って」


 結衣の優しい声。ひよりは意を決して、瞼を強く閉じた。

 ――瞬間に、世界が変わる。

 足元の高さという「情報の暴力」が消え、結衣の手の温もりが、一つの巨大な「確信」として脳内に展開される。


(……あ。静かだ。結衣さんの隣で目を閉じると……私、どこまでも行ける気がします)


 結衣という最強の信号シグナルが、ひよりの中の不確かなデータを全て「信頼」という色に塗り替えていく。

 ひよりにとって結衣への憧れは、単なる友情ではない。自分の欠陥だらけの人生を、唯一「意味のあるもの」に変えてくれた、救済そのものだった。




---




 戦いが終わった後の北倉庫。

 ひよりはアリエスの傍らで、静かに瞼を閉じる。


「……結衣さん、ここです。第12関節の出力ポート。……新宿のお父さんが書いたコードの『最短経路』に、陽菜さんが塗った新しいグリスが、ほんの少しだけ追いついてません。……だから、左に旋回する時だけ、ほんの少しアリエスが迷っています」


 瞼の裏側で、ひよりはアリエスの骨格をデジタル・スキャンするように見つめる。

 蓮太が組み上げた論理の美しさと、陽菜が魂を込めた物理の重なり。その二つがぶつかって火花を散らす「一瞬の不協和音」を、ひよりは誰よりも早く、正確に聞き分ける。


「私、目を開けてる時は役立たずですけど。……目を閉じてる時だけは、結衣さんの『盾』になれるんです」


 陽菜やトメのような職人の技はない。結衣やお父さんのような圧倒的なロジックもない。

 けれど、目を閉じた暗闇の中で、誰よりも結衣の未来を観測し、彼女が歩むべき道を掃き清める。


「結衣さんが光なら、私はその光が反射する全ての影を観測します。……結衣さんの世界を、一秒でも長く、静かで綺麗なものにしてあげたいから」


 夕暮れの北倉庫。

 瞼を閉じ、微笑むひより。

 その瞳の裏側には今、結衣への深い「憧れ」という名の感情で満たされた、輝くデータの海がどこまでも広がっていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今回はひよりが結衣を追いかけるようになった経緯を書いて見ました。

実は特待生だったんですね。学業に関しては結衣以上に化け物クラスです。

結衣が努力の人なら、ひよりは完全天才型です。

今後期待に乗ることもあるとは思いますが、どんな機体になるかはまだ決めていません(笑


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


Dad is online

次回も無事にログインできますように。

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