表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dad is Online 〜落ちこぼれ娘が絶体絶命の瞬間、父の書いた「最強の一行」が機装(ギア)を覚醒させる〜  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

第20話:陽菜と調整


 北倉庫の空気は、数日前とは明らかに変わっていた。ただの物置だった空間は、今や神崎陽菜が持ち込んだ最新の診断装置と、トメがどこからか引っ張り出してきた旧式の重機パーツが入り混じる、異様な「工房」と化している。


「トメさん、この右脚のサーボモーター、やっぱり出力が足りないよ。おじさんのパッチの要求値、高すぎるもん。このままだと研修旅行の前にアリエスがバラバラになっちゃう」


 陽菜が眉根を寄せてタブレットをトメに突きつける。アリエスのフレーム診断結果は真っ赤だった。四十歳のリードエンジニア・蓮太が書き上げた『K-Shell v2.1』は、物理演算のショートカットによって驚異的な機動を実現するが、その代償として機体骨格に凄まじいGを強いる。


「分かってらあ。だがよ、陽菜。既存のパーツで固めたって重くなるだけだ。お前の言う『遊び』を削りつつ、しなりで衝撃を逃がす……建築の免震構造みたいな考え方が必要だろうよ」


 伝説の老整備士と、若き整備士の卵が火花を散らす。その傍らで、結衣はアリエスのコクピットに座り、操縦桿を通じて伝わってくる「震え」をじっと確かめていた。パパとの約束――機体の声を聞く。数値化されない違和感を、言語化してフィードバックする。それが今の結衣の役目だった。


(……お父さん、今、左の腰が少しだけ重い気がする。ジャイロが追いついてないのかな)


 結衣が手元の端末でチャットを打つ。数分後、新宿の満員電車に揺られているはずの蓮太から、そっけない、だが的確な返信が届いた。


『それはジャイロの遅延じゃない。アクチュエータの熱ダレだ。一時的にトルクを十%落とすパッチを送った。……それより、隣の双子のログを取れ。面白いデータが取れそうだ』


 結衣が視線を上げると、倉庫の隅に据え付けられた「複座型」のテスト用コクピットに、阿栖馬琥珀と翡翠の双子が乗り込んでいた。


「ねえねえ結衣っち! パパさんからのパッチ、もう入った? うちら、いつでもいけるよ! 翡翠、準備いい?」

「……同期、開始」


 翡翠がフードの奥で小さく呟く。二人の同期率はわずか二%。本来なら、機体を歩かせることすら不可能な数値だ。だが、蓮太のスマートフォンには、二人の脳波が互いの波形を打ち消し合う「逆位相」のグラフが鮮明に映し出されていた。


(普通のアプローチじゃ、二人の波形はただの『ノイズ』だ。だが……このノイズを、互いの演算を補完するための『キャリア波』として定義し直せばどうなるか。……四十歳のSEの経験を舐めるなよ。イレギュラーこそが、システムを飛躍させる鍵なんだ)


 蓮太の指が、スマホの画面をタップする。

『Phase Alignment Patch v0.1』をプッシュ。


「――っ!? な、なにこれ、急に視界が広くなったんだけど! 翡翠、あんた今、何した!?」


 琥珀が驚愕の声を上げる。琥珀のコックピットモニターに、翡翠が見ている索敵データが、まるで最初からそこにあったかのように自然にオーバーレイされた。


「……姉さんの思考が、流れ込んでくる。……ノイズが、消えた」


 翡翠の瞳が、わずかに発光したように見えた。二人が操るテスト機が、ゆっくりと、だが極めて滑らかに腕を上げた。そこにはカクつきも、ラグも存在しない。結衣のアリエスのような「爆発的な超機動」ではない。だが、二人の動きが完全に一致し、一つの意思で巨大な鉄塊を操っているという、静かな、しかし圧倒的な「調和」の片鱗。


「凄い……。二人の同期率が、数値上は変わっていないのに、制御エラーがゼロになってる……!」


 陽菜が診断モニターを見て声を上げる。七瀬ひよりが目を瞑って多重演算を行い、双子が共鳴して出力を安定させる。結衣を支えるための「チーム」のパーツが、少しずつ、だが確実に形を成し始めていた。


「ケッ……あのパパさん、とんでもねえコードを書きやがる。ハードの限界どころか、人間の脳の限界まで遊び倒す気かい」


 トメが苦笑しながら、フェイから受け取った怪しげなパーツを弄る。フェイはニヤニヤしながら、手元の端末に今回のデータを保存していた。


「このデータ、筑波の聖地なら高く売れそう……なんてね。結衣、研修旅行の準備、しっかりしなよ。そこにはアリエスを『化け物』にするための、最後のピースが眠ってるはずだから」


 一方、新宿のオフィスビル。蓮太は会議室の片隅で、ノートPCを開いていた。目の前では、学園の基幹システムを担う「ゼノン社」の担当者が、次世代OSのプレゼンを行っている。


「……我が社の最新OSは、不確定要素、すなわち『ノイズ』を徹底的に排除することで、絶対的な安定性を実現しました」


 担当者の誇らしげな言葉を聞きながら、蓮太は心の中で鼻で笑った。

 ノイズを消す? 違うな。ノイズの中にこそ、まだ誰も見つけていない「最適解」がある。それを証明しているのが、今、倉庫で笑っている娘と、その仲間たちだ。


(ゼノン社……。このOSのソースコード、やっぱり何か隠してやがるな。……結衣、パパもこっちで『デバッグ』を続けるよ。お前は、その仲間たちと一緒に、聖地で答えを見つけてこい)


 会議室の窓の外、秋の空がどこまでも高く広がっていた。研修旅行まで、あとわずか。アリエスの大改造という「物理レイヤーの決着」に向けて、物語は加速していく。


「よし、結衣っち! 今日の練習、うちもアゲアゲで付き合うよ! 翡翠、もう一回!」

「……了解。……同調、加速」


 倉庫に響く、若者たちの声。その背後で、四十歳のSEは、静かに次の一行を書き込み始めた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ