第18話:磁気と友情
短めです
翌日の放課後。北倉庫は、かつてないほどの賑やかさ――というより、混沌に包まれていた。
アリエスの整備状況を確認しようと扉を開けた結衣は、そこに広がる光景に思わず足を止めた。
「いよっ、結衣! おめでとう、昨日はマジでビビったよ!」
最初に声をかけてきたのは、チャイナドレスを現代風にアレンジした衣装に身を包んだ少女、リン・フェイだった。彼女はDクラスの情報屋であり、学園の闇ルートでジャンクパーツを流している商魂逞しいお祭り娘だ。
「フェイ……どうしてここに?」
「どうしてって、決まってるじゃん! アンタの勝利のおかげで、賭けに勝って大儲けさせてもらったお礼だよ。ほら、これ」
フェイが放り投げた小さな黒い箱を、結衣は慌てて受け取った。中には、学園の正規ルートでは到底手に入らない、高純度の伝導グリスが詰まっていた。
「あのアリエスの動き、動画で見直したけどさ、絶対に変だよ。物理演算を無視してるっていうか、魔法か何かに見えた。……おかげで、学園の連中は『何か不正があるんじゃないか』って躍起になって調べてるよ。気をつけな」
フェイが忠告するように笑った直後、背後から爆風のような勢いで誰かが突っ込んできた。
「結衣っちー!! ダチになろうよ結衣っち!!」
圧倒的な声量と共に結衣の肩を組んできたのは、改造制服を派手に着崩したギャル風の少女だ。明るい茶髪を高く結い上げ、結衣の顔を覗き込んでくる。
「あ、ええと……琥珀、さん?」
「琥珀でいいって! うちら、同期率二%の『底辺ツインズ』なんだけどさ、昨日の試合見てマジで人生変わったわけ! 『あ、Dクラスでもあんなにカッケーことできんの?』ってさ!」
琥珀がガハハと笑う。その背後には、オーバーサイズのパーカーのフードを深く被った、線が細い少年が静かに立っていた。
「翡翠。挨拶」
「……翡翠。よろしく」
双子の弟、翡翠はそれだけ言うと、無言のまま手元のタブレットでアリエスのスキャンを開始した。彼らの同期率が低いのは、双子ならではの「脳波の干渉」がノイズとして処理されているからだと、後に結衣は知ることになる。
「ねえねえ、結衣っち! うちらの機体も見てよ。双子乗りの『複座型』に改造しようとしてんだけど、全然動かなくてさー。アンタのその『謎のパッチ』、うちらにも使わせてよ!」
琥珀にグイグイと迫られ、困惑する結衣。だが、彼女の心は不思議と温かかった。
昨日まで、ここは「捨てられた者の掃き溜め」だった。けれど今は、自分と同じように「システムの枠」からはみ出した連中が、自分の意志で集まってきている。
「……賑やかになったもんだねえ」
倉庫の奥から、トメがニヤニヤしながら現れた。その手には、フェイが持ってきたばかりの怪しげなパーツリストが握られている。
「お前さん、一人で戦ってるつもりだったろうけどさ。……『はみ出し者』には、はみ出し者なりの群れ方があるんだよ」
結衣はアリエスの冷たい装甲に触れた。
ポッケの中のスマートフォンが、短く二回震える。それは、新宿の満員電車に揺られながら、リモートで倉庫のカメラを確認しているリードエンジニア――父・蓮太からの生存報告だった。
『ログを確認した。……随分と「ノイズ」の多い環境だな。だが、悪くない。……そいつらの機体データも、暇な時に送っておけ。四十歳のSEは、マルチタスクには慣れているんだ』
結衣は思わず吹き出した。
孤独だった少女と、古びた残骸。そこに加わった、癖の強い仲間たち。
自分たちの戦いは、もはや「適性がない」という諦めから、もっと別の、もっと熱い何かへと変質し始めていた。
「うん……。みんな、よろしくね!」
結衣の明るい声が、油臭い倉庫に響き渡った。
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次回お楽しみに。




