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Dad is Online 〜落ちこぼれ娘が絶体絶命の瞬間、父の書いた「最強の一行」が機装(ギア)を覚醒させる〜  作者: ぱすた屋さん


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第15話:Dad is online


「――生際ぎわが悪いんだよ、九条くじょうッ!」


 進藤しんどう拓海たくみ咆哮ほうこうと共に、重量級機装タウラスがその巨体を躍動させた。

 右脚の壊れた『アリエス』を仕留め損ね続けている焦燥が、最新AIの演算を狂わせ、挙動に荒々しい「ノイズ」を混ぜ込んでいる。


 対する結衣ゆいは、静寂の中にいた。

 コクピットを満たすのは、父・蓮太れんたが送り込んだ『K-Shell』の駆動音だけ。

 右脚が動かない。本来なら立っていることすら不可能なはずの状況で、アリエスは踊っていた。


「……右の姿勢制御ジャイロを三〇%加算。左脚の蹴り出しに合わせて、背部ブースターを斜め四五度へ……」


 結衣の指先が、マニュアルレバーを繊細に、かつ電光石火の速さで叩く。

 父が構築した『ONE-LEG-STAND』ロジックは、アリエスの破損した機体を「不完全なもの」としてではなく、「新たな重心バランスを持つ特異個体」として再定義していた。


『ふざけるな! そんなボロが、俺の最新機についてこれるはずがないんだッ!』


 進藤がタウラスのヒート・アックスを横一文字に薙ぎ払う。

 回避不能。アリーナの壁際まで追い詰められたアリエスには、逃げ場はない。


 だが、その瞬間。結衣の視界に、父からの「最終通告」が躍った。


『K-Shell: Speculative Execution Mode. (予測実行モード起動)』

『ロジック:物理演算のショートカットを開始する』




「――いっけええええええッ!」


 結衣がペダルを底まで踏み抜いた。

 瞬間、アリエスの全身から火花が散る。一本しか残っていない脚の駆動モーターが、設計限界の三倍という過負荷オーバーロードを受け、悲鳴のような高周波を上げた。


 アリエスは跳んだ。

 否、それは跳躍という生易しいものではなかった。

 物理的な「溜め」を一切排除し、父のパッチが直接モーターを爆発させたことによる、空間を切り裂くような瞬身フラッシュ


 ヒート・アックスが、空を切った。


『なっ……!? 消え……た!?』




     * * *




「――読み通りだ」


 JR中央線、新宿駅到着三分前。

 蓮太れんたは、通勤客の怒号や押し合いを背景に、スマートフォンの画面を無表情で見つめていた。

 画面には、タウラスが放った攻撃の軌道と、それを回避するための「唯一の解」が、青いグリッド線で描かれている。


「最新AIの欠点は、整合性を重んじることだ。……そんな『綺麗な計算』、俺の書いたドブ板のロジックで塗り潰してやる」


 蓮太の指が、実行《Enter》キーを叩く。

 彼は昨夜、会社のサーバーを使い倒して、アリエスの挙動から「無駄な遊び」を全て削ぎ落とした。最新OSが安全のために設けている一〇ミリ秒の猶予バッファさえも、彼は「贅沢品」として切り捨てたのだ。


「佐竹課長、見てますか。……これが、あなたが『理屈じゃない』と言って捨てさせた、現場の最適化の力ですよ」



     * * *



 アリーナの中央。

 アックスを空振りし、大きく体勢を崩したタウラスの背後に、真紅の瞳を輝かせたアリエスが立っていた。

 右脚からは青い冷却液が噴き出し、もはや限界を超えている。だが、その右手のヒート・ナイフには、父が見出した「勝利の座標バグ」が宿っていた。


「進藤君……。あなたが壊したこの右脚が、今の私を支えてくれてるんだよ!」


 結衣は操縦桿を突き出した。

 パッチによる強制補正。

 アリエスの腕が、人間の限界を超えた速度で突き出される。


 ――ガキィィィィィィィィィンッ!


 耳を裂くような金属音が、アリーナを支配した。

 アリエスのナイフが、タウラスの首元――メインカメラと動力核リアクターを結ぶ、最も防御の薄い「接合部」を正確に貫いていた。



 一瞬の静寂。

 そして。


『――Critical Hit. OS Failure. (致命的打撃。OS機能停止)』


 無機質なアナウンスと共に、タウラスの全身から光が消えた。

 巨体がゆっくりと、膝から崩れ落ちる。





『勝者:九条結衣』




 アリーナに、嵐のような沈黙が訪れた。

 誰もが、何が起きたのか理解できなかった。

 同期率0.01%の落ちこぼれが。

 右脚の壊れた骨董品アリエスが。

 学園期待のエリートを、たった一撃で、文字通り「解体」したのだ。


「勝った……。私、勝ったんだ……」


 結衣は操縦桿から手を離した。

 震えが止まらない。けれど、その震えは恐怖ではなく、確かな勝利の熱量だった。

 モニターの端、消えかかる青い文字に、結衣はそっと呟いた。


「ありがとう、お父さん」




     * * *




 新宿駅、十一番線ホーム。

 ドアが開くと同時に、蓮太は人の波に押し出されるようにしてホームへ降り立った。

 勝利のファンファーレなど聞こえない。聞こえるのは、無機質な発車メロディと、忙しなく歩く人々の足音だけだ。


 蓮太は、勝利を見届けたスマートフォンの画面を閉じた。

 その瞬間、待機していたかのように、通知欄が真っ赤な警告で埋め尽くされる。


『【超至急】本日朝イチのクレーム案件について』

『差出人:佐竹課長』


『九条! A社の基幹サーバーが完全にダウンした! クライアントの社長が直接乗り込んできて怒鳴り散らしている! 1秒でも早く来い! これは社運を賭けた一大事だ!』


「…………はぁ」


 蓮太は、天を仰いで深い溜息を吐いた。

 首筋に、新宿の湿った熱気がまとわりつく。

 つい数秒前まで、最新鋭の機装ギア論理ソフトでねじ伏せていた英雄は、今やただの「遅刻寸前のダメ社員」へと戻っていた。


「社運、ねぇ。……こっちは娘の運命を背負ってたんだよ、課長」


 蓮太はスマホをポケットに放り込み、足早に出口へと向かった。

 先行列車が詰まっているせいで、会社まではまだ距離がある。


「……あと一時間はかかるんだけどなぁ。また平謝りからスタートか」


 肩を落とし、人混みに消えていく中年男。

 だが、彼の鞄の中にあるスマートフォンには、世界を震撼させる「最強の一行」が、まだ静かに熱を帯びて眠っていた。


 聖エルモ学園の長い一日は、ここから本当の始まりを迎える。


 ―― Dad is Offline.

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

Dad is online いかがでしたでしょうか。

九条家の苦難と躍進はまだまだ続く…かな?


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


続きはまだプロット段階なので評判良ければ少しづつ投稿いたします!

どうぞ宜しくお願いします!!

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