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第九話 ヒーローの最終目的

 

 一緒に考えてくださいとは言ったものの、実はすでにほとんど考え終わっていて。そこから15分ほど、店員さんが持ってきてくれたオレンジジュースとブラックコーヒーにすら気づかないままヒイロ先輩に力説しまくった。


「えーとだからつまり…。あのリンちゃんたちが何か悪い所をしてるところを写真に撮って先生にチクるって事?」

「はい!その通りです。」


 話終わる頃、私はじゅーっとオレンジジュースの三割ほどを一気に飲む。いっぱい話したから喉乾いたぁ。


「うん、虹咲ちゃんの熱弁。一文でまとめられたんだけど。虹咲ちゃん話下手。」

「え、はじめて言われました。」

「そこまで人と話さない人生だったんじゃないか?」

「せ、先輩…?棘がさっきから酷いです。」

「それだけ虹咲ちゃんの説明が聞くに堪えなかったんだよ!」

「うぇ!?ご、ごめんなさい…?」


 ヒイロ先輩がほんとにうんざりしてる。確かに、よく見るとすでに先輩のブラックコーヒーはなくなっていた。冗談ではないのかもしれない…。私って、話すの下手だったんだ。知らなかった。


「そ、それは置いといて。良い案じゃないですか?」

「虹咲ちゃんの友達としては、頷こうかな。」

「友達だったんですか?」

「…ま、まぁそれは置いておいて。」


 どんどんと詰みあがる関係ない話をよそに、今度は先輩の力説ターンが始まった。

 すっと、あの、いつもの先輩からは想像できない怖い顔が私の目を睨んだ。思わず背筋が伸びたが、反論は予想してた。どんとこい。


「ヒーローとして、それは看過できない。」

「何故。」

「いじめっ子の悪い事って、要するに虹咲ちゃんをいじめてるところを写真に取れってことでしょ?」

「そうです。先輩、お願いします。」

「できない。」

「なんでですか!そりゃ、うちの学校はゴミですけど…。」

「そうだね、ゴミだ。」


 ここは共通意識らしい。


「でも、動かぬ証拠があれば先生だって動いてくれます!」

「その虹咲ちゃんが持ってきた計画ノート?だっけ。写真をスマホで撮るって書いてあるけど、中学はスマホ持ち込み禁止だよ?先生に見せたら、確かにいじめの証拠も突きつけられるかもしれないけど、同時に自分たちも校則違反を認めることになる。諸刃の剣じゃないか。」

「うっ…。な、ならどこかに貼りだせばいいじゃないですか。匿名ならバレません。」


 言い訳に近い反論を重ねても、先輩は引かない。


「いじめっ子が『これは遊びだったんです』とか言ったらどうする?匿名だから、それを追撃することはできない。それとも、君にはそこで、一人で。私の力を借りず、声をあげられるのか?」

「はい。」


 だから、私も引かない。まっすぐ私のヒーローの目を見た。


「!……。」

「ヒイロ先輩。私の最終目標は、傘を手放して、朝日の下を歩くことです。やまない雨は、自分の手で晴らします。」


 意思表示を、ヒーローの目の前でして見せる。もう入っていないコーヒーカップを一度持ち上げて、中身が入ってないことを思い出したかのようにかちんとお皿にカップを、先輩は戻した。

 はぁっ、と大きなため息をついてから。


「…助けられたら、はもう二度と言いたくない。」

「先輩…?」


 ぼそっと、独り言のように呟いたその言葉の意図はわからなかったが、先輩の目には光が宿っているのが分かった。


「わかった。決めたよ、虹咲ちゃん、私の方が臆病だった。…そうだね、傘をずっと差し続けるのは、手が疲れるものね。」


 どうしてそんな、悲しそうな顔をするの…?

 もしかしたら、全部解決したら私はもう先輩に頼らなくなると思ってしまったのかと、私は全力でフォローする。


「い、いや、いじめが無くなっても、先輩は先輩です。先輩が卒業するまで、卒業した後も、一緒に遊びましょう!」

「うん、ありがと。それじゃあ…そうだな。昼も朝ももうあいつらを撃退してるし、それ以外の時間ならいつ虹咲ちゃんを呼び出してくるかな…。」

「そんな消去法で大丈夫ですかね?」

「強者に頼る者、群れる者は皆小心者さ、一度失敗した時間は怖がって出てこない。…放課後か。場所は臨機応変に行こう。とにかく授業が終わったら、私はすぐに虹咲ちゃんの教室に行って、隠密行動するよ。」

「お願いして何ですけど、ヒーローっぽくないですね。」

「君がそれを言うかね、ははっ!なんか楽しくなってきたよ。よし、頑張ろう。虹咲ちゃん。青春ライフを取り戻そう!」

「先輩は半年しかないですけど。」

「何言ってるんだい、あと半年も、でしょ!」

「ポジティブですね…。」

「ヒーローだからね。」


 ふん、と斜め上を向いて胸を突き出す先輩に、私は思わず笑ってしまった。少し前に気付いたが、私とヒーローとの身長差はほとんどない。だから、普通の女の子が自分を強く見せてるみたいで、なんだか可愛くて。笑ってしまった。


「ふふっ。」

「…なんだい、人が威張ってるのを笑って。そんなに自分の胸の大きさに自信があるのか。」

「なっ!?せ、先輩!セクハラですよ!」

「…今さらだけど中一の胸じゃないよね。」

「せんぱいー!!!」


 それは、まぁ。肩こるけど。


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