表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

第八話 ヒーローの作戦会議

 話を逸らすついでに、私は朝、ヒイロ先輩が見せてくれた手話の意図について聞いてみた。手をぱっぱと、頭上で何度も開いたり閉じたりするあの動作。


〈あぁ、あれ?伝わんなかったか。まぁそうだよね。〉

「結局なんだったんですか?ネットで調べましたけど、『星』って意味ですよね」

〈そうそう。私星が好きでさ。雨が止んだ後は星が見えるから。虹咲ちゃんのことは星が見守ってるよ、安心してねって意味だったんだけど。〉


 雨が止んだ後。そういう表現を使うヒイロ先輩はやっぱり、アンブレラヒーローなんじゃないのかと考えて、すぐ前にダサいと言われたことを思い出し首を激しく振る。


〈ん?虹咲ちゃん?〉

「あ、す、すいません。そういう意味だったんですね。今度私もやります。」

〈誰によ〉

「あ。」

〈ははっ、虹咲ちゃんは後先考えないねぇ。不安だよ、ヒーローとしては。〉

「うっ…。」


 情けない。ちゃんとヒイロ先輩に頼らずとも生きていける存在にならねば。おんぶにだっこじゃ負担を掛け過ぎてしまう。それこそ、私のせいで声が出なくなるなんてことになったら…鳥肌が立った。


〈まぁ大丈夫。虹咲ちゃんが何度転んでも、私が傘を差し続けてあげるから。安心して。〉

「それじゃ恥ずかしいですよ…。いつかはヒイロ先輩と対等な存在になれるよう頑張ります。」

〈年齢的に無理だね。〉

「そういう話じゃないです!…その時になったらほんとの名前、教えてくださいよ。」


 未だに先輩の本当の名前は知らない。出会いの場所、と言ったら響きは良いけど。トイレで先輩が名乗った名はヒーロー名。本名は教えてもらっていない。


〈そんな面白い名前じゃないけどね。昔のモノクロテレビみたいな名前だよ。〉

「それはそれで知りたいですけど…ふわぁあ。」


 欠伸と同時に時計の針を見て見れば、いつの間にか22時を回っていた。もうそんなに話したのか。


〈ありゃ、良い時間か。もう寝るかい?〉

「そうします。先輩声出しにくいのに、一時間も話してもらって…ありがとうございました。」

〈出しにくいというか、大きな声にブレーキがかかるだけだよ。むしろ音量上げてくれてありがとうね。それじゃあおやすみ。明日からは新ヒーローだよ!〉

「明日休みですよ。」

〈あ。〉

「おやすみなさいです」

〈うん、おやすみ。〉

「おやすみです。」

〈わかったって、切らないの?おやすみ!〉

「私が最後におやすみって言いたいんです。」

〈なんじゃそりゃ。あっはっは!…けほっけほ。ちょっと、笑わせないで…ははっ。〉

「おやすみです!」

〈はいはいわかったよ。ったくもう、虹咲ちゃんは頑固だなぁ。その勢いでいじめっ子も倒せちゃうんじゃないの?〉


 何気なくヒイロ先輩が言葉にした一言。その言葉はすんと心に溶けていった。

 倒す…か。

 そうか、倒せばいいんだ。


「…先輩、寝ます!」

〈う、うん。わかったってば。〉

「おやすみなさい!」


 そこで私は電話を切って、そのまま電気を消さず布団に横になる。私が考え事をするときはいつもこの体勢。


「そうだ。倒せばいいんだ。ヒーローだって私にはついてる!耐えるだけじゃなくて、やっちゃえば…。」


 空虚な独り言を繋げて、びっくりして、起き上がる。今の私、とても活き活きしてた。自分でも意外なほどに。

 そんな勇気ないくせに。


「…いや違う。私にはヒーローがいる。」


 1人じゃない。2人なんだ。やれる、現状維持は、もう嫌だ。ヒイロ先輩を…アンブレラヒーローに頼ってばっかじゃ成長できない。


「とりあえず、今日は寝て。土日に作戦を考えよう。」


 それならと、私は先輩に一言メールを送った。すでにLINEで連絡先は交換済み。



 ・・・


 日曜日・午後


 私は人気のないカフェで、先輩を待つ。落ち着いたBGMと、もう一人のお姉さんのお客さんの為に注がれているであろうコーヒーのとぽとぽ以外、静寂が広がっている。ここのお店は人気だけど、時間が時間だ。もうお昼時はとっくに過ぎていて、おやつタイムにも少々早すぎる。絶妙な時間を狙った。今日の作戦会議は長くなりそうだから。


「あ、先輩。こっちです。」


 入り口を見ると、学校の制服じゃない、おしゃれした可愛い先輩が現れた。私の顔を見て、いつもの頼り強い笑顔を見せてくれる。


「やぁやぁ。一日ぶり。悪いね、昨日は予定が合わなくて。」

「大丈夫です。私も色々考えられました!」

「何をやらかす気なんだか。」


 テーブル席の反対側に先輩が座る。途端に香ってくる良い匂い。中学生って香水つけるんだ…。


「…先輩今日かわいいですね。」

「え、何キモ。」

「だってオシャレしてきてるじゃないですか!」


 先輩は真っ白なパーカーに黒めのスカートというカジュアルな、かつシンプルな大人びた格好をしていた。頭にはベレー帽が乗っかっている。


「そういう君だって可愛いよ?」

「え、あ、そ、それはどうもごもご…。」

「なんだこの会話。てか飲み物は?頼んでないの?」

「先輩きたらにしようかなって。」

「なるほど、良い子だね。」


 その後、私はオレンジジュース、ヒイロ先輩はブラックコーヒーを頼んだ。


「かっこつけですか?」

「本当に好きなんだよ。…んで、今日は何の用で私を呼んだのかな。まさかわざわざ私の私服を褒めてくれるためだけじゃないよね?」

「それもあります。」

「あるんだ…。」


 私は鞄から一枚の紙を取り出して、先輩に今日の予定を伝える。


「『いじめっ子撃退大作戦』を、一緒に考えてください!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ