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第六話 ヒーローの弱点

  

 床が私の事をジッと見てる。背中に嫌な冷たい汗が湧き出る。早くこの場から離れたい。その原因を作ったのは、私自身なのに。


「…その、先輩。私保健室行きますね。そのあと帰っちゃおうかと思います。」

「…。」


 先輩の顔は見れなかったけど、多分頷いてくれた。そういうことにした。私はいつもより早歩きで、暗い家庭科室前から離れた。窓のある場所まで来ても、まだ私の視界は暗かった。



 ・・・



 ゴミみたいな学校の使い方がわかってきたかもしれない。保健室まで向かう間、お腹の痛みとこの鬱を誤魔化す、何か良い言い訳が無いかと考えていたがもはや私の脳は回らず。保健室の先生に今朝会ったことを全て話してしまった。

 返って来た答えに、私は茫然とした。


【あら、それは大変だったわね。わかったわ、担任の先生に伝えとくから、返っていいわよ。鞄は今取ってくるから。座って待ってなさい。】


 一見優しそうに聞こえる言葉。いじめをまるで、風邪でも引いたかのように扱う保健室の先生に、私は素直に恐怖を抱いた。根本を引っこ抜く気はないんだ。見た目上、邪魔な草を間引くだけ。この学校はそれしかできないのかもしれない。

 ただ、お母さんに伝わらないことを思えば、悪くないとも言える。


「はぁ…。」


 保健室で待っている間、私はソファに深く座り込み、数分前の出来事を思い返す。

 落ち着くと、ぽろっと一滴、目からこぼれ落ちた。その液体の名前はきっと、後悔。


「何してんだろ、私。」


 馬鹿だ。私って。


「先輩はヒーローなのに。」


 先輩がいなければ、私はあのままぼこぼこにされていた。

 先輩がいなかったら、心が折れていた。

 先輩は自分が声を出しにくい病気を患っているのに、私を優先して、助けてくれた。


 私はアイツらに反発する勇気も無い。

 私は恩人を勝手に見限って、一番聞きたくなかったであろう言葉を言ってしまった。

 私はヒーローの苦悩なんか何もかも無視して、私の事しか考えてない。


「…ばか。」


 早く先輩に会いたい。まだ間に合うなら、謝りたい。

 私にとってのヒーローは、やっぱり先輩なんだ。



 ・・・


 保健室の先生が鞄を持ってきてくれたので、私はそのまま玄関出口へと向かった。今すぐにでも、三年生の教室に行きたかったけど、今日のヒーローは弱点がある。迷惑は、かけたくなかった。


「虫のいい話だけど、許してもらえるのかな…。」


 とぼとぼと斜め下を向きながら歩いていると、少し先の前方で誰かが立ち上がる音が聞こえて、首を前に向けたら。


「…先輩。」

「…!」


 ヒーローがいた。さっきまで下駄箱に寄りかかって座って、私を待っていてくれたんだ。心配そうに、私を見ている。マスクをつけてるとより一層美人だなんて、でもやっぱりつけてない方が可愛いかもなんて。どうでもいいことばかり考えて現実から目を背けようとしてしまう。


「えっと、その。」


 謝るだけなのに、最後のチャンスかもしれないのに。

 やっぱり私に、勇気はなかった。


「…ぇ…。」

「え?」


 先輩が耳を貸してと、ジェスチャーを見せて来たので私は先輩の口に耳を近づけた。

 小声で、ゆっくりと、一文字ずつ。私の心に先輩の意思が注がれる。


「ご…め…ん。」

「せんぱい…!!」


 体が勝手に動き出していた。先輩に両手を回し溜めていた涙全てを崩壊させる。


「ごめんなさい!ごめん、なさい…。謝らなきゃなのは私なのに、うっ…うわぁああっ…。」

「…♪」


 先輩は泣き喚く私の頭をゆっくり撫でてくれた。優しく、ぼろぼろな私を崩してしまわないように。

 少しして、私が落ち着くと、先輩はまた一枚の紙を手渡してくれた。そこには数字の羅列、電話番号が書かれている。


「これは、先輩の?」


 頷いて、とんとんと紙を人差し指で叩く。

 そのまま、空を指さしながら、くるっと手をひっくり返した。

 なんとなく、何を伝えているのかがわかった。


「夜になったら、電話をすればいいんですか?」

「!!」


 今度は3、4回勢いよく頷いてくれた。夜中なら声が出せるのかな。


「わかりました。何時くらいが良いですか?」


 今度は右手で『2』を、左手で『1』を。21…21時。


「21時ですね。じゃあそのころ辺りに、電話かけます。スマホで良いですか?」


 親指を立てて、ぐっと笑顔を作る先輩がなんだか可愛かった。


「それじゃあ…とりあえず帰ります。」


 玄関に進み、何も入っていない外履きを出して、うち履きをしまう。しまおうとしたら、先輩が私のうち履きを取って、三年生用の下駄箱の、一番下の角のところをとんとんと叩いた。


「あぁ、確かに。ここに入れておけばいたずらされないかもしれませんね。」


 今まで隠されてた側だから、こっちが隠すなんて発想にならなかった。

 やっぱり先輩は流石だ。


「では、21時に。」


 深くお辞儀をして、玄関を出る寸前、先輩が何か不思議な手の動きを見せてくれた。

 頭より高い所に右手を持ってきて、五本共の指先をぱっぱっとつけたり、離したり。何を表しているかはわかんなかった。でも、何か慰めてくれてるのはわかった。


 あとで家に帰って、あの手話は『星』という意味らしかった。


「…なんで星?」


 夜中、先輩に聞いてみよっと。

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