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第四話 ヒーローの秘密事項


 先輩と一緒に帰る下校路は、新鮮で、一定の儚さを感じる。話が途切れないよう、ヒイロ先輩はいろんな話をしてくれた。


「今日お昼さぁ、購買でパン買ったんだけど。売れ残りであんま美味しくなかった…。」

「どんまいです。」

「ニジサキちゃんはお昼何?お弁当?」

「はい。」

「なら今度一緒に食べよ。」

「良いんですか?先輩には友達が…。」

「大丈夫大丈夫♪あ、友達いないって訳じゃ…あ、あー…あぁ?」


多分、『友達がいないわけではない』→『ニジサキちゃん友達いない!』→『これ私煽り?』、みたいな思考回路になったんだろう。表情がころころ変わって、とてもわかりやすくて。私は思わず笑ってしまった。先輩も気まずさを誤魔化せたのか照れ笑いをしている。


「ニジサキちゃんそういえば名前聞いてない。ちゃんと。」

「あ、そうでしたね。虹咲睦美です。虹が咲くって書いて、難しい6に美しいって書きます。」

「良い名前だ。んじゃ改めてよろしく、虹咲ちゃん。」


ひゅっと頭を少し傾け、くすぐったくなるような笑顔。女の子同士なのに、思わず顔が赤くなる。この人美人だからな…。彼氏とか、いそう。


「先輩彼氏いるんですか?」

「え、何。求婚?」

「は?」

「え?…あっはっは!虹咲ちゃんは面白いね!」


先輩はいきなり名前で呼んでくるようなずかずかした人ではないらしい。もしかしたら私に気を使ってるだけかもしれないけど。


「もう家着きます。」

「あれでしょ!」

「の隣です。」

「あちゃぁ。2分の1外した。」


どこがどう2分の1だったんだろ。


「送ってくれてありがとうございました。」

「んーん。今日は暇だったから。」


なら、明日は送ってくれない…のかな。


「大丈夫、明日も送ったげる。年中暇だしさ!」


私の顔は私が想像する以上に単純で、先輩は私の心を読んだかのように答える。先輩の前じゃ、服を着ていないみたい。


「べ、別に…一人で帰れますよ。あいつらも家まではきません。」

「暗い気持ちのまま帰って欲しくないんだよ。じゃあまた明日ね。虹咲ちゃん。」


くるっと体をひねる身軽さは、部活でもしているのかもしれない。背中を向け、さっき私が隣を歩いていた時よりも歩幅が早かった。合わせてくれてたんだ。


「ヒイロ先輩!」

「んー?どった虹咲ちゃん。」

「ヒイロ先輩の名前、本当は何なんですか。」


私だけ教えたのに、フェアじゃない。

すると先輩はにやっと、今度はいじわる気な表情で。


「ヒーローの本名は秘密事項なんだよ。ばいばーい♪」

「あ、ちょっと!!」


今度はさっきよりも速く走って行った。全く…変な人。


「…ありがとうございました。」


小さく、ヒイロ先輩に聞こえない声でそう呟いた。



・・・



次の日・お昼時


 午前中の時間、嫌にすっきりと過ぎていくなぁと思ったらあいつらが一切いじめ事を仕掛けてこなかった。いつも見て見ぬふりをしているクラスメイトも、違和感を感じた顔をどこに向けるわけでもなく視線を、若干私の方へと向け、友達と話していた。


「んー…。」


しかしまぁ、私はそんなクラスの事などあまり考えてはおらず。先輩の所へ行こうかどうかまだ悩んでいた。三年生教室のあたりをうろうろする勇気は私にはな…


「すっませーん虹咲ちゃんはー…お、いた。」

「せ、先輩?!」

「お昼誘いに来たよ。私のおすすめ秘密基地、行こぜ♪」


先輩は教室の入り口で、購買で買ったのであろうパンを片手に揺らしながら私を呼ぶ。

こんなみんながいる前で…!!

こそこそと話していたクラスメイトが驚いたような目を私に4割、もう6割は先輩へと向けている。先輩美人だもんね。


「先輩…!」

「どしたそんな怒り顔。大丈夫、もう買ってるよ?パン。」

「そういうことじゃないです!」

「わ、おべんと箱可愛いね。虹咲ちゃんのお母さんセンスいい。………。…ほら、行こ、虹咲ちゃん。」


 強引に私は腕を引っ張られ、そのまま屋上の事だろう、秘密基地まで連れていかれた。痛くはなかった。教室を出る前、先輩が一瞬、あの怖い顔を誰かに向けていた。私はその先を見なかったけど、その視線が誰に注がれたのか、考えるまでもなかった。



・・・



かちゃりと、10秒かからず先輩は屋上の扉を開く。早すぎ。


「さ、どうぞ虹咲ちゃん。私の秘密基地へ。」

「昨日お邪魔しました。ありがとうございました。」

「いえいえ。」


さも先輩はこの場所を自分のテリトリーのように、壁にもたれてパンをおもむろに口に入れる。


「今日は良い天気で良かったけど、雨だとなぁ。テンション下がる。」

「そういう日はどうしてるんですか?」

「ふつーに友達と教室メシ。おしゃべりは楽しいけど、私が知らない話題が出ると困るんだよね。だからどっちかと言えば一人でここで食べる方が気が楽。」


そこに私はいていいのか。確認をしない方が、多分今日のお昼ご飯は美味しく食べれる。


「んー…気持ちい。ここ私好きなんだぁ。」

「私はちょっと怖いです。」

「あーまぁ。わからんくはない。」


でも…


「でも、先輩がいたら。怖くはないです。」

「そう?先輩特製先輩型お守りいる?」

「そういう話じゃないです…。」


ちょっと欲しいと思ってしまう自分に、私は笑った。


今日も、私は笑顔でいれた。

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