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第十話 ヒーロー作戦決行


 次の日・月曜日・放課後


「虹咲ちゃーん!あーそぼ!」

「…。」


 授業終わり、いじめっ子のリンちゃんはいつもの如く下っ端二人を連れて私の机の前に現れた。


「私もう帰るんだけど。」

「良いじゃんちょっとくらい。ね、金曜日は先生に邪魔されちゃったけど…ほら、良いでしょ?来てよ。…来なかったらわかってるよね。」


 ぶぶっ、と私の太もも辺りが震えた。先輩からの通知だ。


「…わかった。」

「流石~!」


 鞄を背負って、私はリンちゃんたちについて行く。

 よし、ここまでは作戦通りだ。



 ・・・


 今朝


 私は早めに学校に向かい、屋上前の扉で先輩を待つ。屋上の外で待ってようと思っていたのだが、雨が降っていたのだ。


「よっ、虹咲ちゃん。おはよ。」

「おはようございます。」

「あんまり時間はない。今日の作戦の確認をしよう。まず、放課後私が虹咲ちゃんを追う。」

「一年生教室、すぐ来てくださいね。」

「わかってるって。虹咲ちゃんを確認出来たらメールするんでしょ?ちゃんとスマホもってきた?」


 先輩がポケットからスマホを取り出し、私に見せつけてくる。同じように、ポケットからスマホを取り出した。


「もちろんです。その後、私がアイツらにやられてるとこ、写真撮ってください。決定的な瞬間を。」

「…やっぱり、気後れしちゃうな。けどヒーローは逃げない。安心して。」

「はい。信じてます。ただ、あの三年の先輩が来たら、怖いですけど…。」


 もう男の人そのものがトラウマになってしまっている。そのうえトラウマの根本にまた殴られるのは…正気を保てる気がしない。


「写真を撮ったらすぐ助けに行こうか?」

「…いえ、それでスマホを取り上げられたらおしまいです。写真を撮って、どこかで待っててください。…先に、帰ってもいいですけど。」

「そんなことしない。待ってるよ。そろそろ良い時間か…。それじゃ、お互いとりあえず学生ライフを送ってこようか。」

「ですね。」


 ヒイロ先輩が作ったグーの拳を、私も真似して合わせる。ヒーローと共闘。悪を倒すんだ…!!



 ・・・



 と、息巻いたもののお昼休みは呼び出されるんじゃないかとびくびくしてた。が、先輩の言う通り本当にあいつらは私を呼ばなかった。屋上へこっそり逃げる私なんか目にもくれず、笑ってた。


「…何?虹咲ちゃん今日余裕そうじゃん?」

「別に。」

「ふーん…。でもよかったね。ソウヤ君も待ってくれてるよ。」

「っ……。」

「うふふ、あぁ、楽しい。ね?」

「ねー♪」


 なんだかんだ一番ムカつくのはこの下っ端たちかもな…。大きな盾があるからって、自分に力が無いことを隠してる。ダサい奴らだ。



「あれぇ…ソウヤ君まだ来てないんだ。」


 連れて来られた場所は、体育館横。丁度死角になっていて、更に今日は部活動が全面休みだ。そういうとこちゃんとしてるのが気に食わない。

 でもここなら…


「とりあえず私たちだけでも先にやっちゃおうよ。」

「だね。やろうやろう!暴力系はソウヤ君に任せればいいからぁ…うーん。何からしよっか?何が良い?」


 私に振ってくる。…挑発してみるか?


「リン、あんた好きな男いたんじゃなかったの?」

「…いるけど、虹咲ちゃんとかいうゴミの方が良いって。何?今さら煽ってんの?」

「なのに、三年の先輩にも色目使って。下品なおんっ

「黙れよ!」


 強烈な蹴りが、私のみぞおちにめり込む。


「げほっごほっ!」

「あんたなんかに何がわかんだよ!」


 そのまましゃがみ込む私を、上から蹴り、叩くの連続攻撃。痛い。痛いが、あの男程度じゃない。…耐えろ。先輩が、写真を撮ってくれてる…!



 ・・・



 私は、虹咲ちゃんに教えてもらった音の出ないシャッターで現場証拠を撮り、すぐにその場を去った。


「…ごめん。虹咲ちゃん。死なないでくれよ。」


 冗談にならないな。私は周りに人がいないのを確認しつつ、虹咲ちゃんにさっき取った写真を送った。リンちゃんとやらの蹴りが炸裂してる決定的瞬間だ。これをどこかに貼りだせば、流石に先生たちも何かしらの対応を取る…と良いんだけど。


「うちの学校ゴミだからなぁ。…そうは思わないかい。君ら。」


 玄関前の廊下。五人ほどの同級生女子が壁のように立ちはだかる。


「…やけに気分が良さそうじゃないか。白川。」

「久しぶりだね。何か用?」


 本当に久しぶりだ。…こいつらに最後、いじめられたのはいつだったかな。


「白川が逃げてたんだろ。一年教室のトイレに閉じこもって、屋上にまで逃げることもあったっけ?…てかさ、ソウヤ君のこと、駅に呼び出したの白川でしょ?」

「…さぁ。」

「とにかくついて来て。…あそぼ。」

「断ったら?」

「そんな選択肢はない。」

「あっそ。」


 虹咲ちゃんが朝日を望むなら…まずはヒーローとして、私がその場所に行ってみせる


「傘がなくても歩けるところを、見せるから。」



 ・・・



 5分ほど経ち、痛みは一時的な終わりを迎えた。


「はぁっ…はぁっ…。休日何か良い事でもあった…?気を強くして。テメェなんか所詮遊び道具にしかならないんだよ。」

「…嫌だ。」

「あ?」

「なれるなら、傘になりたい。」

「ふっ…ビニールの?使えなくなった後の?確かに、お似合いかもね。ゴミだもん。ねぇコイツ叩きすぎておかしくなっちゃったー。」

「あははー!」


 憧れてた。先輩みたいなヒーロー。

 私も、ヒーローになりたい。アンブレラヒーローに。


「はぁ。飽きちゃった。次どうする?」

「髪切るとか!」

「ハサミないしなぁ。脱がす?」

「それもあり!」

「じゃけってぇー!ほら、虹咲ちゃん立ってたっ


 すると、瞬間、何故かリンの動きが止まった。

 ごそごそと制服のポケットから、校則違反のスマホを取り出す。

 …いやまぁ、こいつが持っててもおかしくないか。大体ザルだし、そういうとこ。


「んーもしもし?ソウヤ君?どしたの?……え、なに?今から駅?スイーツ!?行きたい行きたい!連れてって!わーい!うんうん。じゃ、今から行く~!」


 リンってこんな笑顔できるんだな。心からではなかったけど、作り笑いにしては中々に上手かった。


「ごめん虹咲ちゃん、用事できちゃった。今日ここまでね!明日また続きやろ!」

「リンちゃんの彼氏君に感謝しなよ~?あはははー。」


 …助かった。

 電話の内容的に、男が何かしらの用事があったようだ。そこに呼び出されて、私は助かったんだ。


「ふぅ。…にしても意外かな。案外男の方はリンのことを好いてるのか。」


 放課後デート。楽しいのかな。

 私はどうしても、その隣に立つのは先輩だろうなと、思い浮かべてしまう。


「あ、そうだ。先輩からメール。来てる。」


 通知は二件来ていて。片方は情けなく私が蹴られてる瞬間。


「めちゃくちゃ完璧に入ってるじゃん…。先輩タイミングうますぎ。」


 もはや恥ずかしさなんかなく、先輩の写真センスにまるで他人事のように感嘆の声を上げた。


「それで、もう一件は…」


 写真の下。そこには『家庭』とだけ書かれていた。


「家庭…科室?に行けばいいのかな。」


 待っててくれるはずなので、そこにいるんだろうと痛む体に鞭打って私は立ち上がった。今はとにかく、半分以上達成できた作戦を、二人で最後までやりきろう。

 そしたら祝勝会で、美味しい物食べに行って。遊びに行って。

 先輩と楽しい、青春を過ごすんだ。


「…負けない。」


 星が好きと言っていた先輩。けど傘を刺していれば、雨が降ってしまっていればその星すら見れない。

 だから一緒に、晴れた夜空の下で先輩と、正座を見るんだ。絶対に。





「…。」


 家庭科室前、すでに30分以上経つ。先輩のせの字もなく、誰一人そこには現れなかった。もうあと30分で玄関の扉が閉まってしまう。


「帰っちゃったのかな…。メールも、電話も返信ないし…。」


 もしかしたら先輩も、何か用事?けどそれなら言ってくれるはず…。

 もう少し待とうかと、壁にもたれかけ直す。が、寒さが背筋を刺してきた。

 家庭科室前から少し離れ、窓のある場所まで行くと…。


「うわ、雪だ…!」


 そりゃ寒いわけだ。これは帰った方が良いかもしれない。ここらの地域は雪が積もるのが早い。


「明日、先輩に会えばいいか。早く帰ろ。」


 玄関出口へと、足を速め





 ゴッ


「…?」


 物音に振り返ったが、そこは真っ暗で。少し怖くなりさらに足を速めて家に帰った。


早く先輩に会いたいな…。

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