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豊臣ハーレム『豊臣秀吉、愛と政の合間にて──天下を取ったらハーレムがついてきた件』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
【第一章】『草履と初恋──日吉丸、恋と野望の始まり』
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第六話『わし、出世するでよ!』

 春の風が村を通り抜け、桜の花びらがひとひら、畦道に舞い降りた。


 「織田家の小者募集やて!? 本物の武士に会えるってことか!」


 村の辻に立つ、行商人の声が大人たちの耳目を集めていた。


 「なんでも、清洲のお城で草履を持つ働き手が足らんらしい。信長さまのとこの家臣になれるかもしれんぞ」


 「ほう……信長さまいうたら、尾張一の大大名やろ? あの人の草履を温められたら、出世も夢やないな」


 村人たちがざわめく中、日吉丸の耳がぴくりと動いた。


 「草履……? 草履持ち……?」


 かつて、お鈴に笑われながらも温め続けた、あの草履たち。


 「……これや!!」


 彼は思わず立ち上がった。


 「わし、行くでよ! 清洲の城まで行って、織田信長さまの草履、温めてくるんや!」


 周囲の大人たちが笑った。


 「おまえみたいなチビスケが、織田様の草履持ちぃ? 寝言は昼に言え!」


 「ほんまやて! わし、草履持ちだけはちょっと得意なんや。それに、夢があるやんか。草履から始まる出世道やて!」


 村の外れの道で、その騒ぎを聞きつけたねねがやってきた。


 「……日吉、ほんまに行くん?」


 「行く。これが、わしのチャンスや。出世して、いつか……お鈴の分まで、強い男になるんや」


 ねねは少しだけ黙ってから、ぽつりと呟いた。


 「……ま、あんたやったら、どこかで何とかする気がするけど」


 「な、なんやそれ。応援してくれとるんか、呆れとるんか、ようわからんがね」


 「ふん、どっちでもええわ。あんたが泣きついて戻ってきても、うちの畑、もう手伝わせんでな」


 その言葉の裏に、ほんの少しだけ、寂しさがにじんでいた。


 「なあ、ねね」


 「……なに」


 「わし、ほんまに出世して帰ってくるで。信長さまに気に入られて、いつか……」


 「草履から天下まで行くつもり?」


 「せや! 草履から、天下人や!」


 日吉丸は笑った。泥まみれの顔に、太陽の光が差し込む。


 ねねはぷいっと背を向ける。


 「……勝手にしぃ。でも、草履の左右はちゃんと合わせや」


 「心得とるで!」


 こうして、日吉丸は初めて村を出た。

 草履ひとつを手に、夢と、希望と、ちょっぴりの不安を背負って。


 ――この一歩が、やがて“豊臣秀吉”と呼ばれる男の始まりだった。



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