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豊臣ハーレム『豊臣秀吉、愛と政の合間にて──天下を取ったらハーレムがついてきた件』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
【第一章】『草履と初恋──日吉丸、恋と野望の始まり』
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第五話『ねね様、きびしいで……』

日の出と共に、村の畑は慌ただしく動き始める。


 朝露の残るうねの間を、日吉丸は荷車を引いて走っていた。


 「日吉っ! そっちの苗、まだ植えてへんやないか!」


 畑の真ん中から、鋭い声が飛ぶ。


 「は、はいっ! すぐやりますっ!」


 声の主は、もちろん、ねねである。

 昨日の覗き騒動はなんとか許されたものの、それ以降、彼女の態度は妙に厳しかった。


 「ほんまにもう……あんたみたいな軟派もんに、畑仕事が務まるとは思えへんわ!」


 「いや、わし結構、働きもんやで!? 昨日も母ちゃんの草鞋わらじ直してたし!」


 「そんなん言い訳や! 百姓の仕事は、そんな甘いもんちゃうんやて!」


 ねねは腕まくりをして、鍬を手にどんどん進んでいく。

 まるで農作業界の大将たいしょうみたいな迫力である。


 「はあ……ねね様、きびしいで……」


 日吉丸は息を切らせながらも、黙々と苗を植え続けた。

 土の感触、陽の照り返し、汗のしょっぱさ。

 お鈴の面影が浮かぶたび、心の奥が少しずつ熱を帯びてくる。


 (わしが……ほんまに女の人たちを守れるような男になるには、もっと強うならな)


 「……ねね!」


 「な、なによ!?」


 「わし、鍬の持ち方、工夫してみたんや。こうしたら、腕の疲れ、ちょっと減るかも」


 言って見せると、ねねは少しだけ目を見張った。


 「……ほんまや、ちょっと楽やわ。……あんた、意外と賢いとこあるやん」


 「せやろ!? これでも、考えとるんやて!」


 「ふん。じゃあ次は、あそこの段の耕しも任せたるわ!」


 「ええっ!? また追加っ!?」


 「文句言わん!」


 びしっと指を指すねね。その顔は、ほんの少しだけ笑っていた。


 その夕方。

 全身泥まみれのまま、縁側で麦茶を飲むふたり。


 「……やるやん、日吉丸。今日一日、意外と働いたな」


 「ほんまやろ? 見直したか?」


 「うーん、ちょっとだけ」


 そう言って、ねねは顔をそむけた。

 その耳が、夕陽に照らされてほんのり赤いことに、日吉丸は気づいていなかった。


 こうして、二人の距離は、少しずつ、確かに縮まり始めていた。



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