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豊臣ハーレム『豊臣秀吉、愛と政の合間にて──天下を取ったらハーレムがついてきた件』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
【第一章】『草履と初恋──日吉丸、恋と野望の始まり』
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第四話『女湯、のぞいたらあかんて!』

 それは、春の夕暮れ時やった。


 野盗襲撃の混乱から数日が経ち、村はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。だが、日吉丸の心はまだ晴れん。お鈴を失った悲しみは、胸の奥でじわじわと燃え続けとった。


 そんな中――悪友の又兵衛が、いらんことを言い出した。


 「なあ日吉、風呂場の垣根、竹の隙間がちぃっと広がっとるんや。あそこから、たぶん見えるぞ」

 「……は?」


 「おなご衆が順番で湯使っとるらしいで。ちょーっとだけ、な?」


 日吉丸は一度は断った。

 でも、どこか気が抜けたような心の隙間に、又兵衛の言葉はすっと入り込んだ。


 (ちょっとだけや……見るだけ、やで)


 そして日暮れどき、村の湯屋の裏手――

 藁と竹で編まれた囲いの裏に、こそこそと身を潜めた日吉丸。


 「……こ、ここか?」


 おそるおそる覗いたその先に、湯けむりの中で、白い肩がゆっくり揺れていた。

 肌の露わな背中、濡れた黒髪、湯をくぐる音。


 その美しさに、日吉丸は思わず息を呑んだ。


 (あかん……これ、えらいもん見てまった)


 その時だった。


 「誰や、そこにおるのはっ!!」


 突如、女の怒声が飛ぶ。


 「うおおおっ!?」


 逃げようとした瞬間、垣根の隙間から飛び出してきた桶が、見事に日吉丸の額に命中した。


 「いったあああああっ!!」


 次に目を開けたとき、日吉丸は湯屋の前に正座させられとった。


 その前に立つのは、湯上がりにもかかわらず、目元をキリッとつり上げた少女。

 年の頃は自分と同じか、少し年上。濡れ髪を結い上げ、濡れた浴衣を羽織っても、気品が滲み出とる。


 「……あんた、最低や!」


 ぱあんっ!


 乾いた音が、村に響いた。


 日吉丸はびくっと震えながらも、言い返せなかった。


 その子は、村でも有名な旧家、石高持ちの家の娘、ねねだった。


 「……ほんま、しょうもない男やな。女湯を覗くような奴が、天下取るとか、笑わせんといて」


 その言葉に、日吉丸の胸がチクリと痛んだ。


 「あの、すまんかった……ほんまに……軽い気持ちやったんや……」


 ぺこりと深く頭を下げる日吉丸。

 その姿を、ねねはじっと見つめた。


 「……ま、反省しとるようやし、今回は見逃したる。けどな、次やったら、蹴り入れるで」


 「う、うん! 気ぃつけるわ、ほんまに!」


 そう言ってねねは、ぷいっと顔をそらして立ち去った。


 けれど、その頬はほんのり赤かった。

 そしてその夜――


 ねねは布団の中で、ふと、覗き見事件のことを思い出していた。


 「……あいつ、顔はまぁまぁやけど、謝るときだけは、ちょっと真剣で……」


 ぶんぶんと首を振る。


 「ばっかじゃないの、わたし。……でも、もし天下人とかになったら……ちょっとは、ね……」


 こうして――

 **“ツンデレねね”の種は、村の湯屋の垣根の裏で、静かに芽吹いたのだった。



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