第三十一話『利家とおしの、告白合戦!?』
戦が終わり、平穏な日常が戻った清洲城──
だがその空気は、どこか騒がしかった。
「えっ、あの草履小姓の日吉丸さま? 本陣で利家さま救ったってホント?」「顔もけっこう……好きな人は好きよね」
「わたし、あの素直さ、好きです」「きっと優しい人……」
──噂は、女中部屋から女城主の耳にまで届きつつあった。
そして、当の日吉丸はというと……
「なんや、最近視線が痛い気ぃするがね……」
天守の階段を掃除しながら、もごもごと呟く。
背後から、「おーい、日吉丸ぉ!」と野太い声。
「利家……また派手な着物着とるなぁ」
「おまえが目立ってきたからや。わしも負けてられへんがね!」
ニヤニヤ笑いながら近づく利家。
その後ろには、おしのが盆を持って歩いていた。
「利家さま、静かにしてくださいまし。掃除中の者が困っております」
「わかったわかった。──けどよ」
利家は日吉丸の肩に手を置き、どんと押し出す。
「はっきり言っとく。わしは、おしのを諦めへんで」
「はぁ!?」
日吉丸の掃除棒がぽろりと手から落ちる。
「いきなりなに言うとんの!? いや、わし、なにもしてへんし」
「しとるやないか。あの夜、女中部屋の前でおしのと立ち話しとったの、見とったぞ」
「……それは偶然……やったがね……」
おしのは赤面しつつも、日吉丸を横目でちらり。
「ど、どちらがどうとは言いませんけど……日吉丸さまは、やっぱり……」
「ほら! やっぱり気ぃあるやんけーっ!!」
利家が地団駄を踏む。
日吉丸、天を仰ぐ。
(なにがどうして、わしが“告白されとる側”みたいやねん……!)
その瞬間、背後からひときわ鋭い声。
「──告白ぉ? 誰に向かってやっとんのか、確認しとこか?」
ねねだった。
箒を肩に担ぎ、にっこりと笑っている。
だがその目は、決して笑っていない。
「うちの、あほ日吉丸が、“英雄”やて? ふぅん……」
「ね、ねね!? なんやその怖い微笑みは!?」
「ちょっと“草履”の裏側まで見てみたくなってきたわ……」
「やめてぇ! 草履は信長さま専用やて!!」
──こうして、戦は終われども。
日吉丸の周囲では、新たな“恋の戦場”が開かれようとしていたのだった。




