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豊臣ハーレム『豊臣秀吉、愛と政の合間にて──天下を取ったらハーレムがついてきた件』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
第2章 『清洲の乱舞──わし、モテ期来たかもしれん』

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第三十話『誓いの草履──天下を歩く一歩として』

 信長の間に呼ばれたのは、ある快晴の昼だった。


 雨上がりの中庭には鶯が鳴き、陽光に草の香りが混じる。日吉丸は、少しだけ背筋を伸ばしてその扉の前に立った。


 「入れ」


 信長の声は、以前よりもやわらかく、だがどこか重みを帯びていた。


 「失礼します──日吉丸、参りました」


 畳の間に入ると、信長は文を脇に置き、ゆっくりと立ち上がった。


 「よう来たな、草履持ち」


 「……はい。いえ、これからはそれだけやのうて、いろいろやれるよう、がんばりまっせ」


 信長はふっと笑い、脇にいた侍女に手を振った。


 差し出されたのは、見たこともないような艶のある、新しい草履。


 「……これは……?」


 「おまえのために誂えたものだ。これより先、おぬしが“仕える”覚悟を定めた証として」


 日吉丸は、思わず膝をついた。

 両手で草履を抱き、頬に当てるようにして目を閉じた。


 ──柔らかい。

 ──だが、芯がある。

 ──そして、確かに“信頼”が縫い込まれていた。


 「……ありがとうございます。信長さま」


 「この草履は、わしのためだけではない。

 おまえが、いつか“誰か”のために立ち上がるとき、己の誇りとして履いてみせよ」


 日吉丸の胸が熱くなった。

 肩の傷がうずく。

 戦場で流した涙と、仲間の声が蘇る。

 ねねの涙、利家の叫び、千鶴の視線……


 すべてが、この手にある草履へと繋がっていた。


 「……わし、この草履で、天下を歩きます」


 「ほう?」


 信長が少し目を細めた。


 「わし、ぜってぇ負けへんで。

 信長さまの“天下”の先、そのまた先まで、見てまいます」


 「……ほざけ、小姓。だが、面白い。

 その大言、忘れるなよ」


 「もちろんやがね!」


 草履を両手で掲げながら、日吉丸は笑った。

 小姓の身なれど、胸を張って、天下を見据えるその笑みは、確かに“未来”を映していた。


 ──これはまだ、ただの一足の草履。


 だが、いずれこの一歩が、

 ──“豊臣秀吉”の名を刻む、最初の歩みとなるのだった。



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