表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豊臣ハーレム『豊臣秀吉、愛と政の合間にて──天下を取ったらハーレムがついてきた件』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
第2章 『清洲の乱舞──わし、モテ期来たかもしれん』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/169

第二十三話『女たちの別れ支度』

 春の夜風が、少しだけ冷たくなってきた。


 清洲城の台所では、ねねが包丁を握っていた。いつもよりも静かな手つきで、大根を刻んでいる。


 「……あの子、また草履抱いて寝とったな」


 隣では、おしのが静かに味噌を溶いていた。


 「日吉丸さま、なにか思い悩んではる……そんな顔してました」


 「……信長さまの密命、聞いてしもたんやろな」


 ふたりは言葉にせずとも、感じ取っていた。


 ──何かが近づいている。


 戦、という言葉を使わずに、それでも確かに迫ってくる“別れの気配”。


 「だからや。せめて、今できることを……」


 ねねは、炊き立ての飯を握り、包みに詰める。


 「もし明日、出陣言われても、空腹で倒れたらあかんでな」


 おしのも、自分で縫った守り袋を差し出した。


 「これ……山の麓で拾った小石と、村の土です。あの川べりの桜の香りも、ほのかに残ってるはず……」


 ──そのとき、ふすまの影からもうひとりの女が現れた。


 「随分と……良い嫁気取りですこと」


 千鶴だった。


 その艶やかな小袖と、淡い紅の唇が、夜灯の下でやけに妖しく見えた。


 「わたくしにも、準備はございます」


 そう言って差し出したのは、手ずから調香した香油と、文。


 「この香を肌に塗っておけば、野戦の塵も、疲れも紛れるでしょう。

 そして──この文は、もしもの時、日吉丸さまに届けていただけるように……」


 「……よう、そんな落ち着いて物言えるな」


 ねねが、静かににらむ。


 「戦なんて、ほんまに起こってほしくない。

 あのアホが、草履持ってヘラヘラしとる姿を見とるだけでええんやて」


 「ええ、それが……いちばんの幸せです」


 おしのの言葉に、三人は沈黙した。


 その夜、日吉丸は廊下で三つの包みを見つける。

 包みには、それぞれ小さく名が記されていた。


 ──ねね:おにぎり三つ、干し柿、手ぬぐい。

 ──おしの:お守り袋、香り袋、小さな布の花。

 ──千鶴:文、香油、小刀。


 「……なんや、なんで、こんな……」


 日吉丸の目頭が熱くなる。


 「わし、まだなにもしてへんのに……みんな……」


 そのとき、背中に気配がした。


 「……見た?」


 ねねだった。


 「見た、けど……なんか、ずるいわ。みんな、優しすぎる」


 「それはな、あんたが“優しくされたい顔”しとるからや」


 ねねはくすっと笑って、そっと肩に布団をかけた。


 「……忘れんといてな。

 わたしたち、あんたの“帰り先”やから」


 「……うん」


 日吉丸は、三人の気持ちを胸に抱きしめるようにして、その夜を過ごした。


 ──戦が来るかどうか。

 そんなことは、まだ誰にもわからない。


 だが確かに言えるのは──


 愛されているということ。

 そして、守るべきものがあるということ。


 それが、日吉丸を“男”にしていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ