第十三話『湯殿で再会──まさかのねね!?』
清洲城の裏手にある湯殿──城勤めの者たちが交代制で使う入浴所。
日吉丸は、久々の休みに身体を洗いながら伸びをしていた。
「は〜……よう働いたわ、ほんま……。草履ぬくぬく大作戦、掃除で花描き作戦、全部うまくいって……」
湯の温もりが、戦い抜いた身体にじんわり染みる。
そこへ、背後の戸がそっと開いた。
「すんまへん、入りますね──って、え?」
振り返った瞬間。
「──ね、ねねぇぇぇぇっ!?」
そこには、湯巻きを手にして固まる少女がひとり。
中村の村で別れて以来の、あの“ねね”だった。
「……な、なに、あんた。なんで、こんなとこで裸なん?」
「こっちのセリフやて!! なんで、ねねが清洲おんねんっ!?」
「あんたの様子見に来たんよ。噂で、“変な格好で茶を淹れとった小姓”って聞いたもんやで」
「そ、それは信長さまの命令でな……!」
ねねはじろっと睨んだあと、ふんっと鼻を鳴らした。
「まあ、そんなことやろうと思った。でなきゃ、あんたが女の子に見られたいわけないしな」
「そ、そうやて! わしは正真正銘の男子や!」
「知っとるわ、アホ」
その言葉に少しだけ安堵したものの、状況は変わらない。
「ほ、ほら! わし、今ハダカやで!? 出てってくれや!!」
「いや、うちも入る予定やったし」
「せめて時間ずらそうやぁぁぁ!!」
だが、ねねはぬるりと浴場へ足を踏み入れた。
背中を向け、桶を手にして髪を結い上げる仕草が、日吉丸の記憶よりも少しだけ大人びていた。
「……ねね。ほんまに、清洲まで来たんやな」
「うん。あんた、どんな顔しとるか気になったから」
湯気が立ち込め、ふたりの間にしんとした空気が流れる。
そのとき。
「──わっ!」
桶を取り損ねたねねが、滑って前のめりに倒れ込んだ。
「お、おい! だいじょ……」
ばしゃっ!
湯船の中、見事に覆いかぶさる格好になったねねと日吉丸。
「な、なんで、わし、こんな……」
「……い、いまのは、事故やからなっ……!」
ふたりの間に、頬が火照るような沈黙が落ちた。
「……日吉丸」
「ん?」
「……あんた、最近ちょっと、かっこええかもな」
「ぶっ、なに言うとるがねっ!?」
ねねはぷいと背を向けて、湯の中へ肩まで浸かった。
(どえりゃあことになってきたわ……これ、ほんまにモテ期やて……)
日吉丸の脳裏に、ねねの素肌と、揺れる湯気の幻が焼きついて離れなかった。




