第十二話『小姓の試練──第一回お勤め力測定合戦』
清洲城の朝。
日吉丸がいつものように草履を抱えて準備していると、廊下の向こうからバタバタと誰かが駆けてきた。
「おい、日吉丸! 大変や! 信長さまがまた変なこと言い出しとる!」
前田利家だった。目をギラつかせて、興奮ぎみに叫ぶ。
「また……? 今度はどんな無茶ぶりやて?」
「『小姓たる者、ただの飾りではつまらん。真に仕える者を見たい』ってな! 今日一日、“小姓力”を試す合戦やと!」
「……“小姓力”? なにそれ?」
「つまり、草履の扱いから掃除、女中からの好感度まで、全部勝負や! トップには、信長さまからご褒美があるらしいぞ!」
「ご褒美って、まさか……」
「“信長さまと一緒に昼餉をとれる権利”やと!」
その瞬間、日吉丸の中で火がついた。
「やったるわ! わし、天下人目指す男やでな! 草履でも女中でも、なんでも勝負したるで!」
こうして始まった──
『第一回 小姓お勤め力測定合戦』
■第一種目:草履並べ選手権
「草履をどう温め、どう配置するか」
小姓たちは皆、自分なりの工夫をこらす。
利家は火鉢であぶった草履を手ぬぐいでくるみ、計算された角度で並べた。
だが、日吉丸は違った。
「草履は主の心と一緒やて! まっすぐ揃えて、鼻緒はちょい前!」
まさかの「笑顔での手渡し」を選択し、信長の笑いを取ることに成功。
信長「……おまえ、ほんま面白いな。点数、二倍つけとけ」
■第二種目:掃除力・磨きの極意
畳磨きで競う小姓たち。
だが、日吉丸は箒で埃を集めたあと、布で“花の絵”を描くという奇策に出る。
女中たち「かわいい〜〜っ! これ誰がやったん!?」「日吉丸さま!? やるう!」
利家「おまえ、そういうのどっから思いつくんや……」
■第三種目:女中からの人気投票
「日吉丸さまに一票です〜!」
「日吉丸さま、笑顔が素敵で……」
利家「おまえ、いつのまにアイドル化しとる!?」
最終結果。
草履部門:日吉丸と利家が同点。
掃除部門:日吉丸。
人気部門:日吉丸、ぶっちぎり。
総合優勝──日吉丸。
信長「ふむ……まさか、本当にこやつが取るとは」
その晩。
信長との昼餉を終えた日吉丸は、月明かりの下でぼそりと呟いた。
「わし……もしかして、モテとる……?」
利家「おまえ、あしたからまた女に刺されるで」
日吉丸「それ、怖い予言やて!!」




