世界でも最も理不尽な存在
伝え聞くところによれば私はこの世界で最も理不尽な存在だと言われているらしい。
不本意ながらそう呼ばれることは理解出来る。
何せ、私は世界で誰よりも強い魔王であるから。
人間は元より同じ魔族であっても気に食わなければ凄惨に殺す事が出来る。
理由など適当につければいい。
いや、理由なんてなくても良いのだ。
ただ何となしに命を奪う。
それが許されるほどに私は強かった。
そんな理不尽極まりない力を私は持っているのだ。
故に私は理不尽極まりない存在……魔王なのだ。
しかし。
しかしだ。
「ここまでだ、魔王」
残酷なほどに美しい女性が私と相対する。
「今日こそ貴様を討ち取ってくれる」
その言葉と共に私は彼女と戦う。
そして、滑稽なほど必死な悲鳴をあげる彼女の体を引き裂いた。
辛うじて息のある彼女の命乞いを嘲笑い唾を吐きかける。
絶望に歪んだ彼女はそのまま息絶えた。
直後。
「またか」
彼女の体は消え失せた。
戦いの中で切り裂かれた左腕の痛みが強くなった気がした。
「一体どうなっているのだ?」
魔王である私でさえ理解が出来ない。
あの女性は何度殺しても復活するのだ。
それもただ復活するのではない。
着実に強くなってから復活してくるのだ。
かつては軽く押しただけで粉々になるほど脆かったはずなのに、今では私に手傷を負わせることが出来るほどに強くなった。
「このまま強くなり続ければ……」
私は身震いをする。
「馬鹿な。そんなことあるはずないだろう」
あの女が無限に蘇り、最後には私を殺すなんて。
「そんな理不尽なことあるはずないだろう!?」
恐れを吹き飛ばす様に私は一人で張り裂けんほどに叫んでいた。
あの女はやがて自分を超えるほどに強くなるのではないか。
それも世の道理を完全に無視しながら何度でも復活をしながら。
きっと、自分を殺すまで……!
「勇者よ。目覚めなさい」
その言葉を受けて女性は目覚めた。
引き裂かれたはずの身体は既に傷一つない。
壊れてしまったのは身体だけではない。
心だって、あんなにもボロボロだったはずなのに、今では落ち着いて考える事が出来る。
女性は吐き気を催す感覚になりながら、ぽつりと空を見て声に出した。
「女神様。何度もお話しをしていますが私には無理です。あの恐ろしい魔王に勝つなんて……」
恐怖から女性は涙を流していたが、それでも空からは穏やかな声が返ってきた。
「ご安心なさい。あなたは着実に強くなっている。今回はあの魔王に手傷を負わせたのですよ」
「しかし……! たったそれだけではないですか!」
「大きな進歩です。きっと、あと千回も蘇ればきっと魔王を倒し世界を平和に出来ることでしょう」
女性はゾッとして言った。
「では、あと千回も殺されろと?」
声は穏やかなまま返って来た。
「それがあなたの責務です」
その声を聞いて女性はただただ一人で泣いてしまった。
「こんな理不尽なことってないよ……」
勇者が一人泣いている頃には女神はもう何も答えてはくれなかった。