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タイガとリィナの魔女探し(第1部)

【アニセカ小説大賞1】

アニセカ小説大賞応募作品です。アニメ化を想定した作品で、ジブリ+ディズニーを意識しています。内容は、呪いでカエルにされてしまった女の子を元に戻すため、主人公が魔女探しの旅に出るというお話です。90~120分アニメ想定で、脚本としてはラストまでありますが、今回、その内の冒頭を第一部として小説化しました。よろしくお願いします。

 ●プロローグ

 深い、暗い、森の奥に、湖に囲まれた、古いお城がありました。森の奥にあるせいか、それとも、ふしぎな魔法がかけられているせいなのか、お城の上空は、いつも暗い雲に覆われており、そのお城は、いつも暗い雰囲気に包まれていました。そのせいもあってか、そのお城に近づく者は、ただの一人もありませんでした。そのお城の、たった一人の住人を除いては…。

 そのお城の最上階ともいえる、円柱状の塔のように高く伸びた、一番、空に近い部屋の窓から、暗い外を眺める女の姿がありました。

「ロルフ…」

 その女は、そうつぶやき、昔の事を思い返しているようでした。


 ***100年前***

 100年前、ローランド国という国に、ロルフという若い王子が居ました。ロルフ王子は、とても容姿端麗で、優しい心も持っていたので、国中の若い女性たちは、みな恋に落ちました。それは、隣の国の女性も例外ではありませんでした。特に、隣の国、カイゼル国のイザベラ王女は、ロルフ王子と年も近く、国同士の式典などで、顔を合わせたり、話すこともありましたので、その様子を見ていた国民たちは、ロルフ王子と、イザベラ王女は、将来結婚するのではないか?とうわさ話をしていました。そして、イザベラ王女も、そのように思っていました。自分は、ロルフ王子と会うこともできるし、話をすることもできる。そして、ロルフ王子は、いつも私に優しくしてくれる。いつか、気持ちを打ち明ければ、きっと私を選んでくれる。ずっとそう思っていたイザベラ王女は、ついに、ロルフ王子に気持ちを打ち明けました。

「ロルフ!今日こそ私の気持ちを打ち明けます!ずっとお慕いしておりました!どうか私を、あなたの妃にして頂けないでしょうか?」

 イザベラ王女の勇気ある愛の告白。その言葉とまなざしに、偽りはありませんでした。しかし、ロルフ王子は、悲しそうな表情を見せ、視線をそらしました。そして、すまなそうな表情でイザベラにこう言いました。

「すまない、イザベラ…。君の気持ちには気づいていたよ。でも、その気持には応えられない…。僕は、本当に愛する人を見つけたんだ。近い内に、その子と結婚する。どうか、わかってほしい。これからも、隣の国同士の王子と王女として、変わらぬ友情で、付き合ってほしい。それじゃあ…」

 ロルフのその言葉を聞いて、絶望の表情を浮かべ、今にも泣き出しそうなイザベラ王女。そのイザベラ王女を置いて、ロルフ王子は去って行きました。優しくする事もできたでしょう。でも、はっきりと気持ちを伝える事も誠実さなのです。イザベラ王女は、ロルフ王子のそういう所もわかっていましたので、ますます胸が苦しくなり、ついに声を上げて泣き出してしまいました。泣いて、泣いて、次の日も、そのまた次の日も泣いて、イザベラ王女の心の傷が癒える事はありませんでした。

 それから、しばらくして、ロルフ王子の結婚式が行われました。相手は、町娘のマリナという子でした。ロルフ王子が、結婚相手に、隣国の王女や、身分の高い女性を選ばなかった事に、人々は驚きましたが、ロルフ王子が優しい心を持っている事をみんな知っていましたし、お相手のマリナも、その笑顔を見れば、悪い気持ちなど一つも持っていない、優しい子だという事がわかりましたので、国民も納得したようでした。

「あのロルフ王子が選んだ子だ、間違いない。ロルフ王子!マリナ王女!バンザーイ!」

 ローランド国の国民たちは、みな、ロルフとマリナの結婚を祝福しました。ロルフは、マリナの首に、王家に伝わる首飾りをかけてあげ、そして、愛の口づけをしました。国民は、歓声を上げて祝福し、拍手はいつまでも鳴り止みませんでした。その祝福の声の中、ただ一人、隣国のイザベラ王女だけが、悲しみの涙を流し、そして、絶望の表情でその場を去りました。そして、人影のない場所へ来ると、ついに、こらえていた感情を表に現しました。

「うぁーーー!!!」

 ***


 お城の最上階の窓から、暗い外を眺めながら、昔を思い返していた女は、部屋の中にある、鏡の前にやって来ました。その鏡に映った姿は、100年前の、ロルフとの恋に敗れた、あのカイゼル国のイザベラ王女の面影のある、中年の女性でした。中年ではあれど、イザベラと同じような、気高い美しさがありました。しかし、その瞳には、冷酷さが宿っています。その女は、その冷酷な視線を、部屋の中にある絵画に向けました。その絵画は、100年前の、ロルフとマリナの結婚を祝って描かれた、二人の肖像画でした。しかし、そこに、マリナの顔はありませんでした。マリナの顔だけが、無惨に削られていました。その女は、肖像画のロルフ王子の顔を、愛おしそうに眺めました。そして、その視線を、削がれたマリナの顔の方へ向けると、その女の表情は、みるみる激しい憎しみの表情に変わりました。しばらく、その恐ろしい表情で、削がれたマリナの顔の部分を見つめたあと、その女は、マリナの首飾りの部分に視線を移しました。ローランド国に伝わっていた、婚礼の儀の際、王子が妻となる女性に与える、あの首飾りです。その首飾りの部分を見つめ、その女の顔は、怒りの表情から、いやらしい笑いに変わりました。

「ふっ、うふふっ!」

 その女の表情は、先程の、気高い、美しい顔から、正気であるかどうかさえ疑われるような、いやらしい表情に変わりました。しばらくすると、その女は、絵画のある場所を離れ、部屋の中央にやって来ました。部屋の中央にはテーブルがあり、その上に、首飾りが、2つ置かれていました。その形は、ローランド国に伝わっていた、あの、ロルフがマリナに与えた首飾りと瓜二つでした。その首飾りが2つ。その女は、2つの首飾りを、満足そうな表情で眺めました。そして、次の瞬間、首飾りの一つを手に取り、壁にあるロルフの肖像画を見ながら、自分の首にかけたのです。

「あぁ!ロルフ!」

 恍惚の表情を浮かべるその女。次の瞬間、その女が首にかけた首飾りから、闇が広がり、その女の体に、強大な魔法の力が生まれたのです!

「あぁ!みなぎる!ついに!魔法が完成した!ついにこの時が来た!あーっはっは!」

 その女の姿は、闇の魔法の力で、みるみる若返り、美しい女性に変身しました。その姿はまるで、100年前の、ロルフとの恋に敗れた、カイゼル国のイザベラ王女と瓜二つです。しかし、その表情には、その瞳には、残忍な冷酷さが宿っていました。その女は、もう一つの首飾りを手にし、目をつぶると、何かを探すような素振りを見せました。しばらくそうした後、カッと目を開き、いやらしい笑いを浮かべ、こう言いました。

「見つけたぞ!あーっはっは!この100年の恨みを!今こそ!あーっはっは!」

 暗い森の、暗いお城の最上階で、闇の力をまとった魔女は、いつまでも高笑いを続け、その声は、暗い森に、不気味に響き渡って行きました。


 ●クリコ村のタイガ

 ローランド国。それは、100年前に、この物語の舞台となる地域で栄えていた国です。しかし、隣国で戦乱が起こり、その戦に巻き込まれ、滅んでしまいました。そのローランド国からすこし離れた、高い山が連なる地域に、戦に巻き込まれず、人々が平和に暮らしている、クリコという、小さな村がありました。人々は、農作物を育てたり、牛や羊を放牧して乳をしぼったり、狩猟で野生動物を狩ったりしながら、質素に、慎ましく暮らしていました。今、一人の少年が、狩りに出かけた山奥で、鹿を見つけ、弓で狙っています。

「いーやっ!」

「キャーン!」

 少年の射った弓矢は、見事に鹿の急所に当たり、仕留める事ができました。

「ふう。ゴメンな。でもこれも生きるためだ。許してくれ」

 この少年の名前は、タイガ。16才。この物語の主人公です。幼い頃から、狩猟を教わり、その腕はもう一人前、いや、クリコ村で一番と言っても過言ではありません。タイガが、仕留めた鹿を回収しようと近づいた時、他の生き物の気配を感じました。殺気にも似たその気配に、タイガが素早く視線を向けると、そこには、一頭のオオカミが、牙を剥き、今にも襲いかかってきそうに睨んできました。獲物の鹿を狙っているのです。タイガは落ち着いて、こう言いました。

「無駄な殺生はしたくない。帰ってくれ」

 タイガは、その気持を伝えるように、目でオオカミに訴えかけました。しかし、その気持ちは、オオカミに伝わる様子はありませんでした。

 (だめか…それなら)

 気持ちを伝える事を諦めたタイガは、弓を取り出し、オオカミに当たらないように、威嚇の矢を放ちました。しかし、オオカミは、それに怯むこともなく、逆に、臨戦態勢に入り、今にも襲いかかってきそうになりました。

「こいつは殺らなきゃダメか」

 タイガがそうつぶやいた瞬間、オオカミがものすごい速さでタイガに襲いかかってきました。しかし、直線的な攻撃であれば、タイガの弓が有利です。タイガは弓を構え、矢を放ちました。しかし、そのオオカミは、感が鋭いのか、進む方向をジグザグに変え、タイガの弓をかわしたのです。

 (こいつ、鋭い。ならば)

 弓だけでは仕留められないと悟ったタイガは、腰に手を回し、装備してあったブーメランを手に取り、何を思ったのか、オオカミに向けてではなく、斜め前方にブーメランを放ちました。その動きに、オオカミの気が一瞬逸れました。その隙をついて、タイガは弓を構えました。そこへ、先程投げたブーメランが、オオカミめがけて襲いかかったのです!オオカミは、それを避けようと、上空へ飛びました。

「今だ!」

 上空へ逃れ、隙だらけになったオオカミに、タイガは渾身の弓矢を放ちました。

「ギャオーン!」

 弓矢はオオカミの急所に命中し、見事に仕留める事ができました。

「ふう。やれやれ。今日の獲物は二頭だ。一頭で良かったんだけど。でも村の人は喜ぶか。成仏してくれよな」

 タイガはそう言って、鹿とオオカミ、2頭の獲物を肩に抱え、クリコ村へと帰っていきました。


 ●クリコ村のリィナのお店

 高い山々が連なる地域にある、クリコの村。木々が生い茂る、山林もあれば、草花がとてもきれいな、なだらかな高原の部分もありました。人々は、主にこの高原の部分に住んでいました。人口は、それほど多くはありません。何しろ、街へ買い出しに行くにも、片道数時間もかかるのですから。ですので、便利な暮らしを求める人は街で暮らし、少々不便でも、この地域が好きだという人たちは、クリコの村に残り、質素な暮らしをしていました。クリコの村は、お店も多くはありません。その数少ないお店の一つに、雑貨屋さんがありました。日用品も扱っていますし、パンや、動物の肉やミルク、さらには、薬草まで扱っていました。今、この雑貨屋さんで、15才の女の子が店番をしていました。リィナという名前の子です。両親は、店の奥で、別な仕事をしています。リィナが、買い物に来た、村のおばあさんと話をしています。

「はい、13Gです。リウマチに効く薬も入ってるわ」

「ありがとう。リィナ、あんた最近、薬草にも興味あるんだって?」

「ええ。困ってる人を助けたいの。将来はちゃんと勉強もしたいわ」

「良い子だねえ。それじゃあ私は、リィナが学問を収めるまでがんばって生きようかねえ」

「お婆さん…。でも、村のみんなに長生きして欲しい。みんな幸せになって欲しいわ、私」

 リィナと、客のおばあさんは、そんな話をしていました。客のおばあさんは、リィナの優しい心に、笑顔を見せています。そこへ、先ほど、山で狩りをしていたタイガが、獲物を肩に抱えてお店に入ってきました。

「やあ!リィナ!今日もお願いできるかい?」

 店に入ってきたタイガを見て、リィナが嬉しそうに答えました。

「タイガ!。今日も獲ってきてくれたのね。二頭も!」

「うん。思いがけずだけどね。大量だ」

「うふふ。今日も交換で良いかしら?」

「うん!」

「パンとチーズとミルク!あはははは!」

 タイガとリィナはとても仲良さそうに会話をしました。仲が良いせいか、最後の「パンとチーズとミルク!」という言葉は、すっかり息が合って、二人の言葉が重なってしまいました。それに二人は大笑い。その様子を見て、客のおばあさんが、目を細めて言いました。

「まったく。二人は仲良しだねえ。これは、二人の将来も見届けるまでは生きないとね」

 客のおばあさんの、突然の言葉に、二人は急に照れてしまいました。

「な、何言うんだよ婆さん!」

「そ、そうよ…、私たち、まだ、そういうのじゃ…」

 照れる二人を見て、客のおばあさんは、「あはは」と笑ったあと、こんな話を始めました。

「それにしても、ランドルフ爺が亡くなってからもう一年だね。十何年か前に、戦災孤児だったタイガを引き取って、立派な猟師に育ててくれてね」

「うん…」

 客のおばあさんに、その話をされて、タイガは、昔の事を思い返しました。戦災孤児だった自分を引き取り、まるで本当の子どものように育ててくれた、ランドルフ爺。そして、タイガが独り立ちできるよう、時に優しく、時に厳しく、狩りの腕を仕込んでくれたことを。そして、一年前の、あの、悲しい事件のことを…。


 ***1年前***

 クリコの村から、山林に入った森の奥、タイガは、育ての親でもあり、狩猟の師匠でもある、ランドルフ爺と一緒に、狩りを行っていました。タイガは獲物に狙いを定め、一撃で仕留めました。よろこぶタイガとランドルフ爺。「もう一人前だね?」そう聞いてくるタイガに、「うむ、今日を持って、免許皆伝とするか」と、言葉を返すランドルフ爺。二人が喜びを分かちあているその時でした。二人が完全に油断していたその時、二人の背後から、近づく大きな影がありました。二人がその気配に気づき、振り向いた時、そこには、立ち上がり、鋭い爪の生えた手を大きく振り上げた、巨大な熊の姿がありました。もう、完全に手遅れでした。逃げる事も、攻撃する事も不可能。そう悟ったランドルフ爺は、タイガをかばい、熊の強烈な一撃を、背中で受けたのです。

「ぐはっ!」

「ランドルフ爺!」

 タイガはランドルフ爺の名を叫びました。しかし、この状況に頭が真っ白になり、自分がどうすればよいのか、わかりませんでした。しかし、ランドルフ爺は違いました。背中に致命傷を受けながらも、なんとかタイガだけでも助けようと、最後の力を振り絞り、腰に身につけていたナイフを抜いて、振り向きざまに、熊の首元に突き刺したのです。熊は恐ろしい悲鳴を上げ、その場で絶命しました。しかし、ランドルフ爺もまた、その場に力なくくずれ落ちてしまいました。それを見たタイガは、泣きながら、ランドルフ爺の体を抱き起こそうとしました。

「ランドルフ爺!しっかり!死んじゃだめだ!」

 タイガのその声を聞いて、ランドルフ爺は、ゆっくりと、少しだけ目を開け、こう言いました。

「ふふ、この傷では助からぬ。もう十分生きた。人生の最後に、お前を立派な猟師に育てる事ができてよかった」

「ランドルフ爺!」

 再び目を閉じようとするランドルフ爺。泣きながら、必死に呼びかけるタイガ。その声に応えるように、ランドルフ爺はまた少し目を開き、話はじめました。

「タイガ、儂からの最後のお願いじゃ。お前、リィナを好いておるのだろう?」

「な、こんな時に何を!」

「ふふふ。傍から見ていても互いに好いておる事はわかる。村のみんなも知っておる」

「ランドルフ爺…」

「タイガ。リィナは良い子じゃ。大切にしてやれ…」

 ランドルフ爺はそう言うと、再び目を閉じました。体からも完全に力が抜け。生気が感じられなくなりました。その事が受け入れられないタイガは、泣きながら、ランドルフ爺の体を揺らし、何度も名前を呼びました。

「ランドルフ爺!死んじゃ嫌だ!起きて!起きてよ!ランドルフ爺!」

 しかし、タイガのその声に、ランドルフ爺が応えることはありませんでした。森には、ランドルフ爺の名を呼ぶ、タイガの悲しい叫び声がいつまでも響いていました。

 ***


 一年前の事故を思い出し、うつむくタイガ。悲しいことを思い出させてしまったかと、少し気に留めた客のおばあさんでしたが、タイガを元気づけるようにこう言いました。

「立派な爺だったねえ。後は爺の願いを叶えてあげるだけだ。あんたら二人がくっつけばそれでよし」

「なっ!」

「えっ!」

 また、二人同時に、同じ反応をしてしまうタイガとリィナ。あわてて取り繕おうとします。

「俺たちそんなんじゃ!」

「あ、あの、その…」

 そんな二人を見て、客のおばあさんは笑いながら言いました。

「あはは。若いねえ。村のみんなもあんたらの事は知ってるよ。タイガ、誰かに取られないように、リィナをしっかり捕まえとかないとだめだよ。それじゃあね」

 客のおばあさんは、そう言って、ニコニコしながら店を出ていきました。お店に残された、タイガとリィナは、2人きりになりました。いつもなら、仲良しの二人ですが、客のおばあさんの言葉のせいで、恥ずかしいような、すこし気まずいような空気が流れています。そんな空気を破るかのように、不意に、タイガの表情が男らしく変わり、こう言いました。

「リィナ!もうすぐ誕生日だったよね?何か欲しい物ある?」

「え!あの、何かくれるの…?私、タイガが選んでくれた物だったら何でも嬉しいわ…」

「わかった!じゃあ、楽しみに待ってて!それじゃあ!」

「うん!」

 タイガはそう言って、店を飛び出して行きました。リィナは恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうにタイガを見送りました。その二人の様子を、店の奥からこっそり見ていたリィナの両親も、二人で目を見合わせて、ニコニコ微笑んでいました。


 ●市場での出来事

 それから何日か経った後、クリコの村に、街から行商がやって来て、市場が開かれました。この行商市場は、数ヶ月に一度、開かれます。高い山々の上の方にあるクリコの村は、街まで片道数時間かかりますので、買い物に行くにも一苦労です。ですので、こうやって、時折、街から行商人がやって来て、市場を開いたりするのです。行商人は、色んな国を旅して、珍しいものを仕入れて来たりするので、クリコの村の人々は、この行商市場を楽しみにしていました。その、楽しみに待ってた人の中に、タイガも居ました。もうすぐ、リィナの誕生日です。タイガは16才、リィナは15才です。それが、もうすぐ、同い年になるのです。タイガは、リィナに約束した、誕生日のプレゼントを、この市場で見つけられたら良いなと思い、市場へやって来たのです。市場では、行商人たちが、自慢の品を、村人たちに見せて売ろうとしていました。

「さあさあ、よってらっしゃい。これは、織り物の盛んな国、ペルージアで作られた、高級じゅうたんだよ!お家に一枚いかがかな?」

「そこのお方!こちらの、最北の国、フィヨルランド産の、白熊の毛皮のコートはいかがかな?あったかいよ!」

「さあさあ!クリコの村の皆さん!次に来るのは数カ月後!どれも一品物だよ!ここで買わないと次はないよ!さあ買った!」

 こんな具合に、行商人たちは、競うように、自慢の品を披露しました。その様子を、タイガは楽しそうに眺めながら、リィナに合いそうなプレゼントはないか、探していました。その時です。ある女性の行商人が、タイガを呼び止めました。

「お兄さん!何かお探しのようだね?ははあ、さては、彼女へのプレゼントかい?」

 タイガは、突然呼び止められ、さらに、探している物まで当てられてしまったので、驚きました。

「え!うん、まあ、そんな所だけど…、何でわかったの?」

「ははは!長年商売をやってるとね、客の顔を見ただけで、わかるもんさ。相手は、あんたと同い年ぐらいの女の子だね?」

「え?うん。そんな事までわかっちゃうんだ。すごいね。おばさん。何か、いいのあるかなあ?」

 タイガは、行商人のおばさんに、色々と当てられてしまい、この人なら、何か良いものを持っているかもしれないと思い、そうたずねました。それに対し、行商人の女は、ここぞとばかりに、自慢の品を、タイガに見せてきました。

「まかせときな!だったらこれがオススメだよ!100年前!ローランド国のロルフ王子がマリナ王女に贈った愛の首飾り!」

「ええっ!」

 行商人の女がタイガに見せたのは、確かに、100年前、ローランド国のロルフ王子が、マリナ王女に送ったと言われる、愛の首飾りにそっくりでした。この2人の肖像画は、複製され、隣国にも広く伝わっていましたので、近隣の国の人々は、一度は見たことのある絵でした。その絵に描かれている、マリナ王女のしている首飾り。それに本当にそっくりに見えます。タイガは、驚きながらも、本物なのかと、まじまじとその首飾りを見つめました。そこへ、行商人の女が、いたずらっぽく、こう言いました。

「その、レプリカだ」

「えー!なあんだ…」

 その愛の首飾りは、レプリカ、つまり、複製品でした。タイガは、その事を聞いて、すこしガッカリしました。でも、それもそうか、本物が、こんな田舎の村で売られるはずがないと、すぐに納得しました。しかし、タイガは、その首飾りを気に入ってしまったようでした。そこへ、行商人の女がこう言いいました。

「まあレプリカだけどね、あんたぐらいの歳の娘のプレゼントには十分すぎるくらいだよ。今回はこれをあげて、将来、本当に求婚する時にもっと良いものを贈ればいいのさ。どうだい?負けとくよ」

 行商人の女のその言葉を聞いて、タイガは、すっかり、この首飾りを買う気になってしまいました。

「うん、そうだね!すごく良く出来てる!気に入った!おばさん!これいくら?」

「本来なら300Gの所を…今回だけ!150G!どうだい?払えるかい?」

「大丈夫!何とか払えるよ!」

「よし、取引成立だ!」

 こうして取引が決まり、タイガがお金を出して、渡そうとした時、行商人の女がこう言いました。

「せっかくだから、女の私から良いアドバイスをあげよう。首飾りをプレゼントしたら、女の子に付けさせるんじゃなくて、あんたが付けてあげるんだ。そうすると、女の子の顔と、あんたの顔が近づいて…」

 行商人の女は、そこまで言うと、いたずらっぽくタイガを見つめました。最初、きょとんとしたタイガでしたが、その意味がわかると、リィナとのそんな瞬間を想像してしまい、顔を赤くしながらお金を渡しました。

「な、何いってんだよおばさん!は、はい、お代!」

「あはは!まあとにかくがんばんな!応援してるよ!」

「うん!ありがとう!それじゃあ!」

 こうしてタイガは、行商人から、レプリカではありますが、愛の首飾りという、リィナにピッタリの誕生日プレゼントを買うことか出来て、喜んで帰っていきました。行商人に女も、ニコニコしながら、タイガの姿を見送っていました。しかし、次の瞬間、その女の目が、冷たい目つきに変わったのです。その事に、タイガが気づくことはありませんでした。


 ●リィナへのプレゼント

 タイガが市場で、リィナへのプレゼントである、愛の首飾りを買ってから何日か経ち、ついに、リィナの誕生日がやって来ました。その日、タイガとリィナは、村の小高い丘の、大きな木の下で合う約束をしました。この場所は、とても景色が良く、二人のお気に入りの場所でした。牧草地では、放牧されている、牛や羊たちが草を食べている姿が見えました。リィナのお店や、クリコの村を行き交う人々の姿も見えます。そして遠くに目を凝らせば、多くの人々が暮らす街までも、小さくですが、目にする事ができました。この素敵な場所で、二人は小さい頃からよく遊んでいました。そして、今、ともに16才になった、タイガとリィナが、いつもとはちょっと違う雰囲気で、大きな木の下で、向かい合って、話しています。

「リィナ、16才の誕生日、おめでとう。これ、プレゼント、リィナに似合うんじゃないかと思って」

「ありがとう!まあ、素敵!良いの?高そうよ?」

 タイガはリィナに、市場で手に入れた、愛の首飾りを見せました。リィナは、喜びましたが、それがあまりにも高そうだったので、驚きました。それに対し、タイガが言いました。

「この首飾りは、昔の王族がしていた首飾りに似せてるけど、実は、レプリカなんだ。だから、そんなに高くないんだよ。今の僕にはこれが精一杯なんだけど…」

 タイガは、すこし、すまなそうな表情を見せましたが、リィナはそんな事を気にする事はありませんでした。

「そんな、タイガ、私、嬉しいわ!それにほら、とっても素敵!」

 リィナは、その首飾りがレプリカであることなど、気にもしませんでした。タイガからのプレゼントが、何よりも嬉しかったのです。それに、その首飾りも、とても素敵に見えたので、リィナは嬉しそうに首飾りを眺めました。

「これ、着けてみていいかしら?」

「あ、うん、ぼくが、着けてあげるよ!」

「え…本当?じゃあ、お願い…」

 この時、タイガは、市場での行商人の女の言葉を思い出して、そう言ってしまったのです。本当は、そうするつもりはありませんでした。行商人の女の言葉の意味する所を知っていたからです。しかし、今、目の前で、嬉しそうに喜ぶリィナを見ていると、自然とそうしたくなってしまったのです。そうして、タイガは、リィナから首飾りを受け取り、留め具を外し、前からリィナの首の後ろに手を回し、首飾りをかけて、留め具をかけようとしました。そうすると、自然と、二人の顔が、くっついてしまうぐらい近づきました。

「ごめんね。もうすぐ引っかかる。あれ、どうなってんだ」

「あ、うん、あ…、ん…」

 留め具をかけようと、前からリィナの首に手を回し、もぞもぞと指を動かすタイガ。体もピッタリとくっつき、二人の顔もすぐ近く、くちびるまでくっついてしまいそうです。その状況に、タイガもリィナも、顔が真っ赤になってしまいました。この状況が、はやく終わってほしいような、でも、続いてもほしいような、ふしぎな気持ちでした。でも、しばらくそうした後、ついに、タイガは、首飾りの留め具をかける事ができました。

「やった!」

「ほんと?」

 そう言って、二人が嬉しそうに、目を合わせた瞬間でした。突然、その首飾りから、まぶしい光があふれ出して来たのです!

「うわ!眩しい!何だ!」

「キャー!」

 そのまぶしさに、二人はとても目を開けている事はできませんでした。タイガは腕で、顔をおおいました。どのくらいの間、光があふれ出ていたのでしょうか。光が収まると、タイガは、腕をおろし、目をゆっくりと開きました。真っ白の世界から、視界がだんたんといつもの世界にもどって来た時、タイガは驚きました。そこに、リィナの姿がなかったのです。

「あれ?リィナは?リィナ!どこだい!リィナ!」

 タイガは周囲を見回しながら、リィナの名前を呼びました。すると、ふしぎな事に、足元から声が聞こえました。

「ここよ、タイガ!」

 驚いたタイガが、足元を見ると、そこには何と、さっきリィナが着ていた、その服だけが落ちていました。そして、その服をよく見ると、もぞもぞと、中で何かが動いているのです。タイガは、一体何が起こっているのか、わかりませんでしたが、じっと、そのもぞもぞするものを、おそるおそる見ていました。すると次の瞬間、ついに、そのもぞもぞが、リィナの服の中から姿を現しました。それは、何と、一匹のみにくいヒキガエルだったのです。そしてさらにおどろくことに、そのヒキガエルが、リィナの声で、しゃべりはじめたのです。

「ふう。一体何が起こったのかしら?首飾りが急に光ったかと思ったら、今度は布に包まれちゃって。やっと出れたわ」

 そのカエルの姿を見て、タイガは絶句しながらも、こう言いました。

「カ、カ、カ、カエルが喋ってる!?でも声はリィナだ!」

「カエル?何言ってるのタイガ?私は…」

 タイガにそう言われたカエルは、リィナの声でそう言いながら、自分の手足を見て驚きました。

「えー!カ、カエル!?」

 そのカエルは、おどろいて飛び上がり、次の瞬間、リィナが身につけていたポーチに近づき、中から手鏡を引きずり出して、自分の姿を映して見て、さらにおどろきました。

「いやー!本当にカエル!どうなってるの?助けてタイガ!」

 そのカエルは、リィナの声で、タイガに助けを求め、ついに泣き出してしまいました。その様子を見て、タイガは、おそるおそる、そのカエルをつかんで持ち上げ、手のひらの上に乗せて、まじまじと観察をはじめました。

「ごめんね。君…本当にリィナなのかい?」

 タイガはそうやって、そのリィナの声でしゃべるカエルを観察してみました。すると、何と、さっき、タイガがリィナの首にかけてあげた、あの首飾りが、カエルと同じように小さくなって、そのカエルの首にピッタリとくっついていたのです。タイガはおどろいて、その首飾りの部分に触ってみました、しかし、本当にピッタリとくっついていて、動かすことすらできなそうでした。

「この首飾り…もしかして、呪われていたとか…」

 その言葉を聞いて、カエルがリィナの声で助けを求めます。

「助けてタイガ!私!カエルなんていや!」

 その言葉を聞いて、タイガが、半信半疑ながら、カエルのリィナに言いました。

「ごめんよカエルさん…いや、リィナ?必ず助ける!とりあえず、これを売った行商人を探そう!」

「うん!」

 こうして、二人は。いや、一人と一匹は。カエルになってしまったリィナを元に戻すため、首飾りを売った行商人の女を探すことにしました。本当に大変な事になってしまいました。タイガはリィナを元の姿に戻すことができるのでしょうか?


 ●リィナを元に戻す方法

 リィナがカエルになってしまった事件の後、タイガは、カエルのリィナを、人目につかないようバッグに入れて、急いでクリコの村の、市場が開かれていた場所に向かいました。市場は、数日開かれると、行商人たちはすぐに他の街へ行ってしまいますので、もうそこには市場はなく、行商人たちも居ませんでした。タイガに、あの首飾りを売りつけた女の行商人も当然いません。あの女なら何か知っているはずだ。そう思ったタイガは、何か手がかりはないかと、村の市場を取り仕切っている親方を見つけ、相談し始めました。

「あの!すみません!前にここで、宝石類を売っていた行商人のおばさんは、何という方ですか?次はいつ来ますか?」

「うーん、誰だったかな?しかし、旅の行商人だからね。もう一度会えるかどうか。何かあったのかね?」

「実は、売っていた物が呪われていたみたいで、それを身に着けた人が、動物になってしまったというか、何というか…」

「はあ?」

 タイガにそう言われ、けげんそうな表情を見せた親方でしたが、タイガが真剣に話すので、本当かもしれないと思いはじめ、こう答えました。

「うーん。にわかには信じられんが…、そういった話なら、長老に聞いてみるといい。変わり者だが、物知りだ」

「長老ですね!わかりました!行ってみます!」

 タイガは、手がかりのない中、一筋の希望が見えたと、喜んで親方に礼を言い、長老の家に向かいました。その後姿を見ていた親方は、タイガがバッグを開け、バッグの中に向かって何か話しかけ、微笑んでいるのを見て、不思議そうに首を傾げました。


 ●長老の家

 市場の親方から、長老なら、呪いを解く方法を知っているかもしれないと聞いたタイガは、喜んで、バッグの中に居る、カエルのリィナに話しかけながら、長老の家へ向かいました。

「リィナ!長老なら何か知ってるかもしれないよ!」

「うん!少し変わったおじいさんだけど、物知りなのは本当だわ!」

「よし!急ごう!」

「うん!」

 タイガとリィナは、そんな話をしながら、長老の家に向かいました。クリコの村は、小さな村ですので、すぐに長老の家にたどり着きました。古ぼけた、小さな家で、柵に囲まれた庭もあります。そこには、犬小屋があり、年を取った犬が寝ていました。その奥には、テーブルや椅子があり、90才ぐらいのおじいさんが、椅子に腰掛けてうたたねをしていました。タイガは、そのおじいさんに向かって、大きな声で、話しかけました。

「居た!長老!大変な事が起こったんです!話を聞いてください!」

「ふぁ!?」

 うたたねをしていた長老は、タイガの声におどろいて、目を覚ましました。さっきの寝ていた犬まで目を覚ましました。長老は、ゆっくりと、タイガの方に目を向けると、こう言いました。

「うん?お前はタイガだな。ランドルフの所の。今日はどうしたんじゃ?」

「はい!長老に、聞いてほしいお話があって来ました!」

 真剣にお願いするタイガ。その真剣なまなざしを見て、長老はこう言いました。

「よし、話を聞いてやろう。まあ上がんなさい」

「はい!ありがとうございます!」

 こうして、長老は、タイガを家の中に招き入れました。タイガが長老の部屋へ入ると、壁一面が本棚になっており、本がびっしり詰まっていました。そして床には、本棚に入りきらないたくさんの本が、山のように積み上げられていました。その本の山を見て、これなら必ず何か知っているはずだと思い、タイガは、これまでにあった事を長老に話しました。


「という訳なんです!何とかならないでしょうか?」

 長老に、説明を終えたタイガは、バッグを開け、カエルのリィナを優しく手で包んで、テーブルの上に乗せ、長老に見せました。長老は、目の前に出されたカエルを見て、ふしぎそうに眺め、くびを傾げながら、こう言いました。

「ふーん?このカエルが?リィナ?元はリィナだった、じゃと?ふーん?」

 長老は、ふしぎそうに、カエルのリィナを眺めています。長老に見られているカエルのリィナは、きんちょう気味です。あんまりじっくり見られているので、急に、自分がカエルである事が、はずかしくなってきました。

「あ、あの、長老さん…、そんなに見られたら、私…」

 カエルのリィナがそう言ったかと思うと、長老は、「ふーむ」と言って、何を思ったのか、急に、片手で、カエルのリィナをむんずとつかんで、持ち上げました。それに対し、リィナが声を上げました。

「キャー!」

 その様子を見て、タイガが、あわてて長老に言いました。

「ちょ、長老!もっと優しく!ただのカエルじゃないんですよ!リィナなんです!」

「おお、すまん、すまん。ふーんしかし、これがリィナねえ」

 リィナを、普通のカエルのように扱ってしまい、タイガにたしなめられた長老は、いちおう口では、すまんと言いましたが、まだ半信半疑のようです。しかし、カエルのリィナの首にかけられるようにして張り付いている、首飾りを見ると、本当の事かもしれないと、思い始めたようです。

「ふーん。たしかに首飾りじゃ。これはふしぎじゃ」

「そうでしょう、長老!これは本当の事なんです!信じてください!」

 タイガにそう言われ、長老は、ついに、これが本当に起きたことだと信じたようでした。

「ふーん。なるほどのう」

 長老は、そう言いながら、カエルのリィナの体を調べる事を終えようとしましたが、最後に、何を思ったのか、カエルのリィナの体を裏返して、お腹の部分を見ようとしたのです。すると、次の瞬間、カエルのリィナが、悲鳴のような声を上げました。

「ケロケロケロケロ!(キャー!やめて!私、女の子なのよ!お嫁に行けなくなるー!)」

 その様子を見て、タイガがあわてて長老に声をかけました。

「長老!リィナが嫌がってます!女の子なんですよ!もっと優しく!」

「おお、すまん、すまん。しかし、お前さん、このリィナの声が聞こえるのかの?わしには、ケロケロとしか聞こえんがのう?」

「ええ!」

「ケロケロケロ!(うそー!)」

 長老に、そう言われて、タイガとリィナは驚きました。二人の間では、例えリィナがカエルになっても、会話は出来ていました。タイガにはちゃんと、カエルのリィナの声が、人間のリィナの声として聞こえていたのです。しかし、今、長老に、「ケロケロとしか聞こえない」と言われ、初めて現実に気がついたのです。これも、呪いの力なのでしょうか?

「これもふしぎな事じゃのう。少し、調べてみるか」

 長老は、そう言いながら、本棚から本を取り出し、調べ物を初めました。タイガとリィナは、その間、庭で休んで待つ事にしました。


 ●長老の話

 それからほどなくして、長老が、タイガたちを呼びました。何かわかったかな?そんな話をしながら、タイガとカエルのリィナが部屋に入ると、長老が、手に何かを持って、タイガたちに見せようとしました。

「おお、来たか。まず、リィナ。さっきは悪かったのう。お詫びと言っては何じゃが、お前にこれをやろう。そこに飾ってあった女の子の人形から脱がせた服じゃ。ちょうど合うんじゃないか?」

 長老は、そう言って、飾ってあった女の子の人形から脱がせた服を、リィナの前に差し出しました。それを見た、カエルのリィナは、よろこんで、こう言いました。

「まあ!すてき!サイズもちょうどいいかもしれないわ。わたし、着てみる!ふたりとも!むこう向いてて!」

「え?あ、うん。そうだね!ほら、長老も!むこう向いて!」

「ふぁ?まぁ、そういうものかのう?」

 リィナにそう言われ、タイガも、長老も、少し変な気がしましたが、考えてみれば、姿はカエルといえど、中身は年頃の女の子のリィナなのです。ですので、ふたりとも、カエルのリィナが服を着るまで、むこうを向いて、待つことにしました。すこしすると、リィナが言いました。

「お待たせ!どう?似合う?」

 リィナの声に、タイガと長老が、振り向くと、そこには、女の子の人形の服を着た、カエルのリィナが居ました。ほんとうに偶然な事に、サイズもピッタリで、とてもカエルのリィナに似合っていました。

「ふぉふぉふぉ、似合っとる、似合っとる」

「ほんとだ!良かったね!リィナ!」

「うん!長老さん!ありがとう!」

「ふぉふぉふぉ。よかった、よかった」

「あはははは」

 こうして、3人とも、笑いながら、喜びましたが、本当の問題はここからでした。タイガの表情が、ふいに真剣に戻り、長老にこうたずねました。

「長老、それで、本題の方ですが、何かわかりましたか?やっぱり、首飾りの呪いでしょうか?」

 タイガのその問いに、長老が答えました。

「うーん。やはりこれは、ローランド国のロルフ王子との恋に破れた、カイゼル国のイザベラの呪いの可能性が高いかもしれんのう」

 長老のその言葉を聞いて、タイガが、真剣な表情で、矢継ぎ早に質問をぶつけました。

「やっぱり!呪いだったんだ!長老!イザベラとは誰ですか?!呪いは解けるんでしょうか?」

「うん、まあそうあせるな。ゆっくり、順を追って話そう」

「すみません…、お願いします…」

 長老にたしなめられ、タイガは落ち着きを取り戻しました。そして、長老が、ゆっくりと話し始めました。


「今から100年ほど昔の話じゃ、ローランド国のロルフ王子が、当時、町娘だったマリナ王女と恋に落ち、ご結婚されたんじゃが、それを妬む者があってのう。それが、となりの国、カイゼル国のイザベラ王女じゃった。イザベラ王女は、自分が一番、ロルフ王子にふさわしいと思っていたそうなんじゃが、自分が選ばれなかった事に、そして、ロルフ王子の選んだ相手が、身分の低い町娘であった事に、怒り、悲しみ、憎んで、ついには、おかしくなってしまったという事じゃ。それから、ほどなくして、ローランド国は、戦乱に巻き込まれ、滅んでしまい、ロルフ王子も、マリナ王女も亡くなってしまったんじゃが、それでも、イザベラの憎しみは消える事はなく、全ての恋人たちを憎んで、仲を引き裂く魔法の研究を続け、ついには、魔女になってしまったという事じゃ。年齢は、100才は超えておるはずじゃが、まだ生きておるらしい」

「そうなんですね…、それで、首飾りと、呪いの関係は?リィナは元に戻るんですか?」

「うむ。その事じゃが…」

 長老はそう言って、棚から一つの額縁を取り出しました。そこに描かれていた絵、それは、ロルフ王子とマリナ王女の肖像画でした。そして、マリナ王女の首には、首飾りもかけられています。

「あ!これは!」

 タイガはおどろいて、その肖像画をじっくりと眺めました。そして、マリナ王女の首飾りと、カエルのリィナの首飾りとを、何度も見比べて、こう言いました。

「やっぱり!瓜二つだ!これは!本当にマリナ王女の首飾りのレプリカだったんだ!ということは…」

「うむ、ここからは、わしの推論じゃが、これは、魔女イザベラの呪いかもしれんのう。マリナ王女への憎しみが、全ての恋人たちへの憎しみに変わり、結果、マリナ王女の首飾りに似せた、呪いの首飾りを作ってしまったと。それが、どういう訳か、行商人の手に渡り、リィナが身につけてしまった、という事なんじゃないだろうかのう?」

「そんな…、ぼくが、首飾りを買ってしまったばっかりに…」

「やめて、タイガ!タイガは悪くないわ!」

「リィナ…、それで、長老!リィナを元に戻す方法はあるんですか!」

「うむ。それも、わしの憶測に過ぎんが、リィナを元に戻す方法は、魔女イザベラに、その方法を教えてもらうか、それが叶わぬ場合は、その呪いをかけた者、すなわち、魔女イザベラを、討つしかないんじゃなかろうか?」

「討つ…、そんな…」

「うむ。まあ、すべてわしの憶測じゃがのう。それから、もう一つ。これも憶測じゃが、これが、魔女イザベラの、恋人の仲を引き裂く呪いだとするならば、それを解くカギは、リィナと恋仲であったタイガ、お前にもあるかもしれんという事じゃ」

「ぼくに!?」

「うむ。まあ、憶測じゃが。少なくとも、全く無関係の第三者より、当事者であるタイガの方が、呪いを解ける可能性が高いという事じゃ」

「ぼくが…やらなきゃ…」

「うむ、という訳で、わしの結論としては、タイガがカエルのリィナを連れて、魔女イザベラの元へ行けば、何とかなるかもしれん。という事じゃな」

 長老の話が終わりました。タイガは、神妙な面持ちで聞いていましたが、この問題を解決できるのは、自分だけかもしれないと聞いて決心し、凛々しい表情で、こう言いました。

「わかりました!僕たち、魔女の元へ行ってみます!」

「うむ。わしに出来るのはこのくらいじゃ。気をつけてな」

「ありがとうございました!行こう!リィナ!」

「うん!」

 タイガとカエルのリィナは、そうお礼を言って、長老の家を去って行きました。長老は、二人を見送ると、ふさふさのヒゲに手を当てて撫でながら、ロルフ王子とマリナ王女の肖像画を眺め、何かを考えながら、深いため息をつきました。


 ●リィナの両親

 長老の家を出たタイガとリィナは、リィナにかけられた呪いを解くため、魔女イザベラを探す旅に出る相談をはじめました。タイガは、育ての親だったランドルフ爺を亡くし、独り身ですので、旅に出ても、問題はありませんでした。ランドルフ爺が仕込んでくれた狩猟の腕も一人前です。どこへでも旅に出て、一人でやっていける力もありました。しかし、リィナはどうでしょうか。両親が居ますので、旅に出ると言っても、簡単には許してくれないでしょう。それよりも何よりも、リィナがカエルになってしまった事すら、まだ話していないのです。どうするのが一番よいのか?二人は話し合いました、

「リィナ、君の両親には何て話そうか?」

「私、お父さんとお母さんには、心配はかけたくないわ。でも、何も言わずに旅に出ても、私が居なくなったって、二人は心配するわ。それだったら正直に話した方がいいと思うの。私の声が分かるのはあなただけだわ。タイガ、協力して」

「わかった。僕にまかせて」

「うふふ。お願いね」

 こうして、タイガとリィナは、リィナの両親に、全てを話すことにしました。


 タイガは、リィナの雑貨屋へ入り、カエルのリィナを隠して、リィナの両親に話し始めました。リィナに誕生日プレゼントをしようと思ったこと。市場で、ローランド国のロルフ王子がマリナ王女にあげたと言われる首飾りのレプリカを買ったこと。その首飾りをリィナにプレゼントした所、呪われていたこと。(ここではまだ、リィナがカエルになってしまった事は言いませんでした)そして、その呪いを解くには、魔女イザベラを探し出す必要かあること。そのために、自分は、リィナを連れて、魔女を探す旅に出る必要がある事を話しました。リィナの両親は、半信半疑で聞いていましたが、タイガの真剣な様子に、内容は理解してくれたようでした。しかし、一つ、疑問が残りました。リィナは今、どこに居るのか?呪いとは何だったのか?それをリィナの両親は、タイガに訪ねました。

「うーん。にわかには信じられない話だが、タイガがここまで真剣に話すんだ。きっと本当なんだろう。な、おまえ?」

「そうね。タイガがうそを言うはずがないわ。ね、あなた」

「うん。信じよう。所でタイガ、肝心の、リィナは今、どこに居るんだね?呪いとは、一体どんな呪いなんだね?」

「そうね、それがわからないと、私たちも、返事のしようがないわ。タイガ、リィナはどこなの?」

 タイガの話を理解したリィナの両親は、ついに、リィナの事について訪ね始めました。タイガは、ついにこの瞬間が来てしまったかと思いました。お宅の娘のリィナは、ぼくがあげた首飾りの呪いのせいで、カエルになってしまいました。そんな事は、普通であれば、とても言い出すことはできませんでした。本当の事を言えば、リィナの両親がどんな反応をすることか。リィナの母親は失神し、父親は怒り狂うかもしれません。しかし、もう隠す事はできませんでした。タイガは意を決し、ついに本当の事を話すことにしました。

「実は、呪いというのは、大変、言いにくいのですが…」

 タイガはそう言いながら、バッグに手を入れ、カエルのリィナを優しく手に包んで取り出し、テーブルの上に乗せました。それを見たリィナの両親は、きょとんとしています。

「カエルだな?これが、どうかしたのか?」

「そうね、カエルだわ。これが、どうかしたの?」

 意味がわかっていない二人に、タイガがついに言いました。

「これが、リィナです。首飾りの呪いで、カエルになってしまったんです…」

「は?」

「え?」

 リィナの両親は、全く意味がわかりませんでした。タイガは状況を理解してもらう為に、また最初から説明するはめになりました。


 それからしばらくして、ようやく、リィナの両親は、タイガの話を全て理解し、現実を受け止めました。リィナの母親は、カエルのリィナを泣きながら抱きしめました。

「ううう。リィナ、本当にリィナなの?こんな姿になってしまって。ううう」

「お母さん!うわーん!(ケロケロケロー!)」

(読者の皆さんにはもうおわかりだと思いますが、リィナの声は、タイガには聞こえていますが、両親にはカエルの鳴き声に聞こえています。上手に想像してくださいね)

 リィナのお母さんと、カエルのリィナは、いつまでも泣いて抱き合っていましたが、リィナのお父さんは、さすがに男です。このような状況でも、つらい気持ちを表に出さず、タイガを信じて、こう言いました。

「タイガ君。話はわかった。君が嘘をつくような人間でない事は、私たちがよくわかっている。村のみんなもだ。そして、リィナを助けられるのは、君しか居ないわけだ。こうなったら、村総出で君を送り出そう。娘を頼んだよ!」

「はい!かならずリィナを元に戻してみせます!」


 こうして、リィナの両親は、タイガたちの旅立ちを許してくれました。そして、リィナの父親のはからいで、村人総出で、タイガとリィナの旅立ちを見送ることになったのです。


 ●タイガとリィナの旅立ち

 タイガとリィナの旅立ちの日がやって来ました。タイガが行商人市場で首飾りを買い、リィナにプレゼントした事。その首飾りは呪われていて、リィナがカエルになってしまった事。その呪いは、魔女イザベラの、恋人同士の仲を引き裂く呪いかもしれないという事が、クリコの村の人たちに伝えられました。そして、その呪いを解くために、魔女イザベラを探し出す必要がある事や、この事件に関係のない者より、リィナに首飾りを渡したタイガがの方が、呪いを解ける可能性が高い事、すなわち、タイガ自身が、カエルになってしまったリィナを連れて、魔女イザベラの元へ行く必要があるという事が、村人たちに伝えられました。その話を聞いた村人たちは、最初はおどろきましたが、タイガたちの旅立ちを応援してやろうと言う事になり、みなで少しずつお金を出し合って、タイガに持たせてやる事にしました。こうして、今、タイガとリィナの旅立ちを、村人総出で見送っているのです。

「それでは!行ってきます!必ずリィナを元に戻して帰ってきます!」

「頼んだぞ、タイガ君!リィナを頼んだよ!」

「はい!がんばります!」

 タイガが勇ましく旅立ちの言葉を告げ、リィナの父親が激励しました。

「リィナ、元に戻って必ず帰ってきてね!うわーん」

「おかあさーん!(ケロケロケロー!)」

 リィナの母親と、カエルのリィナは、別れを惜しんで、泣きながら抱き合いました。

「こりゃあ、二人が帰ってくるまで死ねないねえ」

「まったくじゃ。長生きすると珍しいもんが見れるわい」

 村人のおばあさんと、長老は、そんな会話をしました。

「それでは!行ってきます!」

「がんばれよー。必ず帰ってこいよ!」

「みんなありがとう!必ず帰ってきます!」

 こうして、クリコの村の人々が総出で見送る中、タイガとカエルのリィナは、魔女探しの旅に、旅立って行きました。村人たちは、別れを惜しみ、いつまでも、タイガとリィナを見送っていました。タイガとリィナも、村のみんなが見えなくなるまで、いつまでも手を振って応えました。


 ●不敵な笑い

 こうして、タイガとリィナは、カエルになってしまったリィナを元に戻すため、その呪いをかけたと思われる、魔女イザベラを探すため、クリコの村から旅立って行きました。村人たちも、見送りが終わり、みな普段の生活に戻って行きました。そこに、最後に残った、タイガとリィナを見つめる、黒い影がありました。その黒い影は、ギャア!と、一鳴きすると、空へ舞い上がり、遠いカイゼル国の方へ向かって飛んで行きました。


 深い、暗い、森の奥。湖に囲まれた、古いお城。そのお城の、最上階の窓から、暗い空を、虚ろに見つめる、女の姿がありました。そこへ、その窓をめがけて、遠くから、飛んでくる黒い影がありました。女が窓を開けると、その黒い影、一羽のカラスが、部屋の中に入って来ました。女は、そのカラスに餌を与えて、こう言いました。

「フフフ。ご苦労だったね。お前が目にした事は、すべて私の頭の中に入って来たよ。みにくいカエルの姿に変わった少女。その姿を見て絶望する、少女に恋する少年。アーッハッハッ!何という快感!絶望する恋人たちの表情!それこそが、私の生きるエネルギーに変わる!アーッハッハッ!愉快じゃのう!」

「ギャア!ギャア!」

 醜い笑顔を見せ、高笑いする女。それに応えるように、嘲笑うように鳴くカラス。しかし、次の瞬間、その女の笑いが、冷たい顔に変わりました。

「しかし、それに絶望することなく、私の元へ来るというのか。それが、愛の力とでもいうのか。ふふふ。ならば、ここまで来るがよい。お前たちの、その愛の力が、いつまで続くのかな?その、みにくいカエル相手に!アーッハッハ!希望が絶望に変わる様を!とくと見せてもらうよ!アーッハッハッ!」

「ギャア!ギャア!」

「さあ!お行き!」

「ギャア」

 女がいやらしく笑いながら、そう命じると、使いのカラスは、窓から暗い空に向かって飛んで行きました。女はその姿を見送ると、部屋の中の、肖像画に目を向けました。あの、ローランド王国の、ロルフ王子とマリナ王女が描かれている、しかし、マリナ王女の顔の部分だけが削がれている、あの絵です。女は、ロルフ王子の顔の部分を愛おしそうに眺め、そして、削がれたマリナ王女の顔の部分を冷たい目で見つめ、そして、マリナ王女の首飾りの部分を見たあと、それと瓜二つに作られた、自分が身につけている首飾りに手を当て、その姿を鏡に映して眺めました。

「ロルフ…」

 女は、そう言って、恋する少女のような表情を見せましたが、それはすぐに、冷たい表情に変わりました。そして、それは、いやらしい笑みに変わり、女は声を上げて高笑いをしました。

「アーッハッハッ!」

 その女の不気味な笑い声は、暗い空に響き渡り、そして、暗い森に吸い込まれていくように、消えていきました。


 ●タイガとリィナの旅

 タイガとリィナが、魔女探しの旅に出てから、半日が経ちました。高い山々の上の方にある、クリコの村から、山を降り、旧ローランド国へ続く細い道を、道なりに住んで行きました。旧ローランド国は、ローランド王国が滅ぼされた後、人々が愛着を込めてそう呼んでいた居た所、結局、それがそのまま国の名前になったのです。最終的な目標は、魔女イザベラに会うことですが、呪いの首飾りは、ローランド王国のロルフ王子が、マリナ王女にあげた首飾りが元になっていますから、旧ローランド国に行けば、何かわかるかもしれない。二人はそう考え、旧ローランド国へ向かったのでした。

「ふう、ようやく平らな所まで来た、あとはこの道をまっすぐ行くだけだね」

「そうね、旧ローランド国に行けば、きっと魔女の呪いについて知ってる人も居ると思うわ」

「うん、必ず元に戻してあげるからね」

「うん、信じてる」

「お腹すいたね。お昼にしよう。あそこの木陰が良い」

「うん、行きましょう!」

 二人は、そんな会話をしながら、休むのにちょうどいい木陰を見つけ、昼食の準備に取り掛かりました。タイガは、荷袋から、パンやチーズ、ハムなどを取り出しながら、ふと、リィナにたずねました。 

「所で、今のリィナは何を食べるの?やっぱり…虫とか?」

 タイガは、そう言いながら、近くに居た青虫に目を向けました。カエルのリィナも、それにつられて、青虫に目を向けました。モゾモゾ動く青虫。それを見て、二人は、カエルのリィナが、口を開け、舌を伸ばして、青虫を食べてしまう所を想像してしまいました。しかし、次の瞬間。

「いやー!私、そんなの食べないわよ!私は、ハムとか、チーズなら食べられると思うわ!パンも大丈夫かも!」

 カエルのリィナが、あわててそう言いました。姿はカエルですが、中身は人間の女の子なのです。そんな虫を食べるなんて恥ずかしい。そう思ってしまったのでしょう。それを察したタイガが、笑いながら、優しくこう言いました。

「アハハ!そうか、ゴメンね。じゃあ、僕のと同じ、サンドイッチの小さいの、作ってあげる!」

「うん!ありがとう!」

 タイガはそう言って、自分のとは別に、カエルのリィナに合うサイズの、小さなサンドイッチを、作ってあげました。それを見て、満足そうなカエルのリィナ。

「それじゃあ!いただきまーす!」

 二人はそう言って、仲良くサンドイッチを食べはじめました。

「うん!おいしい!リィナはどうだい?」

「うん!おいしいわ!私、こういうのも食べられるみたい!おいしい!」

「よかったね!あはは!」

「うん!うふふ」

 二人はそうやって、楽しそうに、昼食を食べました。幸いな事に、カエルのリィナは、人間のタイガと同じものを食べられるようでした。それがわかって安心したタイガは、嬉しそうに、カエルのリィナがサンドイッチを食べる姿を眺めていました。


 二人は、昼食を終えると、そのまま木の下の木陰で寝っ転がって、一休みすることにしました。辺りには誰もいません。ただ、鳥の鳴き声だけが聞こえます。二人はそうやって、寝っ転がりながら、話をはじめました。

「考えてみたら、リィナとこうやって旅するの初めてだね」

「うん、すごく楽しいわね!」

「うん楽しい。僕、リィナがこのままカエルでも好きだよ」

 タイガのその言葉を聞いて、カエルのリィナは、戸惑いました。好きと言われた事はうれしかったのですが、カエルのままでは困る。そう思ってこう言いました。

「え?それは困るわ!気持ちはうれしいけど。元に戻して!」

 リィナにそう言われ、タイガは、一瞬、しまったという表情を見せ、こう言いました。

「あはは!そうかごめん!楽しくてつい。必ず元に戻すよ!」

「必ずよ!」

「うん!約束する!」

「あははは」

 二人は、そんな風に、仲良く会話しながら、少しの間、眠りにつきました。二人の魔女探しの旅は、まだ始まったばかりです。一体、これから、どんな試練や冒険が待ち受けているのでしょうか?


 ●旧ローランド国へ続く道

 旧ローランド国。ここは、100年前に戦争で滅んでしまった、ローランド王国が、再び栄えて出来た街です。小高い山の上にお城があり、そのお城を囲むように、城下町がありました。お城の周りに城壁はなく、街全体を守るようにして、城壁が築かれていました。その城壁にある城門を、遠く眺める一人の若い女の姿がありました。

「ここが旧ローランド国か。こんだけデカけりゃ、悪い奴らもいっぱい居そうだな。えへへ」

 その若い女は、そんな事を言いながら、不敵に笑いました。年の頃は、タイガやリィナと同年代のようです。そのいでたちは、軽業師のような服装で、身軽そうな中にも、女性らしいあでやかさもある、といった具合でした。その若い女が、そうやって、不敵に笑っていると、突然、そう遠くない場所から、女性の叫び声が聞こえてきました。

「キャー!」

「ん?」

 その若い女が、悲鳴の聞こえた方へ目を向けると、女性が、男に荷物を奪われそうになっている所でした。

「お!早速、悪い奴!義賊のアリー様!ここにアリー!なんつって」

 その若い女、義賊のアリーは、そう言いながら、腰に身につけていたスリングショットを取り出し、弾を込め、追い剥ぎの男に向かって狙いを定めました。

「くらえ!アリー様の!百発百中の!スリングショットー!」

 アリーがそう言って、弾を放とうとしたその時でした。襲われている女性を助けようと、別の誰かが助けに入ったのです。

「ん?何だ、何だ?」

 アリーはそう言って、弾を引く手をゆるめ、状況を見守りました。


「お前!何をやっている!手を離せ!離さないと撃つぞ!」

 襲われている女性を助けようと、追い剥ぎに警告し、弓を構える若者の姿がありました。それは、タイガでした。旧ローランド国へもう少しのこの場所で、この現場に遭遇したのです。正義感の強いタイガは、迷う事なく止めに入りました。弓を向けられた追い剥ぎは、勝ち目がないことを悟ると、女性から奪った荷物をタイガの方に放り投げ、その隙に走って逃げていきました。タイガは弓を撃つことも出来ましたが、荷物も帰ってきたことだし、そこまではしなくてもよいだろうと思い、見逃すことにしました。助けられた女性は、タイガに駆け寄り、お礼を言いました。

「あの、ありがとうございました。急に男が襲いかかって来て、私の荷物を奪おうとして、力ではかなわないし、もう観念しようかと思った所でしたが、助けて頂いて、本当にありがとうございました」

 そう言って、女性は、深々と頭を下げました。それに対して、タイガが答えました。

「いえ、当然の事をしたまでです。女性の一人旅は大変ですね。行き先は、旧ローランド国ですか?」

「はい」

「やっぱり、僕たちと一緒だ!」

「僕たち…?」

 タイガのその言葉に、一瞬、不思議がる女性。その反応を見て、タイガはハッとしました。タイガの意味する所は、リィナの事だったのですが、カエルのリィナの事を、言う訳にも行きません。そこで、何とか、タイガは取り繕おうとしました。

「えーと、つまり、僕と、あなた、と言う意味です!」

「はぁ…」

「つまり、せっかくですので!一緒に行きましょう!」

「そう…ですね。私もその方が安心ですし、何かお礼がしたいですわ」

「そんな、良いんですよ。さあ、行きましょう」

「はい」

 タイガと、助けられた女性は、そうして、世間話をしながら、一緒に、旧ローランド国の城門へと向かって行きました。


「へぇー。あいつやるじゃん。やっぱデカい街には色んな奴が集まるな。こいつは面白くなりそうだ!」

 事の一部始終を、少し離れた木の上で見守っていた義賊のアリーは、そう言って、身軽に木々の枝を飛び跳ね、タイガたちより先回りするルートで、旧ローランド国へと向かって行きました。


 ●旧ローランド国

 旧ローランド国。小高い丘の上にあるお城を中心に、円を描くように街が形成され、それを囲むように城壁が築かれた街です。街の中は、様々なお店が建ち並び、人々で賑わっています。今、城門をくぐって、義賊のアリーが街の中へ入って来ました。

「ひゃー、凄い人。これだけ人が居れば、悪い奴もいっぱいだな。義賊のアリー様の大活躍、ご覧アリー!なんつって。わっはっはっはっ!」

 アリーはそう言って、意気揚々と、人混みの中へ消えて行きました。アリーが去ると、ほどなくして、タイガと先ほどの女性が、街の中に入って来ました。タイガに助けられた女性は、再びタイガに深々と頭を下げ、何度もえしゃくをしながら、去って行きました。女性が行ってしまった事を見届けると、タイガは急ぐようにして、バッグを開け、カエルのリィナに話しかけました。

「ごめんね、リィナ。きゅうくつじゃなかった?」

「私は大丈夫!他の人に言うわけにはいかないもの。しょうがないわ」

「本当にごめんね、今、出してあげる」

「うん!」

 タイガはそう言って、カエルのリィナを手で優しく包んで、バッグから出してあげ、街を見せてあげました。

「わー!すごい人!クリコの村とは大違いね!これなら何か知っている人が居るはずだわ!」

「うん!そうだね!よし!それじゃあまずは宿を見つけて、それから街を散策しよう」

「ええ!」

 タイガたちは、そう言って、宿を探すことにしました。大きな街ですので、宿屋は沢山あります。タイガたちは、安そうな宿を見つけ、中へ入って行きました。


 タイガは、宿屋へ入ると、手続きをするため、受付のカウンターのそばにあった長椅子に荷物を置き、その中に居るカエルのリィナに話しかけました。

「今、手続きして来るから、隠れて待っててね」

「うん!任せて!荷物は私が見張っておくわ!」

「ふふふ」

 タイガは、そうして、微笑みながら、受付に向かいました。カエルのリィナも、ニコニコしながら、タイガが帰って来るのを待ちました。カエルのリィナは、少し待った後、タイガの帰りが待ちきれなくなって、荷物の開け口から、すこしだけ顔を出して、外を覗いてみました。するとそこに、荷物に近づいてくる男の影があったのですが…それは、タイガではありませんでした。何とそれは、さっき、タイガに追い払われたはずの、追い剥ぎだったのです!カエルのリィナは、声を上げようとしましたが、突然の事で、体が固まってしまい、声を出すことが出来ませんでした。追い剥ぎは、そんな事には気づかず、辺りをキョロキョロ見回し、タイガの方にいやらしい目つきを向けると、「ふん!」と笑い、次の瞬間、まるで、これは自分の荷物ですよ、という風に、自然に荷物を肩にかけ、外へ出ていこうとしたのです。しかし、その時です。カエルのリィナは、勇気を振り絞り、ついにこう叫んだのです!

「ケロケロケロケロケロー!(タイガ!さっきの追い剥ぎよ!荷物が盗まれちゃう!私も!助けて!)」

 突然、荷物の中から聞こえてきたカエルの鳴き声に、近くの人たちは、みな驚いて、目を向けました。荷物を持っている追い剥ぎも、「何だぁ!?」と声をあげ驚きました。当然、カエルのリィナの声がわかるタイガも気がついて振り向き、状況を理解しようとしました。

「リィナ!?あれ、荷物が?あ!お前はさっきの!」

「ケロケロケロー!(タイガ!助けて!)」

 状況を察したタイガ。カエルのリィナも助けを求めて鳴き続けます。その状況に、追い剥ぎは、たまらず荷物の口をふさいでカエルのリィナを黙らせ、一目散に、タイガの荷物を持ったまま、外へと飛び出していきました。

「待て!荷物を返せ!リィナも!」

 タイガはそう言いながら、大急ぎで宿を飛び出し、追い剥ぎを追いかけて行きました。リィナの大ピンチです。タイガは無事に、荷物とリィナを取り返すことができるのでしょうか?


 ●荷物を取り返せ

 旧ローランド国の街の中。人混みの多い大通りから、少し道をそれた場所。人もそれほど多くない、落ち着いた宿屋街を、義賊のアリーが、鼻歌を歌いながら、陽気に歩いていました。

「ラララ♪正義の義賊~♪アリー様~♪っと。悪い奴は、居ないかな?」

 アリーがそんな調子で、宿屋街を歩いていると、その内の一つの宿屋から、荷物を持った男が飛び出してきました。その姿を見て、アリーは驚きました。

「あ!あいつは!さっきの!」

 そうです。それは、さっき、旧ローランド国の外で見た、追い剥ぎの男でした。確か、撃退されたはずだけど…。そんな風に考えていると、今度は、別な若い少年が、その男を追いかけるように、宿から飛び出してきました。

「待てー!荷物を!リィナを返せー!」

 その少年を姿を見て、アリーはまた驚きました。

「え!またさっきの!リィナ?ってのはよくわかんないけど…」

 アリーは、全ての状況を理解した訳ではありませんが、大通りに逃げていく追い剥ぎの男と、それを追いかけるタイガの姿を見て、大まかな事は理解したようでした。

「よし!状況は大体わかった!正義の義賊アリー様!助太刀いたす!」

 アリーは、そう格好をつけて、見栄を切ると、持ち前の俊足で、風を切るように、二人を追いかけて行きました。


 旧ローランド国、市街地の大通り。大勢の人々が行き交う中、先程の追い剥ぎが、人混みを縫うようにして、逃げていきます。タイガは、必死で追いかけようとしましたが、人混みが多く、中々前へ進めません。

「待て!泥棒!あ、すみません!くっ、このままじゃ、見失ってしまう!リィナ!」

 人混みの中で悪戦苦闘するタイガ。その時です、その近くにある広場の噴水の彫刻のてっぺんに、サッと降り立つ影がありました。アリーです。アリーは大通り一面が見渡せるその場所から、タイガに声をかけました。

「そこの兄ちゃん!あいつから荷物を取り返したいんだろ?手伝ってやろうか?」

 声をかけられたタイガは、最初は驚きましたが、荷物とリィナを取り戻してくれるなら、誰でもかまわないと思い、こう答えました。

「え?!あ、うん!頼むよ!誰でもいい!とにかくあの荷物を取り返してくれ!礼はする!」

 礼はする。タイガのその言葉を聞いて、アリーの目がキランと輝きました。

「ホントか?よーし!取引成立だ!昼飯たらふく食わせてくれよな!いくぞ!トォー!」

 アリーはそう言うと、彫刻のてっぺんからふわりと飛び上がり、道行く人の荷車などを踏み台にしながら、瞬く間に、たくさんのお店が連なる屋根の上まで駆け上がって行きました。その屋根の上からは、街行く人々の動きが、手に取るようにわかりました。逃げていく追い剥ぎの動きも、手に取るようにわかりました。

「へへーん。丸見えだよー」

 アリーはそう言うと、屋根伝いを、ピョンピョンと軽快に飛び回り、瞬く間に、逃げる追い剥ぎに追いつきました。次の瞬間、アリーは、腰に身に着けていたボーラ(石のついた投げ縄)を取り出し、クラッカーのようにカチカチと鳴らせて遊ばせた後、そのボーラをすごい勢いでグルグルと回し始めました。

「くらえ!必殺!アリー!クラッカー!ヴォレイ!」

 そう言いながら、アリーが高速で回転するボーラを、追い剥ぎに向けて放つと、そのボーラは、追い剥ぎの足に、グルグルと絡みつきました。

「何だ!?くそっ!」

 足の自由が奪われ、身動きができなくなった追い剥ぎは、ついにその場に倒れ込んでしまいました。

「イェイ!技アリー!なんつってな」

 見事に追い剥ぎを捉えたアリーは、そう言って、また格好をつけて、見栄を切りました。


 追い剥ぎの足止めに成功したアリーは、屋根からヒョイと、バルコニーや店のひさしの部分を踏み台にして、石畳の道に降り立ちました。身動きが出来ずに、もがく追い剥ぎを、アリーは勝ち誇ったように見下ろし、追い剥ぎが手放してしまった荷物を楽に拾い上げました。そして、何を思ったのか、辺りを見回すアリー。遠くに憲兵の姿を見つけると、急にこう言いました。

「きゃー!誰か助けてください!この人!泥棒です!」

 さっきまで、男勝りの様子で、大活躍していたアリーが、急に、かよわい女の子のような声を出し、憲兵に助けを求めたのです。その声を聞き、駆けつけた憲兵は、アリーの話を聞いて、追い剥ぎ捉え、後ろ手に縄をかけ、連れていきました。追い剥ぎは、憲兵に連れられながら、アリーを一睨みしましたが、アリーは、べぇーと舌を出して、返しました。その時、ちょうど、走ってきたタイガが追いつき、アリーに真剣に声をかけました。

「君!荷物は!?リィナは!?」

「おー、やっと来たか。また、リィナって言ってるな?そいつはよくわかんないけど、荷物なら、ほら」

 アリーはそう言って、笑顔でタイガに荷物を返しました。荷物を受け取ったタイガは、真剣な表情で、急いで荷物の口を開けて、中を確認しました。

「リィナ!無事かい!?」

「タイガ!怖かった!うえーん!(ケロケロケロ)」

 そう言ってタイガは、荷物の口から顔をのぞかせたカエルのリィナを、荷物ごと抱きしめました。タイガの目には、涙すら浮かんでいるように見えました。そこに響く、ケロケロというカエルの鳴き声。

「なんだぁ?」

 アリーは、その状況を、全く理解することが出来ず、ただポカンと口を開けて、眺めている事しか出来ませんでした。


 ●アリーへのごちそう

 アリーの大活躍で、盗まれた荷物と、大切なカエルのリィナを取り返してもらえたタイガは、感謝して、何度も何度もお礼を言いました。アリーは、当然の事をしたまでだと言いながら、自己紹介を始めました。自分は、お宝を探して旅をしている義賊だということ。義賊というのは、物は盗むけれど、悪い奴からだけしか盗らないこと。つまり、自分は、正義の義賊なのだと、自慢げに言いました。そして、タイガが、旧ローランド国の外で、追い剥ぎから女性を救ったことを見ていた事も話しました。そういう経緯もあって、自分はタイガを助けたのだと。正義の義賊として当然のことなのだと、自慢げに言いました。アリーの自己紹介が終わると、今度は、アリーが、タイガと、特にカエルのリィナに興味津々のようで、色々と聞きたそうでしたが、タイガが、「それは、お礼のごちそうを食べながら話すよ」と言うので、そうする事にしました。そうして、タイガたちは、大通りへ戻り、手頃な大衆食堂を見つけ、中へ入って行きました。


 タイガたちは、大衆食堂の中へ入ると、奥の方にある、人目の届かなそうなテーブルを見つけ、そこへ腰掛けました。アリーは、メニューを眺め、何にしようかと考えましたが、それを見たタイガが「何でも好きな物を頼んでいいよ」と言うので、アリーは目を輝かせて、「じゃあ、これと!これと!あ!これも!」と言いながら、たくさんの料理を注文しました。料理が来るまでの間、タイガは、リィナがカエルになってしまったいきさつを話しました。アリーは、半信半疑のようでしたが、興味深そうに、ふーんと言いながら、聞いていました。タイガの説明が終わると、ちょうどそこへ、料理が運ばれてきました。骨のついた鳥のモモ肉や、チーズのたっぷり乗ったパイ、釜で塩焼きにした大きな魚、そして更には、こんがりと焼けた豚の丸焼きまで出てきました。その豪華な料理の品々を見て、アリーが目を輝かせて言いました。

「うひょー!すっごいご馳走!これ全部食べていいの?!」

「ああ。好きなだけ食べてよ。なんてったって、リィナの命の恩人だからね!」

「やったー!それじゃあ遠慮なく!いっただきまーす!」

 そうして、アリーは、豪快に料理を食べ始めました。

「もぐもぐもぐ。うまーい!こんな豪勢な料理、めったに食べられないよ!うん、うまい!」

 ごちそうを食べてよろこぶアリーを見て微笑むタイガ。そのタイガは、今度はカエルのリィナの方へ目を向けました。カエルのリィナは、人目に付かないように、壁を背にして、メニューを三角に立てて、向こうからは見えないようにしてあげました。そのカエルのリィナを見ながら、タイガは優しく言いました。

「ちょっと待ってね。今、リィナにも食べられそうな料理を選んでよそってあげるね」

「うん!ありがとう!」

 そうして、タイガは、カエルのリィナにも食べられそうな料理を小皿に取ってあげました。その豪華な料理に、カエルのリィナも、よろこんで、ごちそうを食べ始めました。アリーは、その様子を見て、料理を食べながら、話し始めました。

「しかし、このカエルが、リィナって女の子だとはねえ。知らなかったら捕まえて食っちまう所だ。アタイの国ではカエルはご馳走なんだ!(モグモグ)」

 アリーのその言葉を聞いて、タイガたちが、あわててこう言いました。

「だ、だめだよ!リィナは!」

「そうよ!食べないで!(ケロケロケロ)」

 そう言って、あわてる二人を見て、アリーは笑いながら言いました。

「あははは!冗談だよ!それにしても、このケロケロも、タイガには言葉に聞こえるんだろ?じゃあやっぱり魔女の呪いかな?」

「うん。長老の推察だと、そうかもしれないって。あとはもう少しこの街でも情報収集して、カイゼル国の魔女の城に行こうと思う」

「魔女の城かあ。何かお宝もありそうだな?アタイもついてって良いかい?役に立つぜ!」

 アリーのその申し出に、タイガは、カエルのリィナに向かって、ひそひそ声で相談しました。

「どうする?リィナ?君はどうだい?」

「私、この子は信用出来ると思うわ。命の恩人だし。それに、仲間が居たほうが心強いわ!」

「そうだね。仲間に入れよう!」

「うん!」

 カエルのリィナとの相談を終えたタイガは、アリーに向かって言いました。

「アリー、リィナも賛成だって。僕からもお願いするよ」

「よーし!今日からアタイ達は仲間だ!よろしくな!」

「うん!」

「よろしくね!(ケロケロケロ)」

「よーし!それじゃあ!仲間になったお祝いと、冒険の成功を祈って、アリー様が一曲ご披露いたします!」

「ええ?!」

「ヘ?(ケロ?)」

 アリーは、そう言って、とつぜん、歌を歌い始めました。

「俺たちゃ、みんな、盗賊だー♪でも悪いやつからしか盗らない、正義の義賊だぜー♪」

 上機嫌で歌うアリー、しかし、その歌詞の内容に、おどろくタイガとカエルのリィナ。

「ええ!?ちょ、ちょっと!?その歌詞の内容はまずいよ!」

「そ、そうよ!わたしたちは盗賊じゃないわ!(ケロケロケロ!)」

 そうして、止めようとした二人でしたが、何故か、食堂の他の客たちが、アリーの歌に手拍子を始め、もりあがってしまったので、タイガとカエルのリィナは、はずかしそうに、肩をすぼめて、歌が終わるのを待ちました。

「ラララ♪正義の義賊~♪アリー様~♪ヘィ!」

 そうして、アリーが歌を締めくくると、大喝采が起こり、おひねりを持ってくる客まで現れました。

「はい!おひねりを頂きました!ありがとうございます!このアリー、歌手も目指しております!応援よろしくお願いします!」

 アリーがそう言うと、また食堂は笑いに包まれ、拍手が起こりました。その様子に、タイガとカエルのリィナは、はずかしいような、でも楽しいような気持ちで、小声で会話しました。

「まいったなあ。仲間にするって言っちゃったけど、大丈夫かなあ?」

「うふふ!そうね、急に何をするかわからない所もあるけど。でも、頼りにはなるわ!私たちと全然違うタイプの子だけど、こういう人も必要だわ!何より、命の恩人ですもの!」

「そうだね!悪い奴では絶対にないし。一緒にやって行こう」

「うん!」


 ●第一部エピローグ

 こうして、タイガとカエルのリィナは、義賊のアリーを仲間に迎える事にしました。タイガは、カエルになってしまったリィナの呪いを解くための魔女探しの旅。そして、義賊のアリーは、魔女が持っているかもしれないお宝目当ての旅です。3人の、いや、2人と一匹の、魔女探しの旅。これから、どんな困難や冒険が待ち受けているのでしょうか?今は、2人と一匹ですが、無事に魔女の呪いを解いて、3人になれるのでしょうか?それは、お話の続きを楽しみにしてくださいね。また、お会いしましょう。


(第二部へ、つづく)

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