城壁
私の国は北にある山脈で、北方の異民族からの侵攻を防ぎ、長く続く城壁で、砂漠地帯から来る騎馬民族や遊牧民族の侵攻を押さえている。座学で習った。
かと言って、、、、その城壁に私が特別に興味を持つなんてありえない。
だって、昔からそこにあるんだもの。
だから、嬉々としてその城壁を見上げているこの鳥の巣頭を不憫なものを見るような目で眺めてしまう、、、、楽しい?
これを見るために、王都から馬車で4時間も揺られてきた。休憩しようよ。
「兵の詰所から、上に登れますが、どうしますか?」
一緒に来た将軍が尋ねると、
「え?いいんですか!嬉しいです!」
まだ、動き回る気か?
怪しいやつ。こんなところまで来て、一体何が目的なんだろう?
実は騎馬民族と内通しているとか??そうかも?城壁の弱点を探っているとかかしら?
詰所の中の階段から城壁にあがる。警備の兵が先導し、鳥の巣頭の後から続いて昇る。後ろには、将軍が付いてきている。
実は、、、私も初めてだ。
石段のような階段は、かなり昔に作ったものなんだろう、角が丸くなっている。
薄暗い階段を上がると、空が急に開ける。
風が吹いている。
「あらあ!」
城壁の上は、他人がすれ違えるほどの広さの通路が作られており、高い塀のところどころに外が見渡せる切込みがある。風はそこから吹き込んでいる。
城壁の向こう側は、、、続く荒野と、遥か先に広がる砂漠。ずっとずっとだ!
私が塀にしがみついて、外側を見ている間中ずっと、鳥の巣頭は案内してくれた兵に、いろいろと聞いている。どのくらいの長さか、とか、ここの建造はどのくらい前なのか、とか、、、、
「公主様、こちら側からは、我が国が見えますよ。」
笑いながら、将軍が通路の反対側の切込みを指さす。
「あらあああ!」
秋の王都が、くすんだ緑の中に佇んでいる。
宮殿も小さく見える。
続く街道や、街並みが、こぼした芥子粒に線を引いたみたい!
離宮のある大きな湖が、陽を受けてきらきらと輝いている。
緑地が広がるのは畑かしら?
所々に、集落もあるようだわ、、、、
背中に風を受けて、王都の景色を眺める。素敵!
我が国は広いと聞いてはいたけれど、本当に広いんだわ。
「ねえねえ、あなたの国はさすがに見えないのかしらね?」
鳥の巣頭に聞いてみる。
「え?ああ、、、、」
鳥の巣頭は西の方角を眺めると、
「さすがに見えませんね。」
と、笑った。
ふううん、そうなんだ。
もっともっと高いところに登ったら、フール国や鳥の巣頭の国も見えるのかしら?どこかしら?山脈?夏でも雪が消えない山脈に、人は登れるものかしら??
「山脈に登っても、この角度では、、、見えないですねえ。
公主様のお父様の国は、広大ですからね。」
なに?なんで考えてたことが分かったのかしら?
警備の兵の案内で、ぶらぶらと城壁の上の道を歩く。茶色い石?レンガかしら?
敷き詰められているそれは、綺麗に並んでいる。
「焼いたレンガですね。日干し煉瓦も使うと聞きましたが、ここは王都が近いので、補修されているんですかね。このモルタルは、、、、なにが使われているのか分かりますか?」
祖父が昔、壁の補強工事に駆り出されていた、というその兵でも、さすがに細かいことはわからないようで、、
この先、100里くらいのところで、修復工事がなされています。そこで、実際に現場の人に聞いたほうが早い。、、、などと話しているのが聞こえる。
100里???まだ行くの?
しばらく歩いた先に、見張り台のような詰所があった。
そこで、休憩。やっと、、、、、
砂漠方面に向いた窓が開けている。
石でできた椅子とテーブルがある。疲れはてて、座ろうとすると、鳥の巣頭が羽織っていた夏用の上着を椅子にひいてくれた。
「すみませんが、これで我慢してくださいね。じかに座るよりは、汚れないと思います。」
そんなことを言いながら、さっさと自分も座って、窓から外を眺める。
将軍が付いてきた何人かの兵に申し付けて、飲み物と包子を用意してくれた。
3人で向かい合って、お昼ご飯を食べる。
「・・・疲れませんか?」
「・・・・・」
疲れたわよ。普段あんまり歩かないし。
包子をほおばる。甘いものを食べたいわ。
「素晴らしい建築技術ですね!さすがに、歴史のある国は違う!
イリアで水道橋も見てきたのですが、、規模が違い過ぎる!」
へええええ
「煉瓦はどこで焼かせているんですかね?土はどんなものでしょう?
一番は、、、、使われているモルタルです。教えてほしいですねえ、、、、」
もるたる?
鳥の巣頭は嬉しそうだ。
何がそんなに嬉しいのか私にはわからないが、、、、その《《もるたる》》の秘密を探りに、これから100里進む、とかは勘弁してほしい、、、、
程よく冷えたお茶を飲む。
この男の独り言を聞きながら、お昼も食べ終わってしまった。帰りたい、、、
「今日はもう帰りましょう。遅くなると、ハオランが心配するでしょうからね。」
将軍の後に続いてゆっくり石の階段を降りる。ふっ、と足を滑らせてしまった。
が、、、、ふわっと腰に手を回されて、転ばずに済んだ。
「ぶ、、、、、」
「ぶ?」
「無礼者!!!!」
「あはは!すみません。驚きましたよね。」
鳥の巣頭はさほど気にしていないように笑った。触るか?普通?まあ、そうしてもらわないと転んでたかも、、、、
そこの見張り台の階段で下に降りると、将軍が馬車を寄せてくれていた。
助かったわ、、、、
鳥の巣頭は名残惜しそうに城壁をしばらく見上げていたが、やっと乗り込んできた。
「ああ、そう言えば、、、はい。」
可愛い紙に包まれた、、、、チョコレート??
「忘れて、溶かしてしまうところでした。召し上がれ。」
隣に座る将軍は、なんの遠慮もなくぱくっと食べてしまった。この人は、、、甘いもの好き?鳥の巣頭も食べている。
私?、、、、、食べますわ、、、、、