謁見
夕刻に、皇帝陛下と皇后と、一段下に私も座る。
謁見の間では、議会がおわった州の族長たちが揃って首を垂れている。
「皇太子殿下、ご帰還でございます。」
兄上が、まっすぐ前を見て進む。
ほんの少し後ろに、義姉が付き従っている。
「ただいま帰りました。」
「うむ。」
皇帝陛下は、、、もう顔が赤い。いつものように昼間からお酒を召し上がっていたのでしょう。
「此度、我が国に留学してまいりました、ブリア国王太子、エドワード様です。」
金髪碧眼の男の子が紹介される。
へええええ、、、王太子だったんだ。
控えていた人々から、ざわめきが起きる。
「エドワードと申します。1年間、この地でお世話になります。皇帝陛下と皆様方には、後ほど改めまして、ご挨拶の品を。」
後ろに控えていた鳥の巣頭の男の子は特に紹介されなかったから、従僕なのかしら?
エド、と呼ばれた子はきれいな色のブリアの正装だったけど、鳥の巣頭は地味目な茶色い上着だったし。
あっけなく、謁見は終了した。
皇帝陛下は足早に後宮に帰って行くようだ。母、、、皇后が付き従っている。
「では、皆の者、明日の朝議で。」
兄がそう告げると、ざわついていたみんなが、ピリッと姿勢を正す。
私が頭を上げる頃には、兄も自分の屋敷に帰って行くところだった。友人2人も一緒に。・・・・お土産は、、、何かしらね?
次の日から、屋敷中、ブリア国のエドワード様は私狙いなのでは?という噂話が広がっていた。
私の髪を梳きながら、側付きの女官が言う。
「背は皇太子様ほどほど大きくはありませんが、整った顔立ちをなさってますよねえ。ブリアの王太子はまだ婚約者もいらっしゃらないとお聞きしました。これは、、、
スイラン様狙いで間違いないでしょう!!年恰好もちょうどでございますね。」
「あっという間に、公主様の美しさにとらわれて、膝を折るに違いありませんわ!」
「私も公主様がお輿入れの際は、ブリア国まで参りますわ!」
「・・・・・」
私は13歳。
15歳になったら、どこぞに嫁に出される。父、、皇帝陛下の命じたところに。命じられたら、どこにでも行くしかない。属州だろうが、他国だろうが。
年よりだろうが、年端のいかない子供のところでも。
この国には三従の掟、というのがあって、、、婚姻前は父親に、婚姻後は夫に、夫の死後は息子に、、、従うのが美徳と、小さい頃から学んできた。
不自由はない生活。自由もない。
息子が産めなければ、、、正室であろうと、、自分の代わりなどいくらでもいる。
兄嫁、シーハンは特別だと思う。兄は、シーハン以外の女を近くに置かない。
兄が風呂に入るのも、着替えるのも、全て彼女がやっている。例外中の例外。
どこに行くにも離さずにつれていく。
兄が、ブリアに留学すると言いだしたとき、シーハンをまさか置いていくとはだれも思わなかった。
義姉に、一度だけ聞いてみたら、、、ほんわりと微笑んで終わってしまった。読めない人である。
噂話に盛り上がる女官たちに言う。
「お前たち、、、憶測でそんな話は無礼ですよ。」
本当に、、、自分で決められることなど何もないのだから。