睡蓮
物憂げな、、晴れとも曇りとも言えないような昼下がりに、義姉が珍しく遅い昼ご飯を誘って下さった。
皇太子の屋敷まで出向く。そういっても、敷地内だ。
ゆるりと歩き、池の睡蓮などを眺めながら向かう。
「公主 翠蘭様、お越しでございます。」
お義姉さま付きの官女が、首を垂れる。
兄の、皇太子用の部屋は、大きく開いた窓から咲き乱れる花々が、額縁の絵のように見える。やや、逆光気味になって気が付くのが遅れたが、義姉の他に人影がある。
「お誘いいただき、、、」
と、言いかけて、兄の声がそれを遮る。
「先ほど帰った。まっすぐこちらに来てしまったのでな。お前を呼びつけてしまった。」
兄は、二つ向こうの国、ブリア国に2年の約束で留学していた。予定より、ほんのすこし早いご帰還、、、、
「お元気そうで何よりでございます。」
深く礼をすると、顔を上げるよりも早く、返事が返った。
「まあ、堅苦しいのは、いい。
こちらに座れ。我の友人も此度、こちらに留学に来た。紹介しよう。」
兄も、ご友人も、本当に着いたばかりなのだろう。まだ、埃っぽい着物のままで、しかも、身なりが平民のよう、、、
席に着こうとして、、ちゃんと人数分の席と料理が用意してあることに気が付く。
こういうところが、、、義姉の、、読み切れないところだと思う。
「我の友人の、エドとトーマだ。ブリアの学院で世話になった。いや、、、世話をしたのかな?」
兄はご機嫌がよろしいようで、、めずらしく冗談を言って笑っている。本当に、、、珍しい、、、
「ハオランの妹、スイランと申します。」
もう一度、深い礼をして、ゆっくりと顔を上げる。
『え?ハオランの妹さん、なんというか、、、物凄く美人だね。』
エド、とよばれた男が、ブリア語で何か言っている。金髪碧眼でいい男なのに、、軽薄そう、、、、
「とりあえず、、昼飯にしよう!腹がすいた、、、」
トーマ、と呼ばれた茶髪の鳥の巣のような頭の眼鏡男が、栄国語で言った。あら?
ちょっと、平民の使うような言葉使いだけど、栄国語話せるのね?
よほどお腹がすいていたのか、三人はよく食べた。5人分以上の料理が、所狭しと乗ったテーブルが、どんどん片付いていく。
義姉は、、、嬉しそうに兄を眺めている。まあ、、、何時ものように、べったりなんだけどねえ、、、、客人の2人も、べったりな二人を気にするそぶりもない。
私も侍女に水餃子をよそってもらう。
少し甘くて美味しい。私のお気に入りだ。
兄が、、、こんなにくつろいで客人と食事をとったことがあっただろうか?