戦場の真ん中で息づく敗残兵の心境
セミが泣き、虫がうごめく鬱蒼と茂る森、その泥道に戦意を失ったまま倒れているある敗残兵の話である。彼がどのような一生を過ごし来たのか、何が好きで、何が嫌いなのかは誰も興味がない。
蒸し暑い気温に、虫たちはもっと大声を出し、彼は自分の国が戦争から負けたということさえ知らない。彼は戦場の真ん中にいながらも、国に送られた敗報よりも情報が遅いわけである。国民たちが流している涙と彼の涙は根本的な重さから異なるものであった。彼はただ、彼の部隊と戦友たちが全滅したという事実や、そこから自分のみが生き残ったということに対するつまらない罪悪感にとらわれているだけであった。
額に流れる熱い汗しずくで自分の努力が認められてほしいのかもしれない。だがやはり、誰一人として彼に興味がないのであった。自信に満ちていた遠征、知り合い一人すらいない小さい田舎の町で、寒さに夜中震えていたボチちゃんの器のように冷ややかな鉄の塊を肩に担い、今日も昨日と同じく無事であることだけを願っていた、欲張らず小さくて些細な幸せを願っていた者たちに分不相応な欲張りをしたと袋叩きにするような、火薬の匂いが漂う風景を彼らの手で作ってしまったわけである。なので彼に興味を持ってくれる者は一人も残っていなかったのだ。
彼は泥の中に埋まっていた手と足を抜き出し、偽装のために積み上げられていた枯れ葉のなかに身を潜めた。もしかしたら罪悪感がいつのまにか安心感に変貌して、自分をいじめていたように感じられた日差しが穏やかに感じられてきたのかもしれない。日差し、仲間たちの死体を腐らせる夏日が穏やかに感じられる肉体が人を悲惨さと罪悪感の沼にはめるということを今の彼には分らないはずだろう。今はだた目の前の不安を枯れ葉で覆い、暗い視界の中ですべてを忘れてぐっすりと眠りたいだけであろう。