ダンジョン攻略を配信中!
「みなさんこんにちは! ダンジョン、攻略してますか?」
今はまだ薄暗い場所だが魔道具によって明るくなっているこの場所で、設置されたカメラに向かって挨拶する。
『そこどこ?』
『全く見たことがない』
『まーた階層を更新しちゃってるよ、このチーターが』
『五十階層まで行っている俺でも分からん』
『早く教えろ』
『今日はどんな無双を見せてくれるのやら……』
『カイさまのおかげでパーティーメンバーと二十階層まで無事にたどり着けました!』
配信中のコメントをスマホで確認しつつ、俺は口を開く。
「まぁまぁ、みなさん気になっているだろうから言っちゃいますね。自分が来ている階層は、何と日本第一迷宮の八十三階層です!」
俺の言葉を聞いた視聴者たちは、かなり反応が良かった。
『マジかよ!』
『ウソだろ……』
『そんなバカなw』
『そもそも本当か分からないよな。六十階層以上は十人以上が推奨されているのに』
『この人ならやりかねないと思っている』
『第一迷宮ってかなり難易度が高い場所だろ。そんなわけがないだろアホ』
『いやいや、この人ならできるだろ。初見か?』
色々なコメントも見つつも、今回の配信の概要を話す。
「今までは要望があった第一から第五までの迷宮の攻略を配信してきましたが、今回は最強配信者であるこのカイが到達できる階層を教えてほしいといった要望がありましたので、八十三階層のボスの情報を教えつつ配信していきたいと思いまーす!」
あまりこういう配信をする気はないのだが、レベル上げも兼ねてやることにした。
だってこういう配信をしてもみんな真似できないからあまりやりたくないんだよなぁ。
『まさか八十三階層のボスを配信で見れるとは……』
『ガチで八十三階層に行ってるのか?』
『そもそも等倍速で見れるものなのか?』
『まあ見てみようじゃないか』
数秒だけ流れているコメントを見てからスマホを切ってカメラの後ろに置いた。
そして結界の魔道具を起動してこの場に衝撃やら他のものが入らないようにしてから、そこに突き刺していた黒い龍が巻き付いている槍を手にした。
「さぁ、出てきましたよ。八十三階層のボス、『蒼灯の蛇王』が」
しっかりとマイクを装着していることをもう一度確認して、俺が進んだところで周りに立てかけられている松明が青い炎で灯り始め、この広い空間の中央にいる巨大な生物たちが目を開いた。
一戸建て住宅を軽く飲み込めるくらいの巨大な体に、頭が二つある青い炎を纏っている蛇、蛇王が俺のことを見下ろしていた。
「この蛇王の特徴は何と言ってもパワー!」
シャーッ! と言った蛇王が食わんばかりに二つの頭で口を開いて俺に向かってきた。
「普通の人なら危険なので避けましょう」
槍を横に薙ぎ払ったことで風圧で蛇王は後ろに吹き飛んだ。
だが頭が吹き飛んだだけで胴体は吹き飛んでいないからすぐに蛇王は二つの頭で左右から攻めてきた。
「この蛇王の双頭はそれぞれが別々の行動をしてきますが、行動パターンは限られています」
カメラを気にして双頭を槍で軽く殴って位置調整を忘れない。
「今のように双頭で追い込んでくる行動パターンが一つ目です。これは単純なパワーだけなので気にする必要はありませんね。ですがこの状態でも青い炎の熱は来ているので気を付けておきましょう」
ただの双頭の攻撃だと通じないため、次の攻撃パターンに入った蛇王。
表面からも出ている青い炎が、双頭の口から俺に向かって吐き出された。
青い炎は槍を縦横無尽に振り回して風を起こしたことで俺には届かなかった。
「蒼灯の蛇王は毒が一切ない代わりに双頭から青い炎を吐き出す行動パターンが二つ目です。ですが毒に比べたら大したことはありませんね。ただ片方が青い炎を吐き出し、片方が物理攻撃を仕掛けてくることがあるので注意しましょう。それから蛇王には炎魔法は一切ききませんので、そこも注意ですね」
俺が説明している間にも、片方が青い炎を吐き出すのをやめて俺を喰らおうと口を開いて向かってくる。
「『電光線』」
槍から片手を放して手のひらを物理攻撃を仕掛けてくる蛇王に向けて一直線の雷魔法と光魔法の合わせ技を放ったことで片方はダウンした。
「今のように雷魔法と光魔法は有効ですので、両方使える人は合わせ技を使っていきましょう」
双頭での攻撃ができなくなったことで、最後の武器が俺へと迫ってきた。
「最後の行動パターン、それが触れているだけで地面がマグマと化す高熱の尾です。双頭が来ている時でも跳べば狙ってくるので注意しましょう」
俺に迫ってきた尾を跳んで避け、視聴者に見せるようにする。
「Sランクの武具でないと溶かされてしまいます。避けるのがいいでしょう。青い炎もかなりの熱量を持っていますが、Bランク以上なら耐えることができます」
何度も戦って何度も検証しているからかなり蛇王のことには詳しいと自負している。
「蛇王の魔石は双頭の股にあります。蛇王はその場から動くことはありませんから、速さに自信がある方は一点突破するのもありでしょう。自分はこうしますが」
魔石が分かっていればボス攻略は比較的に簡単なものになる。
襲い掛かってきている蛇王の頭と尾を弾き、再び襲い掛かってくる前に蛇王の魔石に向かって槍を投擲した。
勢いをなくしていない槍が穂先に魔石をつけて蛇王から出てきて壁に当たって止まった。魔石を壊さない程度にやったから魔石は砕けていない。
そして魔石を失った蛇王は、塵となって消え、塵になった後に残ったのは、蛇王の尾と蛇王の皮だった。
「今回のドロップアイテムは尾と皮でした。ちなみに検証している時に出た『青炎のたね』が一番いいドロップアイテムです」
自動で戻ってきた槍についてきた蛇王の魔石もカメラに見えるように近づく。
「蛇王の魔石にはSランクの『青炎』の効果がついています。蛇王を見ていた通り、青い炎を使うことができるようになる効果なので、使い勝手はいいと思います」
蛇王を倒すことができ、槍を地面に突き刺してカメラの後ろにあるスマホをとりに行く。
そして配信画面から流れているコメントを見る。
『すげぇ、これがSランク冒険者の戦いかよ……』
『もう何も言えねぇよ』
『本当に戦っているわけ?』
『何だか蛇王が弱く見える』
『同接一位だ』
『さすがはカイさま!』
『他窓で他の配信や動画を見たけど、この人マジなんだな……』
『どうせ何かの映像だろ。八十三階層を一人とか無理に決まってるだろ』
『きっと近くで見ていたらすごい衝撃が来ているな』
『信じない奴は絶対に冒険者じゃない人かにわか冒険者だよ。この人のすごさを分かっていない』
信じない人が二割くらいで、ほとんどの人が俺のことを称賛してくれている。
まあ今回の配信はこれくらいにしておしまいにするか。
「この蛇王と戦う推奨レベルはパーティーを組む場合は350以上は必要だと思います。ソロでは400は絶対にいりますね」
まあ日本や海外の冒険者平均レベルは100くらいで、ネットで出ている情報で最高レベルが300ほどだから、できる人たちがいるのかは分からないが。
「では今日の配信はここまでにします。何かご質問があればコメント欄から受け付けますし、必要ならまとめて配信します。ではみなさん、ダンジョン攻略を楽しんでください! ご視聴ありがとうございました!」
そう言って配信を切って一息ついた。
「ふぅ……ふふっ」
視聴者の数やら俺が戦っていた時のコメントを見て一通りニヤけてから後片付けをしてその場を後にした。