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暗闇に咲く花の如く  作者: 蓮華
7/8

メロウの町 6


✿.✿.✿.


┈┈┈┈神々が空と大地を創造し、星と天の遣いが戯れていた頃の物語。精霊が満ち、清浄な世界が広がっていた。


水から命が生まれ、大地が育て、風が守護し、炎が導く。幾星霜を経て形作られた神の箱庭は、いつしか命で溢れていた。


煌びやかな鱗で水を切る者、風を読み天を駈ける者、地脈に揺られ草木を支える者、寒さを退け有を生み出す者…精霊の加護を全身に受けた生命が躍動する世界。


万物に神が宿り、空気に命が息づく…そんな美しい世界に、手を伸ばす者が存在したのだ。


神の箱庭が創造されるより以前、無の中には闇が存在していた。暗く深いそれは、神が不要とした物だった。

地よりも深いそこに閉じ込められ、外界から時折運ばれる微かな息吹に触れようとする。

決して届かないそれに、いつしか悲しみや失望の感情が降り積もった。


唯の闇だった物は、次第に神に似た姿を得ていく。長い長い時間が過ぎて、闇はいつしか魔となった。


箱庭を護ろうとした神と、触れたいと手を伸ばした悪魔


お互いの化身の争いの後、神が光を持って闇を制したとされている ┈┈┈┈


(…創造の、お話…)


脳内に語りかけられていたそれは、シフォンが幼い頃より聞いて育った物語だった。

神の化身は今でも、各地でその闇を封じているのだと聞いた気がする。


「闇を封じている力が天に還った時、再び”光の子”がこの地に降り立つ」


(…だれ?)


目が開かない、身体を動かすことも出来ない。靄がかった思考も鬱陶しかった。


「私は貴女に託す者。

天に還った我が友人の想いを継ぐために」


(たく…す…?)


その問いかけには答えが返らなかった。

その代わりに、唇に軽い感覚が触れ、柔らかな何かが身を駆ける感覚が走る。

指先までそれが満ちると、強ばっていた全身から力が抜けた。


「精霊は、皆…貴女と共にあります」


どうか、それは忘れないで。

そんな言葉が反芻される中、開いた視界には光が広がった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈


「ーーして、ーーなの」


靄が晴れていくように、周囲の音が鮮明となって耳に届いてくる。

屋外の雑踏、風の囁き。近くに響く声は、微かに緊張を滲ませたの母の声。

いつもの茶葉の香りを大きく吸い込んで、シフォンはその目を開けた。


「じゃあ、シフォンがその封印の代わりを…?」


「言い伝えでは…そうね。

ただ、パンタレイの歴史上…今まで”光の子”が現れた記録は無いはずなの」


だから、この子に何が降り掛かるのか…正確に解る者はいない。

リエフには、アリアのそんな意図が伝わった気がした。


「…精霊が、教えてくれる」


身を起こしてぼんやりと窓を見やれば、シフォンの視界は色とりどりの光に溢れていた。

炎の深緋や風の白緑、水の白藍に地の榛色。

そして、シフォンの髪と同様の白金色の光が、町の外を示しているようだった。


「シフォン!気分は…っ、なにがあったの…」


アリアの手は、取り乱さないように胸元で固く握られていた。蒼白に近いその顔色を見て、シフォンは小さい謝罪を零す。

そのまま、先程の出来事を浚った。


「色んな精霊が見えるの…。光の精霊も、ここに…」


夢の中で出会った人物が、何かしたのだろうか。不思議な視界は酷く眩しくて、世界を幻想的に彩っていた。


「わたし、行かなきゃいけないみたい」


見上げた陽は、1番高い位置から沈み始めている。夜にはお祝いをして、母の作ったケーキを食べる。商店のおじ様から、今年のプレゼントは奮発したとも言われていたなぁ。

そんな日常が、どこか遠くに行ってしまった気がする。


”この町を離れて”


そんな声無き声が、シフォンの背を押しているようだった。


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