メロウの町 4
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「やれやれ、騒がしいね」
「……!セオドロス卿!」
声を上げていた遣いの者は、姿を表した賢女から1歩遠ざかる。静かに近づく老女の気迫は、口を閉ざすのに充分だった。
神経質に眼鏡を押し上げ、無言のまま兵に構えるよう指示を出す。
「おやおや、物騒なものだ」
クスクスと笑う彼女は、久しぶりに訪ねてきた友人に語りかけるようだ。
張り詰めた空気に不似合いなそれは、何度か戦を経験してきた兵が冷や汗を流すほどの違和感を伴っている。一触即発の騙し合い。先に動いたのはアイゼンテールの遣いだった。
「先の発光について、説明願おう!」
「あぁ、ちょっとした実験の失敗さ。
古代の魔法の解析に、ちょっとねぇ…」
「我が主は、古の光魔法だとの見解だ!
申し開きはあるか」
「さて…どうかな。
最近物覚えが悪くてねぇ」
のらりくらりと躱しながら、相手の情報を探っていく。賢女の目にのみ映る精霊達は、彼等が偽りを述べていないと頷いていた。
(アイゼンテールの者が動くとは…驚きだよ)
アイゼンテール家は、王家に準ずる程長い血統を誇る一族である。大々的な功績も後暗い証拠も覆い隠す、秘密主義の侯爵家。一時期は闇の一族の末裔とも噂され、不用意に動く事は避けたい筈だ。
「…我が当主への説明を要請したい。
ご同行いただけるだろうか」
「これはこれは、紳士的なアイゼンテール侯爵には似合わない強引さだ。
…何をそんない急いておる」
目を細めた賢女に、空気が張り詰めていく。
魔法も物理的なそれも、彼女の領域では分が悪い。
遣いの者は、当主より言付かったそれを口にした。
「”封じられた闇の者達が…動き始めている。
セオドロス卿の助力を願いたい”」