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うるさくてウザくて疲れたトモダチ

最終話です。


 高校三年生の秋に、有寿輝(ゆずき)は時を止めた。

 

 最近の有寿輝は、受験生特有のプレッシャーや彼自身の気分の上げ下げが激しかった。

 母親は、なんとなくでも彼がパニックになって泣いて呼吸がしにくくなるのを理解した。

 精神科と心療内科が一緒のクリニックに連れて行った。そこで、診察や検査をしていくもの病名がついた。  

 有寿輝は、『やっぱり』と笑った。それがひどく、印象的に残っている。

 

 俺たちが塾に行っている間に、有寿輝からメッセージが山のように届く。彼の気持ちを吐ける場がないと、精神的に限界を迎えると思うから。内容は良かったり悪かったりと、様々なものばかりだった。

 

 クリニックでもらった一つの不安薬を飲むようになってから、ある程度安定していった。学校のカウンセリングにも通うと気持ちの整理がしやすくなった。俺たちへの負担も減っていった。

 でも、酷く落ち込むこともあり、その期間が長かった。

 

「僕は、なりたい夢がない。好きなこともないし、生きてても親や友達に迷惑をかける」

 

 気持ちが下がったときに、そう言っていた。有寿輝は、それを聞いた俺たちの顔をよく見てほしかった。 

 反対に俺たちには、その時の彼の顔が頭から離れなかった。

 

「生きる希望が見えない」 

 

 そう言って、よく血が出るぐらいに身体を引っ掻いていた。この行為は、小学生のときにもやっていた。

 自傷行為が続き、俺たちはそれを止めるのが辛かった。その傷が、有寿輝の身体に残っているのが嫌だった。

 

「たくさん寝れるようになって、体調も気持ちマシだよ」 

 

 よく眠れるようにもなった。睡眠がうまく取れなくて、クリニックで薬を処方されたのだ。

 

 

 季節は秋になった。俺としおりは同じ塾で、毎日のように放課後から夜遅くまで勉強をしていた。

 前みたいに、有寿輝と一緒に学校の教室で勉強をすることはほとんど無くなった。

 有寿輝の変化に気づいたのに、受験勉強に頭がいっぱいになって、正直余裕がなかったんだ。

 

「二人は、受験勉強を頑張れよ。僕は、大丈夫だから気にしないでいいよ」 

 

 その言葉を信用しすぎていたんだ。そう言った彼の表情が、どうだったのかも今でも思い出せなかった。

 

 土曜日の午前の塾の講義が終わってスマホを見ると、SNSの俺たちのグループに有寿渡がメッセージを送っていた。

 

『二人みたいに勉強をしたい。でも、うまく理解ができなくて泣いてしまう。僕は情けない人間だな。

 二人には、たくさん暴言をはいてしまった。うるさくて疲れるのは、お前らじゃなくて僕だよ。ウザいのも僕だよ。

 今までごめん。理解をしてくれているからと、甘えてしまった。

 僕がドン底にいるときに、手を伸ばして救い出してくれたのに。ありがとう。

 もうこんなことはならないから、安心してくれ。

 もう大丈夫だから、受験勉強頑張れよ。二人なら志望校に一発で受かるよ。僕には分かるからな! 』 

 

 それを俺としおりは、スマホの画面が濡れて文字読めなくては、拭いての繰り返して読んだ。

 

「何か、嫌な予感がする」 

 

「私も、そう思う」 

 

「俺が、有寿輝に電話かけるよ」 

 

「うん」 

 

 塾の静かな廊下で、手に汗を握って電話をかけた。三コール目で、電話が通話に切り替わった。

 

「もしもし有寿輝!グループのあれは何だよ。何かあったら言ってくれよ。しおりも心配し……」 

 

 電話の向こうで、鼻をすする音と泣いてる声が聞こえた。

 

「もしもし、君は奈月輝(なつき)くんかな? 」 

 

「……はい。有寿渡のお父さん、俺です」

 

「心配して電話してくれたんだね。ありがとう」

 

「あの、有寿輝に代わってもらえませんか? 」 

 

「……ごめんね。それはもう無理なんだよ」 

 

「な、何でですか? 」 

 

 俺と有寿渡のお父さんのやり取りに、隣りにいるしおりは不安そうな顔を浮かべていた。

 

「有寿輝は……、さっき亡くなったからだよ」

 

「えっ?なくなったって?どういうことですか?! 」  

 

 しおりは、隣で泣きだした。有寿輝のお父さんの声からして嘘じゃないのは分かった。

 でも、何を言っているのか分からなかった。

 

「だって、有寿輝から二時間前にグループに連絡がきているんですよ」

 

「君たちに連絡したあとに、病院で亡くなったんだよ」 

 

 有寿輝のお父さんは、亡くなったしか言わなかった。

 

「会えますか? 」  

 

「……すぐに来てくれるなら、会えるよ」 

 

 なんとかふるえる声で、病院の場所を聞いた。

 

「今、塾にいて二十分以内には着けると思います」

 

「それなら、なんとかなるかな」  

 

 少し会話をしたあとに、電話を終えた。俺は、しおりの手をひっぱり塾を出た。

 この日はたまたま塾は午前で終わりで、塾の前にはしおりの親が迎えに来てたから、事情を話して乗せてもらった。




 

 有寿輝のお父さんが病院の出入り口にいた。案内された部屋には、顔に白い布をかけらて有寿輝が眠っている。

 

「有寿輝? 」 

 

「有寿くん? 」 

 

 有寿渡のお父さんが、顔から白い布を外しくれた。ただ眠っているように見えて、口元に手をかざしても何も感じなかった。

 しおりが塾のときよりも、泣き出して座り込んだ。

 

「階段から落ちて、頭をね、ぶつけたみたいで」

 

 有寿渡のお父さんは、ゆっくりとひとつひとつ区切るように話しだした。

 

「有寿輝は、最近不安定になりやすくて、薬を飲んだよ。その後、ニ階から降りるときに、ふらついて、足を滑らせて階段から落ちた……」  

 

 有寿輝のお父さんの話し方は、自分自身まだ現実を受け入れなくて泣きたくて。 

 でも話そうとしてくれるあらわれだと思う。

 

「最初は、大丈夫って笑ってた。さっき薬飲んで、ふらついちゃったって。お昼ごはん食べたいって言うから、その後に念の為に、病院に行こうと約束した」 

 

 有寿輝のお父さんは、数回深呼吸をした。

 

「食べたいっていうのに、身体が、うまく動かないって。お母さんに、一品ずつ一口サイズにしてもらって、食べさせてもらって。美味しいって喜んでた」 

 

 有寿輝のお父さんは、また数回深呼吸をした。

 

「その後に、やっぱり様子がおかしくて、すぐに救急車に呼んだ。あの子がね、ありがとうって笑顔で、言ってくれたのが最期の会話なんだよ。病院で治療してもらって。でも、さっき息をしなくなった」 

 

 有寿輝のお父さんは、しゃがみこんだ。俺としおりは、もう前が見えなかった。



 しばらくして有寿輝のお父さんが落ち着いてから、お通夜やお葬式をする日程を聞いた。

 たくさんは呼ばなくいいって、有寿輝がいつだったかそういっていたらしい。

それを覚えていた彼の父親が、気持ちを必死に落ちつけながら、付き合いのあるお寺さんと相談をしたという。


 

 俺としおりはすぐに家に帰った。俺たちは家が近くて、荷物を置いて制服を着てしおりの家に行った。

 

「有寿くんが、亡くなったってウソだよね? 」 

 

 しおりは、一緒に有寿輝の遺体を特別に会わせてもらったのに、現実を受け入れてなかった。

 

「有寿輝は、亡くなった」 

 

「なんで、そんなにすぐに受け入れるの! 」 

 

「受け入れてないよ。無理にでも、そう思わないと。なんだか、堪えれない」 

 

「ごめんね」 

 

「いいよ」 

 


 

 そのあとは、ほとんど話さずにしおりと通夜に参った。

 

 

「あの写真……」 

 

 俺の前にいるしおりが、小さい声でそう言った。俺は顔をなかなか挙げれなくて自分の靴を見ていた。その声に顔をあげることができた。


 有寿輝の笑っている遺影を見て、「……あぁ……」と思った。

 

「俺が……」 

 

 遺影は、俺が夏休みにしおりと有寿輝と一緒に出かけたときに撮った写真だ。三人で日帰りの旅行をした時の大切な思い出だ。

 その時の有寿輝には、気分転換をしないといけない精神状態だったから、ほんの少しの強制で出かけたんだ。

 最初はイライラしていたけど、初めて見る景色が彼を癒やすようで、彼の目がキラキラしていた。

 俺はその時を残したくて、有寿輝だけを正面に向いてる時を撮った。


 夏休みが終わって、学校に行くようになってから気持ちの落ち込みが激しくなり、その笑顔が見ることがほとんど無くなった。

 塾や受験が落ち着いたら、また三人で出かけようと思っていた。俺はなんだか(バチ)があたったと感じた。

 俺の番になり、棺で寝ている有寿輝を見た。気持ちよさそうに、ただ寝ている。

 俺は寝ているだけなら起きてほしかった。傲慢だけど。

 俺、何も有寿輝に出来てないと思った。

 


 葬儀は、着々と進んでいた。有寿輝の肉体との別れの時に何を思ったのか、しおりが何やら有寿輝の両親に話しをしていた。

 

「ほら、有寿輝に言っておいで」 

 

「ハァ? 」 

 

 しおりは、涙を浮かべて俺を見ていた。

 

「有寿くんのご両親に、頼んだの」 

 

「……」 

 

「後悔しそうな子がいるから。少しの間だけ、有寿くんと話をさせて欲しいって」 

 

「……」 

 

「私は、全部有寿くんに言ったから大丈夫」 

 

「……」 

 

「でも、奈月くんは言えてないじゃないかなって思ったんだけど。違う? 」 

 

「……」 

 

「違わないなら、早く言ってあげて。もう時間がないないから」 

 

 俺は走った。有寿輝にこれで本当に最期の別れをするためだ。今、思ってることを吐き出せるだけ吐いた。

 

「なんで、あれを送ったんだよ。実際は、違うのに計画的な遺書に思えるだろ」

 

 涙で、有寿輝がよく見えない。何度も拭いて彼を見た。

 

「俺としおりが見れない時間に送りやがって」 

 

 有寿輝は、俺としおりの塾の時間を把握していた。俺たちが教えたんだけど。

 

「自殺だけはしないって約束は、守りやがって」 

 

 自分を傷つけても、何があっても自殺はするなと言い聞かせていた。


「塾に行ってるからって、気をつかって呼ばなかったんだろ」

 

 俺がどれだけ言っても、有寿輝は何も言わずに眠っている。


「だから、想ってることを、今のうちにと思って書いたんだだろ」


 俺が泣いても、有寿輝はただ眠っている。


「最期だとおもって、好き勝手にしやがって」 

 

 普段は言わないことをメッセージで送ってきた。それが遺書のように感じた。

 もしかしたら、これが最後になってもいいから後悔しないうちに言っておこうと思ってメッセージを送ったのかもしれない。

 だからって、どれほど俺たちが嬉しいよりも辛かったか知らないだろ。


 でも、本当はこれ以外にも言いたいことはたくさんあった。

 後ろの方で式場の人や有寿輝の親たちの声が聞こえた。あぁ、もう時間がない。

 

「振り回されることがあっても、楽しかったよ。迷惑でも負担でもないから。俺も、有寿輝のことが大切で大好きだよ。大心友でいてくれてありがとう。またな!有寿輝! 」 

 

 あの有寿渡のメッセージには、続きがあった。

 

『恥ずかしくて、普段は言えないけど。僕は、しおりと奈月輝が大切で大好きだ。大心友でいてくれて嬉しい。ありがとう。またな、しおり、奈月輝! 』

 

 俺はそれにどう返信すればいいか分からなかった。しおりは、『私もだよ。ありがとう! 』とたくさんの想いを込めて短く送っていた。

  



 

 有寿輝の四十九日の法要が終わったときに、彼のお父さんたちに教えもらったことがあった。

 

「あの子の遺影に奈月輝くんが撮ってくれた写真を勝手に使わせてもらって、ごめんね」 

 

「大丈夫です」 

 

「有寿輝が、あの写真をすごく気に入っててね」 

 

『すごいだろ!奈月輝が撮ってくれたんだ! 』 

 

 嬉しそうに言って見せてくれたと、彼のお父さんは涙ながら教えてくれた。

 

「有寿が亡くなったって、私はまだ信じれないの」

 

 彼のお母さんは、遺影と骨壷を悲しそうに見つめていた。

 

「有寿輝は、いつも奈月輝くんやしおりちゃんの話を楽しそうに話していたよ。それと、悩んでいたよ」 

 

「えっ……」 

 

 しおりが、涙いっぱいして小さい声で言った。

 

「自分がこんなやつだから迷惑をかけてるから。二人から離れたほうが良いのかなって……」 

 

 頭が真っ白になった。有寿輝のなかで俺たちから離れる選択肢があったから。

 

「違う。離れなくていいよ。ずっと一緒にいたかったよ。遠くに行かなくていいの……」 

 

 しおりは泣きながら遺影の方を見て、もうこの世にいない有寿輝に伝えた。

 

「そうだよ。なんでも、俺たちに話して欲しかった……」 

 

 泣き出した俺としおりが落ち着くまで、彼の両親は静かに待ってくれた。

 

「そうだ、二人にプレゼントがあったんだ」 

 

 有寿輝のお父さんはそう言って、俺たちを連れて二階の亡き心友の部屋に行った。

 

「まだ、あの時のままにはしてるんだけど。でも、あの子の言葉でいうと、少しだけ整理というか漁ってる感じかな」 

 

 有寿輝なら、自分のことを気にせずに過ごせとか言ってそうだ。

 

「学習机の引き出しをみてたらね、前に家族三人で買い物をしていたモノが出てきたんだ。有寿輝がね」


『奈月輝としおりが大学に合格したらあげようかな、いやそれとも先に頑張れってお守りとして渡そうかな』


「って、一生懸命に選んでたよ。自分のお小遣いで買って、まぁ気分しだいでやることにしたって笑ってた。だから、大切に使ってくれたら嬉しい」 

 

 有寿輝がそうやって、俺たちのために選んでる様子が目に浮かんだ。

 

「プレゼントを引き出しから取ってね。あと、好きなだけこの部屋に居ていいよ。いつもみたいに暗くならないぐらいならね」


 有寿輝のお父さんは、そう言って部屋を出ていった。

 

「これだよね? 」 

 

 しおりが開けられた引き出しに指をさした。彼のお父さんか部屋を出る前に開けてくれていた。

 

「うん。何が入ってる? 」 

 

「きれいに包装された箱が二個入ってるよ」 

 

「見せて」 

 

「うん」 

 

 渡された二個の箱の裏には、小さく鉛筆で「しおり」と「奈月輝」の名前が書かれていた。有寿輝の書いてくれた字を見ただけで、また涙が流れた。

 もう一つをしおりに渡して、ほぼ同時に包装紙を剥がした。

 

「手袋とハンカチだね」 

 

 しおりの言葉に、俺は頷くしかできなかった。

 

「私たちが冷え症だから、よく子供体温の有寿くんの手をカイロにしてたね」 

 

「そうだな……。よく手袋を持ってこいよって、怒られてたっけ」

 

「そうそう、お前らいつまでも子供だなって笑ってた」 

 

 俺たちは、泣きながら手袋をはめるとちょうどいいサイズ感に笑った。

 

「絶対に、これを渡すときに「お前らと手をつなぐから嫌でもサイズが分かったわ! 」ってツンツンしながら言ってるよね! 」  

 

「そうだな、有寿輝はツンデレだからな」 

 

 手袋を外して、ハンカチを手にとった。

 

「私たち、ハンカチを時々忘れるから、いつも持ってる有寿くんに借りてたな〜。私のことを気づかってね。余分に持ってきて、「どうせ、忘れてるだろ」って貸してくれるんだよね」 

 

「そして、使い終わったのをジップロックに入れて持って帰るのがワンセットだったな」 

 

「そうそう、時々汚そうにするんだよ。あれ、絶対わざとでね。奈月くんは、わざと忘れたフリをして借りてたよね? 」 

 

「そうだな……」 

 

 俺は、自分でも悪いやつだと思う。有寿輝に少しでも、頼ってる人がいるとかあなたは役に立ってると思ってもらって、居場所のようなところを作ってやりたかった。

 だから、自分ができないフリをして助けをもとめることだってしたんだ。

 

『受験生で、もう大人になるから、それぐらい持ってろよ』

 

 高校三年になってから、それを有寿輝はよく言ってくれるようになった。

 

「これはね、「僕が買ってあげたから、忘れずに持ってこいよ」って言いそうだね」

 

「そうだな、「別にお前らが大切に使ってるか見たいとかじゃないから。お前らが無くしてないかを確認したいだけだからな」も言いそう」

 

「わかる!!有寿くんなら言いそう」    


 俺は、有寿輝の定位置のベッドをみた。

 

「有寿輝、実際に俺たちの目の前で言ってくれよ」

 

 やっぱりそこには、誰もいなかった。

 

 有寿輝の家に来てから、俺たちは数え切れないぐらい涙を流した。

 もういない有寿輝がここにいたら、こう言うだろうってわかってるのに、想像は出来るのにアイツがいない。

 もう、どんな有寿輝にも会えない現実を前に、俺たちは歩いていくしかないんだ。

 なんで、必死に生きようとしている有寿輝がいなくなるんだろう。


 もう暗くなるからと有寿輝の家を出て、二人で夕暮れの道を少し遠回りして公園に行った。

 いつも有寿輝の家からの帰りに、ここで彼の様子や反省や今後の計画を話していた。

 三人の思い出の公園でもあるから、何も言わなくても自然とここに足を運んでいた。

 

「奈月くん」 

 

 しおりは静かに俺の名前を呼んだ。その目は、俺と同じく腫れていて赤く充血していた。

 

「どうした? 」 

 

「有寿くんが、私たちの真ん中にいなくて戸惑って悲しいけど。進むべき道は分かるから、我武者羅(がむしゃら)に頑張ろう」 

 

「そうだな。有寿輝は、俺たちが大学に受かるって予見してるから。やるしかないな〜」 

 

「うん!有寿くんの勘はかなりの確率で当たるからね」 

 

「そうだな」 

 

「プレゼント、どれぐらいのお金がかかったのかな? 」 

 

「唐突に、何いってんの? 」 

 

「だって、一人分でも高いのに二人分だよ。なんとなく気になって……」 

 

「有寿輝はあんまり自分で買わないから、お金あったんじゃないかな。それかセールとかクーポンでいい感じに買えたのかもね」 

 

「有寿くん、「変な詮索せずにありがたく使えよ」って少し怒るだろうな」 

 

「そうだな」 

 

 しおりが、俺の背中をさすってくれた。


「しおり、覚えてるか?有寿輝が、俺と名前同じだなって、子供の時に笑顔で言って来たことがあったの。最初、意味がわからなかった」


 俺たちは、それぞれ家が近くてよく小学生よりも前から遊んでいた。

 小学生になってから有寿輝は授業で習ったことがきっかけで、漢字に興味がありよく調べた。

 それをこの公園で遊んでいた時に突然言ってくるから、どういうことか余計に分からなかった。


「どういうこと? 」


「漢字で、僕たちの名前を書いたらさ」

 

 有寿輝は木の枝で、自分と俺の名前を書いた。やっと、有寿輝の言いたいことが分かった。


「輝が同じって、いいたかったんだね」


「何言ってんだ?初めから言ってるだろ同じだって」

 

「有寿くん、惜しいことは言えてたよ」


 有寿輝は、少し不服そうにしていた。だけどすぐに笑顔になって、気持ちを切り替えたように木の枝でしおりと書いた。


「みんな、名前が三文字だな!だから、三文字が三人いるから三同盟だな! 」


「「それは、ダサいよ」」


 そう言って笑った俺たちに、怒らずに恥ずかしそうに笑っていた。


「あったね!その時の有寿くん、かわいかった! 」


「俺もそう思ったよ。……だけどさ」


「うん」


「同じ、()と同じ文字数の一人がいなくなったから、三同盟は解散になるのかなぁ? 」


「有寿くんが、目の前にいなくても、私たちの中にいるから解散じゃないよ」


「そっか。解散したら、有寿輝が悲しむな」


「うん」


 有寿輝がいないのに、彼の話で泣いて笑って俺たちは過ごしていった。



 俺としおりの間にいた有寿輝がいなくて、最初は距離感が掴めなかった。

 でも今は気にすることが少なくなって、隣にはしおりだけがいた。


 あれから二人で、必死に受験勉強をして無事に志望校に一発合格をした。有寿輝の予見通りになって、安心させるように頑張った。

 

 また同じ学校に入学をするために、俺としおりはスーツを着て手をつないで会場に足を向けた。大学には、きれいな桜の木がいくつも植えられていた。

 

「「あっ……」」 

 

 桜の花びらが風に吹かれる時に、微かに有寿輝の声で「おめでとう」と言ってくれたように聞こえた。


 二人して、入学式の前に涙をこっそり流した。

物語で不安薬が出てきますが、否定するものでありません。僕も薬を服用しています。心が落ち着くお守りです。

有寿輝と僕は、かなり似ていると思います。有寿輝は薬が原因で亡くなったのではなく、足を滑らせ頭をぶつけたからです。

有寿輝が亡くなり、奈月輝としおりは昔と変わらずに手を繋いでます。

最後に有寿輝がたくさんの意味を込めて、おめでとうと言ってます。

最後になりましたが、この物語を読んでくださりありがとうございます!

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