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うるさくてウザくて疲れるトモダチ

二部作です。

 うまくいかない。うまくできない。こう言いたいんじゃない。なんで、ミンナみたいに出来ないんだよ。

 

 

「どうしたん?頭を抱えて、何悩んでの? 」

 

「なんでもない」  

 

 どう見ても、僕は机に向かって頭を抱えている。

 

「そう?でもね、有寿輝(ゆずき)の頭は爆発目前だと思うよ? 」 

 

 あぁ、ウザイ。あぁ、うるさい。コイツはいつも知ったかぶりをする。僕を見下ろすコイツには、俺の顔も頭の中も見えないのに。

 

「お前に見えないくせに、分かるわけ無いだろう」

 

「俺は、見えなくても分かるよ。有寿輝とは、付き合い長いやから分かるよ」  

 

「……そうか」 

 

「そうだよ。まだ時間もあるからね」 

 

 教室の時計を見ると、まだ昼休みが終わるのにまだまだ時間があった。コイツは、一緒に弁当を食べようと誘いに来ていた。そして、俺の様子がおかしいのに気がついた。

 

「ふたりとも、どうしたの? 」 

 

「しおり」

 

「空を見に行こう!今日は天気がいいからね」 

 

 コイツは、しおりに合言葉を言った。ガヤガヤする教室でも、お荷物な僕はある意味目立っている。

 そこにそこそこ人気のコイツとしおりがいたなら、嫌になるぐらいに目立つ。

 それを知ってか知らずか、なんの変哲もない言葉で俺を連れ出してくれる。

 

「そうだね~」  

 

 しおりは何も聞かずに、持っていた弁当や水筒を持ってニコッと笑った。彼女は、いつも明るくて優しいんだ。

 

 

 僕たちは一度職員室に寄って、担任に鍵を借りた。学校の最上階にある屋上にやって来た。

 

 

「暑いね~」 

 

 しおりがのんきに笑う。それが太陽の光ともに眩しくて、目をつぶった。

 

「まぁ〜、そろそろ猛暑になるって言うからね」

 

 コイツは、なんかいつも適当だ。

 

「空がきれい!あっ、この雲大きい! 」  

 

 しおりは、いつもここに来ては子供のようにはしゃぐ。高校二年生の俺たちは、後一年経ったら卒業なのにな。

 僕たちは日陰で、昼メシを広げだ。何故かいつも、二人は僕を挟んで昼メシを食べる。いや何をするにも、僕が真ん中だったな。

 まるで、僕を何かから守るようにしている。

 

「僕さ……」 

 

「「うん」」 

 

 二人はハモって相づちをして、僕が話すまで何も詳しく聞かずにいてくれる。

 

「なんか、いつもうまくいかなくてさ。周りにも迷惑かけてるし、出来ない自分がたまらなく嫌でどうしようもない感情で死にそうなんだ」 

 

「おっ、これはまたすごく深いところまでもぐってるな! 」

 

 コイツは、いつも僕の悩みを聞いても始めは茶化すように言うんだよ。

 

「ウザイ、変にテンション上げるな。疲れるよ。ただでさえ、こっちは毎日疲れるのに」 

 

 悪態をつく僕を二人は、傷つきながらも受け止めてくれる。そこには、いつも甘えながらも感謝している。

 

「ごめんね」 

 

 コイツの辛そうな顔を見たくなくて、わざと思いっきり頭を撫でてやった。

 

「ちょっ、せっかくイケメンに見えるように整えた髪が崩れるだろ! 」 

 

「アハッハ! 」

 

「しおり、笑うよな」  

 

「ごめんね! 」 

 

 二人は優しい。僕にはもったいない存在だ。

 

「有寿くん、自分を迷子にするの得意だからね」

 

「何だよ、それ。しおりの言ってること分かんねぇよ」   

 

「しおり語を、まだまだマスター出来てないね! 」


 しおりはそういって、笑わせてくる。僕は少し笑った。

 

「有寿くん、君はね、分かってると思うけど。人よりも出来ることが少なくて失敗もしやすいの」 

 

「うるさい」  

 

「人と比べるなんて、そんなくだらないことをしなくてもいい人なの。それは、平等なんだけどね」 

 

「うるさい」 

 

「今は、反抗期だから。図星の解答がうるさいって言うの、私たちは理解しているよ」 

 

「うるさい」

 

「迷惑かけてるって、そんなのかけてないほうがおかしいよ! 」 

 

「うるさい」 

 

「出来てない自分が嫌でさ、なんとも言えない感情になるなら俺たちを呼べばいいよ。三人で分かち合えば、それぞれのスキルアップになる。それか、教師に助けを求めたらいい。頼りにくかったり嫌なことされたりしたら俺たちがいくから。負担なんて思わなくていい。好きでやってるから」 

 

「……そんなの分かってんだよ」 

 

 僕の小さな声でも二人は聞き逃さない。ある意味怖いわ。

 

「分かってるならさ。死にそうになったら、私たちに助けを求めて。情けなくないし、当然のことだよ。私たちもそうするからね」 

 

 二人は、僕に「自分たちもそうだよ」とか「お前だけじゃなくてみんなも一緒だから」を言わない。それらを言われるのが嫌でたまらないのを理解してくれる。

 僕の心友は、すごく良いやつでたまに怖い。お互いが変に依存しなか心配になる。

 

「きょうわぁ、にゃにがうまくできにゃかった? 」 

 

「しおり、食べながら話すなよ。行儀わるいよ」 

 

「そいつはすんません」 

 

 ハァ〜と、コイツはわざとらしくため息をつく。僕は二人のこの変なやり取りが好きだ。

 

「ニ時間目の授業の……」 

 

 二人は、僕の言葉足らずなのも分かって伝えたいことをうまく引き出してくれる。僕が言い終わるまで二人は待ってくれた。

 

「なるほどね〜、あの授業から崩れたんだな。しんどいな」 

 

「うん」

 

「教室に戻ったらノート貸すよ。俺、ノート取るのうまいから」 

 

 コイツは、いちいち一言が多いんだ。

 

「今日の放課後なら時間あるから、私たちと勉強しよう! 」 

 

「俺は、ノート貸すだけじゃなくて勉強も強制なんだな」

 

「あっ、用事あった?それだったら、ごめんね」

 

「しおり。コイツはお前をからかって遊ぶ小学生だから気にするな」 

 

「ちょっと、酷いこと言うなよ。まぁ、からかったのは事実なんだけど」 

 

 僕は本来の言葉の意味とは、少し違う意味合いで使っていても二人はわかってくれる。

   

「ハァ〜、強制参加決定ね」

 

「ちぇっ」

 

 コイツはわざと悪態をつくんだよ。

 

「そろそろ、教室に戻ろう」   

 

「「えっ!? 」」 

 

 僕は立ち上がって、手には昼めしが入っていた巾着袋を持った。二人は慌てて片付けて、その間に僕は青にかかる白を見上げてた。


 僕の言動に二人は、いつも振り回されている。時には楽しんで、時には怒る。これはしてはいけないし、言ってはいけない言葉だという。

 ただ、怒るだけじゃなくて、どう言いたいのかやどう想っているかを聞いてくれる。

 そして、今度からはこうしていこう、こう言おうと提案をしてくれる。

 

 

 僕だったら、こんなやつと一緒にいるのは面倒だと思う。避けるか、見捨てるとか無視をひたすらするのだろう。

 こんなやつ、僕には関係ないんだと差別をして生きていくのかもしれない。

 

 

「有寿輝が言ってくれないと、授業を遅刻かサボりをするとこだったよ」

 

「も〜、サボりはダメだよ」  

 

「しおり、そこじゃないだろう」 

 

「あっ!そっか。有寿くん、ありがとう」 

 

「「しおり、違う」」 

 

「えっ?? 」 

 

 俺たちは、よく変な会話してそれを意味もなく楽しむ。サボりもだめだけど、遅刻もだめだ。

 

 予鈴がなる前に、職員室に戻り屋上の鍵を担任に返した。この担任とは一年から同じだ。

 

「有寿輝、落ち着いたか? 」 

 

 僕は、無言のまま頷いた。担任は、俺の事情を学校の教師の中で一番に理解をしてくれている。

 

 本人がそう言っていた。自分の責任で、本来なら屋上は立ち入り禁止だが、静かで気持ちを落ち着かせるために使わせて欲しいと学校関係の偉い人に言ってくれたと聞いた。

 

「そっか、良かった。次の授業でしんどかったら出席扱いの二十分だけ受ける。保健室か授業をしてない理科系の教室で休んでていいからな」 

 

「はい」 

 

 僕らの教室の隣が理科系の教室と近くて、授業をしてないときが多い。担任は、理科系の先生とも仲が良くて、僕が休憩を出来るようにしてくれた。

 この日は、どの時間の理科系の教室が開いてるかのメモを渡してくれる。

 

「授業担当には、休憩する場所を伝えること。じゃないと大掛かりな捜索隊が出動するからな」 

  

 担任の言い方に、僕は少しツボる。

 

「ほら」 

 

 後ろでいるしおりが小さい声で、背中を押してくれる。

 

「あの……」 

 

「ん? 」 

 

 担任は、どうしたと不思議そうな顔をしながらも優しく待ってくれる。

 

「ありがとうございます」 

 

「おう! 」 

 

 担任は、嬉しそうに笑った。僕は恥ずかしくなって、すぐにその場から離れようとした。

 

「有寿輝、先生は味方だからな」 

 

 担任の言葉に、僕は立ち止まって頷いた。その言葉を担任は口癖のようにいつも言っている。

 

「あっ、予鈴だ」   

 

「本当だ!有寿くん、奈月くん行こう! 」 

  

「しおり、走ったらまた転ぶ」

  

「そうだね!ありがとう、有寿くん! 」   

 

 しおりはそう言いながらも、廊下を走って途中でつまづいた。奈月輝がなんとか支えたから転ばずにいけた。


「ほら、言わんこっちゃない。有寿輝の注意に意味がなくなるだろ」

   

「アハハッ」


「笑ってごまかさないの」


 奈月輝は、ハァーとため息をした。


「しおり、足捻ってない? 」


「うん!大丈夫だよ!心配してくれてありがとう! 」

  

「う、うるさい」


「奈月くん、これは有寿くんの照れ隠しですな〜」


「フッ、そうだな」


 奈月輝が、悪ノリをするからウザくてたまらない。


「早くしないと、授業に遅れるからな! 」


 僕が二人を置いて早歩きをしたら、彼らが慌てて来るのを感じて、少し笑った。




 昼休みのあとの授業は、なんとか落ち着いて受けることが出来た。

 

「放課後になったね」

 

「しおりは、なんでキラキラしてる? 」 

  

「なんででしょう!! 」  

 

「ウザイ」 

 

「有寿輝、口悪いぞ。テンションがウザくても言い方がなってない」 

 

「奈月くん、それ私をディスってるよね? 」   

 

「有寿輝は、ニ時間目の授業でどこが分からなかったっけ? 」  

 

「え〜と、このページのここ」

 

「無視ですか。いいもん、知らないからね」 

 

 わざとらしく、しおりはふてくされる。

 

「「ごめん」」 

 

「い〜よ」 

 

 これが僕たちのやり取り。もう大人になっていく歳なのに、どこか子供っぽいんだ。僕に合わせてくれてるのだろうか。

 

 僕は聞いて理解するのが苦手だ。ノートを取りながら、教師の話を聞いて書くのが地獄に感じる。

 それなのに、挙手もしてないのに当てる教師が嫌だ。黒板に書くチョークの色ごとにノートのペンの色も変えないといけない。考えるのも大変だ。

 

 ノートを取るときに、黒板と同じように書かないといけないと謎のプレッシャーが襲う。

 チョークの白はシャーペンの黒で、ピンクみたいな色のは赤ペンで、黄色は青かオレンジでを瞬時に使い分ける地獄。

 教師の書くスピードと僕の書くスピードでは天と地ほど差があるだろう。

 

 いくら、宿題で例えば教科書の古文や漢文の書き写しをする。なんとか、自分なりに書き写せたと思っても、教師の解説で空白部分が足りなくなると焦る。あぁ……と思う前に、どんどん進んでいく。

 訳が分からなくなり、発作のように涙がながれ呼吸がしにくくなる。

 そうなれば注目され、声をかけられて話そうとすると余計に酷くなる。長期戦になると、一時間はかかる。

 

 担任には、僕個人として伝えたあとに、小学や中学からの仲のしおりや奈月輝も説明してくれた。その後に何度もあったから、教師は行動を起こしてくれた。

 

「苦手なことが多い人間はいる。生まれながら、出来なかったり出来たりする。みんなだって、出来ないことあるだろう。苦手なことあるだろう……」 

 

 担任がある日のホームルームので話してくれた。

 

「自分がやってることがうまくできなくて、悔しくてたまらない。感情や考えがこんがらがる。それらになったらしんどいだろ。周りが馬鹿にして、嫌な目を向ける空間の中で、いれるか? 」 

 

 担任の眼差しが、印象的だった。

 

「自分や周りに何かされたくなくて、まじって一緒にするやつはダサい。何か相手にされて嫌だから、泣き虫だ、チクリだと言って、加害者になるな。当たり前だが、自分がされて嫌なことはするな」 

 

 担任は、僕についてクラスでザワザワがあった。それを知って話してくれた。

 

「ダサくなりたくなかったら、被害者になろうとする人に手を差し出せ。困っていたら、その人たちに向かって笑ったり腫れ物扱いをするな」 

 

 みんな、思い思いに聞いていた。

 

「お前たちの言動に傷つき、自らの命をたつ人もいるかもしれない。先生の兄の娘もそうだった。その子は、小学六年の時だ。中学にあがっても被害者でいると思ったのが理由だ」 

 

 担任は、一度下を向いた。

 

「その子は、今生きてるよ。でも、心には深い傷をつけている。中学は、地元からかなり離れたところに休み休み通ってる」 

 

 担任の話に、何人かは泣いていた。

 

「みんなは、変だとか泣き虫だとか言って。今まで影でコソコソ言ったり、あからさまな態度をとったりしてないか?それをされても自分が傷をつかないのかもしれない。だけどな、傷をつく人間はごまんといる」 

 

 一瞬、担任と目があった気がする。

 

「だからな、先生はみんなが仲良くて、笑って喧嘩して仲直りをする人になって欲しい。今のうちに、まだ子供のうちにいじめという犯罪をせず、人に歩み寄れる人間になれ」

 

 担任は、真剣に一人の人間として話してくれる。


「特別扱いだと言うな。それは頑張っても苦手で出来ないことが多い人間を差別してるんだ。そういうやつは、自分がその立場にならないと分からない。そうなる前に、本当の意味で分かる人間になれば、良い大人になれる力を身につけたら幸せだ」 

 

 担任は、たぶん今までの人生で様々な経験をしたのだろう。

 僕みたいなやつもいて、そのたびに他人(ひと)に伝え続けたのかもしれない。弱者には、支援がないと生活が出来ない人もいる。

 僕みたいな人(弱者と言われる)たちは、特別扱いとよく言われる。 

 それを嫌い、理解をやめて弱者を苦しめる奴らがいる。誰か一人に、必要な支援をすることで、他の人とは平等でないからいけない。

 弱者も同じ人間なのに、仲間外れをする。担任はそれも許せないことの一つだと話した。

 

「先生の話が分からない人もいるだろう。いいよ」

 

 その言葉にクラスはザワザワした。

 

「今は分からなくても、心の隅にでも置いておいてくれ。いつかそれが分かるよ。例えば、大人になり結婚して子供が出来た時に、恋人や家族が傷つけたり傷つられたりその立場になったときに後悔をしたらいい。相手の特性や障害を理解した気になり傷つけたらいい」


 担任は、もし僕らのような人が身近にいて、自分の大切な人が当事者や加害者になった時のことを話した。

 大切な人が当事者になった時に、本当に理解が出来ずに嫌な言動をして、相手がどんな気持ちになるか分からないこと後悔しろと言った。

 加害者の立場になったときには、被害者の気持ちになって大切な人がした事の大きさを伝えれない。

 そして間違ったままにした先に、何があるかを見ないことを後悔しろと言った。


「そうすれば、次に何が起こる考えろ。そしてやっと、ああ高校の担任(オッサン)が言ってたかって分かるはずだ」  


 どちらの立場になったとしても、批判と孤独があると担任が言いたいのかと僕は思った。

 そして、自分の生徒だけでも今のうちにそれらが分かっていれば良い人になるから心の隅に置いてほしいのかな。

 後悔した先に高校の担任の言葉を理解して、次に進んで欲しいのかなとも思った。


 

 担任は、子供である僕たちを想って話してくれた。なかなかここまでのことを話す教育者はいないだろう。

  

「あぁ、話が長くなっちまったな。すまん!部活が遅れたり急ぎの用で遅刻したりする生徒は、担任の話が長すぎたせいだから。何かあったら先生の名前言って、電話してきていいからな。先生はみんなの味方だ。はい、今日はもう解散!また、明日な! 」 

  

 担任は、さっきまでと違って穏やかに笑って言った。少しずつ生徒が、思い思いに教室を出ていった。教室には、そして担任と僕らだけが残った。

  

「奈月くん」 

 

 少し離れたところで、しおりがアイツに話しかけていた。何かを話していた。僕は、頭を抱え込んでいた。

   

「有寿輝、何か先生に言いたいことある? 」 

 

 奈月輝は僕の隣でしゃがみこみ、優しい声で聞いてくれた。そして僕は、小さく頷いた。

 

「先生、有寿くんが話したいことあるみたいです」

 

 僕のことに察しのいい二人は、担任へ言いやすいようにしてくれる。

 僕がなかなか人に話しかけるのが苦手だから、きっかけを作ってくれるんだ。

 

「おう」 

 

 担任は、僕の前の席の椅子をこっちに向けて聞いてくれた。

 

「有寿輝、どうした? 」 

 

「あの……」 

 

「ん?ゆっくりでいいからな」 

 

 担任の言葉に、深呼吸をした。

 

「僕のせい? 」 

 

「さっきの話のことか? 」 

 

「そう」 

 

「フッ」 

 

 担任はおかしそうに笑った。

 

「あっ、悪い。有寿輝を馬鹿にしてるわけじゃないからな」 

  

 担任とは、一年の頃から同じクラスだ。その時から、何かと僕に気をかけてくれいた。

 

「有寿輝のためでもあるけど。有寿輝のせいじゃない。相変わらず、有寿輝の思考回路はいいなと思ったよ」 

 

「意味が分からない」 

 

「それでいいよ」 

 

 担任は、僕の苦手を理解してるから話し方も工夫をしてくれる。長い文章で話さずに、短くゆっくりと話してくれる。

  

「高校二年になればさ。残り少ない高校生活で、将来のことを分からないなりにも考える」

  

「たぶん」

 

「まだ心の余裕があるうちに、ひとりの人間として出来るようなことを教えようと思ったんだ。先生の話で、少しでもみんなの心に届いたらいいんだ」 

 

「自己満足? 」 

 

 僕は、思ったままを言ってしまう。

 

「そう言われたら、自己満足かもしれないな」 

 

 担任は、気にせずに聞いてくれる。もちろん、いけない時は優しく分かりやすくゆっくりと伝えてくれる。

 

「先生も、あの空気が嫌だった。誰かを見下して、嫌な目をする場所って、地獄だからな。もし、このまま見逃してしまったら、取り返しのつかないことになるかもしれないだろ」 

 

「うん」

 

「先生は、みんなの味方だからな。教師と生徒がぶつかれば間に入るよ。生徒に理由があっても、聞く耳もたずに一方的に言われたら絶対に味方になる。生徒が悪ければとことん話を聞くよ。そして、一緒に考えてもう同じようなことになった時とならないようにするために話すよ」  

 

「先生、いつもそればっか」 

 

「みんなの味方のことか? 」 

 

「うん」

 

 担任は口下手な僕の話を、一生懸命に聞いてくれる。

 

「ありがとう」

 

「おう! 」 

 

 担任は、ニカッと笑った。

 

 

 その翌日から、クラスでの変な空気は無くなった。何故か、クラスメイトに挨拶をされて、ごめんと謝られた。

 彼らは普段から遠巻きに見たり、無視をしたりする人たちだ。正直、弱者に対する言動に慣れてるから、もうなんのことかも分からない。反応にも困ってしまう。

 

「あいさつをしようか」 

 

 ボソッと、奈月輝が僕の耳元でいった。

 

「おはよう」 

 

 僕は、そのとおりにした。

 

「大丈夫なら、もう大丈夫って言ったら」 

 

 また、奈月輝が僕の道標をしてくれる。

 

「もう大丈夫」

 

 奈月輝は、僕の困りごとを優しく解決するスキルを持っている。

 僕は、相手から言われたことに対してどう答えたらいいのか分からず、戸惑ってしまう。

 それに対して思ったことでも、言っていいのかが分からない。ゲームの中の選択肢がないと分からない。

 それで、僕はうまくいくことが多い。とてもありがたく、神のように思う。

 

「ありがとう」 

 

「ちょっ、有寿輝、熱ある?保健室いく? 」 

 

「病人ではない」 

 

「だって、いつもならありがとうとはあまり自分から言わないだろう? 」 

 

「うるさい」 

 

「有寿くん、照れてるね」 

 

「うるさい」 

 

 もう、コイツらだけとずっと一緒にいて、笑っていきたい。喧嘩することもあるけど、僕は自身に違和感を覚えても変わらずにいるコイツらが大好きだ。

 

 僕自身がミンナと違ってもいいのだろうか。

 

 他愛もない話を僕らは後どれぐらい出来るのだろうか。 

 僕の隣には、奈月輝としおりがいて、少し離れたところに担任が見守ってる。

 いつまでも、守られたままじゃダメだという気持ちと甘えていたい気持ちがあった。

 

 ある日、教師と生徒の個人面談のことだ。担任からの話しが分からなかった。彼が配慮をして話してくれてるのに、僕の脳は別の方向に引っ張られる。

 

「有寿輝」 

 

「は、はい」 

 

「今、()()にいるんだ? 」 

 

「学校」 

 

「そうだな」 

 

 担任は、少し笑った。

 

「言い方を変えよう」 

 

「はい」 

 

「有寿輝は、今何を考えてるの? 」 

 

「守られてるのを、当たりまえにして、甘えてるのを、もうしたくない」 

 

 僕は、声を震わせ言葉を区切りながら話した。

 

「そっか」 

 

 担任の一言に、驚いた。僕がずっと考えてるのに、それで済まされたからだ。

 

「有寿輝、今は高校何年生? 」 

 

「……高校二年生」 


「そうだな」  

 

 担任の言いたいことが分からなくて、僕はイライラした。

 

「有寿輝は、子供だね」 

 

「そうだけど、何が悪いの!! 」 

 

 僕は、机を叩いて大声を出した。信じてたのに、担任は僕をバカにしてると脳が告げたと思った。

 

「悪くないよ。手痛くなかった? 」 

 

「ちょっと痛い」 

 

「後で、水で冷やそうか」 

 

 僕だって、高校二年生なのに子供みたいな言動があると思ってる。自分でバカにするより、他人にバカにされる方が腹が立つ。

 

「先生が何を言いたいか、僕にはわからないよ! 」 

 

「ごめんな。先生の言い方が悪かったな」 

 

「いいよ」

 

「ありがとう」 

 

 担任は、僕に平等に優しくて、受け入れてくれる。こんな子供みたいな僕を拾い上げることなんてしなくていいのにな。彼の負担になってしまうから。

 

「有寿輝は、高校二年生で子供だから、許されることもある」 

 

「うん」

 

「それだけで、みんな許してる訳ないよ」  

 

「なんで? 」 

 

「有寿輝は、出来ないからってパニックなって怠けてるか? 」 

 

「怠けてないとは思う」 

 

 怠けたら、僕はいけないんだ。できないままなら、孤独になってしまう。

 

「そうだろう。自分がなんでそうなるかを必死に理解して、奈月輝やしおりたちに頼って一緒にがんばってるだろ」 

 

「うん」 

 

「でも、有寿輝はそれが嫌なんだよな〜」 

 

「うん」 

 

「じゃあ、もう知らないってされたら嫌か? 」

 

「嫌」  

 

「ずっとこのままでは、良くないよな」 

 

「うん」 

 

「有寿輝が、気づかないだけで出来ることは少しずつ増えてる。みんな、がんばってるのを知ってるから甘えられてると思ってなくて協力してるんだ。先生もそうだよ」 

 

「本当? 」 

 

「本当だ」 

 

 担任の笑顔で、僕はなんだか安心した。

 

「大丈夫だ」 

 

「うん」 

 

 僕はパニックとは違う涙を流した。

 

 このままではないけど、みんなと一緒にこれからも生きて生きたい。


 出来ないことがあっても、一緒に向き合いながら進んでいきたいんだ。

読んでいただき、ありがとうございます!

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