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プロローグ.全てを捨てた夜

ムーンでも同名で活動しています、鶴です。

粗文ですがよろしくお願いします。


「セノ。貴方に私の全てをあげる」


 豪華絢爛な細工が芸術的なデレッダ公爵家の屋根の上。生暖かい風がフラミーニアの滑らかな銀髪を揺らした。


 闇に覆われた空には星が瞬き、あたりは静寂に包まれていた。


 いつも逢瀬を重ねていた屋根の上で、目を閉じた深緑色の毛色の犬ーーーセノを膝に乗せる。

 セノは睡眠効果のある香を嗅がせており、今はすやすやと寝息を立てている。


「勝手にこんなことしてごめんね。でも私にはセノしかいないの」


 三角の小さな耳をそっと撫でると、ピクと小さく反応する。自分よりも高い体温を感じながら、フラミーニアは柔らかく微笑んだ。


 唯一の友人。孤独を埋めてくれて温もりを教えてくれた。初めて他人に心を寄せた相手。


 フラミーニアは額の柔らかな深緑色の毛並みに唇を寄せた。


 体の奥底にある魔力全てを引き出す。爪の先まで痺れてきて、これが自分の中に眠っていた魔力なのかとぼんやりと理解した。


 フラミーニア・デレッダは女神から授かった唯一魔法ーーー【魔力転移】を行使してフラミーニアの中にある全ての魔力を、眠っている小さな犬へと転移させる。


 白い光が優しく二人を包む。

 どんどんと魔力が吸い取られ、セノへと流れていく。それと比例するようにフラミーニアの腰まであった銀髪が消え失せ、若草色の瞳からは色が消えていった。

 内臓が掻き回されるかのような不思議な感覚だった。



 創世の女神が創り出した人の世。

 女神が人間へ魔法を行使できる特別な力を与えると同時に、重い枷をつけた。それは人間は人間たるべきだという女神の縛めとも言われている。


 女神から賜る魔法を行使する際、必ず何かしら代償を払わなければならない。フラミーニアの【魔力転移】の代償は"体の一部が退化する"というものだった。


 魔力を取り込んでいく深緑色の犬の姿が変わっていく。一瞬明々とした金色の光に包まれると、そこに横たわっていたのは可愛らしい小型犬ではなく、一人の男性だった。


 髪の色は犬と同じ深い森の色。少し開いた口元には小さなほくろがある。スッと通った鼻梁に長い睫毛。目を閉じているので瞳の色が分からないが、年若い男性だ。おそらくフラミーニアと大差ない年齢と思われた。

 装飾のない簡素なシャツにスラックスという身姿は、雄味を感じさせる筋肉のついた体つきだった。


「セノは人間だったのね……。これは獣化魔法、かな」


 ずっと屋根裏部屋に閉じ込められていたフラミーニアにとって、唯一出来た友人だった。人語を話す不思議な犬はフラミーニアの孤独を癒してくれた。


 時に一緒にご飯を食べたり。

 時に夜空を眺めたり。

 時に一緒に眠ったり。


 特別何かをしたという記憶はない。隣にいて、ゆったりとした時間を共有した。たわいもない会話を繰り返した、ただそれだけの大切で特別な思い出。

 フラミーニアはセノと出会い、外の世界へ飛び出す勇気をもらった。顔を上げて、前に進む力を。


「大好きなセノ。本当に本当にありがとう」


 これからフラミーニアはセノへ全魔力を譲渡し、全てを捨てるのだ。住む家も友人も魔力も何もかもをーーー。


 【魔力転移】しか取り柄のない自分だったけれど、大好きなセノへの感謝と親愛が伝わりますように。

 自分の魔力によって、何か一つでも良いからセノの為になりますように。


 朽ち果てていく自分の身体を厭わず、一切の魔力が残らないよう、フラミーニアは魔力を注ぎ続けた。



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