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2話 「女神様は世話焼き」

「美味っ…」


同棲が決まったその日の夜。

俺は柊と共に夕飯を食べていた。


メニューは、ハンバーグだ。

なんと柊の手作りで、これがもうプロ級の腕前だったのだ。

手際良し、味よし、見た目よしで、最高の出来だ。


「ありがとうございます」


「正直かなりビックリしてる。凄いな本当に」


「褒めすぎですよ」


照れ臭そうに目を逸らす柊に笑いながら、ハンバーグを食べる。


ハンバーグは本当に美味しい。だが…これはなぁ…


目の前には、付け合わせの野菜達がある。

ブロッコリーと、薄く切った人参。


俺は、野菜が大嫌いだった。

足りない栄養は渋い顔をしながら野菜ジュースを飲む事で補うほどの野菜嫌いだ。


そんな俺の態度で察したのか、柊は冷たい目で俺を見る。


「後は野菜だけですね」


そう。ハンバーグは食べ終わった。

今は凄く幸せな気分だ。

目の前に野菜が無ければだが…


チラチラと野菜と柊を交互に見ると、柊は野菜を指さす。


「ちゃんと食べないと、野菜さん達が可哀想ですよ?」


まるで子供を相手にしているような口調で言う。


「子供扱いしやがって…」


「あら、では子供じゃないと言うところを見せていただかないと」


「くっ…」


「アレルギーとかではないんでしょう?」


俺は頷き、ゆっくりとフォークで人参を突き刺し、勢いよく口に放り込んだ。


…あれ、美味いぞ


前に食べた野菜は食べた瞬間鳥肌が立ったというのに、この野菜は何故か美味い。

噛んだ瞬間に甘みが出てくるし、野菜特有の臭みがない。

ブロッコリーも食べてみるが、こちらもシャキシャキとして美味しかった。


「ご、ご馳走様でした」


「よく食べられましたね。えらいです」


柊は小さく拍手をすると、2人分のお皿を持ってシンクへ持っていった。


「洗い物は俺が…」


「今日は初日ですし、家事の分担は明日ゆっくり決めましょう。 明日はちょうど土曜日でお休みですし」


「分かった。 なんか悪いな…」


「私が提案した事ですので気にしないで下さい」


そう言って、柊はテキパキと食器を洗っていった。よく見ると、キッチンも細かいところまでよく清掃されていた。


いつもコンビニ弁当かカップ麺で済ましていたので、素直に感心してしまう。


時刻は20時を回ったあたりで、まだ寝るには早い時間帯だ。


2人でソファに座りテレビを見ていたのだが、やはり落ち着かない。


「…そういえば、家が全焼したって事は、服とかも全部ないって事ですよね」


「あーそうなるな…服も教科書もまた一から買い直しだ」


財布や通帳などは常に鞄に入れているから無事だったが、失った物は大きい。


「教科書は学校で買えるからいいとして、服はこの休み中に買いにいくしかないですね」


「だな。 まぁ服にこだわりとかはないから、適当に古着屋とかで安いのをいっぱい買ってくるよ」


「その…慣れない環境で不安だとは思いますが、何かあったら相談には乗りますよ」


目を逸らしながらいう柊に、思わず笑ってしまった。


「な、なんで笑うんですか」


「いや、優しいなぁと思って」


「別に、このくらい普通です」


「そっか。でも、ありがとな。正直助かるよ」


もしあのまま1人で次の部屋が見つかるまでホテル暮らしだったら落ち着かなかったかもしれない。

だが、期間限定だが暖かくて美味しいご飯と、綺麗な住居を提供してくれた柊には感謝しなくてはならない。


「……如月くんの寝室に案内します!」


照れているのを隠すように、柊は勢いよく立ち上がり、廊下に向かう。

俺は笑いを堪えながらついていく。


「ここがトイレで、こっちが私の寝室です。さっきも言いましたが…」


「入室禁止だろ?」


「よろしい。 そしてここが如月くんの寝室です」


柊の部屋の向かい側の扉を開けると、何も置かれてない本棚と、机と、綺麗なベッドが置いてあった。

収納スペースもちゃんとあり、俺が前住んでたアパートよりも良い部屋だった。


「もともとここは客室…家族が来た時用の部屋なのですが、来る事は無いので自由に使ってください」


家族。という言葉を口にする柊は、どこか悲しそうだった。


「部屋の紹介は以上です。 後はお互い自由に過ごしましょう」


そう言って、柊は部屋を出ていった。

まだ21時だが、今日は流石に疲れた。


いつもなら0時過ぎまで起きているが、今日は早めに寝よう。


そう決意してベッドに座ると、部屋の扉がゆっくり開き、柊がひょこっと顔を出した。


「どうした?」


「あ、あの…えっと…」


「ん?」


「お、おやすみ…なさい」


顔を真っ赤にしながら、柊は言った。

そんな柊が可愛すぎて、俺は思わず口元が緩む。


「あぁ、おやすみ。また明日な」


そう言うと、柊は扉を閉めて自室に帰っていった。


俺はそのまま倒れるようにベッドに寝る。

その日は疲れていたからか熟睡出来た。

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