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MOZA-CHAN -モザちゃん-  作者: モザの者
第一章 〜彼女の名はモザちゃん〜
8/50

第八話 “ピクニック”

のどかな、春の晴天の日差し。

自然の木々の()()()()()におい。頭上からかすかに聞こえる鳥のさえずり。


穏やかな森の風景がそこにあった。

慣れた足で歩き、ひときわ広い場所で、となかわは風呂敷を広げる。


「ん~~~!いい天気だ。絶好のピクニック日和だね」


「はい!……でも、いいんですか?“金喪斬刀”を発現させてから、全く修行をしていませんが…」


真面目な彼女の問いかけに、にっこりと笑みを浮かべる。


「いいんだよ。むしろ、“金喪斬刀”が発現したからさ。疲れもたまっているだろうし、“光の力”もたくさん使っただろう。今日くらいは、ゆっくりするといいさ。……ごちかわも、まだ帰ってこないだろうしね。」


納得したような顔で小さく頷く。

先日の殺伐とした雰囲気が嘘のように、のどかで平和な風景が広がる。


ふと、雀が一匹、モザちゃんの元へ寄ってきた。

人間慣れしているのだろう。モザちゃんが視線を向けても、そこから微動だにしない。


「……かわいいっ」


モザちゃんが指を雀に寄せる。意図を汲み取ってか、雀はぴょこんと指に乗ってきた。


うふふ、と思わず笑みを漏らす。ちらりと後ろを見ると、となかわが()()()()を渡してきた。小さなパンくずをさらに細かく分け、手のひらの上に乗せて雀に差し出しす。


嬉しそうな声をあげ、一気についばみ始めた。

本当に、穏やかで、いい日であった。


「用意がいいんですね」


「なにがだい?」


「ほら、こうしてパンくずを持ってきて……鳥たちにあげる用だったんでしょう?」


「まあ、そうだね。」


となかわが口笛を吹くと、小鳥が4,5匹寄ってきた。


「小さいときに、この子たちとこうしてよく遊んだんだ。……さすがに、おなじ子はいないだろうけどね」


一瞬物憂げな顔をすると、おもむろに立ち上がり、


「でも、本命はこっち」


この辺りは、よく整備されていて広く、まるで大きめの公園のようになっている。


「おっ、こんなところに、池があったんですねっ」


「ここの鯉にあげるためだったのさ。……昔は、鯉のエサをすぐそこで売ってたんだけどね。」


ばっ、とパンくずを撒く。

スクランブル交差点のように、鯉が一斉に群がり、ついばみ出す。


「パンくず、食べるんですね」


「食べるんだよ。こうやってたまに、エサをやりに来るんだ。こののどかなひとときが、とても心地いいんだ。」


二人して、顔を見合わせて小さく笑った。


「さて、いい感じにお腹も空いてきたことだ、昼ごはんにしよう」


「待ってましたっ!」


となかわさんは、料理がすごく上手だ。本当においしい。

このお弁当が食べられるということだけでも、ここに来た甲斐がある。


腰を下ろし、さっそく、お弁当箱の紐を解く。

出てきたお弁当箱の、黒い(ふた)が日光を反射してきらきらと光っている。


蓋を開ける。

風呂敷の上に、花が咲いた。


「「いただきます」」


二人して手を合わせる。


モザちゃんが一番初めに手を付けたのは卵焼きだ。

つまんだ箸先でわずかにぷるぷると震えている。表面は鮮やかな黄色と薄いきつね色。口に入れると、かすかな()()()()ののち、口の中でとろけるような感覚、そしてほんのりと甘い匂いが香る。遅れて、()()()と卵本来の旨味が押し寄せてくる。


となかわの卵焼きの作り方は少々特殊である。

四角いフライパンに、油代わりのマーガリンを塗ると、加熱して固まりだした卵を、トントン、トントンとフライパンの()を叩いて丸める。まるでオムレツのような作り方だ。

卵には砂糖と白だし。ごく少量のミルクを入れ、ほんのりと表面の一部がきつね色になるまで焼き上げる。


その旨さたるや________。


「ん~~~~っ♡」


満面の笑みで卵焼きをほおばる。その様子を見てかすかに微笑んでから、となかわもお弁当に手を付けた。


カリッ、と気持ちのいい音がする。

皮はカリカリで、その中身はジューシーな肉汁とともに噛み応え抜群の鶏肉。噛むたびに、旨味が口全体に広がる。

ガーリックパウダーやすりおろし生姜、()()()の粉などを袋に入れて一晩中漬けた鶏肉を、サラダ油にごま油を加えて()()()()したものだ。


「いい鶏肉、使ってますね。」


あっという間に卵焼きを食べ終わり、モザちゃんも唐揚げに手を付けていた。


「でしょ」


にっこりと笑いかける。


「私、よく食べるものは、唐揚げの味わいを消してしまうほど、濃いタレや多く胡椒のかかった唐揚げが多くて、それはちょっと苦手なんですが……、

これは素材すべてが、調味料として使ったおろしニンニクやだし醤油に至るまで、程よく調()()しててーーー。」


うん、うんと彼は満足げにうなずく。


「まるで、味わいの四重奏(カルテット)。素材、調味料、漬け込みの時のすりおろし生姜の突き抜けるような香りや、そして揚げるときに使った油まで、すべてが主役で…それでいてその誰もが()()()()()すぎず、完璧なバランスを保っていてーーー。」


一息つき、


「とても、おいしいですっ」


ふふっ、と微笑みながら言う。


これだけ言っておいて、最後においしいです、と。


となかわも思わず苦笑いだ。


「えへへ、本当においしかったので♪」


「ふふ、まあ、いつもおいしそうに食べてくれるからね。頑張って作った甲斐があるよ」


……………………………………

…………ずっと、こんなのどかな毎日が続けばいいのに。


空を仰ぐ。眩しい陽の光に、軽く目を細める。

はるか遠くに、いわし雲が見えた。明日は雨になるのかな。


ぼんやりと、横目でとなかわの様子をちらと見る。


……きっと、となかわさんも同じ気持ちなんだろうね。

こんな、あたりまえの幸せが、あたりまえに享受できるように………、

私は、明日も───。


うつろうつろ。春の陽気な心地よさと、満腹感に当てられ、(まぶた)が重くなってきた。


すっかり空っぽになった弁当箱を軽く片付け、となかわも、すっ、と目を閉じた。


久しぶりの平和回です。

…………久しぶり……?

…平和回は今まで一度もなかった気がする、というのは禁句でお願いします……。

さて、一転して穏やかな回ですが、皆様の好みに合うでしょうか。不評になるか、好評になるかはわかりませんが、たまにこんな話を入れていくつもりです。


Twitterでの感想コメントと、「自分を出してほしい!」との要望、すべて届いております。

ご安心ください。ゆくゆく、全員出演していただきますので、乞うご期待。


更新は、毎日とはいかないですが、第一章が終わるまではできるだけ早いペースで投稿しようと思います。

不定期ではありますが、だいたい2〜3日に一回は投稿します。

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[一言] となモザくるか?
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