第七話 “玲音”
剣を、無造作に振り下ろす。
ただ、それだけだが、一体、今までの技の幾倍の威力があるだろうか。
「……!!!<“禁技”晴天の夕凪>!!!!」
男は正面から受け止める。<“禁技”晴天の夕凪>は、今持つすべての力を出し切ることと引き換えに、真正面の技を完全に無効化し相殺するという、その男の“禁断奥義”であった。
ただ、前述のとおりすべての力を使い切る。この局面で使うにはとても適当とは言えない技であった。
しかし、彼女の持つ桁外れの力が、男に“死”を予感させ、反射的に使わされた。
……そして。
「が…は…禁技を使っても……これほどの……」
すべての技を無効化するはずの、過去に【混 沌 帝竜】の息吹さえ耐えた禁技が、破られていた。これには男も予想外というほかなかった。
「ぐっ……う……」
しかしそんなことは意に介さない。モザちゃんは再度剣を振り上げ、力強く振り下ろそうとしたその瞬間……。
ふいに左肩を叩かれる。振り向くと、そこにはーーーー。
「はい、そこまで」
「………………ぇ……?」
「お…遅い…ぞ……」
「ごめんね。ただ、蹴り飛ばされるのは聞いてなかったから、その仕返しと思ってよ。」
ニコニコと、あっけらかんと会話を始めた。さっきまで、死闘を繰り広げていた相手と。
「…………ぇ……?ぁ…???」
まだ、全く状況が呑み込めていないらしい。
「ごめんね、モザちゃん。最終修業とは、このことだったんだ。
…紹介するよ。雨宮 玲音。僕の旧友さ。彼に頼んで、一芝居打ってもらったんだよ。」
「えっ??えっえっえっ……?????????」
「……まだ、気が動転してるようだね…」
「そりゃ、そうだろう…」
……………………………………
……………………………………
「つ、つまりっ、そのっ…」
「私は君たちを殺しに来ただけでも何でもない。ただこの男には恩があってな」
「でっでもっ、けっこう…本気で殺しに来てたような…」
「ふふ。『モザちゃんが死んだら困るからほどほどにしてほしい』って言って、その通りに手心を加えてくれるような男には、こんなこと頼まないよ」
依然として、ニコニコとしたまま会話を進める。
「ふふ…」
「そんな男だから安心して任せられた。雨宮玲音だから任せられた。」
「くくく…となかわにこの話題を持ち出されたときゃ、俺のことを忘れてしまったのかと思ったぜ」
すべて、作戦のうちだったのである。
最初に、となかわが服を脱ぎ捨て、家紋を落とし金属音を立てたとき、それが合図だったのだ。
「あ…」
すべて理解したようだった。私のために、ここまで…
「モザちゃん、だったか」
「はっ、はいっ!」
「感じるかい。今の力を」
「…感じます!」
「となかわよ…」
「うん。」
「おそろしいものになってしまったぞ。もう誰も、この小娘には勝てんだろう。すごい力だ。これほどの者は…この400年来見たことはない」
「…はい。雨宮さん。私はもう誰にも敗ける気はしません」
まっすぐとした瞳で、玲音を見つめる。
玲音は、その瞳を見て、満足絵に微笑んだ。
「次に立ち会うときは、こんな生易しい剣なんて使いやしねェぜ」
玲音は、次縹色のその剣を地面に突き刺した。
「……!」
「餞別だ、受け取れ。」
真打“村雨”。次縹色の刀身に、激流の力を宿す太刀。玲音の魂の逸品を、彼女は受け取った。
「……雨宮さん、ありがとうございました。」
深々と頭を下げる。
軽く会釈をして、玲音は去っていった。
これにて、“奥義伝授編”終了になります。
殺伐とした話が続いているので、次はほんわかした話になるかもしれません。
本当はほんわかとした話が書きたいのですが、なぜか気づくとバトルになってるんですよね…