第十話 "愛夢"
この手からこぼれ落ちた命がたくさんあった。
『………う………』
大粒の雨が降り注ぐ。
びちゃびちゃと音を立て、死体を洗い流してゆく。
平原に形成されるいくつもの水溜り。
そのいずれも、出来たそばから血色に染まっている。
流れた血が雨を赤く染め上げているのか。
雨が流れた血を透明に薄めていくのか……。
『うう……っ!!!』
大滝に紛れ、その娘もまた涙の雨を流す。
雨脚は太く、容赦なくこの体を打ちつける。
『ごめ……ごめん……ごめん……なさい……本…当に……ごめんなさいっ……!!』
その勢いは痛みを感じるほどに強い。
だがこの民を死に追いやった、自分の罪に比べれば、こんなもの……。
……いつしか伝えた通り、
当時から大国であったニヤ王国は軍事力に富む……が、少数精鋭……特に強い数人だけが、ニヤ王国を支える大黒柱だった。
数年前までこの国を護っていた茂賀翠。
門番から出世し、近衛兵の隊長に抜擢されようとしている魔門京。
そして、異例の速さで王国の主剣、聖十二騎士となったとなかわ。
茂賀翠が居なくなってからガタ落ちしたこの王国の戦力は、となかわの加入により完全に埋められた……どころか以前よりもはるかに強くなった。だがそれでも備えは必要だと、厚い層が必要だと、精鋭部隊を編成した。
激しい修練。
十分過ぎる武装。
心身ともに成熟したことを確認し、アムはその部隊を、魔龍の討伐任務に向かわせた。
その結果がこれだ。
これが、その結果。凛々しい眼をして、勝利を確約してくれたあの戦士も、気弱だったのにも関わらず修練を経て揺るぎない自信をつけたあの戦士も、
驚くほどに呆気なく、虫のように、全員この荒野に臥してしまった。
大粒の涙を流し、しゃがみ込んだその時──
『うっ……皆……っ……、……?あ、あれ……』
びしょ濡れだった自分。
血に、涙に塗れてぐちょぐちょになっていた装束。
それが、一瞬にして乾き、元の艶やかな姿に戻っていた。
尚も雨は降り続けている。足元にはいくつもの水たまり。だが、雨も、足元の水たまりも、何者かに弾かれたように、自分の体に届かない。
『……風邪を引くよ』
『あ……』
『ほら』
王女はすぐに、誰の力かを理解した。
目の前に差し出される手。それを見て、赤く染まった目が揺れ動く。
『……となかわ……っ……私…私は……なんてことを……!!あなたの、あなたの言うとおり、あなたにだけ、任せていれば……っ!!』
『………アムちゃん』
『……私のことを想ってくれることは嬉しいけど、それでも、今は1人にして……。この雨も、血も、……この風景も、私の過ちそのもの。綺麗なままでは帰れないわ……』
『……………』
少年は少し目を伏せて、小さく頷いた。
そしてほどなくして再び、自らに大粒の雨が当たる感触。そして足元に、肉片と血の感触にその身が晒された。
……これでいい。
……私が受けるべき罰に比べたら、こんなもの。
アムの体は震えている。
寒さではなく、慚愧から。
ゆっくりと目を閉じたアム。
そこに────
『……え……?』
前から、暖かな感触。
すぐに目を開けて目の前を確認する。
先程まで汚れひとつない白いコート姿だったはずの彼。
それが自分をそっと抱き寄せ、雨と血の濁流に身を晒している。
『……アムちゃんが背負う罪なら、僕も一緒に背負うよ』
『……っ!』
『嫌だったかい?』
『……そんな……こと…………』
……こんな温もりは許されない。
だから今すぐにでも振り解かなければならない。
でも……どうしてもこの腕が、
彼を掴んだまま離さない。
『君が生きてさえいればそれでいい。君が生きてさえいれば何度でもやり直せる。それまで何度でも失敗するといい。その度に僕が君を抱きしめてあげるから』
『……!!』
大粒の涙が溢れる。
先ほどとは、似て非なる感情。
胸の奥から湧き上がる、くすぐったい気持ち。
……それでも、アムはゆっくりと、彼の体を押した。
『………アムちゃん』
『……駄目…なの。ここであなたに甘えてしまったら、私……』
『それは違うよ、アムちゃん』
『……え……?』
話を遮り、肩を軽く抱いたまま、となかわは続ける。
『僕が君に甘えたいんだ。雨で濡れちゃって、寒くてね。このまま、温めてもらえると嬉しいな』
『……っ!』
それを皮切りに、少女は大きな声を上げて泣いた。
少年はただ、少女の頬を撫でながら、優しくそれを見守っていた。
これが最後。
これが、アム・ニヤの、一人の少女としての最後の記憶。
………………………………………………
奪われた王冠。
私はアム王女。
この王国は事実上、奴等の支配下にある。
各地の研究所は、人工魔物を産む巣窟となり、
一部の交通は魔族の連絡網となっている。
すべては国の民を守るため。
となかわは何度も、ヤツを滅ぼして見せよう、と言った。
……いくらとなかわの力でも、これはどうにもできないと、何度も止めたのだが、痺れを切らし、となかわはあの地に赴いた。
そうして、彼はソレと対峙する。
『はっは。君か、はじめましてになるのかな?君の噂は、たっぷり、たあっぷり聞いているよ』
『そうだね。はじめましてだ。僕もたくさん聞いているよ、君のこと。全部、悪い噂だけどね』
『はは、それはそれは。好評でなによりだ。……それで、どうしたのかな?まさか初めましての挨拶だけというわけではあるまい』
『ご名答。さすがだね、いや、単刀直入に言おう。君たちの持つ世界の知識が欲しくてね』
『ほほう、世界の知識か。なるほど、なるほどねえ』
『適任だと思って、さ』
『ふむ、ふむ。確かに適任だ。私はかつて……というより、今も様々な世界を旅して回っている。いろいろな世界を知っている。私以上に世界に精通している者は居ないだろう。なるほど、確かにこの上なく適任だよ。初めてだ、私にそんな提案をする人は』
『ダメかな?』
『滅相もないよ。私は君にとても興味が湧いているからね。私の知ることならなんでも教えよう。だが一つ。たったひとつだけ、とてもいい提案をさせてもらおう。となかわ君、我々の仲間にならんかね』
『……お前たちの、仲、間、だと……?』
『そう。その通りだ。さすれば君は、我々の世界の旅路に随行できる。殺戮の日々だ。物言わぬ機械、意思疎通の出来ぬエイリアン、脳のみが発達したできそこないの新人類、色々な存在を色々な方法で叩き、潰し、殺して回る毎日がすぐそばだ。楽しい、楽しい、楽しいぞ。絶対に絶対に楽しいよ。どうかな?』
『へぇ。まさか勧誘を受けるとは。他に特典とかないの?』
『特典かあ。そうだねえ。強いて言うなら、そうだな、私を殺す権利かな』
『……?』
『なんだい、そんな顔をして。難しかったかな?我が社ではね。素晴らしい業績を上げた人物や幹部には、もれなく私を殺す権利をプレゼントしているのだよ。私は数分、目を閉じて動かないでいてあげる。その間、何をしてもいい。なんでも使っていい。どうだ、魅力的だろう』
『ふぅん。なかなかな福利厚生だね。でも、そんな権利貰わなくても、君を殺す方法ならあるよ?』
『なんと』
"しぃけーちき"が眼を見開くと同時。
滅びを纏った剣閃が、一文字に差し込んだ。
『………まあまあ、落ち着きたまえよ』
となかわの背後。
おぞましい声が囁かれる。
『……確かに、殺したと思ったんだけどね』
『そうだねぇ。殺されたかもしれないねえ。ふふ、やはり君は興味深い。一層、入社して欲しくなったよ』
『仕方ないな、無給とはいえ、賞与を前借りしてしまったからには、入るほかないか』
『おやおや、、、素直じゃないか。ふむ、君を迎え入れるには骨が折れると思っていたがね』
『興が乗っただけさ。ただし条件がある。僕は君達の誰からも指図を受けない。好きに動かせてもらおう。そしていつ何時でも、君たちの命を狙う。そして君達が集めた知識、設備、歴史。これらは僕の目的……そして、アム王女の解呪のために利用させてもらう』
ざわっ。
その言葉を皮切りに、これまで静観を決め込んでいた辺りの衆がざわめいた。たった2人を覗いて。
ふざけるな、何様のつもりだ、……と、さまざまな怒り声が飛び交う。
『……となかわよ。我が君の会話を邪魔せぬと静観を決め込んでいましたが、さすがにそれは看過できません。貴方はわれわれをコケにしているのですか』
『ほっほっほ。強欲じゃのう。……そして無駄じゃ無駄じゃ。お前さんにアレを解呪できる可能性などありんせん』
『黙っててくれないか、君たちとは話をしていない』
『な……貴様。………ひひ、面白いやつよの』
『……ほほう。まァいいでしょう。最終決定権は我が君です。つい憤慨してしまいましたが、判決を聞いてからでも遅くはない。……ただ、くれぐれも帰り道はお気を付けるよう』
二人は一瞬、臨戦体制に入りかけたものの、
後ろをちらりと見て、すぐに刃を引っ込めた。
深淵色の瘴気が、渦巻いている。
『で、どうなんだい?"しぃけーちき"』
厳かな空気が揺れている。
先程のガヤ達は既に、声一つ発せないほどの重圧に襲われている事だろう。
何せ、かの脳魔と壱號・○ですらも発声を憚るほどの重圧だ。
『ふむ。いいんじゃないかな?それで』
全身を鋼鉄の錘で締め付けられるほどの超重圧のさなか、
放たれたのは、全くの予想外の言葉だった。
『………なぬ?』
『……なんと』
『ふむ、ふむ。良い良い。好きにするといいさ、となかわ君よ。確かにただの同盟と我らは言ったし、いつでも私を殺していいとも言った。私を殺していいということは、私の配下たちも好きにしていいということだ。まあただ、つまらない殺し方はやめて欲しいがね。君の望むものは与えよう。全て、総て、遍てだ。……ただね、最後の項目については却下だ。君が、自分で見つけたまえ』
『ち。……まあいいか、及第点か。本当は、そっちこそがメインだったんだけどな』
『そうかね。はは。何はともあれ、入社おめでとう、となかわ君。私は君を歓迎するよ』
『ありがとう、存外に、円満な合意が得られて嬉しい限りだ』
『何を言う。ウチはホワイト企業だからね。労働者にはこれでもかと寄り添うさ。ふむ。最終面接の最後の質問だが、となかわ君、君の目的は……あの少女の解呪、そして、さらなる世界、ということで間違いないのかな?』
『なにがホワイト企業だ。社長がこんなに真っ黒だというのに。……まあ、そうだな。僕の目的はそれだ。この選択も、この目的によるものだ』
『ほほう。傲慢だねえ。メインストーリーもクリアしていない頃から、エンドコンテンツに手を出そうとは。まだラスボスを倒していないのに、いいのかい?きっと魔王は倒されるべき勇者を待つあまり、うずうずしているだろうにねえ』
『誰がお前みたいなクソボスに挑むかよ。時間の無駄だ。エンドコンテンツと君は言うがな、これは新しいゲームを買う行為に等しい。この世界、グラフィックはまあまあだが、キャラバランスと、何よりラスボスのクソさ加減があまりにもクソでね、やってられないさ』
『そうか、そうか。君はどの男がそういうなら、そうなんだろうね。個人的には……少しばかり君と遊んでみたかったが、贅沢も言ってられないね。承知したよ、となかわ君、満足いくまでここに居るといい。命運をお祈りするよ』
ヤツはその貼り付けた笑みのまま。
怖いほどに穏やかな口調で、そう諭した。
『……2人は、それでいいのかい?』
ちらと、しぃけーちきの両脇に控える幹部2人の様子を見る。
『フフ……それが我が御大の決定ならば。個人的には、少し気に食わないですが』
『妾は認めん、認めん、認めんぞぉ!ぬしゃ、何様のつもりじゃあ!我が主が認めても、妾は決して許しはせぬ……!!』
真反対の回答だ。
……怖いのは脳魔だ。彼が敬愛しているしぃけーちきを、ここまでコケにしたのにも関わらず、しぃけーちきの一言で簡単に矛を収めた。
そして今も僕の手足をつぶさに観察している。
……呪いを唱えたのがコイツなら、本当に厄介だっただろうな。まだ与し易い、隣のババアで良かった。
『そうか、壱號・○。気が合うな。僕も同じ気持ちだ。いつまでも、その地位が続くと思うなよ』
僕は背を向けたまま呟いた。
『な……はは、無駄だと言ったろうに。貴様がいくら強かろうが、妾の術は破れんて』
正しい判断だった。今あの顔を見てしまうと、体が勝手に襲いかかってしまうだろう。そうなればアム王女が危険だ。
いつの日か。
いつか、きっと。
完全に無防備となったヤツに、神域の魔法"滅"を当てることができれば、ヤツの持つ幾多の保険をも打ち消し、完全に滅ぼすことができるだろう。
それには……さすがに誰かの力を借りるのが丸いだろう。ままならないものだ。
………………………………………………
『…………』
『ということで……僕はあちら側に入る。もちろん建前上さ、君のため……仕方のないことだった。だがきっと、君を助けてみせる』
誰がどう見ても勝手な判断だった。
相談もせず、いきなり、大敵の軍に入った。しかも、特別待遇で。
王女の立場をもつ彼女がソレを疑わぬはずはない。
もしかして元々……?
この会話も筒抜けか……?
だが……
『………あなたを、信じるわ。いつか必ず、戻ってきてくれるのよね』
目を輝かせながらアムを諭していたとなかわは、ここでやっとその気持ちに気づいた。
『……な、当たり前じゃないか……!!僕の心はとっくの前に君のものだ。君無くして僕の存在はあり得ない。この身はとっくに君の虜だ、間違っても君を救う以外の理由はないよ』
すこし汗を泣きながら、こちらをじっと見つめるアムに応える。アムはそれでも、となかわをなおも見つめながら………
『なにか、隠してるでしょ』
『っえ………!?』
『……私のことを思ってくれるのはとてもありがたいわ。でも、でもね。そこに入った理由、もう一つあるんでしょ?隠し事をされたままだと、ちょっと、ね』
『……う』
『なんでわかったのかって?分かるわよ。どれだけ私が、貴方を見てきたと思ってるの?あなたは、自分の心は私のものだ……と言ったけれど、同様に私の心もあなたのものよ。……だから悩みも野心も一心同体。秘め事は、ナシでいきましょう』
『……はは。敵わないや、さすがはみんなのお姫様だ』
『今だけは、貴方だけのお姫様よ』
『……っ』
照れを隠せない。冷静に沈着に報告をするはずだったとなかわは、いつの間にかにやけ顔で、アム王女と会話していた。
『……そうだ。僕には野心がある。修行して身につけたこの能力……この力。どこまで通用するんだろうか、どこまで行けるのかと……僕はそこに興味津々なんだ。……勿論、最優先は君だ。だがそれでも、夢を追うために、この選択をしたということも否めない』
少し顔を伏せたまま、となかわは呟く。
そして、ゆっくりと、顔を上げた。
『………』
『………っ』
灰色の空を背に、無言の時が流れる。
外はすっかり真っ暗。りん、りんと鈴虫の小さな音が、窓の外からかすかに聞こえてくる。
『……この世界じゃ、満足できないのね』
『そうだ』
アムは当然、世界について誰よりも熟知している。
となかわの願いが、どれだけ無謀だということも。
『……この世界の外には、何もないわ』
『試した人もいない。視えないから無いなんて、そんな愚直な結論はうんざりだ』
『……なんとしても、行きたいのね』
『うん』
小さく、しかし強く頷いた。
覚悟と決意の眼差し。数多の闘いを生き抜いた、極星の蒼眼。
『……分かったわ。じゃ、最後にもう一つ……いやもう二つ。貴方の願いが叶って、いつか素晴らしい世界を見つけたら、私もそこに連れて行ってくれる?』
『当然。どれだけ輝かしい秩序を持ち、いかに理想的な世界があろうと、君がいなければ何の意味もない』
『そう。じゃあ……世界の外に何もなくて。闇の空に放り出されて、幾星霜の時が流れたとき。貴方は、私とまた巡り逢ってくれる?』
『……っ』
"それも当然だ。そして僕が闇なんかに負けて朽ち果てるものか。巡り逢う、巡り逢わないのハナシじゃない。僕は君を決して1人にはしない"
脳裏に瞬時に浮かんだその言葉。
口にするのは簡単だ。だが、なぜか、喉をつかえて出てこない。
『私は、いつまでも待つわ。この体が朽ちて果てて、魂だけになって、色んな時代を何度も巡航して、その魂もまた、紅茶に溶かした角砂糖のようにほろと消えてなくなるその時まで、ずうっと』
アムは穏やかに、しかし矢継ぎ早に言葉を重ねる。
となかわはその言葉を噛み締め、深く息を吸って応えた。
『僕もまた、巡るさ。世界の外で闇に離散しても、君のもとへたどり着いてみせる』
それは無根拠な気概ではなく、
自分なら必ず出来る、という確証によるものだった。
もう一度ゆっくりと息を吸って、となかわは呟いた。
『その時は、アムちゃん。闘いも国政も忘れて、二人で僕たちの人生をはじめようね』
『……ふふ。そうね、じゃあボクたちは、何も知らない他人同士として出逢うことになるかな』
『……だね』
『その時は、また、友達から始めましょ』
目を細めて、満面の笑みで、アムは応える。
ここまでの無邪気な笑顔を見るのは、となかわにとっても久々のことだ。
『はは、参ったな。リマスター版で攻略し直しか。これは難易度が高そうだ』
アムを愛し、そして愛される、その関係に至るまで、数多の障壁を超えてきたであろうとなかわ。
それをもう一度、イチからやり直すことになるかもしれない。
諦めるつもりは毛頭ない。それでもその事実を前に、少し尻込みしそうになる。
『そんなことないわよ?多分私────』
少女は絢爛なドレスを少し翻し、窓際に立つ。
月明かりが横顔を照らしている。
『──── 一目で貴方を、好きになるもの』
『…………っ、はは。参った、格好いい返しが思いつかない』
『いいのよ。貴方のそういうところも大好きだから』
小さな部屋を仄かに照らす薄い光。
彼はまるで初めて命に触れた少年のように、緩かな手つきで腕を回し、
少女は緩慢な昼下がりのひとときを過ごすかのように、和やかな笑顔でそれに応えた。
ひとつの破滅を残した愛の夢。
月明かりと、首筋をつたう小さな銀の雫だけが淡く煌めく小さな部屋。
時にしてわずか数分と数刹那。
けれども彼らにとっては、この星空のように果てのない、永劫の抱擁であった。
………………………………………………
「これは最終通告だ。アム。本当に、俺と戦うというのか」
「ええ、貴方を殺すわ。となかわの為に。その笑みが歪むのもすぐよ」
「……くく、そうか。認識した。げに名残惜しいが、仇敵は愛弟子に任せよう。命知らずなお姫様に、灸を据えてやらんとな」
となかわはこちらに目もくれず。
静かに、眼前のモザちゃんを見据えている。
普段のとなかわからは考えられぬことだ。
その重圧。モザちゃんもまた、となかわから目が離さずにいた。
俺はパチン、と指を鳴らす。
あの時の、となかわと初めて会った日のあの時のように、俺とアムの足元に小さな魔法陣が浮かぶ。
景色が暗転し、瞬く間に、俺たちは遥か遠くに居た。
「あら。気を遣わせたわね」
「く、はは。美しいお嬢さんとの会合だ、電車代くらいは出してやるさ。……もっとも、帰りのタクシー代は出してやれんがな」
「ふふ、終電、無くなっちゃった?」
「この期に及んでそんな軽口がきけるとはな」
ゆっくりと、覇剣を抜く。
暗黒色の剣身が、鞘から引き出されながら黄金に輝く。加減や情けなど、その一切を考慮しない姿勢。40年余りの付き合いも、ここで終わりだ。
抜いた剣を構えるその瞬間。
アムは、俺に逼迫していた。
手に持つは一対の短剣。
古い剣だ。何度も何度も砥がれ、入念に手入れされた跡が見える。
伝説の聖剣でも、王国に代々受け継がれる由緒正しき剣でもない、ただの無銘の双剣。
アムが幼少期から修練の際に使っていた双剣。故に、彼女の手によくなじむ。
その熟練された手捌きから繰り出されるは、不可視で予想不可能の剣筋。
二つの刃が、ごちかわの体に襲い掛かり───
「……」
「……っ!」
──寸前で弾かれていた。
同時に迫りくる衝撃波。思うように避け切れず、アムの体が宙に浮く。
「ふふ、やるわね。じゃあ……こういうのはどうかしら?」
アムの速度がさらに上がる。
いくつもの残像が、ごちかわの周囲を取り囲む。
そのまま、今度こそと、その首に手をかける。
「……ふむ」
「……!」
周囲に荒々しい竜巻が巻き起こり、
双剣が宙を舞う。
アムは少しバランスを崩し、地面に手を突く。
他についた手から、抜かれるは光色の槍。
濃い紫色の闘気を纏い、まるで蜂の模様のような形をしている。
<"紫炎刺突">
そのまま、超速の槍がごちかわの胸を突き刺した。
「……京の技か」
「ええ。忠臣の技で大敵に挑む、民思いでしょう?」
アムの固有技、"模倣"。
一度見た技を、その性能の90%を引き出して模倣する技。アムの筋力や魔力で出しえない技であろうと、一度見てさえいれば何の消費もなく繰り出せる。
"貼り付け"が一度きりであることと、"保持時間"に限度があることを差し引いても、破格の技だ。
「……これで最後だ、アム」
自らに刺さった槍を容易く引き抜き、破壊する。
纏われた闘気は瞬時に離散した。
「確かにこれほどの卓越した技術。上級魔物程度なら軽く倒せよう。だが、これで、この程度で本当に俺を倒せると、殺せると思っていたのか」
アムの鼻先に剣を突き付ける。
“次はない”という意思表示。ここで死にたくなければ、今すぐ降参しろ、とその眼が告げていた。
「……ふぅん?じゃあ、私を殺してみなさいよ。簡単なんでしょう?」
アムがゆっくりと、無防備に顔を近づける。
「……簡単に倒してしまうのは惜しい。今はまだ殺さないさ」
「殺せない、んじゃなくて?」
「…………!」
あからさまな動揺。
アムは微笑みながら、俺の顔を覗き込む。
「先程も言っていたな。俺が、お前を殺せないと」
「ええ」
アムは、小さく頷いた後、そのまま前に進んだ。
「む……!?」
勢いよく腕を捻じり、アムの顔が串刺しになるのを防ぐ。
「ほら」
「……そんなもので終わりにされては困るからな。自暴か自棄か知らぬが、貴様の顔面を突き刺して終わりでは目覚めが悪い」
「ふふ、確かにそうかもね。だけど今のは、貴方自身の反応というより、何か別のものに、貴方が突き動かされているように見えたわよ」
「……何が言いたい?」
「別に。ただきっと、私の数十年の疑念が、ようやくはっきりと像を結んだわ」
「だから、何が───」
アムは小さく屈み、ごちかわの腕に向かって走った。
先程とは違い、完全に無防備な特攻。
覇剣を握ったその腕を振るえば、まず確実にその命を殺れるだろう。
だが…………
「ふふ」
「…………」
その剣はまたも振るわれず、
代わりに逼迫した状態からアムを蹴り飛ばした。
同時に腕からの出血。傷口は既に塞がっている。
あの瞬間に斬り裂いたのか。
だがダメージはアムの方が重い。それでも尚、アムはいつも通りの微笑みのままだ。
「やっぱり、ね」
何度も繰り返される突撃。
隙だらけで、愚直な動き。
だが手に持つその剣が振るわれることはなく、俺の腕は、まるで金縛りにでもあったかのように動かない。
「ごちかわ、貴方、誰も殺せないんでしょ?」
「……何を、根拠に」
「簡単な摂理よ。登場人物を殺すのは、いつだって登場人物」
いつの間にかアムは武器を捨て、
至近距離で、ごちかわに詰め寄っている。
まるで目の前に、なんの危険もないかのように。
「登場人物でなくては、ならないのよ」
「……」
「彼らが貴方を殺せないのもそう。超魔法的で神秘的な力に見えて、その実、貴方の能力はただのあたりまえの摂理」
少し弾んだ声で、アムは続ける。
「貴方を殺せるのはきっと理外の存在。それこそ、"しぃけーちき"のような。奴のような世界のバグでもなければ、貴方の命を脅かすことはできない。そしてその代わりとして、貴方も誰の命も脅かすことはできない」
ごちかわは顔を伏せて、静かにその声を聞く。
ちょうど、となかわに我が二つ名の由来を看破された時のように。
「それは当然のこと。だから貴方はあくまで、"共闘"に、"絆"に拘った。そんな世界を描いた。……大敵"しぃけーちき"を倒すための奔走、というのは正しかったのでしょうけど」
頭が割れそうになる。
どこまで、看破されているのか。
「私は何十年も貴方の報告を聞いたわ。ほとんどは戯れ半分の軽い報告だったし、私が直々に命を下したことなんてあんまりなかったけどね。でも……貴方が1人で何者かを倒したこと、一度も見たことがないの」
「……蒼巣の」
「蒼巣、ああ、もしかしてアレのこと?雨宮玲音によって滅びを宿命づけられた、あの魔族のこと?」
「………」
どこまで調べているのか。
立場を考えれば当然のことだが、まさかこんな細かなところまで、詳しく調べているとは思いもよらぬ。
「貴方は私を殺せない。しかし私だって貴方を殺す方法なんてない。だからこの闘いは戯れに終わる。そう思い込んでいたのでしょう?残念、貴方は今日、その慢心の元に死ぬのよ」
「…………」
俺は再び剣を構える。
そして一直線に、アムの心臓を穿とうと走り───
何者かに引き留められるように、
腕は寸前で止まっていた。
「そうだ。その通りだアム。俺はおのずから殺すことができん」
いくら力を籠めても無駄だ。
この剣がアムに刺されば、即死。ゆえにこれ以上は動かん。
「だがそれでも。俺は闘ってきた。全戦全勝とは行かなかったが、殺せないなりに、それでも敵を打ち倒してきた」
突き立てられた剣が、黄金に光る。
「受けよ。<"晴光を謳────」
「<"晴光を謳う翼">」
「ぬ、ぐ……!?」
黄金の閃光を覇剣が迸りかけた刹那。
俺の眼前に、烈しい光が弾けた。
"模倣"で、俺の技を保持していたのか。
油断した、これでは前が───
「私の方が一足早かったようね。技を繰り出す前のお喋り癖、やめた方がいいんじゃない?」
「……くく、"亜娘の狂王"から直々に指南を受けるとは光栄なことだな。だが、名乗りの口上無くして盛り上がりはないのでな」
「"亜娘の狂王、懐かしい響きね。とっくに捨てているわ、そんな肩書き」
点滅する視界で、右往左往に腕を動かそうとするも、
腕がぴくりとも動かん。
近いな。俺が腕を振るうだけで死ぬような位置で、アムは何をしている?
「ふふ。苦しそうに見えるわよ、大丈夫?」
────いや。これは。
「……アム。貴様、瀕死だな」
走り出そうとした足が、振り上げようとする腕が、
何者かに抑えつけられたように、動かない。
「ええ。そうよ。私の身体は、もう限界なの。となかわやしぃけーちきに気を向けるあまり、気づかなかったようね」
数十年に渡り酷使し続けた体。
その立場に甘えず、時には第一線に立ち兵士を導いた。
政治を外交を、たった1人、呪われた体に抗いながら何十年も続けた。
その身体はすでにズタボロ。双剣を握り、振るえるのが奇跡なほどに、崩れかけの体だった。
「……ぐ」
それはアムが数年に渡り、準備していた攻略法。
無限の供給を持つ激流を相手取るならば、その栓を締めて仕舞えばいい。
「……崩れかけの身体の私より、よっぽど辛そうね」
きりきりと、呪いの糸が体を縛り、
狂々と、死の歯車が魂を蝕む。
「ぬ………」
動けん。
動けば、アムが死ぬ。
こうして普通に喋っているのがおかしいくらい、アムはもはや、闘える体ではないのだろう。
ここから逃げようと駆け出せば、その衝撃で、それだけでその命が散ってしまう。
……これは、まずい。
「じゃあ、こういうのはどうかしら?」
動けぬごちかわを尻目に、スタスタと歩き、ごちかわの背後を取る。
「……何を…」
かと思えば、くるりと後ろを向き、
背中合わせの体制を取った。
「ちょっと痛いけど、我慢しましょうね、お互い」
アムはもう一度、先ほどの槍を生成した。
そして────
「ふっ………!」
「ぬ……ぐ……!?あ、アム……貴様………」
アムは自分自身の胸を貫いた。
ギリギリのところで、急所を避けて。
そして当然。背中合わせの背後にいるごちかわにもその槍は届き、
これも計算ずくか、その槍は正確に心臓を貫いていた。
「…….ぅっ……!!」
しかしそれでも。今のアムにとって致命傷も致命傷。
その命が完全に散り去るギリギリ。
故に貫かれたごちかわの傷が、
修復される摂動でさえ、この命は落ちる。
「ぐ、は───!!あ、アム、血迷ったか……!こんな、こんな捨て身の方法、となかわが、なんて言うか……!!」
「……ふ、ふ。私を、私たちを舐めないことね、ごちかわ……。さっき貴方自身が言ってたことよ。私たちの愛を舐めないで」
「………!!」
「私はとなかわのためなら、この命だって捧げる。そしてとなかわも私のことを、心の底から信じている」
その命は風前の灯だと言うのに、
まるで天啓を告げる神職者のような落ち着き払った声で、アムは呟く。
「く……くく、そうか、すまない、貴様らの愛を侮辱した」
声は震えている。
回復ができぬ。凄まじい勢いで血が流れる。
「我慢比べよ。貴方と私、どちらが先に逝くか───」
その言葉の続きは、発されることがなかった。
意識を失うその寸前まで、穏やかな仕草を崩さないとは、いったいどんな気骨だ。
「………っ」
「…………」
時が流れる。アムはまだ、意識を失いながらも生きている。
対する俺は意識ははっきりとしているが、心臓を破られ回復も不可能。命の流れでる速度ではこちらが圧倒的に不利。
「………く」
目の前がぼやける。限界が、近い。
「………」
それでも、その限界を超えることこそ、
「だが、……だが、だ」
"闇を纏う聖騎士"ごちかわの矜持だ。
「………」
アムはその眼を少し開けたまま意識を失っていた。
硬く槍を握っていた手が、腕が、だらりと地に落ちている。
ごちかわは後ろに手を回し、そっとその瞼を下ろす。
────背中合わせの距離。
たとえ自分でなくても、その命が終わったことは、容易に察知できる。
「少しばかり、時が、機が足りなかったようだな」
ゆっくりと立ち上がる。
事切れてしまえば、もはや制約など関係ない。
何十年を闘い続けた鋼の肉体。
心臓を貫かれても、死に抗い、生命を保ち、この我慢勝負を制したのだ。
少しの安堵。
だが、直ぐに俺は気づいた。
何かが、おかしい。
なぜまだ、傷が治らぬ?破れた心臓が、修復しない?
────その摂理に沿って、ただ保守的に敵を追い込む。
それだけの戦法なら、いわば誰にでも出来る。
言うなれば、ここまではまだ序の口。
ここから。
これこそが、アムの"ごちかわ殺し"たる所以。
いつまでも治らない傷。
市の中枢の野太い水道配管を切り裂いたような、尋常でない勢いで血が流れ出ている。
このままでは、本当に危険だ。
アレはただの自殺。
間違っても俺が殺したことにはならぬ。
だからその命が消えゆくまで耐えればよい。そのはずだった。この命が消えれば再び自由に動けるようになる。そのはずなのに。
────アムはまだ生きている。
方法は分からぬが、まだ生きていると考えねば説明がつかない。
「は────」
膝をつく。もう立っていられぬ。
あまりにも慮外のことだ。このままでは、共倒れだ。
「………………」
薄れゆく知識。
ここまで血を吐いては、"甦生"など使えるはずもない。万策、尽きたか?
「………………!」
いや。ひとつだけ。
最後の手段が、残っている。
アムの命を脅かさず、
俺自身の力を使わず、
この傷を癒す方法が、
たった一つだけ、ここに残されている。
「………………アム。貴様はよくやった。間違いなく貴様は、となかわやしぃけーちきに匹敵する大敵であった」
俺は右手に<“光煌聖天心剛掌”>を纏い、ゆっくりと胸元に持っていく。
「惜しむらくは、俺の魂の性質を調べておかなかったことだ」
真魂を開く。
いくつもの星が蠢き荒ぶる魂の奥底に、小さく光る白い魂。
これこそが真なる魂。御魂の魂の奥底に位置している、本当の根源。
「普段ならばとてもやれるものではないがな。むしろ、魂と心臓が食い破られた今の方がやりやすい」
となかわや虹かわがかつてそうしたように。
その"白魂"が、消えゆくアムの魂を吸収している。
これならば、もしアムがまだ生きていたとしても、
その命に危害を与えることなく、
自らを修復できる。
めき、めきと、心臓の破壊によって萎んでいた腕が、破れた血管が、元に戻ってゆく。
一時的に脱出口を与えられていた血は再びこの身体を急速に巡り、体中を癒す。
完全な治癒までは程遠いが、十分だ。
余裕で、アムの魂が俺の中で消え去るまで、耐えられ────
「………む……?」
ドグン、と鈍い音。
「……なん……だ…?」
ドグ、ドグン、と軋むような音が、この胸中から聞こえる。
「……こ、これ、は」
治りかけたこの体。
ソレは突として荒ぶり、この体ならざる形を造りながら膨張する。
魂は引き裂かれ、心臓は食い破られ、脳は震盪を起こす。
一瞬にして、魂を取り込む前───いや、それ以下のコンディションに叩き落とされた。
「く、黒い……魂……!!!」
重大災害に晒された身体。対処に追われる脳裏には、アムのあの微笑みが張り付いて動かない。
黒い魂。
かの白い魂と双璧を成す、異魂のひとつ。
魂になにもない白い魂と真逆で、黒い魂にはすべてがある。
「……まさかアムが、持っているとは……!!」
それはとても強いことのように思える。だが実際には逆だ。
すべてのスキルツリーが埋まっている。覚える能力も、目覚める力も、全てが決められている。
魂の適正と肉体の適正は必ずしも同じとは限らない。
通常の魂を持つものは戦闘スタイルに合わせて自由に能力をその身に宿せるのに対し、黒い魂は新しい能力を組み込まない。その代わりとして、成熟はかなり早い。
「……こんなことになるなら、あの時となかわにしたように、貴様の魂も掴んでおくべきだった」
そんな欠点を持つ黒い魂だが、
ひとつだけ、超強力な異能がある。
それは白い魂。
白い魂を持つものと、その魂が混じり合った時。
その魂の白を瞬く間に黒く塗り荒らし、その根源から食い荒らす。
無論、決まるはずがない。
そも黒い魂も白い魂も非常に希少な個性。
そして魂の奥の奥底を密着させて取り込もうなどと、普通の魂でもまずやりえないことだ。
「く……これ……は……」
だからこそ、
理外の超ぶっ壊し択だからこそ、
決まった時の効き目は、この通り。
- ふふ………"効く"でしょう? -
「は……は、そうか。これは……これは相違なく“ごちかわ殺し”だ。この俺を、その存在ごと、消し去る腹積もりか」
- 気に入って貰えたかしら? ……終わりよ、ごちかわ -
「か……はは。模倣と古徳と黒い魂。完璧だ。貴様のその戦法、冥途の土産に胸に深く刻ませてもらった」
- ふふ、何が悪い?……ってね。あなたを殺すため、使えるものは、すべて使うわ -
「……ふ。心中では愚かな捨て身の特攻とコケにしていたが、なかなかどうして、美しい戦法だ。やはりアム。おまえは今こそが最高に麗しい」
- ふふ。お褒めに授かり光栄ね。でもごちかわ。一つだけ、間違いよ。捨て身の特攻?私はとなかわを一人になんてしないわ -
「………な、に…………?」
「そもそも貴方、一体、誰と話しているの……?」
胸中に響く会話の続きを担うように、
背後から聞こえる、全く同じ、穏やかな声。
「………ア、ム。貴様」
「ふふ。"ごちかわ殺し"謳うものが、その唯一の機会で道連れってんじゃ、締まらないでしょう。貴方との相打ちなんてごめんよ」
「そうか、<“狂空無為顕現”>……!!!」
「貴方一人で創った世界でしょう。ならば、逝くなら一人よ」
あの時に、“模倣”していたのか。ここまでのすべてを読んで。
してやられた、もはや、意識も実体も保ってられぬ。
俺を蝕む黒い魂。"狂空無為顕現”によって創られた可能性のアムの魂は、今も俺に食い込んでいる。
いかに魂の根源から力をひり出そうと、どうにもできん。
目の前にいるのは本物のアム。
アムは宣言通り、"ごちかわ殺し"のその異名通り、
この正念場を制したのだ。
「は……はは。願わくは地獄征きは優美な娘と共に、と思っていたが……叶いそうに……ないか」
男は一言呟いて、わずかに感慨を残し、
黒色の空を背に、朧のようにその姿を消した。




