第五話 ”金喪斬刀”
…思えば私って、そんなに恋愛系DVD、観てこなかったんだなあ。恋愛系ドラマとか、小さいことよく見てたから、こんなの今更見たところで…って思っちゃったけど…
「恋愛って、いいなぁ…」
人と人が恋人同士になることって、決して単純なものじゃないんだもんね。一人の男と女の間に、何度も感情の交錯、精神の紆余曲折があって、中には、決して実らない恋もあって……。
愛って、本当に深い。
それは学ぶことができた。
…学ぶことはできたけど。
…できたけどっ!
「これが一体、修行と何が関係あるのーーーー!!!!!」
いくら考えてもわからない。愛が力になるっていうの?北●の拳じゃあるまいし…
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「一応、全部観ましたけど…」
「…早いねえ…睡眠はちゃんととってるかい?」
「まあ…」
「うん、ならばこれで、修行の下準備は完了だね」
「こっこれで終わりなんですか!?」
「うんっ。これから先は、実践だ」
微笑のままに、となかわは話を進める。
「は、はあ…」
「前も言った通り、“しぃけーちき”には、普通の剣では傷をつけることはできない。
傷をつけるためには、“金喪斬刀”の発現が必要不可欠なんだ。」
「“金喪斬刀”……」
「それじゃあ、行こうか。早ければ今日中にでも、僕が君に恋愛系DVDを見せた理由を知れるかもね………………
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ドヴェルガルマ宮殿内、“聖骸人の間”。
人々は恐れ、魔族たちは畏れる。
おおよそ魔物や使者たちのために作られたその宮殿内では、普段から使者たちの‟経”が絶えることはない。
宮殿の中心にそびえたつ巨大な女神像、“魔門産まれの王女の吟遊”の前には、週に一回、総ての魔物が礼拝をしなければならないという慣習があるそうだ。
金の桃が実る木。穏やかな春の日差し。
殺伐とした魔界において、唯一使者や魔物が休める場所であり、“しぃけーちき”直属の配下でさえも骨を休めると言い伝えられている。
そんな“楽園”を、一人の若い男が駆けていた。
腰には光り輝く剣を携え、頭、腰、左足から血が滲んでいる。下腹部に銃弾で撃ち抜かれたような跡があった。滝のような汗を流しながら、時折周りを見渡して警戒している。
『<“深淵の闇球”>』
『ぐあっっっ…!!』
深淵色の凶弾が、無慈悲にも男の胸を貫いた。
『ハハハハ、まさか君がこんなところまで襲撃を仕掛けて来るとはねえ。せっかくのバカンスを台無しにされた罪は重いよ』
『チッ…思ったより速い…!もう嗅ぎつけられたか!』
剣を抜き、その男と対峙する。
今までの傷、さらには先ほどの“深淵の闇球”によって腰の左側から夥しい量の血が流れ出ている。
傍らから見ても満身創痍。とてもじゃないが、戦える様子ではなかった…。
『ふふん。死にそうじゃあないか。身体が今にも縦に引き裂かれそうだぞ?』
“深淵の闇球”によってつけられた傷穴は大きい。先程の腰の弾痕と繋がり、彼の言う通り、上半身と下半身との泣き別れを予感させる。
『致命傷で済んだ、と言ってほしいな…!残念だが、簡単に捕まってやるわけにはいけないんだよ…!』
『<“晴光を謳う大剣”>!!!』
巨大化した光の剣が、通路ごと対象を切り刻んだ。
同時に、その剣戟によって生み出された光球が破裂し、目くらましの役割を果たす。
『ほほほう。あれほどの傷を負いながら、これほどの…!やはり君はおもしろい。ごちかわ君。…だがねえ。』
そんな小技の目くらましなど気にも留めないと言わんばかりに、また次の凶弾が胸を貫通する。
『ぐぅ…っ!』
ああ…ダメだ…意識がもうろうとしてきた。今度こそ…だめかもな………
『だいたいねえ。君は中途半端なのさあ。私たちの野望を止めるとのたまいながら、闇の力にも手を染めた。
それどころか君は、最後の最後、光か闇かでは、迷いの果て、結局光を取るだろう。必ず、必ずだ。最初から“闇”に徹した、この私との違いだよ、それが』
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「お客さん、もうすぐ到着ですよ。お客さん」
「…………!!!!」
足元が揺れている。隣の景色が猛スピードで後ろへと駆けてゆく。
夢…夢?夢だと……………………
ここは、馬車の中…か…
「夢……?」
ううむ。夢など見るのはいつぶりかな。……悪夢だ。
…なつかしい、思い出したくもない思い出だ。
あの日、俺がどうやって生きて帰ったのかは、覚えていない。
「お、お客さん?」
「夢…か…………」
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「まずは、おさらいだ。」
「はいっ!」
「キミが今まで教わった通り、“剣”を振るうには、“光”の力が必要不可欠なんだ。キミはその‟光”の力がずば抜けている。
そして、この光の力を一定以上剣に込めると、それは“光剣”となり、魔物を打ち倒すための強力な武器になる。」
モザちゃんがいつも使っているのがこの光剣の力である。靈煌剣ハルヴァバードに光剣の力を宿して戦う。
それから更に、有り余る光の力を使い、その力だけでもう一つの剣を顕現させることも可能なのだ。
‟光の力”によって強化された靈煌剣ハルヴァバードと、光の力をそのままに顕現させた二対の双剣で振るう剣戟。それが、前の‟しぃけーちき”との対峙で魅せた、<“聖天霊煌煌双麗斬”>である。
ケタ外れの光の力を持つモザちゃんが最も得意とする技であり、相当な鍛錬を積まないと真似ることすらできない。
「だけどね、モザちゃん。この“光剣”には、もう一つ上のステージがあるんだ。」
「もう一つ上のステージ…」
「そうだ。その名を、“金喪斬刀”という。」
「それが、金喪斬刀…」
ちらりととなかわの方を見ると、となかわは微笑みながら軽くうなずいた。
「金色に光る剣身に、生命に満ち溢れたオーラ。その剣を顕現させることができなければ、“しぃけーちき”の操る使者達には傷一つつけられない。…ほんとは、まだまだ先に伝授するつもりだったんだがねえ。」
でも、僕たちはモザちゃんの意見を何よりも尊重すべきだ。ごちかわもその思いは同じはず。
モザちゃんのケタ外れの才能なら、少しくらいは飛び級しても何とかしてくれるだろうしね。
「よし。それじゃあ、本格的な伝授に移ろうか。」
「…………!!…お願いします、となかわさん!!!」
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