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MOZA-CHAN -モザちゃん-  作者: モザの者
第四章 ~終末に至る世界~
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第三話 “欠落”

「……っ……!!」


絶望。

彼らは。不撓の戦士、聖十二騎士は倒れない。

幾度となく強大な敵に立ち向かい、幾度となく傷を負い、しかし決して打ち倒されず、悪の芽を潰してきた。


それこそが聖十二騎士の使命であり、誇りであり、当たり前のことであった。

ましてや彼は雨宮玲音。原初(はじまり)時代(とき)から活躍していた嵐の戦士。総員は、たとえ彼が心臓を銃で撃ち抜かれようと、死ぬなんて思わない。その勝利を。最期には彼一人が立っているであろうことを、信じて疑わない。


だが、それでも。


ゆっくりと、ただ一本の指を貫かれただけの雨宮玲音が、


明らかに死亡していること。

それを、その場の全員が確実に感じ取った。


もうその勇ましい声が聞こえることはない。

もうその疾風怒濤の連撃を見れることはない。


もう彼は……


―――今は亡き同胞に思いを馳せるのもつかの間。

絶望が塗り替えられる。目の前の圧倒的な重圧に。


「さて、次は……ハナかわにしようか」


「……ッ!!」


その双眸が、ゆっくりと、ハナかわの方を向くと、

そこでようやく、ハナかわは魔法行使に入った。

他の者は動けない。指を1ミリでも動かしたが最後、次は自分がああなっているだろうと、脳が感じ取っているからだ。


……ハナかわの魔法行使も、死を前にした反射的な防衛行動だろう。だが、それでも、死を目前にした最期のその力は、魂を全て振り絞ったその術は、神話級の大魔法に匹敵する力を呼び起こす。


「……ずっと思ってたけどさ。失われた魔法が、新たな魔法がとか色々言ってるけど、魂を起点とし、()を描いて、属性を付与し、放出する……ただそれだけ。光の力をそのまま放出するのと何が違う?何も変わらない。何も。そんな丸太を角材に加工して撃ち出すような攻撃、技とは言えないね。せめて剣や槍にでも加工しなよ。……()()()()に」


言い終わるのとほぼ同時。となかわの滅びの稲妻が、ハナかわの魂を灼き尽くした。外傷もなく、一滴の血も流さず、一言の声も発せず、人形のようにその場に崩れ落ちる。展開していた多重魔法陣は、そのいずれも、魔核を滅ぼされている。


同時に、となかわを起点として、グアォと、周囲から魔の乱流が巻き起こる。


「おっと、潰したはずなのにね」


ハナかわの死をトリガーとした魔法か。魔核を潰されてもなお、覇帝龍すら打ち倒せるであろう、凄まじい密度の楼撃が襲い掛かり、彼を包み込む。


だがとなかわは、まるで砂を振り払うかのようにその魔法を撥ね退けると、数千の同時発動する魔法の中から一つを(おもむろ)()()()()()()


「“新生(ネプル)”……かな?はは、周到だな。もう少しばれないように工夫すればいいのに。そこまで魔法に詳しくない自分にも、バレバレだったよ」


砂場に稀にある、すぐには崩れない砂の塊、それを手で崩すように、その魔核を滅ぼした。


光が名残惜しく霧散するのもつかの間。



「……虹かわ」


次。 と、聞こえた気がした。

ハナかわの御霊が消失したその刹那、虹かわの背後から、禍々しき、聞きなれた声がする。


「く……狂ったか、貴様っっ……!」


「いや?僕はまったくもって正常だよ。……虹かわ。僕と同じ、“白い魂”を持つ男。数か月の充填で、瀕死のしぃけーちきを焼き尽くす一歩手前までの威力を叩き出せた。成程。他の聖十二騎士とは一味違うわけだ」


「……」


虹かわは答えない。他の者と違い、攻撃も、防御行動もとらず、ただとなかわを睨み続ける。その姿には、ある種の諦観すら見られる。


「どうする?僕だって、()()じゃあるまいし、虐殺は趣味じゃない。……もし君が、『しぃけーちきを倒すために用意していたあの力が残っていれば、この状況をどうにかできただろうに』とか思っているのなら、それを解決してあげてもいいけど」


「……いや、思わん。あれしきで貴様は倒れないだろう。()くとどめを刺せ」


「そうか。たしかに、あんなものが僕に聞かないのは正解だ。けれどさっき言った通り、僕の目的は虐殺じゃあない。君らを生かしておく理由もないけど、殺す理由もない。ただアイツらが復活するまでの暇つぶしをしているだけさ。()()()与えよう」


となかわの前に、ポウ、と淡い光の球が現れる。まるで吸い込まれるように、虹かわの魂はその球を取り込んだ。


「同じ“白い魂”を持つ者同士なら、光の力の譲渡・吸収が行える。実際に試したのは初めてだけれど、原理を考えればこれができるのが当たり前だ。……とりあえず、ざっくりだけど、()()()1()()()()()の光の力を籠めてみたよ」


「……ぐっっっ……!!!!が……!!!!!!!はっ、はっ、はーーー!!!」


虹かわの魂が荒ぶる。破裂寸前の風船。力が逃げ場を求めて暴れ出す。その奔流、虹かわにとっては、内側からの刺激でありながら、自身の首を絞められていると錯覚するほどであった。


「なんだ、これでも耐えられるじゃないか。しぃけーちきに放っていた力があの程度だったから、器が耐えられる総量がこのくらいかと考えていたよ。あの時、このくらい溜めていればよかったのに。……じゃあ、次。君の30年分くらいに相当する光だ。僕に届くほどの力には程遠いけど、少しずつ、段階を踏んでやっていかないとね」


「……!!!!!!!……っ、ぅぅ……っ……!!」


先程の譲渡ですでに、声も発せぬ状態の虹かわは目で訴えかける。だがそんなこと関係ない。となかわは虹かわの眼など見ていない。魂のみを注視し、再び光を送り込む。


―――となかわ以外の誰もが予想できたように、

その魂は、その光を注入した瞬間に2、3回蠕動し、

パン、とあっけのない音を立てて破裂した。


……魂の傷つく痛みは想像を絶する。

根源からの痛みだ。ひとつの引っ掻き傷でも気の狂いそうになるのに、破裂となれば。

いや、そもそも、存在を構成する魂が破れたのなら、生存なんてありえない。



それでも動く。

辛うじてまだ動く。

ぐしゃぐしゃになった魂。それに呼応し崩壊を始める体。それでも、虹かわは立っている。拳を振り上げて、まだ戦うつもりでいる。


それは白い魂をもつ故か。

それともその怪物じみた克己心によるものか。


痛い。

痛い。痛い。痛い。

砕け散った魂が、無数の針の塊となり、全身を突き刺していく。

ざく、ざくと音が響く。

気骨のみで成り立っている虹かわの体は、そんな()()()()()情報を、妄想か真実かわからぬ情報を幾度となく反芻していた。


これが痛みであるのなら、私が今まで味わってきた痛みとは何なのか。


そう耽るのも一瞬。

虹かわは、本意ではないが、破裂して溢れ出る光の力を頼りに向き直る。


とうに言葉はない。


目の前の男に一矢報いる。そのために不必要なものはすべて切り捨てよう。


「魂が壊れてしまったか。虹かわ。君は“ごちかわ”の戦闘技術をコピーしているのだろう?ならばアイツのように、魂を再生してくれよ」


とうに傾ける耳はない。


崩壊は今も広がっている。

心臓から噴水のように血が噴き出ている。骨が焼けただれている。


危険信号が止まない。

くだらないところに満足に機能するこの脳が恨めしい。


止めどなく流れる血よりも、

今も崩壊している体よりも、

遥かに“命の危険”が目の前にいるのに、


壊れ果てた脳は愚直に分かりきった信号を送り続ける。


危険信号が止まない。

危険信号が止まない。

脳裏には細胞が崩れていく景色。


危険信号に、その景色に踵を返し、

その男を殴りつける。ありったけの力を籠めて。


……だがそう上手くいかないのが現実だ。

何と滑稽なことか。殴りつけたはずの自分は、

まるで赤ん坊が親に駄々をこねるような動きに見えただろう。


眼が、視界が完全にその機能を無くす刹那。

となかわの呆れたような表情が目に映っていた。


「……ダメだったか。同じ白い魂を持つ者。ごちかわの技術をコピーした聖騎士。もう少し、期待していたんだけどね」


とうに視界はない。

だから目の前には、見たくもないあの顔がこびりついている。

飄々とした顔。本当に“呆れた”表情か?

色々な感情が入り混じったーーーイや、もウ、どうでもイイーー


とうに痛みはない。


それなのにとなかわは俺の顔を覗き込み、やはり飄々とした顔で語りかけてくる。


「虹かわ。僕はね。生まれてからずっと、光の力を溜め続けているんだ」


「…………………………………………は…………………………………………………………………………………………………………?」


とうに意識はナい。もう私 はナニもな 。

たダ。最期のその 葉に は、

心 底、  …………………………………………

…………………………………………

……………………。



………………となかわの目的は虐殺ではない。

聖十二騎士を瞬く間に三人始末した。こんなものは趣味ではない。


飄々と、聖騎士たちの前に立つとなかわ。

その表情とは裏腹に、去来する感情は“苛立ち”。


―――こんなものか。本当にこんなものなのか。

ともに世界を救うと誓った聖騎士。しぃけーちきを打倒すると言っていた聖騎士。

古豪にして、その戦闘経験に並ぶ者無しと言われる雨宮玲音。

こと神秘的な力に圧倒的に長け、“魔法”とは彼を指す、と呼ばれるハナかわ。

ごちかわととなかわと除けば、最強格と呼ばれる虹かわ。

こんな、ものかーーー。



彼は知る由もない。

彼以外の誰も、与り知らぬこと。


力をつけ、体が育ち、光がめきめきと輝くその過程で、

彼は、その心の方が、壊れていったのだ。

すでにしてその心は欠落していた。

それだけのこと。

でなければ目的と一切関係ない仲間達を、

こんな風に、

虫を潰すかのように、

蹂躙することなどないだろうに。


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