エピローグ "冥界"
ーーーそれは、しぃけーちきが観た光景。
死の間際の夢なのか。幻覚か。それとも………。
「…ふむ、ここは……ふふ、地獄か。地獄だね。冥界とも言うべきか」
景色はまさに地獄絵図だ。地獄だから当然か。
地は焼け、天は爆ぜ、一面に暗い空間が広がる。
しぃけーちきにとっては心地よい空間なのだろう。
「あら、遅かったわね"しぃけーちき"」
「………サクラウニ!はは、君もここに!!いやあ、最高だったさ、君のお陰さ、あんなに楽しい時は初めてだった」
「……そう」
「人間たちに助けの道を、と息巻いていたのに、行きつく先は地獄とはね」
「……私は自己意思でここに来たわ。何のためか、分かるでしょう?」
しぃけーちきは生前と同じく不敵に笑っている。サクラウニの重圧がのしかかる。
「ふむ、あの時の続きかね。死後もせわしないものよ」
サクラウニがしぃけーちきに死の烈風を送る。
あの時のようにしぃけーちきは抵抗する。
「……む」
「ふふ」
あの時とは違う。しぃけーちきが、明確に押されている。
「いや、まさか、死んで早々に、死ぬのか、私は」
「フフ。冥界で死神に勝てると思って?…言ってみなさいよ、それも楽しいものだ、と、普段通り、余裕綽々に」
「………む……」
「なぜ笑わないの?笑いなさいよしぃけーちき。楽しくはないの?あなたは、あの現世で殺しを散々楽しみ、そして自分の殺されも愉しみ、そして更に、死後の世界でも……迷える魂を、選定前の人々を殺そうと思っていたのでしょう?」
「……はは、バレていたか」
しぃけーちきが本腰を入れて力を解放する。先ほどまでは死後ボケがあったのだと指し示すように。
「やっと笑ったわね。じゃあ、笑えなくなるような絶望を見せてあげる」
サクラウニの傍らから、何者かが現れる。
…しぃけーちきは、知っている。彼を。
「………!!!」
「私は後悔している。あの日、貴様を見逃したことを」
「金 モザ次郎………!!!!!」
「……そうよ。彼は寿命で死んだ。故に別世界にアクセスはできなかった。だから私は、光の力を繋げて命を形成し、冥界であなたを待っていたの。彼の娘がきっとここに叩き堕としてくれると信じて。……運命のいたずらね。親子で全く同じ姿となるなんて」
「ふ……ふふ、最後のあがきも、ここまでか。いや、数多の怨念のもとにうち死に、そして、程なく冥界でまた怨念のもとに死ぬ。こんな愉快な御伽話があるか」
わずかに笑い、諦めたように目を閉じる。
達観したようで、ほんの少し、諦め切れない心情が読み取れる。生前からは考えられないことだ。余程、冥界での殺戮が楽しみだったのだろうか。
瞬時にして、モザ次郎の手によりしぃけーちきが粉々に斬り刻まれる。
そしてーーーー
<"老海白">
サクラウニの渾身の瘴気。
あの時と、同じ構図だ。
冥界で真なる力を解放した死の濁流がしぃけーちきを襲う。
ソレは声も発せず。
まるでそこに初めから何も存在しなかったかのように。
稀代の殺戮者"しぃけーちき"は、
冥界の永劫に続く宵闇に、散っていった。




