第十六話 "光"
「……一体、何が起きているのか、分からねえ……」
「う、うん……」
「……とりあえず、手は出さない方がいいのは確かですね」
遠巻きに見守る聖騎士一同。先ほど離れてから、介入できず待機していたのだ。
「何を言っている、お前らも戦え。しぃけーちきを倒すための条件がすべてそろっているぞ」
「えっぇえ……!?」
「そのぅ……恥ずかしながら、あの戦いについていける気がしないというか……」
「何を言っている。“聖騎士揃わば悪鬼をも穿つ”という言葉もある。最期まで、全身全霊で闘い抜くのだ」
「……誰の言葉ですか?」
「俺だが?」
「……うぅ」
「……いや、でも、気のせいか、体が、軽く……感じるぞ、先ほどのダメージや疲れがすべて吹っ飛んだどころか、最大値以上に……これなら、いけるかもしれない」
「はは、元のあの世界をベースに仮世界を作ってよかったぜ。あの世界の常識が受け継がれている。皆、今流れてくる力は、絆の力によってモザちゃんから流れ出した力だ。あまりにも突出した力故、俺たちにも流れてくる。……むしろこの絆のパスを繋げることこそが、最後の一縷の望みに必要なのだ。だから遠慮なくその力を享受してくれ」
「うおお……!!これなら、”晴天の夕凪”を何度でも打てそうだ……!」
「ぐ……!!」
「虹かわ、そうか、お前は辛いだろう。持つか?」
「心配は不要だ……!!この日のために仕込んだすべて、これしきで漏らしてたまるか……!!寧ろ一気に増えていい気分だぜ……!!」
漏れ出た光の力が総員に降り注ぎ、限界をはるかに超えた力が引き出される。負った傷も、受けた瘴気もみるみると治ってゆく。聖騎士一同+京は、再び突撃する。
モザちゃんの放つ圧倒的な光の奔流に躰を引き裂かれそうになる。だが彼らは止まらない。止まるわけがない。悪鬼を倒すため。殺しを趣味にするようなこんな怪物が現れない、平和な世界を取り戻すため。
「「「「「「「「「「う・お・お・お・おおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」」」
モザちゃんを筆頭に、しぃけーちきを取り囲む無数の剣戟。
初めはそのすべてを捌いていたしぃけーちきも、だんだんとその身に傷を負っている。
最初の姿に戻ったしぃけーちきだ。これまでのダメージとは違う。
<“轟雷投影・紈の舞”>
<“淵紫覇龍怨貫砲”>
<“白天暴濫深嵐淨”>
<”流星堕つ恋慕の小波き”>
<“破淫乱桃色絶撃”>
<縛魔導、終が秘術ーーー“華八岐”>
<“永劫燼焔焰爓”>
総員の高められた力が爆発する。
一度目とは違う。威力も、効き目も。
止まらないモザちゃん。そこへーーー
<”晴光を謳う覇剣”>
大地を揺るがす爆炎の嵐の上から、ごちかわの剣が叩きつけられる。
しぃけーちきは知っている。幾度となく見てきた剣。“外世界”の技。回避も、捌くことも不可能の滅亡の一撃。正面のモザちゃんの相手だけで手いっぱいだというのに。
ズゴォォオオオオオオと衝撃が奔り、大地の揺れは毎刻ごとに大きくなる。
「……っ、はは、これが……君たちの絆の力か。やはり、君たちは……素晴らしい。楽しい。ここに来て良かった」
無数の傷。夥しい出血。
今までの傷とは、明らかに違う。
しぃけーちきは防戦一方。何も仕掛けてくる様子がない。一心に連撃を行っていた総員は罠を警戒しているが、ごちかわはモザちゃんの方を心配している。
「……モザちゃん」
「ーーーーーーーーーーーー」
無論、ごちかわの呼びかけには応えない。
ただしぃけーちきを倒すための存在に変貌しているからだ。モザちゃんの御魂内では、今も世界が双滅している。
「信じているぞモザちゃん。この絆の力が……俺たちの想いが、ステージ“3”の克服につながると」
「……贅沢だねえ。ステージ“3”の顕現だけでは飽き足らず、その克服まで目指そうとするとは」
傷だらけのしぃけーちきは、涼しげに、普段と全く変わらない雰囲気だ。強がりか。いいや違う。奴にとって殺しは大好きな行為であり日常。すなわち、殺されることも大好きで日常。だからこの際でも、普段と変わらないのだ。
「……ごちかわ、、、ステージ“3”を引き出した時点で、その心は完全に壊れているに等しい……だから、克服なんて夢のまた夢だ。辛いが、受け入れるしかねェ。本当に居たのか?ステージ“3”の克服など」
雨宮は聖騎士の、原初の虹色の中でも古参。調べつくしている彼は、当然ステージ“3”が不可逆であることを知り尽くしていた。モザちゃんの異常性を理解している彼も、今回ばかりは、と。
「……居ない。だが、だが……」
「それに見ろ。彼女の剣を。何かあると思ったが、先ほどの脳魔の発言で確信に変わった。アレは靈煌魔剣だ。お前の世界で生まれた剣。あの出力で振り回して、無事なのが何よりの証拠だ」
「……靈煌魔剣か。そうか、あの日視た剣の深淵。『光の力に応じて力を引き出す』。アレに際限などなかったのだ。如何なる剣も引き出せる力の限界はある。破壊される限度ってものがある。それがアレにはない。……ステージ“3”へと至り心の壊れたモザちゃんに呼応し変容している。思い返せばステージ“2”を引き出した時から、鋭く尖ったその心と、融剣していたのだろう。
…………モザちゃん。悪を断ち切り、そして戻ってきてくれ。晴光に謳え。晴光に謳え。俺のように。その型破りな光の力で、謳うんだ。あの剣はさしずめ……
ーーー靈煌魔剣SINGTHEBREAKHEARTーーーってところか」
極光の剣。もはやその体と一体化している。
機械のように正確だったモザちゃんの動きが、さらに極まる。
この小一時間の斬り結びで、しぃけーちきの本人も知らぬ戦いの癖を見抜いている。その弱点に、その反射につけこむように剣斬と刺突が繰り返される。
「……皆。後ろから、モザちゃんに力を送るんだ」
「え……でもっ、それじゃ、元々モザちゃん…から漏れ出た光の力を、モザちゃんに返すだけじゃ……」
「いいんだ、それで。ステージ“3”を以てしても扱いきれない光の力を、俺たちの絆でまた戻す。繋げる。……この漏れ出た力、初めはステージ“3”の追加効果かと思っていたが、無限を以てしても扱いきれぬ力の残滓か。どこまでもずば抜けた奴だ。そしてこの世界では、絆が、ともに戦うことが更なる力を呼ぶ。この世界での常識だ」
総員がモザちゃんの後ろに立つ。
そして、倒れ伏していた伯爵も参戦する。……アムは依然ピクリとも動かず倒れ伏したままだ。
「OHゥ……モザチャン……アナタはこの世界みんなの希望の星デス……!!必ずヤツを倒シ……そしテ、帰ってきてくだサイっっ……!!!」
モザちゃんは相も変わらずこちらの変化には目もくれず、靈煌魔剣SINGTHEBREAKHEARTを振りかざす。
そこへーーー
ぐさり。
不吉な音が響く。
「くッくく……油断しましたね」
「……脳魔……!!」
「もはや私の主の満願成就は決定的だ。ならば邪魔な人間は少しでも消そう。“モザちゃん”は無理だとしても、囲いの集は殺しておいたほうがよいでしょうからね」
脳魔の凶刃がごちかわを貫く。同時に十字に引き裂き、また両腕と両足を切断した。
脳魔の創り出す刃には高純度の“深淵の力”が宿り、再生を阻害する。
「っ……ごちか……っっ!?!?」
脳魔は止まらない。その刃が、近くのハナかわやウリアムを襲う。
即座に聖障壁を張る2人。…しかし、その刃は、先程切断したはずのごちかわの腕によって止められていた。
「……ッ!!なに……!?」
「確かにこれでは再生はできん。だが、再生できないからといって、動かないわけではないぞ。見くびったな脳魔」
地面に落ちたごちかわの顔の左半分が喋っている。
間髪入れず、二人の魔法が脳魔を貫いた。モザちゃんに吹き飛ばされたダメージがいまだ残っている脳魔は、それだけでよろめく。
「く……!!」
よろめきながら、思い出したかのように、転がっているアムの頸を落とす。だが……
「な……に、偽物!!馬鹿な、一体いつ……!!」
倒れていたアムは偽物。実物そっくりの魔導人形だった。
「ーーー貴様、姑息な真似を、そして我らが王女までも……!!」
京が”朱色の凶鎌”を振るう。信念と繋がりの鎌は脳魔の刃を打ち砕き、脳魔を引き裂く。
京にとって、それが偽物であるかより、我らが王女を手にかけようとした行為こそが何よりも許せないのだ。
「く……!!どこまでも、どこまでも目障りな……!!こうなれば……!!」
脳魔が目にもとまらぬ速さで転移門を描き、ごちかわの体を全てそこに放り込み、
そして、キリノンを起動した。
「くッくく……“キリノン”がただの次のステージを引き出すための便利な道具だとでも思いましたか……!!キリノンは、こうも使えるのです」
「う…………!!」
あやふやな世界だ。これほどの闘いの衝撃だ。見れば、あちらこちらに世界の裂け目がある。
元の世界、ひいては別の世界に移動できるほどのものではないが、大敵を陥れるには都合がいい。
無論しぃけーちきをそこに叩き落とす策もあったのだが、それは困難で、効くとも限らず、また奴の性質上良からぬことをされては困ると、モザちゃん含む聖騎士たちの攻撃の方がよっぽど効果的だと考えていたのだ。
……世界の裂け目に叩き落としたとて、聖騎士クラスの者にはそれだけで殺せるなんてことはない。脳魔は、その中でキリノンを使い、数多の世界を形成した。
増え続ける世界と常識に圧し潰され、二人の存在は希薄になりーーー
「ハ、ハハハ……!これなら、もはや這い上がってこれない!!今や私たちは、主の不在のステージ“3”に取り込まれたようなものだ!!私も、ここで……!!」
脳魔の声がだんだんと遠くなる。二人の気配が消えてゆく。
「……まったく、最期に、見苦しい……もう少し静かに消えられんのかね」
状況は悪い。ごちかわを助けに行くのは困難だ。
聖騎士一同は、この血戦のさなか、何も言わず、ごちかわを見捨て、再びモザちゃんに光を送り出した。
無言での意思疎通。それが、最適だと皆感じたのだ。
だが、たった一人。
この場で最も、ごちかわの心配などできないであろう人物が……
「……………………ゴ、……ち、か……わ…、サ、、ん」
「え……!?!?」
「な……!!」
「……モザちゃん」
「モザちゃんっっ!!!」
剣を振るいながら、微かに、だが確かに呟いた。
わずかに、目に涙がにじんでいる。
「……も、モザちゃんっ、帰って……来てっ!!」
こいかわの魂の叫び。これまで淡々と戦いに指示に従ってきた彼女の心の底からの叫び。
大切な人を失う気持ちが、誰よりもわかるから。
「……ッッ、ゥ……ぅ……」
「……………………っ!!!」
「モザちゃん……!!」
「ごちか……わ……さんをッ、返……せっっ……!!」
後方に一瞬靈煌魔剣を振るい、先程閉じた世界の裂け目を再び開く。
その隙が仇となり、しぃけーちきとの斬り合いが劣勢になるかと思われたが……
「……気持ちはわかるが、そこを切り裂いても何も解決しねェよ。……だが今は、よく戻ってきてくれた、モザちゃん。全く、どこまで不可能を覆せば気が済むのだ」
「……いやはや、良いものを見せてくれた。なんと、ステージ“3”を克服して見せるとは。もはや君が彼の娘だということを疑いはしない。ふふん、無限を超え、無限をその手に宿し、そして無限の剣を振るう。克服によって君は更なる力を手に入れた。私の真円……深淵の力もこれまでかね。とどめを刺すといい」
言い終わるよりも先に、モザちゃんの靈煌魔剣がしぃけーちきの中心を突き刺す。突き刺した剣から、バチバチと轟音が響き渡る。
「く、はははは、ついにこの時が来たか。永かったな」
「……ごち…かわ!?」
「な……」
「ごちかわさん!?」
「くく、最後の最期で小物化しやがって、脳魔。見くびるなといったろうに。たとえ果て無き無限のはざまに俺を置き去りにしようがーーー俺は必ず終焉を見つけ還ってこれるさ。だがそれも」
ごちかわが後ろからモザちゃんの肩を抱き、剣に手を添える。
「……ごちかわさんっっ!!」
「モザちゃん、お前の愛ゆえだ。忘れたか、“金喪斬刀”の発現条件を。俺を思う愛が力を呼び、ステージ“3”を克服し、そして俺がここに戻ってくるきっかけを与えてくれた。モザちゃんが引き裂いてくれなかったら、今も俺はあそこで迷っていただろう。俺は少々方向音痴だからな」
「……っ!!」
大粒の涙がこぼれる。先ほどの涙とは、違う。
「さぁ、征こうぜモザちゃん。この悪鬼を、しぃけーちきの長い永い夢を終わらせて、“モザちゃん”という物語の、しめくくりとしようぜ」
「……はい!!!」
二人の剣が交じり合う。
しぃけーちきは最後まで笑みを浮かべたまま抵抗し、
そして、二人の剣が、靈煌金喪斬魔覇剣が、しぃけーちきを、誰も倒せなかったしぃけーちきを打ち破った。
「……はは……ふっ……ふふ……良い、良い生涯だった」
「そうかよ。勝手なもんだ、俺たちは最悪の闘いだった」
「ふふ…それは、また………なんとも………やはり、楽しいものだな」
それだけを言い残し、しぃけーちきは霧散した。
辺りに少しばかりの安堵が立ち込める。
「虹かわ!!!今だ!!!今こそアレを!!!奴はこんなものじゃ、しぃけーちきはこの程度じゃ死なない!!!!」
「了解……した!」
虹かわは世界に二人しかいない“白い魂”の持ち主である。
特異で自在な魂である“白い魂”は、通常の魂と違い、”光の力”を魂内に溜め込むことができる。
通常、騎士たちは磨き上げた技術や精神によって光の力を生成し放出する。一時的に自身の体にとどめることはできるが、長くは続かない。
魂の中に溜められる量は、その量よりはるかに多い。だが普通、鍛え上げた白い魂を持つ者でもせいぜい2日分弱を溜め込むので精一杯だ。
それを、3か月。
虹かわは血戦の日の3か月前から常に溜め込んできたのだ。無論、そんな状態で闘うなど、いつ暴発してもおかしくはないのだが、虹かわのもつ“異質”がそれを可能にしたのだ。
……ステージ“3”のモザちゃんから漏れ出た光を吸収した時は危うく暴発しそうになっていたが。
3か月分の光の力。それは想像をはるかに上回る広範囲の絶撃。
如何にずばぬけた力を持つモザちゃんでも、このような範囲の攻撃はできない。
しぃけーちきの残骸を消し炭にするには、ハナかわやウリアムの魔法でも火力が足りない。
そのうえで出した結論だった。
その姿はさながら終末の炎……に見えたかに思えば、その炎を全て流し尽くす大津波のようでもあった。
しぃけーちきの霧散した場所は瞬く間に白く染まる。
「……………………見えた!!“核”だ!!!ここまでせんと視えもしないとは、なんて奴だ……!!」
「!!!」
「……あれが……!!」
「ついに……終わる……!!」
「……モザちゃん、行けるか、もう一度、あの一撃を。あの渾身の一撃を、再び!!!」
「……………………はい!!!!」
「「……………………<“晴光を謳う靈煌金喪斬魔覇剣”>っっっっ!!!!!!!!」」
煌めく金色の剣。
深淵色に染まったしぃけーちきの核を焼き尽くすがごとく暴れ、刃が猛威を振るう。
「「う・お・お・お・お・お・おーーーーーっ!!!!!」」
最大級の力を籠める。
二人の力を合わせ、手を取り合って。
そしてーーーー
「おいごちかわ、いちゃつくのもいいが、俺のことを忘れてもらっちゃ困るな」
「雨宮さん……!!」
二人の手の上に、その手が重なる。
「ふふ。これが終わったら、これらの摩訶不思議な力の正体の究明、手伝ってもらいますよ」
「ハナかわ……!!」
陣の描かれた手が、さらに重なる。
さらに――
「やっとこのカス野郎に一泡吹かせられるな。嬉しいぜ」
「虹かわさん!」
「最後までついていくよっ!あの日、私の運命はごちかわに預けたも同然なんだから!」
「メロネ……!!」
「うぅ……最初は、怖くて怖くて仕方なかったですがっ……皆さんに、勇気をもらいました……!!今度は、私がそれをお返しする版ですぅっ……!!」
「きんしゅきちゃん!!」
「嬉しいな。共に闘ってくれてありがとう。僕だけじゃ、絶対に為しえないことだった。感謝を込めて、僕のこの力、ここに捧げるよ」
「ウリアム!!」
「もうあんなことは繰り返させない……!!ここで終わらせるよ!!……そして、アオさんの願った、みんなが笑顔でいられる未来を作り出すんだ!!」
「こいかわ……さん!!!」
「お、OHゥ、グレイトスゥパァパゥワァ……!!ワレワレの力、これで倒せる確率……実に100%デース!!!!」
「ツーナ=シャーケ伯爵!!はは……!!」
「これが……願いの力か。私も侮っていた。ごちかわ殿、モザちゃん殿。今なら、其方等の気持ちがわかる気がする……」
「京さん!!……はい!!」
「お前ら……!!……い良し!!!!行くぞ!!!!」
重なったいくつもの手のひら。
互いに、互いを高め合うように、それはぐんぐんと力を増し――
「「「「「「「「「「「「いっけえーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
――大層な音が響いた。
ちっぽけな核が、塊が割れたただのなんてもない音だ。
聖騎士たちの鼓動にかき消された、その程度の音だった。
だが、その音は、確かに総員の胸を揺さぶった。
「や……」
「お、おお……!!」
「も、もしかしてっ、ついに……!!」
「勝っ……!!」
「やったぞ……!!」
「……ふふ」
「ついに……この日が……!!」
「長かった……!!」
呟きのような喜びの声。
噛み締めるような言葉。
この声は、想像通り、次の瞬間、
けたたましく響く、凱旋の歌と変わった。
喜び、泣き、笑い。
そして、称え合う皆。
輪の中心には、"モザちゃん"。
おかえり、よくやった、ありがとうーーー
様々な言葉が投げかけられる。
当の本人は、輝く満面の笑みのまま、恥ずかしがって俯いている。
それがあまりにもいつも通りなので、みんな、また笑った。
空が晴れ渡っている。
こんなにも毒々しい世界に、清々しい風が吹いている。
ここではないどこか。
もう遠く見えるあの世界。
美しいあの世界に比べれば、この世界はダメダメだ。
でも、みんながいるから。
共にこの喜びを共有できる、最高の仲間たちがいるから。
この世界が、どこでもないこの世界が、
虹色に輝いて見えるんだ。
死の烈風渦巻く世界が、
瞬く間に、生命の輝く世界に変わったのだ。
光が溢れ出る。この喜びを祝うように。
総員は、疲れを、傷を忘れたように、
闘いの余韻に耽った――。




